ニセアシナガタケ属

Hydropus Kuhner ex Singer, Pap. Mich. Acad. Sci. 32: 127 (1948)

  Syn.: Caulorhiza Lennox (1979).

基準種:H.fuliginarius (Fr.) Sing. sensu Kuhner, Singer (1948) (= H.nigrita).


Singer (1986)による分類概念: 子実体は一般にヒダサカズキ型~カヤタケ型, またはクヌギタケ型~モリノカレバタケ型. 傘の上表皮層の菌糸は平滑で, 肥大した末端細胞が不連続な子実層状被を形成するかまたは圧着した細い糸状菌糸が平行菌糸被を成し, 色素は液胞内に存在する. 柄の表皮組織はしばしば傘に類似し, 粘性を欠く. ヒダは 一般に直生または垂生, 稀に上生~離生. 子実層托実質は平列型, 一般に非ゼラチン質, 稀に側層だけがゼラチン化する. 実質はしばしば紡錘状に肥大した(幅 10-30μmに達する) 骨格菌糸を有し("sarcodimitic"), 通常非アミロイド, 稀に弱偽アミロイド, 一般にクランプがある. 道管 (油脂菌糸または乳液菌糸) がしばしば存在し (Sect. Hydropus), この導管は無色の乳液を分泌し, 黒変性がある. 胞子紋は白色. 胞子壁は薄く, 等質, 無色, アミロイドまたは非アミロイド, 非コットンブルー染色性. 側シスチジア, 偽シスチジアまたはメチュロイドがしばしば存在する. 材上, 腐植上, 苔の周辺または植物の残骸に発生する. 

  分布及び既知種: 東南アジア (Corner 1966, Trogia 属), 中南米の熱帯地域 (Singer 1982), 南米南部 (Singer 1969), および北半球温帯に広く分布する. Singer (1982)は中南米だけで 89 種 (内43種は新種)を報告しており, 世界に100種以上知られている.

  類似属との区別点: クヌギタケ属 Mycena 属の上表皮層は一般に小突起に被われた糸状菌糸によって構成され, アミロイドの担子胞子を持つ種類の実質は常に偽アミロイドである.

ヌナワタケ (Mycena sect.Roridae) の傘の上表皮層は連続的な子実層状被を成し, 柄は粘液に被われる.

Dermoloma(サヤマシメジ D.cuneifolium: 青木実 no.1040)は, 傘表皮が連続的な子実層状被を成し, シスチジア及び縁シスチジアを欠き, ヒダは広幅で深く湾生し, 色素は細胞壁に凝着する.

ヒメヒロヒダタケ属 Clitocybula の一部の種類は子実体の類型, アミロイドの担子胞子, および平行菌糸被を形成する傘の上表皮層の性質において Sect.3. Floccipedes subsect. Spurii と共通するが, 1) 上表皮層は匍匐性の細い菌糸が薄い層を形成して, 肥大した菌糸細胞からなる下表皮層から明瞭に分化し (ミセナ構造に類似), 2) 大型の側シスチジアを持つかまたは子実脚層 (hymenopodium)もしくは上表皮層がゼラチン化し, 3) 上表皮層の皮嚢体は傘の中央部だけに存在し, 4) 肥大した紡錘形の骨格菌糸 (sarcoskeletals)を欠く.

ヒナノヒガサ属オリーブサカズキタケ節 Gerronema Sect. Xanthophylla の子実体の類型および液胞型の色素は Sect. Mycenoides subsect. Anthidepades 及び Sect. Floccipedes の一部の種類と共通するが, 傘の上表皮層の解剖学的構造が異なり, 実質は肥大した骨格菌糸を欠く.

Hydropus 属, Clitocybula 属, Gerronema 属の類似性は偶然の一致ではなく, オオイチョウタケ連 Tribus Leucopaxilleae とヒダサカズキタケ亜連 Subtribus Omphalinae を系統的につなぐ共通の祖先から Hydropus 属が派生したことを示唆している.

Pseudohiatulaは, 両側型の子実層托実質を形成し, 傘の上表皮層は連続的な子実層状被を成し,しばしば異質(dimorphic)な細胞が存在する.

ホウライタケ属シロカレハタケ節 Marasmius sect. Alliacei の上表皮層の菌糸細胞は液胞型色素を持つため, 以前は Hydropus 属に近縁と考えられていたが, 上表皮層は連続的な子実層状被を成し, 一般に偽担子器は紡錘形になる.



節および亜節の検索表 (Singer 1982)


.傘の上表皮層は肥大した末端細胞が不連続な子実層状被を成し, ゼラチン化しない.

 .担子胞子はアミロイド................................................ ミヤマシメジ節 Sect.1. Hydropus

  .子実体は触れたり傷ついた時黒変する.....................................ミヤマシメジ亜節 Subsect. Hydropus

  .子実体は黒変しない............... .........................ハイチャヒダサカズキタケ亜節 Subsect. Marginelli

 .担子胞子は非アミロイド............................................キヒダサカズキタケ節 Sect.2. Mycenoides

  4.偽シスチジアおよびメチュロイドを欠く.................................キヒダサカズキタケ亜節 Subsect. Anthidepades

  .偽シスチジアまたはメチュロイドがある..............................................Subsect. Paraenses

.傘の上表皮層は平行菌糸被を成し, 時にゼラチン化する................................ニセアシナガタケ節 Sect.3. Floccipedes

.担子胞子はアミロイド.

  .偽シスチジアを欠く ........................................................Subsect. Spurii

  .偽シスチジアを持つ .....................................................Subsect. Lipocystides

5.担子胞子は非アミロイド...........................................ニセアシナガタケ亜節 Subsect. Floccipedes



節, 亜節の概念

ミヤマシメジ節 Sect.1. Hydropus : 上表皮層の菌糸の末端細胞は肥大し, しばしば束状に密集して不連続な子実層状被を成し, 稀に連続的な子実層状被を成す場合は傘と柄に厚壁な皮嚢体を有する; 担子胞子は常に弱~強アミロイド; 子実体が黒変する場合, 多数の道管 (油脂菌糸または乳液菌糸) が実質に存在する; 通常クランプを持つ; 上表皮層は非ゼラチン質. 基準種:H.fuluginarius ss.Bres., Kuhner, Singer


ミヤマシメジ亜節 Subsect. Hydropus (= Nigritae): 黒変性がある.


日本産既知種

ミヤマシメジ H. cf. nigrita (Berk. & M.A. Curtis) Singer (1973) .[= Lyophyllum nigrescens Hongo, MSU 25: 56.1975; H.atramentosus (Kalchbr.) Kotl. & Pouzar; Collybia fuliginaria (Batsch: Fr.) Bres.]: 材上生; 北米, 欧州, キューバ, 日本.


サカズキガサタケ H. hypnorum Hongo (1959) (= Mycena umbilicata Hongo, non Metrod; 青木実: No.89): 針葉樹下の苔の間.


ハイチャヒダサカズキタケ亜節 Subsect. Marginelli Singer (1982): 黒変性を欠く. 基準種:H.marginellus (Pers.) Singer.


日本産既知種

ハイチャヒダサカズキタケ H. cf. marginellus (Pers.) Singer.


ヒロヒダタケモドキ H. cf. atrialbus (Murrill) Singer: 2胞子性; 北米西部, 日本.


キヒダサカズキタケ節 Sect.2. Mycenoides Singer (1961): 非アミロイドの担子胞子以外の性質は Sect.1.と同じ. 基準種:H.mycenoides (Dennis) Singer (1962).


キヒダサカズキタケ亜節 Subsect. Anthidepades : シスチジアを持つかまたは欠く; 偽シスチジア及びメチュロイドを欠く. 基準種:H.anthidepas (Berk. & Broome) Singer (1982) (Trogia, Corner).


日本産既知種

キヒダサカズキタケ H. aurarius Har. Takah. (2002): カヤタケ型の子実体を形成する中~小型種で, 暗褐色の小鱗片に被われた傘と柄からなり, 鮮黄色のヒダを持つ; 広葉樹の材から単生~散生し, 神奈川, 宮城, 栃木に分布する.

本種の粒状鱗片を形成する上表皮層はシスチジア形の末端細胞が断続的にやや密集した構造を成すため, 本亜節に置くのが妥当と思われる.


Subsect. Paraenses Singer (1982): 偽シスチジアまたはメチュロイドがある. 基準種:H.paraensis Singer (1973).


ニセアシナガタケ節 Sect.3. floccipedes (Kuhner) ex Singer (1961): 傘の上表皮層は明瞭な皮嚢体を欠き, 糸状の平滑菌糸が(時にゼラチン化した)平行菌糸被を形成する. 担子胞子はアミロイドまたは非アミロイド. 基準種:H.floccipes (Fr.) Singer (1962).

Sect.Floccipedes は, 傘の上表皮層の末端細胞が糸状で肥大せず, 平行菌糸被を成し, しばしばモリノカレバタケ型の子実体を形成する点で本属としては異質であるが, 以下の性質において他の節の分類群と共通する: 1) 匍匐性~上向性, 小型, こん棒形の末端細胞 (皮嚢体)が柄の表皮に散在し, 肉眼的に小鱗片状の構造を成す; 2)アミロイドの担子胞子を持つ種類の実質は常に非アミロイド.


Subsect. Spurii (Kuhner) ex Singer(1961): 担子胞子はアミロイド. 偽シスチジアを欠く. 基準種:H.scabripes (Murrill) Singer (1962).


Subsect. Lipocystides Singer (1982): 担子胞子はアミロイド. 偽シスチジアを持つ. 基準種:H.lipocystis Singer (1969).


ニセアシナガタケ亜節 Subsect. Floccipedes (Kuhner) ex Singer (1961): 担子胞子は非アミロイド.

基準種:H.focccipes (Fr.) Singer (1962).


日本産既知種

ニセアシナガタケ H. cf. floccipes (Fr.) Singer (1962): 材上生; 北半球一帯; 青木実氏がニセアシナガタケとして記載している No.158 は, 頂生の被覆物に被われた偽シスチジアを持つため, Subsect. Lipocystides に所属する不明種と思われる.


ウスキサカズキタケ H. kansaiensis Clemencon & Hongo (1994): 近縁種の マレーシア産 Trogia mellea Corner は傘の表皮構造が不明であるが, Subsect. Anthidepades に属すると思われる; メタセコイアの樹皮に群生 (Mycoscience 35: 23.1994).