令和6年4月1日掲載 64回生 林 義祐氏寄稿(第四十回目掲載)
オランダ在住の 林 義祐氏(64回生・岡谷市出身)のご寄稿「オランダの生活・歌日記: 2024年3月 序文」を下記に掲載いたします。林様、ご寄稿いただきありがとうございます。
このところの予断を許さない世界情勢。林様はオランダからどう見ておられるのでしょうか。今月も掲載させていただきます。
1週間以内に第四十一回目掲載として「オランダの生活・歌日記 2024年3月」を掲載いたします。
同窓の皆様のコメントやご感想をお待ちしています。(名取宛メール: antimarck@yahoo.co.jp)
2024年 3月歌日記:序文
【A】 初めに
ロシア大統領選挙(任期6年)が3月15日~17日に実施され、現職のプーチン大統領が通算5期目となる勝利を確定した。5期目! なんと長いことか・・!? 新任期を含めると、プーチンが大統領になった2000年から数えて30年間である。途中2008~2012年はメドベージェフが大統領でプーチンが首相だったときがあるが、当時は憲法の規定で、同一人物が連続して2期より長くは務めることは禁止されていたので、子分のメドベージェフを大統領に据えて、実質プーチンが取り仕切っていたのである。
これまでのプーチン・24年間の概要を振り返ってみると、何と言っても大統領になってからの1期目2期目(2000~2008年)の活躍はすさまじかった。彼は1990年代にアメリカがロシア復興支援の名のもとに、ロシアを国家的犯罪レベルで大規模搾取し、ロシアのルーブル大暴落、ハイパーインフレによる国民の経済的ジェノサイド(エリチン大統領当時のルツコフ副大統領の言)が起こったのを、国益をかけて戦ったのだった。オルガルヒなどロシアの資源を狙う新興財閥とその後ろ盾(仕掛け人)であるアメリカとの戦いに明け暮れ、これに勝利した。オリガルヒの巨頭たちは、追放・没落・亡命などで一掃され、残りのオリガルヒはプーチンに従うしかなかった。アメリカは失われた権益を取り戻さんとして、旧ソ連圏でカラー革命を起こしてプーチンを追い落とすことに必死になって対抗したがプーチンは負けることはなかった。その戦いは形を変えて今日まで続いている。プーチンの戦いぶりは冷血非道、情け容赦ないものだったが、その間経済は年平均7%の成長で、一気にロシアを経済復興させてしまい、国民の絶大なる信頼を得たのだった。プーチンは清廉な政治家であるということで国民に敬愛され、プーチン神話が出来上がったものである。
ところがプーチンが首相だった2011年末にソ連崩壊後最大の反政権デモが起こり、モスクワだけでも10万人を超える反政権側の人間が「プーチン、辞めろ!」と要求をしてデモを行ったのである。プーチンの支持率も2008年86%から2013年には23%も下がって63%までになってしまった。これはプーチンにとってこれは我慢できる数字ではないのである。
3期目(2012~2018年)になると、それ以前に起こっていた隣国ウクライナ危機(2004年・オレンジ革命)への警戒からクリミヤ併合(2014年)を強行した。すると支持率はみるみる上がって2014年9月には86%まで回復したのだった。しかしながら、世界中の非難を浴びて、制裁を受けることになってしまった。経済は全然成長せず、またアメリカで起きたシェール革命で、アメリカが世界一の産油・産ガス国になってしまい、ロシアにとっては原油・ガス価格が以前ほど上がらなくなり、結果2014年から2019年までのロシア経済の平均成長率は年0.96%まで下がってしまった。
4期目(2018~2024年)は2020年、21年は新型コロナパンデミック大不況、22年はウクライナ戦争勃発ということでロシアにとっては良いニュースは全然ない期間である。とくにウクライナ侵攻という特別作戦は、侵攻後素早くキーウを制圧して、ロシアの傀儡政権を樹立させ、ウクライナをロシア下に組み込もうとしたものの目算が外れ、2年経っても決着がつかない。西側諸国の支援によってウクライナは頑強に抵抗し、ウクライナが勝てそうに見えたときもあったほどである。膠着状態になって、アメリカの大統領選挙(2024年11月)が近づくにつれて、トランプの再選が徐々に可能性が出て来てからは、プーチンはどうやら、今は様子見ということに戦術転換を図ったようである。つまり、トランプはウクライナ支援を打ち切るようだから、それまで待てば自然とロシアの勝ちで収束すると見ているようなのである。
上記のように、プーチンの24年間を振り返ったのは、1期2期目があれほど栄光に満ちて順調だった、プーチンがなぜ、隣国の主権国家であるウクライナに突然侵攻したのか、これまで言われてきた理由だけではどうにも説明がつかないことや、ウクライナに勝利したとしてもその後はどうするつもりなのか、これも漠として見えないので、ここで考えてみたいと思ったわけである。
同時に、この戦争の帰結に関連する、トランプの大統領再選(されたとして)後の政策はどんなものか、日本にはどのように関係するのか・・?等についても考えてみたい。
【B】 プーチンがウクライナに侵攻した真の理由
B-1)ウクライナ侵攻の理由が不明瞭
プーチンは2022年2月24日にNATO拡大阻止を叫んでウクライナに侵攻した。このときNATO加盟国は30ヶ国であったが、プーチンのウクライナ侵攻を見て、フィンランドとスエ―デンが参加して今では32ヶ国となってしまった。両国とも伝統的な中立国で、プーチンのウクライナ侵攻が無ければその立場は変わらなかったと思われる。スエ―デンなぞは軍事力・技術力とも高度なレベルにあり、“重武装の中立国“などと言ってもよい抑止力を備えた国であった。 プーチンはNATO加盟阻止を叫んで、豈図らんやNATO加盟国を増やしてしまった。何とも締まらない話であるが、プーチンのリスクマネジメント オプションの中にこのケースは想定されていなかったと見える。それでウクライナ侵攻によって世界中から反発を受け、制裁を科されロシア経済も大きな打撃を受けたのである。戦略的誤謬・敗北としか言いようがない。
なぜ、そのようなことが起きたのか? それはプーチンの心の中では、ウクライナ政権を打倒して、親ロシア政権を樹立することが主眼であって、まずはキーウを陥落させてゼレンスキーを拘束するか亡命するかさせて、ウクライナをロシアの管理下に置くことばかりに焦点を当てていたのではないかと思われる。しかし主権国家の政権を転覆させてウクライナをロシアに取り込むなんてことは口が裂けても言えないから、何でも他の理由が必要だっただけのことではないかと考えられる。それでNATOの拡大阻止、ウクライナの非ナチス化、ドンバス地方のロシア系住民を救う、などといった理由にならざるを得なかっただけのことではないか・・?と思われるのである。これらの理由は一見もっともらしく聞こえるし、実際問題当事者にとっては重大な理由なのであろう。しかし強大な核保有国であり、国連の常任理事国であり、世界でも軍事大国として認められているロシアが、主権国家である(が軍事国家ではない)、隣国ウクライナに大軍を以て侵攻する必要があるのだろうか? そう思うといまひとつ首を捻る話ではあった。
その上さらに首都攻略に失敗すると、ウクライナ南東方面に撤退し、マリウポリ、バフムートなどでの激戦に明け暮れ、キーウにはミサイルを撃ち込むことぐらいで侵攻はせず、休戦の話になるとロシア本位の条件ばかりで(ウクライナも同様であるが)プーチンが何を考えて戦いを遂行しているか今一つ分からないのだった。
B-2) トランプの公約とプーチンの思惑
アメリカのウクライナ支援に関してトランプ前大統領は、かねてより「自分が大統領になったらウクライナ戦争は24時間以内に終了させる」(2023年3月5日)などと述べて自身への支持を訴えていたが、1年後の今年、3月4日、共和党保守派による大規模イベントの演説で大統領への返り咲きに自信を示し、「再選されたら最優先でウクライナ支援を止める」と表明した。トランプは言行一致でよく知られているから、再選されたら、「ウクライナ支援を止めるぞ!」ということになるだろう。そしたら何がどうなるのだろうか?
ウクライナ軍が健闘しているのは、彼らの士気が高いだけでなく、欧米からの武器、資金支援があるからだ。アメリカからの支援がなくなれば、ウクライナは欧州(特にイギリス、ドイツ、フランス、ポーランドなど)に頼ることになる。しかし、アメリカの支援なしで、ロシアと対峙し続けることは難しいだろう。
だから、トランプの「24時間以内に戦争を終わらせる」というのは、
・トランプが大統領になる →・ウクライナへの支援を完全に止める→・ウクライナは資金と武器弾薬がなくなってこまる→・ウクライナは、プーチンが提示する条件で停戦せざるを得ない状況に追い込まれる→・プーチンの条件で停戦成立
ということなのだろうか。
しかし、トランプが大統領になれば、「24時間」、あるいは「極短期間」で戦争が終わるかは現実問題としては分からない。
なぜか?現在のプーチンの条件は、「現状維持の停戦」なのだ。つまり、2014年に併合したクリミアと、2022年に併合したルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、へルソン州をそのままにして停戦する。ロシア軍はクリミアと4州にとどまり、実効支配を続けていく。
ただこの条件は、「ロシア軍が比較的劣勢」の状態で出されたものだということだ。
2023年12月24日付のニュースによると、『アメリカのニューヨークタイムズは23日、ロシアのプーチン大統領が条件付きでウクライナ側と停戦交渉に応じる用意があると報じた。ニューヨークタイムズがアメリカ政府関係者などの話として伝えたもので、ロシアが現時点で占領しているウクライナ東部や南部の地域を維持することを条件に、プーチン大統領が停戦交渉に応じる用意があるとしている。また、プーチン大統領はゼレンスキー政権の退陣を要求しないなど、従来の姿勢にも変化したシグナルを送っているということである。』
ところが、アメリカからの支援が止まることで、ロシア軍は、明らかに優勢になる。優勢になったプーチンが停戦する意味はあるのだろうか? 同記事によれば、アメリカ政府関係者の中には、全ての領土の奪還を目指すウクライナが、この条件に応じるのは難しいと考える人もいる。また「ロシア軍が勢いを増せば、プーチン氏はまた考えを変える可能性がある」などと、懐疑的な見方もあるとのこと。
アメリカのウクライナ支援が止まり、有利になったプーチンはもっと高めの要求を出してくる可能性が高いと思われる。たとえば、「ウクライナは、クリミアと4州がロシア領であることを承認せよ!」など。ハルキウ州やオデッサ州の占領を試みる可能性もある。いずれにしても、トランプの思惑どおりにいくかは、ロシア軍の内部事情が、戦争継続という観点から見てどれだけ逼迫したものかどうかで違ってくるかもしれない。
B-3) プーチンの最終目標は全ウクライナ支配
プーチンのウクライナ侵攻。目的は、なんなのか?彼は、主に4つの理由を挙げていた。
・ NATO拡大阻止、ウクライナのNATO加盟阻止
・ ルガンスク州、ドネツク州のロシア系住民を救う
・ ウクライナの「非ナチス化」「非軍事化」「中立化」
・ ロシアが先制攻撃しなければ、ウクライナが攻めてきたであろう
プーチンは、最初から首都キーウへの進軍を命じていた。首都攻略戦が失敗したので、仕方なく東部に撤退したのである。
もう一つ、プーチンは、「ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を救う」と言いつつ、ちゃっかりザポリージャ州、へルソン州も併合している。この2州は、いったいどういう理由で、併合したのか・・? わけのわからないプーチンの行動であるが、「プーチンは、ウクライナ全土を支配しようとしている」と考えれば、すべて納得できることである。
最近、メドベージェフ前大統領が、3月4日ロシア南部ソチで開かれた若者を対象としたフォーラムに参加し、ロシア帝国とソビエト連邦を賞賛した上で、ウクライナの指導者が屈服するまでロシアは「特別軍事作戦」を遂行すると表明した。彼は「ウクライナはロシアではないと語ったウクライナの元指導者がいたが、こうした概念は永遠に抹消されなければならない。ウクライナは間違いなくロシアの一部だ」とし、歴史的にロシアの一部であるウクライナはロシアに「帰還」しなければならないと語った。
ここで「ウクライナは間違いなくロシアの一部だ」「歴史的にロシアの一部であるウクライナはロシアに「帰還」しなければならない」とのこと。ここから、「ウクライナ侵攻」の真の目的が見えてくる。「ロシアが全ウクライナを併合すること」ということである。
メドベージェフは、「プーチンの子犬(ポチ)」を揶揄される小者だが、「子犬」だけに、プーチンの意向に反することは言わない。だから、プーチンの真意も「ウクライナ全土の制圧」であること、間違いないだろう。 プーチンは2021年7月12日発表された彼の論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性ついて」では、ウクライナとロシアは一つの民であり、一体である」と主張している。論文はウクライナ情勢の背景を考慮し、両国の歴史的な繋がりを強調しているのである。そういうことだから”兄弟国“ウクライナに侵攻するにあたって、「これは戦争ではない。単なる”特別軍事作戦“だ」と拘っていたのだと思う。初期には、戦争という言葉を使うと逮捕までされていたのである。
これらのことから、プーチンが停戦に応じるかどうかは、その時の戦局によって、柔軟に対応するということになるのではないか。
しかし、その停戦も、「軍を休めて、次の侵略の準備をする期間を確保するため」と思っておいた方がいいだろう。いずれにしても、トランプが大統領になっても、アメリカは無償の支援は行わないが、何らかの形で繋がりは残ると思う。次章で述べるが、トランプが再選されたとき、その政策がどのようなものになるかについてはヘリテージ財団が中心になって、既に大きなプロジェクトが動いており、その中で同盟国や支援国についての関りも議論されているので、トランプの一存だけでは行かなくなることも考えられる。例えばウクライナを支援はしないが、有利子の金は貸し付けるとか、戦時国債の形で、アメリカ或いは他国が引き受けるとか、といったこともありうるかもしれない。そういうことを考えると、ロシア・ウクライナの停戦がなったとしても、まだまだその後の駆け引き、取り決めは世界中の耳目を集めるだろう。
B-4) なぜ今ウクライナ全土を併合する必要があるのか
“ウクライナ全土の制圧”が、今回のロシア・ウクライナ戦争における、ロシア侵攻の真の理由(仮説)だとして、なぜウクライナ全土を支配下に置きたいのか? 部分的(例えば分割)ではだめなのか? なぜ今なのか?と考えてみるとそこには、プーチンロシアが描く”新しいソ連の再興“というイメージが浮かんでくる。”ロシアが考える理想的な社会“を目指すということであり、”世界の在り方の追求“ということになる。具体的には1940年代以降に旧ソ連が東欧諸国で繰り広げてきたような、各国社会を徹底的に破壊し、占領すること、つまり強者の有無を言わさぬ、軍事力と経済力の展開で、弱小国は全てロシアにひれ伏し、ロシアが東欧諸国でまた覇を唱える存在になるという強い欲求ということである。 一見アナクロニズムに聞こえるが、ロシアにとってはソ連解体以降舐めた辛酸を忘れはしない。今アメリカの覇権に影が射しだした近年は、将来に向かっての布石を打っておくべき時だと考えてもおかしくない。
クリミヤは確保した。セバストポリはこれで万全だ。後はオデッサとモルドバの沿ドニエストル共和国が欲しい。そうすれば黒海はロシアの庭(池?)になるし、そこからボスポラス海峡を経て世界中に雄飛できる。これにはウクライナを切り取るだけでは後に問題を残す。ウクライナ全土を版図にしなければだめだ。モルドバの次はバルチック3国を取り戻し、ジョージア、アルメニアも確固たる絆に取り換える、ということになるだろう。ロシアの侵攻は続くのである。
これは中国習近平の唱える“偉大なる中華民国の復興“と通底するものがある。両者とも過去の偉大なレガシーを懐かしみ、それを唱えることで求心力にしようということである。プーチンにとってはトランプの再選は、タナボタなんてものではない。ウクライナへの支援は止まるし、NATO諸国も分担金を払えなければアメリカは助けることはない、と公に言っているのだ。今ここで礎を築いておけば、後々楽なことだ。なんて言ったってプーチンの任期は最長で2036年まで可能なのだ。そう思えば、“新しいソ連の再興“という考えが単なる邪推ばかりとは思えなくなるではないか・・?
【C】 もしトランプが再選されたら世界はどうなるか?
★ スーパーチューズデイを14勝1敗で制して、2025年にはトランプが大統領として再度返り咲く可能性が出てきた。今トランプ旋風が吹き始めている。トランプが実際に大統領になるとどんな政権になるのだろうか?欧米ではこの話題で盛り上がっているし、日本のメディアもかなり取り上げるようになってきた。日本はどうなるか?という解説も頻繁に見られるようになり、関心が高いのが分かる。トランプが再選されたら韓国、日本の駐留米軍は撤退するのではないか? とか、米軍への支援(思いやり予算)を増やすよう要求してくるのではないか? 台湾はどうなるか?などと気になる話題ばかりである。それを一つずつ取り上げて考察するのもきりがないので、ここではアメリカでヘリテージ財団が進めている、次期大統領への政策提言“Project2025“の概要を高島康司氏が取り上げているので、その内容を紹介した上で、さらに日本関係の考察を進めている別の4人の論考にも触れてみたい。
C-1) 「Project 2025」の紹介 (高島康司氏メルマガからの抜粋)
=引用=
2020年までのトランプ政権は、一国主義が基本方針であった。このため、移民の入国制限と不法移民の排除、同盟国への経済制裁、同盟国との関係の希薄化、そしてNATOのような国際機関からの脱退や関与縮小、地球温暖化防止に向けた政策の全面的な見直しなどが基本政策であった。
一方、アメリカの世界への関与を縮小させたため、海外で戦争を引き起こすことはなかった。トランプがまた大統領になると、バイデンの国際協調主義から、こうした一国主義の政策に戻る可能性が高い。日本の主要メディアを見ると、このような観測が一般的だ。しかし、トランプが大統領になると、アメリカの民主主義のシステムを根本的に変更する変化があると見た方がよい。(中略)
ホワイトハウス独裁制の樹立を現実的に構想するプロジェクトがある。それが、「プロジェクト2025」だ。2017年に成立した前トランプ政権には、統一的な政策は、アメリカ極右の大物、スティーブ・バノンを中心としたチームが作成した。それは比較的に小規模なグループだった。しかし、2025年のトランプ政権の基本政策を準備している「プロジェクト2025」は、はるかに規模が大きく、組織化された集団だ。
このプロジェクトは、2024年のアメリカ大統領選挙で共和党が勝利した場合に、アメリカ連邦政府の行政部門を再編成する計画である。プロジェクトの参加者は特定の大統領候補を推すことはできないが、多くはトランプやトランプ2024大統領選挙キャンペーンと密接なつながりを持っている。この計画は、「ユニタリー・エグゼクティブ理論」を基づいているとしている。この理論は合衆国大統領が行政府に対する絶対的な権力を持つべきだとする理論だ。つまり、大統領就任と同時に行政府全体を速やかに乗っ取るというものである。
この計画の策定は、アメリカの保守系シンクタンクである「ヘリテージ財団」が主導しており、チャーリー・カーク率いる「ターニングポイントUSA」、マーク・メドウズ元トランプ大統領首席補佐官をシニアパートナーとする「保守パートナーシップ研究所」、トランプ政権の元行政管理予算局長のラッセル・ヴォートが率いる「アメリカ再生センター」、スティーブン・ミラー元トランプ大統領上級顧問率いる「アメリカ・ファースト・リーガル」など、約80のパートナーとの共同作業で進められている。
★ 「ディープステート」の解体
このように「プロジェクト2025」では、三権分立を制限して、すべての権力をホワイトハウスに集中する大統領独裁制と呼べるような体制の構築を目指している。そして、この大統領独裁制には明白な目標がある。それは、「ディープステート」の解体である。ちなみにこのプロジェクトの言う「ディープステート」とは、「CIA」や「FBI」、そして「NSA」のような情報機関だけに限定されるものではない。司法省を始めとした連邦政府の各省庁の官僚制全体が「ディープステート」とされ、解体の対象になっている。
この計画では、「司法省」の資金削減、「FBI」と「国土安全保障省」の解体、「教育省」と「商務省」の廃止が提案されている。「ワシントンポスト紙」は匿名の情報源を引用して、「プロジェクト2025」には、国内法執行のために1807年の暴動法を即座に発動して、米国内で軍隊を配備することや、トランプの敵対者を追求するよう司法省に指示することが含まれていると報じた。
プロジェクトのディレクターである元トランプ政権高官のポール・ダンズは、2023年9月に、「プロジェクト2025」は「大統領に進軍し、ディープステートとの戦いに備え、整列し、訓練され、本質的に武装化された保守派の新しい軍隊をもたらすために組織的に準備している」と述べている。これはまさに、トランプの保守派による革命プランである。
こうした革命プランは、「Mandate for Leadership: The Conservative Promise(リーダーシップの使命:保守派の約束)」と題された920ページの政策提言本にまとめられている。これは無料でダウンロードし、誰でも読むことができる。(下記に添付)これには、革命政権の高官候補者となる人材リストが付随している。また、「大統領行政アカデミー」と呼ばれるオンラインコースや、政権移行計画策定の手引きもある。
【記】 <Project 2025> : https://www.project2025.org/
★ 地球温暖化の否定
この計画案はとにかく過激である。実際にトランプが大統領に就任し、このプランが実行されると、法の支配に基づく民主主義国家としてのアメリカが、本質的に転換してしまう可能性は高い。いま日本の主要メディアでは、トランプが次期大統領になった場合、国際強調を否定した自国最優先の一国主義になることが懸念されている。
しかしこの計画を見ると、変化はそれどころではない。アメリカという国家の根幹を揺るがす大統領独裁制の成立になる。もちろんトランプは、こうして得られた権限を使って、バイデンやクリントン、そして民主党を排除し、自分を迫害したものの法的責任をとことん問う闘争を開始するはずだ。このように見ると、先に紹介した「ユーラシア・グループ」の「トップリスク・レポート2024」で予測されたトランプの復讐は現実になる可能性が高い。
この計画書には、ホワイトハウスに権力を集中させた後、連邦政府の省庁をどのように改革すべきか、その具体的なプランが掲載されている。だが、この計画書には本来あってしかるべき項目がない。それは、地球温暖化の対策である。
「プロジェクト2025」は、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出を削減するための戦略を提示していないのだ。この計画書には、クリーン技術に3700億ドルを提供する画期的な法律である「インフレ削減法」の廃止、「米エネルギー省」の「融資プログラム局」の閉鎖、「米国家安全保障会議」の議題から気候変動を排除すること、同盟国に化石燃料の使用を奨励することなどが含まれている。
またこの計画書は、北極圏の掘削を支持し、連邦政府には「莫大な石油・ガス・石炭資源を開発する義務」があると宣言している。「プロジェクト2025」は、二酸化炭素の排出が人間の健康に有害であると判断した2009年の「環境保護庁」の所見を覆し、連邦政府が温室効果ガスの排出を規制することに反対する。
★ 2020年以上に混乱する米大統領選挙
今回はすでに公開されている「プロジェクト2025」の内容のほんのさわりを見た。この計画書にある外交政策などは、記事を改めて書くことにする。日本にも甚大な影響があることは間違いない。
このプランが大統領独裁制と呼べるようなシステムにアメリカを作り替え、トランプにすべての権限を集中させるものであるので、バイデンを中心とした民主党は、あらゆる手段を使ってトランプの勝利を阻止しようとするだろう。一方、トランプ陣営も草の根保守のあらゆる力を結集して、彼らが「ディープステート」と呼ぶ連邦政府を解体すべく激しい運動を展開するに違いない。
民主党が圧倒的な大数で勝利するという事態でもない限り、どちらが勝っても、トランプの共和党もバイデンの民主党も不正選挙があったことを理由に、結果を受け入れないだろう。2020年の選挙では、トランプが不正選挙を主張し、抗議運動が暴力化した。
しかし今回は、「プロジェクト2025」が大統領独裁制を主張し、連邦政府機関の一部解体を主張しているだけに、民主党の支持者も暴力化することだろう。すでに、トランプの当選を絶対に阻止することを目標にした「ネバートランプ」と呼ばれる過激なグループも広範囲に現れている。こうして見ると、今年の米大統領選挙はただでは済まないことは明らかだ。もしかしたら、暴力の応酬が収拾がつかなくなり、内戦を思わせるような状態になるのかもしれない。要注目だ。
=引用終=
驚くような内容であるが、また大きな地殻変動を予期させるような提言でもある。ディープステート解体を言っていても、その奥の院FRBの解体または再編成のようなことは言っていない。そこまで行くと抵抗が大き過ぎるのか本当に内戦になるかもしれないと危惧しているのかもしれない。全く”要注目“である。
地球温暖化の否定は、完全に脱炭素否定である。これでいくとアメリカはシェールガス・石油で世界トップにまた君臨することになる。プーチンの渋面が浮かぶ。
EU首脳も真っ青だ。現在EV推進が頓挫しそうなときに、化石燃料を推奨するというのでは、アメリカとEUは真っ向から対立することになる。両者の相剋はどうなるのだろう? EUは政策を変更し、首脳陣を入れ替え、アメリカと協調に向かうだろうか? いやいやそれはとても無理だ。世界自由陣営は真っ二つに割れて覇を競うのか?日本はどちらにつくのか? アメリカの基地が日本国内にある限りアメリカと組むしかないのだろうか? 日本独自の道を切り開く好機であるような気もするし・・ 高島康司氏の解説は今後に続くということであるからフォローしていきたい。
C-2)トランプ前大統領が勝利した場合 (マーク・エスパー氏・前国防長官への読売新聞のインタビュー)
要旨は以下の通り
=引用=
★強硬姿勢
米大統領選の候補として共和党のトランプ氏には強い懸念を抱いている。明らかに孤立主義的な外交政策を進めようとしている。(自らに対する起訴などへの)「報復」に言及しており、民主主義や制度を壊し続けるのではないかと心配だ。2期目は最後の任期で、1期目のように(言動を)抑制しないだろう。
トランプ氏は同盟国や友好国に強硬姿勢を取ろうとしている。米国のウクライナ援助は即時に打ち切りに動くだろう。その後は、北大西洋条約機構(NATO)に目を向けるはずだ。標的となる国に基準があるとすれば、国内総生産(GDP)比で2%の防衛費を確保しているかどうかを基準に据えると指摘した。
★日本も標的か
いずれ日本に対しても同じ質問をするだろう。2027年度に防衛費(と関連経費の合計)を2%に増加させる岸田首相の決断は称賛に値する。トランプ氏は十分だと言うかもしれないし、言わないかもしれない。
NATOやインド太平洋の同盟国には、米軍駐留経費の受け入れ国負担額を評価することにもなる。日本は世界で最も多くの駐留米軍を受け入れている。だからこそ標的になりやすい。日本側負担を増加させ、米国からより多くの武器を購入するよう圧力をかける可能性がある。
★忠誠心がカギ
第1次政権には私のような国際協調主義者がいた。だが、(トランプ氏が再び大統領になった場合)第2次政権への参加者は忠誠心がリトマス試験紙になる。政権入りする高官はトランプ氏と同様、孤立主義的な考えを持つようになるのではないか。
アジアでは、中国が数年前に比べさらに脅威になっている。欧州や中東と似た状況になっている。そんな中、多くの米国人は、なぜ同盟国が国防費を増やさないのか自問している。率直に言って、米国の安全保障にただ乗りしているようにも見える。それがトランプ氏の訴えであり、多くの米国人の心に響いている。
★同盟国重視を
私は(米国が)同盟国から離れるべきだとは思わない。日本のように防衛政策を転換すれば米国にも大きな影響がある。ウクライナ支援停止が良い結果を生むとも思えない。プーチン露大統領に主権国家(の一部)を渡すことになり、さらなる欲望を刺激する危険性がある。「米国は台湾や日韓を守らないのかもしれない」という悪いシグナルを中国に送ることにもなる。
レーガン元大統領は「力による平和」と自由世界での米国のリーダーシップの重要性を唱えた。米国には国境管理の強化も必須だが、同時に同盟国や友好国も支援すべきだ。どちらか一方の選択ではない。米国はどちらもできるのだ。
* Mark Esper 米陸軍士官学校卒。陸軍兵として湾岸戦争にも参加。トランプ政権の2017年11月に陸軍長官。19年7月から20年11月まで国防長官を務めた。59歳。
=引用終=
C-3) トランプ再選で同盟国・日本に問われる”大きな覚悟“ (要旨のみ/上久保誠人・立命館大学政策科学部教授)
★ イスラエルとアラブ諸国との「国交正常化」を進めたトランプ
2020年1月、米軍はガセム・ソレイマニ・イラン革命防衛隊司令官を殺害したと発表した。イランはその報復として、イラクにある米軍駐留基地に地対地ミサイル数十発を打ち込んだ。しかし、トランプ大統領はこの攻撃によって米国の死者が出なかったことを強調し、「軍事力を使うことを望んでいない」として、イランに追加の経済制裁を科すと表明して事態を沈静化させた。
これも、アメリカ・ファーストに沿った行動だ。トランプ大統領は司令官の暗殺について、あくまで「長い間、数千人もの米国人を殺害し、重傷を負わせてきた」からであり、「米国に対する大規模なテロを計画している」という情報をつかんだからだと強調した。そして、それ以上に深追いして軍事力を使うことはなかった。このように、トランプ大統領は、米国に対する直接的なリスクとならない限り、軍事力を使うことには徹底して消極的だった。
トランプ政権は中東において、イランを経済制裁で追い詰めて孤立させる一方で、イスラエルと他のアラブ諸国との間の「国交正常化」を進めている。20年9月には、米国のホワイトハウスで、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンの2カ国が、イスラエルとの国交正常化をする合意文書に署名した。
中東のシリコンバレーとも呼ばれ、ハイテク産業の集積地であるイスラエルのテルアビブ、中東の巨大経済ハブであるUAEのドバイ、オイルマネーにあふれるアブダビ、中東の金融センターであるバーレーンを結びつける合意は、過去のしがらみにとらわれず、ビジネス・マインドを持つトランプ大統領だからできたといえる。
また、この合意の背景にも「シェール革命」がある。中東諸国は、長期的な石油・ガス価格の低迷で、産業多角化による「脱石油依存」を目指さざるを得ない。そこで、過去の恩讐を超えて、ハイテク国家・イスラエルとの国交正常化で経済的なメリットを得ることを選択した。アメリカ・ファーストとシェール革命が、中東の秩序を一変させたのだ。だが、これが、後のイスラエル・ハマス紛争勃発の伏線の1つとなった。
★ 「アメリカ・ファースト」で米国から関心を持たれなくなった韓国
他にも、アメリカ・ファーストで米国から関心を持たれなくなった国々がある。その代表は韓国だろう。トランプ大統領は、在韓米軍について、「コスト削減になる」と将来的な撤退を示唆し続けてきた。
「在韓米軍」の撤退は、韓国が中国の影響下に入ることを意味し、北朝鮮主導の南北統一の始まりの可能性がある。北朝鮮よりも圧倒的に優位な経済力を持ち、自由民主主義が確立した先進国である韓国が、最貧国で独裁国家の北朝鮮の支配下に入ることはありえないと言うかもしれない。しかし、明らかに「左翼」で「北朝鮮寄り」の文大統領(当時)にとっては、それは何の抵抗もないどころか、大歓迎かもしれないことは、今や荒唐無稽な考えではなく、むしろ常識となった。
また、北朝鮮は、大陸間弾道弾を開発し、米国を直接攻撃できる能力を持つ可能性を持ったころから、史上初の米朝首脳会談を実現した。しかし、その後は北朝鮮が核関連施設を破壊し(注:その後再開・復活させている)、米国を直接攻撃する可能性がほとんどなくなったことから、トランプ大統領は北朝鮮への関心を持たなくなった。今、トランプはほとんど朝鮮半島には関心がないようにみえる。将来的には在韓米軍の撤退により、朝鮮半島全体が中国の影響下に入ることを容認する可能性はあるように思える。
★ 「トランプの返り咲き」で問われる日本の覚悟
トランプ政権下の米国で起こったことは、米国が覇権国家の座から少しずつ降り始め、「世界の警察官」「世界の市場」であることから具体的に撤退し始めたということだ。その結果、米国から恩恵を受けてきた国が、米国との関係を悪化させた。また、米国の覇権の下で安定していた地域で、再び近隣同士の関係が不安定化したのだ。
トランプ大統領は、「戦争」の高リスクを嫌っていたので、その在任中、国際社会で大きな紛争が起きなかった。しかし、大統領退任直後から見ると;
・ 2021年2月にミャンマーで軍による民主派を排除するクーデターが起こった
・ 8月には、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが首都カブールを制圧し、大統領府を掌握した。そして、
・ 2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻する「ウクライナ戦争」が勃発し、
・ 2023年10月、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルへ攻撃を仕掛け、イスラエルが外大規模な報復を行っている。
これらの地域紛争が、様々な地域における米国のプレゼンス低下の「空白」で起こっていることは否定できないだろう。戦争を嫌った「アメリカ・ファースト」の皮肉な現実だ。
現在、世界中で起こっている紛争は、ある地域において、より強い力を持つものが、力の弱いものを攻撃し、強引に「現状変更」を迫っているという共通点がある。端的に言えば、様々な地域で「弱い者いじめ」のような状況が次々と生じているのだ。この現状で、日本が最も警戒しなければならないのは、「台湾有事」であることはいうまでもない。
そして、日本はどうなるのか。トランプ政権下において、日米関係は過去最高に良好であったという評価がある。しかし、それは安倍晋三元首相がトランプ大統領には一切逆らわず、ゴルフなど接待漬けにしていたからだというが、そんな話ではない。
「アメリカ・ファースト」でトランプ大統領が「バイ・アメリカ!(アメリカを買え!)」と諸外国に圧力をかけていた。では、実際にどこの国が米国製品を買い、米国に投資できるのか。自由民主主義陣営の同盟国では、それは日本しかいなかった。だから、トランプ大統領は、日本をないがしろにはできなかった。
バイデン政権でも、引き続き日米関係は良好だ。岸田政権の「防衛費倍増計画」など安全保障政策の劇的な転換の方針がバイデン政権に高く評価されている。だが、トランプ氏が大統領に復帰したら、良好な関係が続くとは限らない。日本に「バイ・アメリカ!」を続ける経済力が残っているのかということだ。様々な地域紛争による資源・食料の供給不足に端を発したインフレが続き、日本経済は打撃を受け続けている。日本が生き残るには、経済成長は絶対に必要だ。
また、日本を取り巻く安全保障環境が、トランプ氏にとって、非常に「コスト高」に映る懸念がある。台湾有事は、まさに「地域において力の強いものが力の弱いものに強引に現状変更を強いるもの」だ。最も、次に起こりえる紛争であることは間違いない。
トランプ大統領が再び誕生したとしても、米国がすぐに台湾の防衛から手を引くことはありえない。ただし、日本に対して、より大きな軍事的負担を求めることは容易に想像できる。
米国が本気で要求してくれば、それに抗するのは難しい。日本は、それを受け入れる準備ができているのだろうか。トランプ大統領の米国が再び現れた時、それと正面から対峙する覚悟があるかどうか、日本に問われている。
C-4) 「核の傘」を閉じられた場合の日本が「核の抑止力」について真剣に考えるべき(川口 M 恵美・作家・在ドイツ)
★ トランプが大統領に返り咲く可能性が高まったことで、日本や韓国から米軍撤退が現実味を帯びつつある。国防計画を見直す必要に迫られている日本で、今後必ず議題になるのが核武装の是非であろう、と川口氏は言う。さらに、核開発をする必要も機会もなかった戦後ドイツと同じ道をたどって経済発展を続けてきた日本の国防意識を問題視。トランプが返り咲く可能性も視野に入れながら、「核の傘」を閉じられた場合の日本が「核の抑止力」について真剣に考えるべきとの持論を展開している。
★ 骨抜きにされたドイツ、牙を抜かれた日本
NATOの中でも特にドイツは、2度と軍事大国にならないようにと旧連合国に首根っこを抑えられていたため、これまでお金のかかる核開発は、する機会も必要もなく、おかげでいつの間にかヨーロッパいちの経済大国になれた。とはいえ、80年代の初めまでは東西ドイツ間の緊張があったので、軍事費はGDPの3%を割ることはなかった。しかし、冷戦の終了後は緊張が一気に解け、統一ドイツでは、国防など誰もそれほど重要だとは思わなくなった。以来、ドイツの国防費はコンスタントに減り、ここ20年以上1〜1.3%で、いくら米国からクレームが来てものらりくらりと交わし続けてきたのである。
思えば日本の発展もドイツのそれとよく似ている。戦後、やはり牙を抜かれた日本は、軍事ではなく、経済発展に注力した。核兵器どころか、原発にもかなりアレルギーがあり、平和ボケで、国防費もケチる。書きながら改めて思うが、有事の際には数日で弾丸が尽きると言われているところまで含めて、まるでドイツとそっくりだ。
ところが、最近になって世界情勢は風雲急を告げ、ドイツも日本も呑気に構えてはいられなくなってきた。状況が不穏になると、必ず話題になるのが核の抑止力だ。つまり、ロシアがウクライナに向かって核兵器を使いそうになった時、あるいは、日本が北朝鮮や中国に狙われた時、米国は核の傘で守ってくれるだろうか、という話だ。
★ 自分の国を自分で守るには、それなりの準備がいる
中国、あるいは北朝鮮のタガが外れて、東アジアに有事が起こったと仮定すると、まず狙われるのは米軍基地だ。基地は日本だけでなく韓国にもあるが、そもそも韓国は、隣で睨みを効かせる中国や北朝鮮に逆らえるだろうか? 言われるがままに米軍を追い出すというようなサプライズが起こっても不思議ではない。では、日本は? 米軍が犠牲的精神を奮って日本を守ってくれると思っている人は、流石にもういないだろう。ただ、だからと言って、「では、この危険な状況をどうにかしなくては!」とならないのが平和ボケの日本だ。
自分の国を自分で守るには、それなりの準備がいる。丸腰で強がりを言って喉元にナイフを突きつけられたら、その後は知れている。つまり、こちらも少なくともナイフを持ち、相手に襲いかかるのを躊躇させなければならない。それが核であり、抑止力である。しかしながら、日本の核武装などあり得ない。だから、何をされても日本政府が見て見ない振りをするのは、いわば当然なのだ。
ドイツにはホロコーストのトラウマがあるため、軍事力や戦闘心を誇示するような言動は極力慎む。その証拠に、本来なら国家の財産であり、重要なライフラインでもある天然ガスのパイプラインを、(おそらく同盟国の手によって)破壊されても、ろくに調査もできない。何か言って喉元にナイフを突きつけられると困るところは、日本とよく似ている。しかも我々は、時々、脅してくるのは必ずしもロシアや中国だけではないことも、重々承知している。
勝っても負けても犠牲の出るのが戦争で、もちろん、誰も戦争などしたいはずはない。しかし、たとえ世界中の人間が平和を望んだとしても、利害が一致するわけではなく、いつか必ず争いは起こる。そして、利害が複雑に対立すればするほど、争いの前線も複雑になる。そんなとき、国家を超えた調停機関など役に立たず、話し合いも機能しないことは、今のウクライナやガザ地区を見ればよくわかる。結局、戦争抑止に有効なのは、今のところ核兵器しかない。
★ 六ヶ所村で完成間近の「原子燃料サイクル」が抑止力になる理由
核の拡散を防ぐためのNPT(核不拡散条約)という条約がある。1968年に国連で調印され、これにより世界の国々が「核兵器国」と「非核兵器国」に分けられた。
NPTについて青山学院の福井義高教授は、「核武装するかどうかは日本の国民が決めることであり、不平等条約で縛られる性格のものではない」と語っている。だからこそ、「令和の日本には20世紀最大の不平等条約改正を目指してほしいものです」と。
ただ、肝心の日本人は、NPTをことさら不平等とも思っていないようで、どちらかというと「非核兵器国」であることを誇りに思う人たちもいる。それどころか彼らは、原子力の平和利用にさえ二の足を踏む。
青森の六ヶ所村で完成間近な「原子燃料サイクル」とは、使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出し、それをもう一度核燃料に再加工して、発電に使う技術だ。これが順調に稼働すれば、全国の原発から出る核廃棄物の量は減らせるわ、自前の核燃料は作れるわで、“エネルギー貧国”日本の未来はかなり明るくなる。
ただ、再処理は非常に高度な技術の上、本来なら「非核兵器国」で行うことは許されていない。なぜなら、これはウランの濃縮技術であり、一歩進めれば原爆を作れてしまうからだ。現在、日本だけが特別扱いでこの技術を認められているが、六ヶ所村にはIAEAの査察官が24時間張り付いて、日本が原爆を作らないよう厳重に見張っている。
この六ヶ所村の「原子燃料サイクル」の開発を嫌がっているのが、日本国内の反原発派と、お隣の中国だ。再処理ができるということは、原爆を作る能力があることの証明であるから、中国は、日本が核兵器を作るのではないかと疑っているのだ。つまり、日本側が意識しようが、しまいが、これだけで、少しは抑止力になるかもしれない。
★ 米国が「核の傘を閉じる」と言い出したら日本に核を持てというシグナル
さて、近い将来、米国が、「もう核の傘は閉じたい。国防は自分でやれ」と言い出すような気がする。もし、そうなれば、それは日本に核を持てというシグナルだ。トランプ大統領が日本にとっての脅威となるなどと言う人もいるが、今後は誰が米国大統領になっても、最終的には、米国は自分たちで犠牲を払ってまでも日本を守ってくれることはないだろう。つまり、いずれ核の傘は閉じられる。ただ、その時、日本は中国や北朝鮮との緊張に耐え、今こそ真の独立国にならねばと思うのだろうか? 今のうちから心の準備だけは必要だ。
ただ、もし、そうなっても、日本人が有事の時に武器を持って立ち上がるとは思えないし、それはそれで良い。戦後70年の教育は暴力を否定してきたし、戦争忌避論はすでに我が国の根幹となっている。ただし、だからこそ、攻め込まれないための手段として、抑止力の重要性をより正確に認識する必要がある。また、核以外の抑止力も積極的に模索すべきだ。
一歩間違えれば自らが戦場に駆り出される若い人たちの間で、冷静な抑止力構築論が高まっていく可能性に期待している。
C-5) その他
★ “もしトランプが再選されたら”、という話題には、再選されたらその後第3次世界大戦が起こる可能性が高い、と予想する記事も出てきている。しかしその意味する第3次世界大戦とは、以下のような地域戦争が世界各地で起こる可能性が高いということを言っていることが多い。
1.ウクライナ x ロシア
2.イスラエル x イラン
3.中国 x 台湾・日本
4.北朝鮮 x 韓国
ウクライナvsロシアは既に進行中であるが、イスラエルvsイランは、現在進行しているイスラエルvsハマスの戦争が、本格的な戦争に繋がるという惧れである。これら4つの戦争が起こればそれは第3次世界大戦だと言ってるのだが、従来の、世界が2分されて戦う世界大戦という意味とはちょっと違っている。アメリカ ファーストで戦争が嫌いなトランプは(コストが莫大でペイしない、という持論で彼は任期中戦争を起こさなかったことで知られている)ウクライナ・ロシア戦争からはできるだけ手を引きたいし、現にそのように表明している。トランプはアメリカが関与するのは避けたい。EUを中心としたNATO諸国で面倒をみろ、というわけである。
一方イランに関しては、かなり敵対意識が強いから、イスラエルがイランの核兵器工場を爆撃するようなことがあれば積極的にイスラエルを支援するだろう。そもそもオバマの「イラン核合意」からトランプが脱退したのは、「オバマ合意」では一時的にイランの核開発(ウラン濃縮)を遅らせることができるだけで、合意明けにはイランが核開発を再開することは自明ということで脱退してしまったのである。イランはトランプの目指すやり方での中東の安定化には全然寄与しないどころか、反対にイスラエル対アラブ諸国の対立を強めるだけと見ているのである。イランのウラン濃縮は昨年(2023年)3月時点で83%を超えていて90%を超えるのは目前であり、イランはIAEAの査察も拒否して核兵器製造に向かって進んでいる。イスラエルとしてはフォルドゥ(イラン中部)の核施設を破壊するつもりでいるからトランプもフォルドゥ空爆には参加するだろう。イスラエルとしては一日も早く、ハマスを潰して対イラン戦争に備えたいところであろう。3月26日に国連安保理で、ガザで即時停戦求める決議案を採択したがアメリカは棄権した。イスラエルの怒りは激しいものであった。バイデン政権ではだめだ、ということだ。イスラエルはトランプ再選を一日千秋の思いで待っているのであろう。
一方アメリカは対中国では、覇権争いでは中国を潰したくても軍事的な戦争はしたくないから、今は中国との融和に一生懸命である。中国が台湾に侵攻しても即戦争とはならないだろう。しばらくは外交上のやりとりが続くのではないか。習近平としてはアメリカの軍事力分散を狙って北朝鮮を引き込み韓国に侵攻させて、アメリカの4正面作戦を強要したいのは当然である。アメリカも4正面作戦は不可能であるから同盟国の働きが必要になる。アメリカとしては日本にもっと働いてもらいたいから日本の軍備増強にGOサインを出しているのである。岸田首相はバイデン政権の意のままに動いているのである。
トランプが大統領になったら、アメリカ ファーストということで、これらの地域紛争を止める方に働くかもしれない。“2025 Project” では何らかの提案がされているかとも思われる。
★ その他にも、「もしトランプが再選されたら」という仮定に対する直接のレスポンスではなくても三段論法式に、→ アメリカ国内が二分される → アメリカにCivil War(内戦)が起こる → いくつかの州もしくは単独の州がアメリカから独立する、といったような解説記事も出ている。「アメリカは21世紀版の内戦に向かっている」という言説も、4月に米英で公開される映画「Civil War(第二次南北戦争)」の内容が話題になっているだけに人々の関心は高いようだ。トランプの再選を絶対阻止したい勢力の話題作り、或いはプロパガンダ的な内容なのか、または単に、トランプが話題になっている社会的背景をチャンスとばかりに、映画のヒットを狙った興行プランなのか、この時点では漠としている。ある信頼している評論家が、「大統領選後、今と比べ物にならないほどの世界の混乱に日本が巻き込まれるのは必然である」と警告しているのも気になるが、いずれにしても現時点で検討するには情報も不足で、対象にはできない。従ってここではそれ以上の考察はしていない。11月までには殆どの動きが明確になるだろう。
(以上)
林義祐
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オランダ在住の 林 義祐氏(64回生・岡谷市出身)のご寄稿「オランダの生活・歌日記: 2024年3月」を下記に掲載いたします。
林様、今月もご寄稿ありがとうございます。同窓の皆様のコメントをお待ちします。
(名取宛メール: antimarck@yahoo.co.jp)
2024年 3月 : 歌日記
3月1日(金)
☆ 高齢者運転免許更新で 病名チェック知らぬ名ばかり
☆ 辞書引いて医学用語の名前知る 何回見ても覚えられずに
3月2日(土)
☆ トレーラーいっぱい積んだコンポスト 3日ほどにて全部庭に撒き
☆ 一輪車に移して運ぶ10回余 花のためには妻の頑張り
3月3日(日)
☆ 老い犬が雨の庭から戻らぬと 探せば藪で泥にまみれてい
☆ 二人して納屋に運んで身体拭く ディバ老いたり足掻きも弱く
3月4日(月)
☆ 庭の中小山出現コンポスト 日にちをかけて花株に与え
☆ 庭の杭長年使用で元腐る また一つ増えるToDo List
3月5日(火)
☆ アジサイの終わり花切り整枝する 見違えるほどに品よくフレッシュ
☆ 昨年は11月まで咲き続け 疲れたアジサイ今また元気に
3月6日(水)
☆ クロッカスは野趣ある中に優雅さも 庭のあちこちカメラ忙し
☆ クロッカスは自然に育つが球根を 意図して植えて3年持たぬ
3月7日(木)
☆ ビオラ苗5日も前に買いしもの 夕方急遽移植を始め
☆ 温室で夜作業して無事終わり シリンダーポット壁掛けできる
3月8日(金)
☆ 税務署から追徴通知受け取って 理解するのに一日がかり
☆ 税用語英語でも苦労オランダ語は もっと苦労で税理士オフィスへ
☆ 外国に住めばよくあることなれど そのための時間大きなロスに
3月9日(土)
☆ 朝未明Diva発作を引き起こし 床に倒れて空を掻き続け
☆ 二人して唯オロオロとするばかり 涙声妻名を呼び続け
☆ 卒中が収まり何とか立ち上がる 思わず喚声二人の口に
3月10日(日)
☆ ふと見れば桜ちらほら咲いており そうだ春だよそう来なくっちゃと
☆ 春の花スキラはどうかと見に行けば 群れなし咲いて春を実感し
3月11日(月)
☆ ワインベリー倒れた杭を取り換える 大杭打ち込み万全な様
☆ ワインベリー去年豊作今年また 娘や隣家に呈したいもの
3月12日(火)
☆ パンパス穂束ねた上に朝の陽が 射して輝く二度目の勤め
☆ この庭の一番咲きのチューリップ 今年も変わらずトップを守る
3月13日 (水)
☆ この庭に定着したるヒヤシンス あちらこちらで小球がブッシュに
☆ 余りたる小球置けばヒヤシンス 逆境に勝つ強い花なり
3月14日(木)
☆ 白穂花まだ健在のタングチカ(*) 芽吹き始まり急遽剪定し
☆ 昨年からアルミ梯子をよく使う 高所の作業ぐっと楽になり
(*)ゴールデン クレマティス(Golden clematis)
3月15日(金)
☆ その昔友がくれたるタツタソウ 新芽を見れば友の顔よぎる
☆ 消息も途絶えて久し友の顔 遠く懐かしタツタソウ見れば
☆ タツタソウこの地に合わぬか小さいまま 細々生きる縁を繋ぎ
3月16日(土)
☆ 5時起きし日本へ電話連日で 夜昼逆は辛く思うとき
☆ 辛くともこれが自分の途なりと 思えば前に進むしかなく
3月17日(日)
☆ サクラ花今年は樹形すっきりし 枯れ枝見えずようやく治る
☆ 満開の桜の花は真っ白で ピンクになるにまだ余裕あり
3月18日(月)
☆ 殻付きのピーナッツ入れ替え木に吊るす カケスすぐ来て何回も往復
☆ 人目避けピーナッツ遠くへ運んで食べ 何回か行き来ご苦労なこと
3月19日(火)
☆ サクランボ苗木を植えて3年目 初めて花咲き何枚も連写
☆ 花咲けば実を見てみたいサクランボ 鳥の防止を今から考え
3月20日(水)
☆ サクラの木白い花びらその中に 早くも赤花春は駈け足
☆ 赤花で樹木全体覆われる そのときはすぐ流れは速く
3月21日(木)
☆ 娘いま日本へ出張3週間 Romi・Simba 来たりいつものように
☆ 二匹とも老犬Divaを差し置いて 我がもの顔のハッピーライフ
3月22日(金)
☆ ブラインドを上げれば見えるサクラの木 一夜でピンクになってるが見え
☆ 木の下に早くも花びら落ちており 弥生の終わりはもうすぐ近い
3月23日(土)
☆ 居間からは散歩の人・犬よく見えて Romiいつも吠えるキチガイのごとく
☆ Romiの癖いくら叱っても変わらずに 今では病気と思うしかなく
3月24日(日)
☆ 青空が俄かに曇り暗くなる 刻々変わるオランダ天気
☆ 雹降って白いビーズがとび跳ねる アイケンラーンに冬がカムバック
3月25日(月)
☆ 前隣り2軒隣りとマグノリア 見事に咲いて春はピークに
☆ マグノリア花の盛りもこの通り 閑静過ぎて愛でる人もなく
3月26日(火)
☆ ピエリスは北向きの壁の下に咲く 薄暗い場所に鶴が下りたよう
☆ ヘルボラス同じ場所にて可憐なり 日陰なれども明るく見せて
3月27日(水)
☆ タルムード読めば驚くユダヤ人 世上のイメージと大きく違い
☆ ユダヤ人聖書・タルムード原典で 幼少の時から読んでいるとは
☆ 識字率100%はウソならず 人心収攬旧約聖書
☆ 2千年土地なく国亡く離散して 民族の絆聖書にありとは
3月28日(木)
☆ 待望のアマリリス咲く家の中 白花もあり今年は楽しみ
☆ 窓の外いくつかの鉢チューリップ 満を持しては出番を待てり
3月29日(金)
☆ 治ったと思いし桜枝先の 花枯れ病がまた出てがっくり
☆ 去年よりずっと良くなり来年は さらに良くなるを期待するのみ
3月30日(土)
☆ 邦人会アムステルフェーンで花見会 かつての仲間に邂逅したり
☆ 10年前退会したる邦人会 再会しても今浦島で
☆ メンバーも既に高齢お互いに 顔見合わせて誰かと思案
☆ 堤防の法面(*)黄色に染め上げて 菜の花揺れるオランダの春
(*)我が町からアムスに行くハイウエイは、干拓地の堤防に沿ってできている。
堤防の法面は野生のお花畑に。
3月31日(日)
☆ サクランボ初めて開花嬉しくも あまりの高さとても届かぬ
☆ サクランボ整枝方法勉強し 横型にするにさらに3年と
掲載(了)