Gloiocephala Massee, Grevillea 21: 33 (1892)

基準種:Gloiocephala epiphylla Massee (1892).


Singer (1986) の分類概念: 子実体は一般に有柄, 稀に無柄, 時にへら型. 子実層托はしばしば退化し、平滑または脈状, 時にシワ状 (Merulius 属型)またはヒダ状. 傘及び柄は有色または無色. 傘の上表皮層は子実層状被を成し, 嚢状~やや長形で鈍頭(平滑)の細胞からなる. 皮嚢体(上皮シスチジア)は時に著しく長くなり(450μmに達する), しばしばメチュロイド形または頂部頭状形, 時に偽アミロイドに染まるがニセホウライタケ属 (Crinipellis)の毛状細胞とは類型が異なる. 偽担子器は紡錘形. 子実層のシスチジアは一般に頂部頭状形. 担子胞子は中型~非常に大型, 楕円形~紡錘状円柱形, こん棒形, または長楕円形, 平滑, 非アミロイド. 実質は一菌糸型, 非アミロイドまたは弱~強偽アミロイド, クランプを持つ. 柄の基部は有毛または無毛, 時に暗色の根状菌糸束を持つ. 植物の生体及び腐朽体(材, 葉, 茎) から発生する.

分布及び既知種: 熱帯~亜熱帯を中心に世界に40種以上知られているが, 温帯産は数種にすぎない.

類似属との区別点: 本属は Marasmius Sect.Epiphylli に類似するが, 以下の性質において異なる: 1) 特徴的な皮嚢体及び子実層のシスチジアの存在; 2) 一般に柄の基部は有毛(Sect. Epiphylli は無毛); 3) 傘及び柄は一般に著しく有色(但し Sect. Epiphylli の傘はほぼ無色). 柄の基部に毛を持つホウライタケ属(Marasmius) は子実層托が通常ヒダ状で, しばしばより大型のモリノカレバタケ型の子実体を形成する. 柄が中心生且つ基部に毛を持つ Gloiocephala 属の所属種は, 傘の径が常に 5 mm 以下である.

有色で, 基部に毛がなく, 発達したヒダを持つ Gloiocephala 属は, 平滑な上表皮層の細胞及び頂部頭状形のシスチジアを持つ点でシワホウライタケ節 (Marasmius Sect. Leveilleani) と区別される.

コメント: 1) 特徴的な(しばしば厚壁、または偽アミロイド、もしくは頂部頭状形の) 傘シスチジア, 2) 一般に有色の傘, 3) へら型(spathulate)の子実体, 4) 柄の根元の菌糸体(毛)の存在, 5) ゼラチン化した傘の実質などの性質を重視し, Singer (1986) はGloiocephala を独立属として認めているが, Jansen & Noordeloos (in Noordeloos 1981)は以下の特徴に基づき Gloiocephala をホウライタケ属に編入し, Sect. Gloiocephala として Sect.Epiphylli の近くに置いている: 1) Sect.Epiphylli にも有色で内容物が偽アミロイドに染まる傘シスチジアを有するものがある; 2)通常Sect.Epiphylli の傘はほぼ無色であるが, 稀に傘が有色のものが知られており(M. epifagus), 逆に Gloiocephara menieri には傘が無色のタイプが報告されている; 3) 子実層托が退化し,へら型の子実体を形成する種類は Sect.Epiphylli の他、ホウライタケ属の Sect. Neosessiles にも見られる; 4) Sect.Epiphylli に属する M. epiphylloides は、Gloiocephara menieri と同じく、子実層の組織がcresyl blueにより異性染色される; 5)ゼラチン化した実質はホウライタケ型の子実体を形成する他の属(シロホウライタケ属、サカズキホウライタケ属)にも見られる. 一般に実質におけるゼラチン層の有無は, 属レベルにおける分類概念としては重要性が低いと考えられている. また Marasmius pseudocaricis の実質はゼラチン化しないが, その他の基本的性質は Bas (1961), Singer による Gloiocephala の定義と一致する.



Gloiocephala 属の節及び亜節迄の検索表 (Singer 1976)


1.傘は長さ 450μmに達する厚壁~薄壁の毛に被われる. 柄は中心生. 枯れ葉または葉柄に着く. 担子胞子は長さ 6-15μm:

Sect.2. Longifimbriatae

1.傘及び柄は長さ 200μm以下の毛または皮嚢体に被われる. 上表皮層または子実層の細胞が長さ 100μm以上ならば頂部頭状形になり, もしそうでなければ担子胞子の性質が異なる. → 2

 2.無柄. 傘の表皮にアミロイドのメチュロイド且つ/又は樹枝状に分岐した菌糸が存在する. 双子葉植物上から発生:

Sect. Sessiles (= Deigloria ut genus)

 2.柄または偽柄を持ち, 中心生または側生. 上表皮層の菌糸は通常短指状に分岐しない. → 3

3.担子胞子は長さ 6μm以下. 子実体はへら形または匙形. 子実層托は一般に脈状, しばし

ばシワ状 (Merulius 属型), 時に平滑:

Sect.3. Spathulariae

3.担子胞子は長さ 6μm以上 → 4:

Sect.1. Gloiocephala

 4.担子胞子は 11-18×4-7.2μm. 単子葉植物上に発生:

Subsect. Macrosporae

 4.担子胞子は長さ12.5μm以下, 一般に上記よりも小型. マツ目及び双子葉植物上に発生. → 5

5.傘は一般に有色, 無色の場合マツ目に着く. 柄の基部は無毛:

Subsect. Religiosae

5.傘は一般に無色, 稀に淡色 (油脂シスチジアが分泌する樹脂状色素により帯褐色の斑点

を傘表面に表す). 柄の基部は有毛または無毛. 双子葉植物に着く:

Subsect.Gloiocephala

節, 亜節の概念(Singer 1986)および日本産既知種


Sect.1. Gloiocephala: 傘及び柄は長さ 108μm以下の毛または皮嚢体に被われる. 基準種:Gloiocephala epiphylla Massee (1892).


Subsect. Macrosporae Singer: 担子胞子は 11-23×3.3-7.5μm; 単子葉植物上. 基準種:Gloiocephala inobasis Singer (1960).


Subsect. Religiosae Singer: 担子胞子は長さ12.8μm以下; 傘は有色または無色 (無色の場合, マツ目に着く). 基準種:Gloiocephala religiosa Singer (1976).


  スギノオチバタケ Marasmius capitatus Har. Takah. (2000): 子実体は白色の傘と黒褐色の毛髪状の柄からなり, ヒダは浅い脈状で, 子実層と表皮組織に頂部頭状形のシスチジアを持つ. スギの落ち葉上に発生.

子実体の類型は Marasmius Sect.Epiphylli と共通するが, Gloiocephala 型シスチジアの存在は Sect.Epiphylli の所属種として異質であり, 脈状に退化した子実層托の性質も考慮し, 退化系Gloiocephala の仲間として扱った.


スギカワタケ (= スギシロホウライタケ) Gloiocephala sp.: 和名は青木実氏 (日本きのこ図版 No. 292, 1155, および日本きのこ検索図版)による. 池田良幸氏によるスギシロホウライタケは本種と同一と思われる. 本州に広く分布し, 3月~5月, スギの切り株や落枝上から発生.


Subsect.Gloiocephala (= Subsect. Confusae Singer): 担子胞子は前亜節と同様; 傘は無色 (樹脂状色素を持つ一部の種類を除く); 双子葉植物のみに着く.

Gloiocephala cf. epiphylla Massee, Grevillea 21(no. 98): 34 (1892): 子実体は微小 (傘の径1.5-4.0mm)で中心生の柄を持ち, 新鮮なとき全体に白色であるが, 乾くと頂部頭状形の傘シスチジア(pilogloeocystidia) が分泌する樹脂状色素のため傘の表面に帯紫褐色の斑点を表す. ヒダは退化し, 子実層托は平坦.

本属の基準種とされ, 熱帯~亜熱帯 (ジャマイカ, プエルトリコ, ベネズエラ, アルゼンチン, ハワイ諸島)に広く分布する.1989年栃木県益子町において R.H.Petersen 博士により邦産が確認された (in Desjardin et al. 1992).


参考文献:

Desjardin DE, Wong GJ, Hemmes DE (1992) Agaricales of the Hawaiian Island. 1. Marasmioid fungi: new species, new distributional records, and poorly known taxa. CAN. J. BOT. 70: 530-542.


Sect.2.Longifimbriatae Singer (1976): 傘は長さ 450μmに達する剛毛体型の毛に被われる; 担子胞子は長さ6-15μm.

基準種:Gloiocephala longifimbriata Singer (1960).


Sect.3.Spathulariae Singer (1976): 子実体は蝸牛形~螺旋型 (cochleate) またはへら型; 子実層托は一般に脈状; 担子胞子は微小 (6μm以下). 基準種:Gloiocephala spathularia Singer (1960).