ヒートポンプは遡ってノーベル賞

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熊本の今年1月の最低気温は,氷点下の日が1/3,2℃以下の日は2/3,平均は1.1℃であった.30年間の平均は1.2℃,博多は2.3℃,東京は2.5℃,京都は1.2℃であり,盆地の京都なみである.この程度ならエアコンが暖房に向いていると思うのだが,家庭用暖房装置などなかった時代に育った高齢者は電気代節約のため我慢している人が多い.

そのようなことを知人と話していると,外は氷点下なのに,なぜエアコンで暖房できるのか訊かれた.

ヒートポンプの原理について説明する前に,摂氏零度は絶対温度では273度であり,絶対零度(熱力学的に最低のエネルギー状態)ではなく,熱エネルギーはたっぷり存在することを理解してもらうのに苦労した.

いろいろ説明しているうちに,「遡ってノーベル賞」があれば,ヒートポンプを発明した人に与えるべきと思った.

ヒートポンプは,エアコンだけでなく,冷蔵庫,冷凍庫などで使われている.熱媒体の気化熱および凝縮熱を用いて周辺環境(空気,水,土,岩)との間で熱のやり取りを行う. その原理や技術は,過去のものと思っていたが,改めて調べてみると,技術的進歩が続いていることを改めて知った.冷媒が変わっただけではなく,関連する技術が大幅に進歩している.

「10年前のエアコンは買い換えたほうがよい」とか「電気代がひと頃の1/2ですむ」とよく言われるが,拡販のための宣伝文句であり,誇大広告と思っている人も多いようだ.

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エアコンのエネルギー消費効率は,COP (Coefficient Of Performance)と略称され次式で表される.

COP = 能力[kw] ÷ 消費電力[kw]

投入した電力の何倍の能力があるかを意味している.

我家の場合,6台のエアコンを設置している(薬局開局時の1台を含む).6 台のうち,よく使う3台は故障したため,修理を依頼したが,買い換えた方が得と言われ業者の言うとおりにした.現在は,年金生活の身であるから,夫婦で 別々の部屋でエアコンを使用することはほとんどない.古いものは20年近く使っていることになる.この機に「エネルギー消費効率」をリストアップしてみ た.我家の6畳和室に設置しているシャープのエアコンは暖房で3.0KWの能力を発揮させるためには570Wの電力ですむので,COPは3000/570=5.26となる.フルパワーで5.0KWの出力を発揮している時にも1200Wで済むことことを意味している.さらに設定温度に到達したらインバーターで電力を絞って1/10程度で運転を継続する.もっとも古い物の約1/2の電気代で済んでいることになる.もっとも古いものでも消費電力の3倍程度の出力が得られることになり,電気ストーブでは絶対に実現不可能である.

エアコンの効率度

エアコンのヒートポンプは低温の外気から熱を汲み取り高温側の室内へ移動させる技術である.しかし低温ではCOPが低下するので,電熱器を併用しなければならないと言われていたが,−15℃でも使用できる寒冷地仕様のエアコンが開発されている.

社団法人発明協会が選ぶ「平成22年度の全国発明表彰 受賞者一覧」の中で,最高位の恩賜発明賞は,デンソーの榊原久介氏らデンソー,東 京電力,電力中央研究所の発明者計7名の「CO2ヒートポンプ式給湯システムの発明」(特許第3227651号)と書かれている.最近,省エネ電化住宅やリフォーム等でよく耳にするエコキュートの基本的な技術に関するものである.

正直言って,これまでこの分野(強電)の発明に強い興味を持ったことはなかった.調べてみると,ヒートポンプにCO2冷媒を使用する画期的な発明であることが判った.日本独自の世界に誇れる技術と言われている.

近代的空調設備を発明したのは,世界的空調会社キャリア社を設立したウィリス・キャリア (Willis Carrier)である.彼はノーベル賞は与えられていないが, アメリカ発明者栄誉殿堂入りをしている.冷媒にフロンを使用する時代が続き,漏れた冷媒がオゾン層を破壊したり,夏場にはヒートアイランド現象の原因となるなど,エアコンそのものがが悪者扱いされている面も否定できない.

しかし,もし遡ってノーベル賞を与えるとしたら,人類の多くに「快適」を与えたヒートポンプの発明は当然該当するだろう.

ヒートポンプに関する技術革新は,決して「無から有を生み出す」わけではない.車の技術革新として話題になっているハイブリッド車の燃費効率を考えるとわかりやすい.1リッターで10数キロメーターを走る車をハイブリッド車に買い換えたら20数キロメーター以上走ることによるガソリン代低減の実感と似ている.