偽物か、本物か?

先日、ベトナム取材に行って、帰ってきた特派員のKくんと会う機会があり、ベトナムについてのお話を色々と聞いて参りました。

そのなかで、やはり歴研の部員らしいというか、それとも彼の趣味経験の賜物かと言うような、面白いお話を聞いたので、皆様にもお伝えしようと思います。(Kくんからの承諾は得ています)

これは取材三日目の記事にも書かれている、ミリタリー用品がたくさん売られているヤンシン市場にKくんが訪問した時のお話で、彼が市場の店で古い軍服や装備品を探していた時の話です。

ヤンシン市場には少数のベトナム戦争時代の実物軍用品が売られていることで知られていますが、彼はあまり実物には興味はなく、むしろ安価で買える模造品を探していたそうです。

店に売られているのはもちろん模造品が多かったようなのですが、その中でも質の悪いレプリカというものが存在するようで、Kくんに言わせれば「生地感や裁断の形が全く違う、少しエイジングをして本物に見せかけようとしている素人向けのレプリカ」といったようなものが溢れていたようです。実物に興味がないKくんでしたが、そういった模造品があふれる様子を見て、「ここに本当に実物が売られているのか」と思い、試しに店の一角に掛けられていた、本物らしい軍服を手に取り、店主に「これはいくらするのか」と聞いてみたそうです。すると、

「安いものがほしいなら、それはやめといたほうがいいぞ。そいつは正真正銘の本物で、ものすごく高いんだからな」

という返答が返ってきたというのです。

つまり、店主の返答が正しく、もしその軍服が当時の本物ならば、一発で実物を引き当てたということになります。Kくんは、「じゃあ別のにしよう」と、その隣にかかっていた、それらしい服を手にとっても、また同じ返事が返ってきたそうです。


この嘘のような話に半信半疑だった私は、Kくんに実物を引き当てる方法を聞いてみると、

「まず状態や全体の形を確認し、使い込まれている感じがしたら生地に触れ、生地感を確かめる。生地感が実物と同じだったら、内部のタグを見て、ナンバー(納入時の番号)を確認し、その形の服がその年代に存在したかを確認する」

という、至極面倒な方法を使うようにアドバイスされました。ただ、同時にKくんは、

「店員が言う話は、半信半疑で聞くべき。店員によっては、堂々と服の名前や装備の使い方、年代を間違えている人もいる。もしかしたら、本物と騙して偽物を高く売りつけようとしている可能性も否定できない。だから、自分が発見したらしい”実物”は、本物かどうかを判断できない」

とも話していて、なんだか彼には訓練された趣味人というワードがぴったりはまるな、という気持ちになりました。(なおKくん本人は「どう考えても半人前」と否定)

ちなみに、実物を引き当てていたKくんですが、結局のところ、実物は買わず、家族で営業していたミリタリーショップで売られていた「良質な」模造品の軍服を購入したそうです。

最終的にKくんが購入した、ジャングルファティーグ1stモデルの「良質な」模造品。細かな部分に実物や精巧模造品との違いはあるが、「設定をつければ許容範囲内」だという。なお、ワッペン類は基本的にKくんがつけ直したもの

ヤンシン市場関連では、もう一つ面白い話がありました。

Kくんごとく、ベトナムのお土産として有名なものに、ベトナム戦争中に米兵たちが、思い思いの絵や言葉をライターに刻印したベトナムジッポーというものがあるそうで、

ベトナムジッポー。これは安い偽物だという

Kくんは話の種にと、それを探して市場を歩き、とあるお店に入ったそうです。そのお店では、いかにも歴戦の商人らしき男性が店番をしており、彼はKくんを見ておもむろに立ち上がると、「いいものを見せる」と言って、いくつかのライターを手にしてKくんの前に立ったそうです。

「いいことを教えよう」と言って、店主は磁石を取り出すと、ライターに磁石を当て、「磁石がくっつくと、安い金属でできた偽物。磁石が付かないと、本物だ」と言って、本物と偽物の判別方法が載せられた英語の本を取り出したと言います。もちろん、Kくんもそれなりに予習はしていたそうで、底の刻印や字の太さなどから真贋を判別できるとは当然知っていたようですが、流石に磁石での判別は知らなかったと言います。事実、店主が偽物だと言ったライターの中身を見ると、それはたしかに偽物で、中身はジッポーではなく、台湾製のライターだったそうです。


「あの店主が言っていたことが、本当かどうかはわからない。もしかしたら、本物だというのも、それらしく凝った作りにした偽物かもしれない。だが、たしかに偽物は偽物だった」と、Kくんは語りました。



執筆:S.N(新5年)