科学&化学

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シクロデキストリンだらけの生活(化学,薬学,医療)

基礎研究と応用研究(シクロデキストリン)(化学,薬学)

ソーラーライト(科学.エネルギー)

燃料電池自動車の水素は何処から?(エネルギー,化学)

電力買取保留騒動(科学,エネルギー)

抗酸化力の予測(フェノール類)(化学,薬学,IT)

話題のピラジン系医薬品(医療,化学)

米軍台風進路予想 (自然)

台風を弱める装置(特許)(科学)

二足歩行ロボット (科学)

芳香環の相互作用(化学)

人が代わると反応生成物が変わる(その3)(化学)

公衆トイレのウォシュレット無用論(環境,科学)

論文盗作問題(科学,あきれた話)

再生可能エネルギー伸び率(科学技術)

プリウス補機蓄電池トラブルとリコール (技術,車)

ヒートポンプは遡ってノーベル賞(科学)

理研初の女性主任研究員加藤セチ(化学)

避雷針 ≡ 導雷針(科学)

ワイヤレス給電の現状(科学)

簡単ではない新エネルギー移行(発電電力量の構成と化石燃料依存度)(科学)

メタンハイドレートの構造 (科学,分子計算)

実際は寒冷化?(黒点消失,宇宙線&雲量増大,地震)(科学)

風力発電にも難題 (科学)

ピクリン酸にまつわる話(身近な歴史,科学)

太陽エネルギーの化学的貯蔵(その後)(科学)

マグマ発電(その後)(科学)

ロボット技術

今年のノーベル化学賞

高速増殖炉もんじゅ, 海水からウラン捕集その後?

スペースシャトルと単結晶


風力発電にも難題

原発事故の後,自然エネルギーを利用する種々の発電が注目を集めた.マスコミから伝わってくるのは主に太陽光と風力である.

九州大学の研究グループは,比較的弱い風で回転する風レンズ風車を考案し,太陽光パネルと組み合わせた発電設備を使って博多湾で洋上風力発電の実証実験を始めた.

そのような報道に会い,太陽光発電,風力発電が中心になって脱原発は軌道に乗りかけていると思っていたら風力発電はバラ色ではないらしい.風力発電は風の強さに大きく依存し,弱い場合の不足分を補うため,火力発電を稼動させる必要があるとのことである.

そのことを理由に電力会社が電力の買取りをしぶっているというか ら釈然としない.政治が決めても,電力会社が「うん」と言わない姿勢は,九州電力の「やらせメール問題」の居直りで経験済みである.せっかく風力発電装置 を設置したのに電気を買ってもらえなくて困っている自治体や団体があるらしい.火力発電所の比重の少ない東北地方が特に問題になっている.全国の送電網が 一元的に管理されていれば,平均化できるはずであるが,実現は簡単ではないようだ.

送電分離が前菅首相を降ろすきっかけになったという意見がある.既存権益を守る電力会社,分離を進めたい勢力,その間に介在するいろいろな力,簡単には実現しそうにないというのが結論のようだ.

送電会社を分離設立すべきであるという主張の意味が何となく理解できたと思っていたら,発電,送電,配電の三つに分離する必要があるという意見があるとのことである.

原発が定期検査に入るのは当たり前だが,すべてが停止する事態が生じるのは納得がいかない.そのようにならないように原発増設をしてきたはずである.自分たちの不備は棚にあげて簡単に節電を要求する.仕方ないではないかという態度があちこちに認められる.

大学発の風レンズ風車が,掛け声だけに終わらないことを願っている.(2011/12/21)

参考資料

風レンズ風車の開発 - 九州大学 流体科学研究室

「風レンズ風車」の実験開始=福岡市〔地域〕|asahi.com(朝日新聞社)


ピクリン酸にまつわる話

祖父が従軍した日露戦争の記録を国立国会図書館近代デジタルライブラリーで調べている際に,熊本県凱旋軍歓迎会が編纂した日露戦役記念写真帖を見つけた.出征から凱旋までの写真が数多く収載させている中に,熊本県立工業學校の生徒が砲弾を製造している写真が二枚あった.

PDFから抽出した画像(クリックで拡大)

写真左側の説明文

熊本縣立工業學校ノ砲弾製造 其一

熊本縣立工業學校は熊本陸軍兵器支廠の委託を受け三十一年式速射砲用七珊榴弾の製造に着手せしが素,砲弾の製造たる頗る精巧を要するの みならす同校に於ては全く経験無き事業とて刻苦奮励休日を廃して之に従ひ以て其の委託に酬ゆるを得たり此圖即ち其作業の實況なり(かたかな表記)

少々びっくりしたが,日露戦争の砲弾の火薬はピクリン酸であり,下瀬火薬と よばれ勝利に貢献したという話を思いだした.ピクリン酸は,金属を腐食しないTNT火薬やニトログリセリンが発明されるまで火薬として使用された.日露戦 争は国家財政上ぎりぎりの戦いであり,弾薬不足でロシア軍を深追いできなかったことは現在ではよく知られた事実であるが,国民総動員の様子を物語る写真で ある.

その写真を見ながら,私もピクリン酸を取り扱ったことを思い出した.ピクリン酸を触媒に用いた転位反応に関する研究である.

当初,ピクリン酸はトルエンスルフォン酸等と同様の酸触媒として用いたのであるが,フェノール水酸基がアルキル化された化合物(アルキル化体)が触媒の本 体であることを発見し,Tetrahedron letters (1974, 51/52, 4479-4480) に速報として掲載された.図 に示すように青矢印で示したO-R結合が3個のニトロ基の電子吸引力により非常に切れやすくなっており,Rが硫黄原子(C=S)を攻撃(緑矢印)しアルキ ル化する.その過程でチオン酸エステル(1)は熱力学的に安定なチオール酸エステル(2)へ転位し,触媒は再生されて循環するという反応である.

役に立つ反応を発見したと思っていたが,この反応は誰も利用してくれなかった.当時の同僚の助手の先生によると,ピクリン酸を加熱するなど恐ろしくて到 底やれることではないということのようであった.有機化合物に本触媒を少量入れて穏やかに加熱しても爆発することはないが先入観とは恐ろしいものである.

今考えると,ピクリン酸は怖い物と思い込みそれまで誰も有機試薬として使用しなかったのかもしれない.(2011/12/11)

太陽エネルギーの化学的貯蔵(その後)

25年以上前の話である.

大学院の学生が,合成した化合物をいくら再結晶しても淡黄色の結晶の中に無色の結晶が混じってくると言って困っていた.そこで無色の結晶をつまみ出し単結 晶X線解析を行ったところ,2個の二重結合(赤表示部分)が両端で結合しシクロブタン環2個を有するかご型化合物が生成していることが分かった.

当時,実験室内での光反応といえば,光反応装置を使って冷却下水銀ランプで照射する方式が当たり前であった.そのため,実験室内の光(蛍光灯等)で閉環反 応が惹起するというのは珍しく,光エネルギーの化学貯蔵に応用できるのではないかということになった.そこで,そのような仕事をしている国内の研究グルー プに入れてもらい情報交換の機会を得た.当時そこで話題になっていたのは下記の反応を利用した太陽エネルギー貯蔵システムであった.

この反応では,光を照射するとノルボルナジエンの二重結合(赤と青の部分)が分子内で結合す ることによりクアドリシクランへ変化する(二重結合のp軌道はかなり接近している).クアドリシクランは分子内に約23キロカロリー/モルのエネルギーを 蓄えた高歪分子であり,適当な触媒で元の化合物に戻る.その際に放出する熱を利用しようというわけである.無限循環が可能であり,実用化のための実験が米 国で行われているという噂を聞いた覚えがある.

それから長い年月が経ち,どうなっているのか気になりネット検索を行ってみた.実用化した という記事は発見できなかった.検索でヒットするのは当時の科学研究費報告関連の書類が多く,まとまった研究成果を見つけることはできなかったが,触媒な どの分野で細々と研究は続いているようである.この反応の欠点のひとつは紫外線をあてねばならないことである.その改善策として二重結合にいろいろな置換 基を付けて長い波長の光でも反応が起こるようにしようという試みが散見される程度である.

化学物質によるエネルギーの保存は、長期間貯蔵してもエネルギーの損失がないという利点はあるが,エネ ルギーの変換・貯蔵に必要な化学物質が大したサイクル数ではないのに劣化してしまうという難点があるようである.

最近,このような欠点を克服した太陽エネルギー貯蔵システムの開発例が報告された.

以下の記事を参照してほしい.

追記

分子歪エネルギーとは,通常の結合距離(sp3のC-Cなら1.54A),結合角(sp3のC-C-Cなら 110°)等が分子構造により変化する際に生じる分子の不安定化の度合いとみなすことができる.

最近の計算計算法による予測値

MMFF94力場計算 23.3 kcal/mol

PM6 19.5 kcal/mol

B3LYP/6-31G(d) 20.4 kcal/mol

(2011/10/22)


マグマ発電 その後

入試のことで取材を受けた記念に保存していた西日本新聞(1996年12月31日,大学入試に於ける男女差別問題の記事)を捨てようと思い,その一面を見て驚いた.一面のトップ1/3を割いた記事の見出しに下記のタイトルが躍っている(カラー完成概念図付き,ハガキ大).

世界初,モデル実験へ

九大研究グループ

硫黄山でマグマ発電

まず100メートル掘削,21世紀稼働目指す

噴火の規模制御も?

前文は以下の通りである.

1995 年秋,257年ぶりに噴火した久重山系硫黄山の真下にあるマグマから高熱エネルギーを抽出して発電する「マグマ発電」の実用に向け,九州大学工学部資源工 学科の江原幸雄教授らのグループが本格的な研究に乗り出す.未知の資源・マグマ本体を発電に利用する世界初の試みで,実用化すればエネルギー資源問題や地 球環境保全に大きく貢献する.同グループは地下100メートルでのモデル実験を皮切りに,段階的実験でマグマに到達し,21世紀の実用プラント稼働を目指 している.

さらに,記事には次のような説明がある.

これまでの地熱発電は熱源と地下水が混合する地熱貯留層(200℃ー300℃)から噴出する蒸気でタービンを回して発電する仕組みだが,マグマ発電は固化したマグマやその周辺の高温岩体(500−600℃)を利用し, 水を循環させる熱交換器を通して,地熱発電より高温の蒸気を抽出するため,発電効率を飛躍的に高めることが可能になる.同時に火山活動の引き金になる熱エネルギーの蓄積を減少させて火山活動のサイクルを延ばすなど,噴火規模を制御する可能性も出てくる.

この記事から15年が経った今年3月,東北大震災が起こり,巨大津波によってチェルノブイリ事故に匹敵する原発事故が引き起こされてしまった.その結果,原子力発電の代わりに再生可能エネルギーをもっと利用すべきであったという反原発の主張が主流になっている. 再生可能エネルギーとしては太陽光や風力が注目されているが,地熱発電も有力な候補であることには違いない.地熱発電は石油危機の後,70年代に注目を集めたが,原子力発電の普及,化石燃料の下落のため,地熱発電所の建設は進まなかった.

上記の記事に掲載されている研究は,原発の代替というよりも化石燃料の枯渇や地球環境保全を意識したものであったと思われる.報道後15年の間にどのような位置付けがなされたのだろうか,うまくいったのかたいへん興味がある.発想はよかったが実際はうまくいかなったのだろうか.うまくいかなかった理由は何だろうか.

この種の報道の後日談を聞きたいものである.マスコミがトピックとして大々的に報道するには社会に訴える価値があると思ったからであろう,単に報道するばかりでなく,その報道内容がどうなっているか追跡し報道すべきである.そうしないと研究費獲得のためのマスコミ利用と思われかねない.一般の人はそこまでは思わないかも知れないが,学者の間では新聞報道に対して結構懐疑的な見方をするものである.

そう思いながら,地熱発電に関するWeb検索結果を見ていたら,今年8月31日の日本経済新聞に

「地熱エネルギーブームに乗り遅れる日本 九州大学の江原教授に聞く」

という記事があった.

注 日本地熱学会長を務めた江原幸雄・九州大学教授と記載されている.

記事には下記の内容が記載されている.

1)米国で開発されたEGS(Enhanced Geothermal System、強化地熱システム)と呼ばれる新技術への我が国の対応は今ひとつ.

注 EGSは石油採掘技術を応用した技術.地下の高温の岩盤に井戸を掘って水圧をかけて割れ目をつくり、そこに水を送り込んで人為的に高温蒸気を作り出す.(マサチュー セッツ工科大学(MIT)の研究グループの報告書)

2)地熱発電への国の支援が十分でなかった.

3)有望地点が国立公園内にあり景観保護の観点から開発が制限されている.また,温泉への影響を心配する観光業からの反対も大きい.

4)推進するためには,国会で法律ができた再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度では高価格の買取が必要.

15年前の大晦日に掲載された研究計画は,結果的にはうまくいかなかったようである.(2011/10/7)


ロボット技術

大地震と津波によって福島原子力発電所が破壊されて40日が経った.

4月19日夕方のNHKニュースでロボットが撮影した原子炉建屋内の映像が放映されていた.原子炉事故の場合人が近づくことができないため,東電も監督官庁も情報不足に陥っていることを国民が認識するのにかなりの時間が必要であった.「お手上げ状態」であることは,関係者の記者会見やニュース解説の「進展のなさ」で悟った人も多いと思う.また,「人が近づけないのならロボットを使えばよい」と考えた人もいるはずである.私もそのひとりであり,「ようやく実現したか」と期待してみていたら,米国のロボットが活躍しているということを知りびっくり仰天した.

我が国は,自動車組み立て等に見られるように産業用を含めロボット工学大国と確信していたが,原発事故の状況調査では外国製のロボットが活躍しているという予想外の展開である.

これまで見せられた数々のロボットは一体何だったのだろうか.四足歩行ロボット,人間と対話するロボット,介護ロボット,火災などで人が近づけない所へ障害物を乗り越えて接近するキャタピラロボット,これらは単なるデモ,企業の宣伝だったということだろうか.あるいは,よくある予算獲得のため取材させたテレビ出演だったのかもしれない.

世界でもトップレベルのロボット技術を持つ我が国で,スリーマイル島やチェルノブイリの原発事故を想定したロボット利用法の開発を怠ったために招いた初動の遅れや判断ミスは人災と言っても過言ではない.

燃料棒破壊による事故が簡単には解決できないことははっきりしている.今からでも遅くない.運転中の原子炉でもロボットを使った管理を試行してみてはいかがだろうか.(H23/4/20)


今年のノーベル化学賞

鈴木章,根岸英一,リチャード・ヘック博士がノーベル化学賞を受賞した

クロスカップリング反応の発見が授賞理由である.有機化学の究極の目標である炭素ー炭素結合を結びつけ,目的とする炭素骨格を作る手法の開発という点で非常に興味深い.

実際の反応では,ハロゲンが付いた炭素とホウ素置換基の付いた炭素を,パラジウム触媒を用いて結びつけ炭素ー炭素結合を作る反応である.点と多点のどこかではなく,希望する点と点を結びつける反応と言っても過言ではない.

マスコミは久しぶりの明るいニュースに過熱気味である.しかし内容が分からないためか取材記者の説明も今ひとつという感が強い.

Ar-X + R-BY2(Pd触媒,塩基)------> Ar--R

ノーベル化学賞は7人目であり,物理学賞と並んだ.

これで,我が国の科学技術は万全ということを言っている評論家が居るが,それは勘違いである.現在ノーベル賞を受賞している研究は30年前の仕事であり, ハングリー精神に満ちた時代に育った研究者によって達成されたものである.その後の我が国の科学教育は間違いを犯してしまった.その結果,理科離れ,ゆと り教育,医学部集中,予備校依存化などの問題が惹起し,子供達が得意とする分野をのばす雰囲気を奪ってしまった.最近10年のノーベル賞の実績を,今度十 年,二十年さらに続けるためにはすでに人材が不足していることは確実である.理科離れの結果として,層が厚くなった文系や医学系が取って代わるかはなはだ 疑問である.

薬学の分野においては,有機化学や合成化学は3Kの典型とみなす風潮が蔓延してしまった.卒論研究においても生物系研究室は人気があるが化学系は人気がなくなって久しい.これを機に,3Kを避けず敢えて挑戦してくれる若者が増えることを期待したい.

(平成22年10月7日)

高速増殖炉もんじゅ, 海水からウラン捕集その後?

2010年5月6日, 1991年から試運転を開始し, 1995年末のナトリウム漏れ事故で停止していた高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が午前10時36分,運転を再開した.

何が危険なのかよく質問される.

電気事業連合会の広報に,次の記載がある.

高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、 発電しながら消費した以上の燃料を生成できる原子炉です。 高速増殖炉の炉心の周辺は劣化ウランなどで囲み、 この劣化ウラン中のウラン 238がプルトニウム239に変わり燃料となります。 高速増殖炉は、 高速中性子をそのまま利用するもので減速材は使用しません。 冷却材には中性子を減速・吸収しにくいナトリウムを使用し、 原子炉で発生した熱で水を蒸気に変えタービンを回します。

これだけ読めば, 悪いことは何もない.

しかし, これまでにかかった費用は莫大であり, 停止していても費用が嵩み建造費, 修理費を含めると1兆数千億円を越えているそうである. 当初の計画通りに実現していたら, かなり前に商業運転を始めているはずである.

もんじゅの前に常陽という実験炉(熱出力140MW)が1970年着工, 77年臨界になったが, 2007年6月に炉内の機器損傷を起こし, 現在停止中である. 科学評論家によれば, もんじゅの計画が今後順調に行っても, 2050年頃になるとのことである. 一方, インドは2010年に商業運転を開始すると報道されている.

”資源のない我が国には必須”と言われれば, 素人は何も言えない. そこで思い出すのは, かなり前の朝日新聞の報道である. ある化学者が海水からウランを取り出す画期的な方法を考案したと書いてあった. 全国紙一面であったと記憶している. クラウンエーテルの金属包接能を利用した方法であるが, その後実用化されたか研究結果を知りたいものである.

[一言] 研究費獲得のための”大”大学特有の事前広報だったと聞かされたことがある. 新聞社も報道記事のbefore-afterに心掛けてもたいたい.

(平成22年5月6日)


スペースシャトルと単結晶

スペースシャトルがいよいよ引退するとのことである.

1981年にコロンビアが最初のひこうに成功して以来30年経った.

現在, 日本の女性飛行士が飛行中であるが, 1回の飛行に450億円かかるそうである.

薬学・化学との関連を考えてみた. 当初, 予算獲得の目的もあったためか, いろいろバラ色の研究提案がなされた. 医薬品開発関連で記憶に残っているのは, 宇宙空間に於ける蛋白質の単結晶作成である. タンパク質は, 高分子量で, また軟らかいため, 重力の影響で構造が歪み易くきれいな単結晶が得にくい. これを解決するために, 強磁場中や, 微小な重力環境での結晶作製が試みられている. 特に, 宇宙ステーションでは, 重力が無いため地上と異なり, 簡単に良質な結晶が作れるというものであった.

その成果が掲載されているホームページがある.

高品質タンパク質結晶生成プロジェクト クリック リンク切れのため以下を参照

プロジェクト紹介 | タンパク質結晶生成宇宙実験【研究者向け ...

フライトの度に成功率が高くなっているとコメントしている. 論文公表につながった数は, 第一回では3/36, 第五回では13/36である. 分解能は確かに高くなっているが, 地上でも解析できているのも事実である.

例1 1.7Å→1.28Å

(財)大阪バイオサイエンス研究所

睡眠およびアレルギー反応に関係するプロスタグランジンD2の合成酵素(造血器型)。宇宙で高品質結晶(地上1.7Å⇒宇宙1.28Å)が生成し、構造解析に貢献。

例2 1.08Å→0.88Å

JAXA/JSF/(株)丸和栄養食品

結晶化溶液にPEG8000を添加して粘性を高めることにより、宇宙で超高分解能(0.88Å)を示す結晶が得られた。SPring-8 BL12B2にてデータ取得。

超大国の米国ですら経費に頭が痛いようである. 得られるデータと費用との兼ね合いを考える時期と思うが, いかがなものであろうか.

[一言]スペースシャトル計画の歩みは, 事故等のため非常に遅くなってしまった. 30年の間に地上でもそれなりに良質の結晶が作れるようになった.