今年のノーベル化学賞

鈴木章,根岸英一,リチャード・ヘック博士がノーベル化学賞を受賞した

クロスカップリング反応の発見が授賞理由である.有機化学の究極の目標である炭素ー炭素結合を結びつけ,目的とする炭素骨格を作る手法の開発という点で非常に興味深い.

実際の反応では,ハロゲンが付いた炭素とホウ素置換基の付いた炭素を,パラジウム触媒を用いて結びつけ炭素ー炭素結合を作る反応である.点と多点のどこかではなく,希望する点と点を結びつける反応と言っても過言ではない.

マスコミは久しぶりの明るいニュースに過熱気味である.しかし内容が分からないためか取材記者の説明も今ひとつという感が強い.

Ar-X + R-BY2(Pd触媒,塩基)------> Ar--R

ノーベル化学賞は7人目であり,物理学賞と並んだ.

これで,我が国の科学技術は万全ということを言っている評論家が居るが,それは勘違いである.現在ノーベル賞を受賞している研究は30年前の仕事であり, ハングリー精神に満ちた時代に育った研究者によって達成されたものである.その後の我が国の科学教育は間違いを犯してしまった.その結果,理科離れ,ゆと り教育,医学部集中,予備校依存化などの問題が惹起し,子供達が得意とする分野をのばす雰囲気を奪ってしまった.最近10年のノーベル賞の実績を,今度十 年,二十年さらに続けるためにはすでに人材が不足していることは確実である.理科離れの結果として,層が厚くなった文系や医学系が取って代わるかはなはだ 疑問である.

薬学の分野においては,有機化学や合成化学は3Kの典型とみなす風潮が蔓延してしまった.卒論研究においても生物系研究室は人気があるが化学系は人気がなくなって久しい.これを機に,3Kを避けず敢えて挑戦してくれる若者が増えることを期待したい.

(平成22年10月7日)