ニセホウライタケ属

Crinipellis Pat.,J. Bot. Morot 3: 336 (1889)

  基準種:C. scabella (Alb. & Schwein.) Murrill (1915) (= C. stipitaria (Fr.) Pat. 1889).

 Singer (1986) の分類概念: 子実体はモリノカレバタケ型またはホウライタケ型, 稀にヒラタケ型; 傘及び柄は著しく長い厚壁で平滑な毛状細胞に被われ, この細胞は偽アミロイド~アミロイドに染まり, 毛状細胞に複数の二次隔壁を有するものは内部が梯子状構造 (ladder structure) に見える (Singer 1986 Pl.63 a-f); 毛状細胞の起源となる下表皮層 (hypotrichial layer)は傘の実質から明瞭に分化する; 子実層托は常に発達したヒダ状になる; 通常縁シスチジアが存在する; 側シスチジアは Sect.Grisentinae においてしばしば見られるが, 通常非アミロイド, 稀に偽アミロイドに染まるメチュロイド型 (排泄機能を有する厚壁な偽シスチジア); 胞子紋は白色; 担子胞子は無色, 形態は様々, 平滑, 非アミロイド, コットンブルー染色性, 薄壁であるが成熟後も発芽せずに子実体に残留した担子胞子はしばしばやや厚壁になり, 隔壁を持つものがある (i.e. 最終的に2室 [bicellular]); 柄は常に発達し, 中心生または偏在生, 基部は無毛, 時に根状菌糸束を有する; 実質は非アミロイド, クランプがある. 植物生体並びに遺体 (特にイネ科)から発生し, 様々な樹木及び灌木の茎, 根, 枝, 葉, 果実上に見られる.

  分布及び既知種: 南極大陸を除きほぼ世界的に分布し, 温帯よりも熱帯~亜熱帯から多くの種類が報告されている; 70種以上知られている.

  類似属との区別点: 発達した柄及びヒダを持ち, 傘及び柄が偽アミロイドに染まる毛に被われる種類は全て本属に所属する. 柄の表皮が偽アミロイドに染まる毛を持つホウライタケ属 Marasmius および本属に近縁の退化系フウリンタケ型諸属は, 傘の上表皮層が子実層状被を形成するかまたは少なくとも箒状細胞を有する.

                    

節, 亜節の概念(Singer 1986)および日本産既知種


ニセホウライタケ節 Sect.1. Crinipellis : 傘は帯黄褐色~帯褐色または無色; 傘はアルカリ溶液により緑~灰色に変色しない; 柄は有色, 一般に長さ 7 mm以上, 中心生, 基部は無毛. 基準属:C. stipitaria (Fr.) Pat. (1889)


Subsect. Macrospharigerae Singer (1976): 担子胞子は幅 9μm以上, 亜球形. 基準種 (単一タイプ): C. macrosphaerigera Singer (1953).


ニセホウライタケ亜節 Subsect. Crinipellis (= Stipitarinae Sing. 1942): 担子胞子は前亜節より小型または長形; 一般に側シスチジアは偽担子器型で明瞭に分化しない; 縁シスチジアは常に存在し, 一般に叢生する. 基準種:C. stipitaria (Fr.) Pat.

 ニセホウライタケ (別名: カヤネダケ) C. cf. scabella (Alb. & Schwein.) Murrill (1915) (= C.stipitaria (Fr.) Pat. 1889): 側シスチジア(? cystidioles) は紡錘形~便腹形; 縁シスチジアは狭紡錘形~円錐形でやや波型に屈曲; 欧州, 北米, アフリカ, 中国, 日本; イネ科植物 (生体または腐朽体) の茎や地下茎などに発生.


 シラガニセホウライタケ C. canescens Har. Takah. (2000)

(Moniliophthora canescens (Har. Takah.) Kerekes & Desjardin, Fungal Diversity 37: 137. 2009)

毛は白色, 二次隔壁を欠き, 鈍頭. 傘は初め赤褐色のち帯褐黄色. 縁シスチジアは頂部に短指状付属糸を持つ. 材上生. 東南アジア産 C.hepatica Cornerに近縁. 沖縄 (石垣島, 西表島) 産.


  クロニセホウライタケ C. corvina Har. Takah. (2000): 傘と柄は紫黒色の毛に被われ, 鈍頭の毛状細胞は複数の二次隔壁が梯子状構造を形成する. 材上生. 東南アジア産 C.brunneipurpurea Corner に近縁. 日本産 (東京). 和名は青木実氏 (日本きのこ図版 No.365).

Subsect. Heteromorphinae Singer (1942): 側シスチジアの形状は縁シスチジアと異なる; それ以外の性質は前亜節と同様. 基準種:C. minutula (Henn.) Pat. (1900).


Sect.2. Metuloidophorae Singer (1986): メチュロイドが存在する; 胞子は幅 9μm以上, 類球形; 傘はアルカリ溶液により緑~灰変しない. 基準種 (単一タイプ): C. metuloidophora Singer (1986).


アサリタケ節 Sect.3. Excentricinae (Singer) Sing.(1976): 柄は一般に最初中心生, 間もなく偏在生になるが, 稀に最初から著しい偏在生~ほぼ側生で (アサリタケ), 相対的に短形で明瞭に屈曲し, 長さ 2-7 mm; 傘および柄の表面は一般にほぼ白色~淡色 (時に傘の中央部はやや濃色); 担子胞子は一般に長さ10.5μm以下, 幅は長さの半分以下 (Q<2); 縁シスチジアは下部が片脹れ状で上部は首状にやや細くなるかまたは頂部に付属糸 (セチュラ) を具える (branched-setulose); 時に側シスチジアが存在する; 傘はアルカリ溶液により緑または灰色に染まらない. 基準種:C. excentrica (Pat. & Gailllard) Pat.


アサリタケ C.conchata Har. Takah. (2002)

(Moniliophthora conchata (Har. Takah.) Antonín, R. Ryoo & K.-H. Ka, Phytotaxa 170: 96. 2014)

子実体は半円形の傘と最初から偏在性の短い柄からなり, 傘と柄の表面は最初無色の短毛に被われるが, まもなく平滑になる. 成熟した子実体は傘の表面が平滑になるため, ヒラタケ型の子実体を形成するシロホウライタケ属 Marasmiellus の仲間を想起させるが,表皮組織に偽アミロイドに染まる厚壁の毛状細胞を有する点で容易に区別できる.東京都高尾山のテイカカズラの枯枝上に発生. 本種の和名は子実体の形状が貝殻に類似していることによる.


Sect.4. Grisentinae (Singer) Singer (1976): 傘は Sect.Crinipellis と同色または明るいピンク~赤色; 傘の表面は傘の毛は5%アルカリ溶液 (KOH または NaOH)により緑~灰色に染まり, 傘の毛はアルカリ溶液中でしばしば緑色の結晶に被われる. 基準種:C. mirabilis Singer

(1943).


クロカミオチバタケ C. nigricaulis Har. Takah. (2000): 毛は赤褐色, 二次隔壁があり, 槍先形の毛状細胞は複数の二次隔壁が梯子状構造を形成する. 傘の中央部はややへそ状に窪み, 小型の黒色中丘を具える. しばしば髪の毛状の黒色根状菌糸束から子実体が発生する. 照葉樹林内落ち葉の堆積上から発生.

東南アジア産 C. actinophora (Berk.& Br.) Sing. に近縁. 日本産 (神奈川). 最近韓国から担子胞子と縁シスチジアの大きさが異なる本種の1変種 Crinipellis nigricaulis var. macrospora Antoni'n, R. Ryoo & H.D. Shin (Antoni'n et al. 2009) が報告されている.


ミドリニセホウライタケ C. rhizomorphica Har. Takah., Mycoscience 52(6): 392 (2011): 石垣島産.

Sect.5. Iopodinae (Singer) Singer (1976): 傘は明るい色彩 (赤, 紫赤, 深紅, 紫灰, 青紫) を帯び, アルカリ溶液により灰~緑変しない. 基準種:C. iopus Singer (1939).

Subsect. Iopodinae (Singer) Singer (1976): 柄は中心生で一般に屈曲せず, 長形 (20-26 mm) で傘の径の三倍以上の長さになり, 基部は無毛; 担子胞子は長紡錘形~長楕円形で幅 4.7μm以下, もしくは楕円形で幅 4μm以下 (Q = 2 以上). 基準種:C. iopus Singer (1939).


Subsect. Insignes Singer (1974): 柄は傘の径の三倍以下, 一般に屈曲し, 偏在生, 基部は無毛もしくは繊維状菌糸体に被われる(with fibrillose-mycelioid base); 担子胞子は前亜節と同じかまたは広幅. しばしば植物生体に寄生する (ココアの病原菌). 基準種:C. insignis Singer (1976).


所属位置未定種 incertae sedis

シナモンニセホウライタケ Crinipellis cf. dipterocarpi f. cinnamomea Kerekes,Desjardin & Lumyong,Fu ngal Diversity 37: 120,20 09.

文献

日本新産のニセホウライタケ属菌,Crinipellis dipterocarpi f. cinnamomea