ナットウイチメガサ (仮称) のアナモルフ

Synnematomyces capitatus Kobayasi [as 'capitata'], J. Jap. Bot. 56(9): 287 (1981) 

 

小林義雄博士(1981)が群馬県産標本に基づき新属新種として記載した納豆のような外観の風変わりな不完全菌です。

原記載では種小名が capitata となっていますが、Index fungorumでは、capitatusが正しい語尾であると、修辞法の修正がなされています。

 

アナモルフ

アナモルフの分生子については小林先生の原記載においてgemmaに関する記載データがありますが、これは崩壊した頭部実質の菌糸細胞の可能性があります。

出川氏によると、アナモルフをアリがくわえて運ぶ様子が観察されており、朽木に住むアリにより分散されているのではないかという仮説がたてられています。

基準標本の発見者須田隆氏が培養に成功しているとのことですが、詳細は不明です。

 

テレオモルフ

神奈川県丹沢山系で出川洋介氏により初めてテレオモルフが確認されました。子実体は側シスチジアおよびクリソシスチジアを欠き、厚壁で明瞭な発芽孔を持つ平滑な胞子を形成する性質はSinger (1986)の形態分類によるセンボンイチメガサ属(Kuehneromyces)との類縁を示唆しています。消失性のツバを形成し、子実体の外観はセンボンイチメガサやヒメアジロタケモドキ近縁種群「北米産Kuehneromyces cf. lignicola (Pk.) Redhead (= K.vernalis (Pk.) Sing.& A.H.Smith)」に酷似します。しかし上記の北米産種は分布域が全く異なり、被膜の性質や顕微鏡的特徴において微妙な相違が認められることからテレオモルフは未記載種である可能性が高いと考えられます。

 

分布: 本州(群馬県、神奈川県、山形県、福島県、滋賀県)、四国(香川県)、沖縄本島。


文献

Kobayasi, Y. 1981. A new genus of Hyphomycetes. Journ. Jap. Bot. 56(9): 287-288.

 

Kobayasi, Y. 1991. [Sekai no kinrui zufu] “The atlas of fungi in the world”, 57pp. Zenhonsha, Kanda, Tokyo.


出川洋介氏註: 上記の小林(1991)著 世界の菌類図譜では、Synnematomycesの写真に対して、誤った解説が付けられている。Cordyceps shimaensisは全く別物であり、小林先生が混同したものと思われる。写真を撮影した伊沢正名氏に確認済み。

Cordyceps shimaensis (世界の菌類図譜 1991より)

子実体は数個ずつ生じ、単一、長さ57mm。柄は円柱状、34x1mm、平滑、橙色。頭部は頂生又は斜生、長さ2.53mm。被子器は頭部の表面に密生し、洋梨形、480530x160240 u, 淡黄色又は橙色。子嚢は8710x56 u。子嚢胞子は先端が漸細、尖り、切断しない。生態:鱗翅目の幼虫に寄生。四万温泉付近で採集。

石垣島で基質培養したアナモルフ

Ishigaki Is. 2008

丹沢産アナモルフとテレオモルフ。

Photo by Dr. Y. Degawa

沖縄本島北部産アナモルフ。写真: 小松知普氏