燃料電池自動車の水素は何処から?

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(究極のエコか?,炭酸ガス排出場所が水素製造現場に代わっただけの話?)

水素をエネルギーとする自動車がいよいよ販売されるとのことである.水素自動車には,既存のガソリンエンジンやディーゼルエンジンを改良して直接燃焼を行うものと,水素を燃料とする燃料電池により発電するものに大別することができる.

トヨタやホンダが販売するのは,後者の水素を燃料とする燃料電池車(FCV)である.

水素と空気中の酸素を化学反応させて発生する電気でモーターを回して走るため,運転中は水のみを排出し,二酸化炭素などを出さないことから,「究極のエコ カー」とも言われている.また,水素充填時間は,急速充電でも20-30分はかかる電気自動車(EV)に比べて,ガソリン車とほぼ同程度の約3分と短く,走行距離も800km以上を達成し,EVの200kmよりずっとすぐれている.

図はトヨタのホームページを利用(http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/environment/fcv/img/fcv_step1.jpg)

しかし,高価な上に,水素ステーションは大都市圏に限られるため,普及には時間がかかるものと思われる.

ところで,評論家やマスコミは電気自動車が販売される際も排出ガスが出ないことだけを強調していた.

その度に思ったのだが,充電のための電気はどこからもってくるのだろうか?

太陽光や風力発電等の再生可能エネルギーのみを電気自動車の充電用に充てるのなら分かるが,全発電量に占める割合はまだ微々たるものであり,発電量の大部分を占める火力発電所は炭酸ガスを排出しているわけである.現状では,本質的な解決にはなっていないと思うのは私だけだろうか.

今回の水素自動車の場合は,水素はどこから持ってくるのだろうか.

まさか,水の電気分解で作るようなことではないだろうと思い,気になって調べていたら,NHKのニュース(2014/10/24)が「洋上で水素製造プラント 実用化へ開発」(10/24)と報じていた.

結局,原油から水素を作るらしいことが分かった,以下はその概要である.

原油から水素を作る方法には,原料の炭化水素を分解する反応を利用する.

1)水蒸気を用いてガス化する水蒸気改質法 (軽質ガス,LPガス,天然ガス)

2)酸素を用いる部分酸化法 (重質ガス,石炭,天然ガス)

3)両方の反応を兼ねた自己熱改質法 (軽質ガス,LPガス,天然ガス)

の3種類に大別できる.

水蒸気改質反応

水蒸気改質法は,原料炭化水素を,800℃前後でニッケル系の触媒存在下,水蒸気と接触反応させて,水素を製造する方法である(次式).

プロセスは、原料脱硫、改質、精製の3工程からなる.

最初の脱硫工程では,硫黄分が以後の工程で使用る触媒に害(触媒毒)になるので除去される.

次に,ニッケル系触媒を充填した改質炉に,水蒸気と原料を送入し,800℃前後で改質反応させる.

反応生成物は、純度約70%の水素のほかに,一酸化炭素,二酸化炭素等が混在する.

水素純度を上げる ため,まず高温(350~400℃),次に低温(200~300℃)の2段の変成塔で一酸化炭素のシフト反応を起こさせる.

その際,一酸化炭素は二酸化炭素へ転化する.

次に二酸化炭素を除去する洗浄工程が続き,最終工程では,残存する二酸化炭素や一酸化炭素をメタンに転化(メタネーション)して,純度95~97%程度の水素を得る.注)一酸化炭素や二酸化炭素を効率的にメタン化するための触媒の開発が急がれている.

部分酸化反応

重質油のガス化は,次式で示すように原料の炭化水素を部分酸化反応させることにより,一酸化炭素と水素からなる合成ガスに転換する.

この反応は発熱反応であり,大量の熱が発生する.

重質油ガス化プロセスの場合,原料の重質油は酸素(空気分離装置で製造された)とともにガス化炉へ送られて,無触媒で1200~1500℃の条件でガス化される.反応生成物は高温となるので熱をスチームとして回収する.合成ガス中には炭素が含ま れているので,水洗除去した後,精製装置によって不純物(硫黄分や窒素分など)を除去し,精製合成ガスを得る.

有機反応とはいえ,薬学で学ぶ有機合成反応とはかなり趣の異なる気体分子の高温,高圧,触媒反応の世界である.

水素は別の方法(木材から水素生産(産総研),バイオによる水素生産等)でも作ることができるが,大量生産するには上記の方法に頼らざるをえない.炭酸ガスをメタンへ変換する効率的な方法が確立すれば問題はないが,現状では,炭酸ガスの出る場所がクルマから水素製造工場へ代わっただけと言っても過言ではない.

ドイツでは,風力発電の電力から電気分解で水素を製造するプロジェクトが進行している.また,再生可能エネルギー由来の水素とCO2からメタンを合成し,自動車に活用しようという試みも始まっている.一方,我が国では,宇宙航空研究開発機構(JAXA)と富山大学の共同研究により火力発電所や工場から出るCO2をレアメタル触媒(ルテニウム)を用いて従来より低温(400℃→150℃)でメタンに効率よく変える技術が開発され,数年後に実用化する予定と言われている.

引用資料

JX日鉱日石エネルギーホームページ

(2014.11.10)