「カーキ」?「グリーン」?
皆様、こんにちは。部長からの強い要望によりまたまたこのコーナーを書くことになった溝口です。
突然ですが、皆さんはこの色をなんと呼んでいますか?
この色です、この色
多分多くの人は、この色は「緑色」だと答えておられると思います。しかし同時に、いくらかの方、特にファッション好きな方はこう答えたのではありませんか?
「この色、カーキやん」
「カーキ」…まあ、そういう呼び方もあるかもしれません。実際、ファション業界などでは緑系のいくつかの色を「カーキ」と呼ぶと聞きます。では、こちらの色は?
「ライトブラウン」、「黄土色」、「ベージュ」など、様々な呼び方が生まれるかと思います。でも、この色も「カーキ」と呼ばれることがあります。どっちなんだい(混乱)
どちらも「カーキ」という名称で呼ばれることが多い二色ですが、一応「カーキ」という色にはしっかりとした定義が存在します。
定義上の「カーキ」
「カーキ」という元々の色は、緑系統の色ではありません。カーキとは、本来ヒンディー語の「土埃色」という意味の言葉であり、色としてはいわゆるベージュやライトブラウンに近い色となっています。わかりやすく言うと、大戦末期の日本兵の軍服の色です。(正確には国防色だったりしますが)
もっとわかりやすく、特に「トップガン・マーヴェリック」を見られた方が理解しやすいように言うと、
「トップガン・マーヴェリック」
(制作:パラマウント・ピクチャーズ 監督:ジョセフ・コシンスキー 2022年)
劇中より
上の写真で皆さんが着用している軍服の色が本来の「カーキ」に近いです。実際に、この軍服の名前が「サービスカーキ」ですからね。
「カーキ」という色がもともとは茶系統の色であることは判明しましたが、ではなぜ、緑系統の色もカーキと呼ばれるようになったのでしょうか?また、現在カーキと呼ばれる緑系統の色は、本来はどういった名前なのでしょうか?
「オリーブ」
現在、「カーキ」と呼ばれる緑色の多くは、「オリーブドラブ(OD)」や「オリーブグリーン(OG)」と呼ばれる色が大半です。「オリーブドラブ」も「オリーブグリーン」も、元はアメリカ軍の軍服や車両などの塗装に使われていた色を指します。
1972年製のOG-107色ユーティリティーシャツ (歴研部員所蔵)
1987年製の右と同色のユーティリティシャツ (歴研部員所蔵)
「オリーブドラブ」色は第二次大戦時に米軍で広く使われた緑色で、「オリーブグリーン」色は、第二次大戦後に広く使われた緑色です。本当ならオリーブドラブにもシェード#3やシェード#7などの種類があり、オリーブグリーンにも同様にOG-107などの種類が存在するのですが、細かいので割愛します。とにかく、どちらも米軍に使われた緑色であるということを抑えていただければOKです。
なぜ、混同されるのか?
なぜ、これらのカーキとは似ても似つかない緑色がカーキと誤認されているのか?それは、軍服が「戦闘服」からファッションアイテムに変わったことが大きな原因とされています。
「放出品」という言葉をご存知でしょうか?「放出品」とは、軍隊などで使わなかった・使われなくなったために民間に払い下げられた物資や軍服を指し、それらの多くは古着や中古品として、民間に「放出」されます。放出品は古着や中古品として民間人に売られ、それが「ファッションアイテム」としての性質を持つようになったことが、カーキとオリーブの混同の大きな原因の一つです。
カーキとオリーブは、どちらも「軍服の色」でした。もちろん、色は明確に違いますし、軍隊の規定でも違う色として規定されていますが、民間人にそんなことは関係ありませんし、そもそもわかりません。
ウッドランド迷彩
ERDL迷彩
一見同じ色・パターンに見えるこいつらを素人が区別しろというのは不可能です。専門家でも、迷彩パターンを間違えることはありますし、退色が進んでいればなおさらです。そもそも、興味がなく、軍服を単にファッションアイテムとして扱うのならば、「この軍服は何色なのか?」などと調べることもありませんし、必要もありません。さらに、そもそもカーキという色は歴史が古く、英語では「Get into khakis」で「軍隊に入る」という意味を持つほど軍服として浸透している色でした。だからこそ、カーキとオリーブは、「軍服の色」としてひとくくりにされてしまい、どちらの色も「カーキ」と言う名前で浸透してしまったのです。
「カーキ」の浸透
オリーブとカーキの二色を指す「カーキ」が広まったことにより、ファッションの世界では、カーキはいわゆるアースカラーの代表格として、広く服飾に使われるようになりました。一方で、「カーキ」という言葉が内包する色が多いため、ジャストな色を見つけられない、本来のカーキ色を検索したいのに、オリーブの「カーキ」ばかり出てきてしまう、というような弊害も生まれました。
おわりに
今回は、部長の肝いりで、少し珍しい「色」の記事を執筆させていただきました。なにせ部長がミリタリーマニアで、この二色の混同を嘆いていたこと、私も小学生の頃に同級生とオリーブドラブの上着の色について激論を繰り広げた経験があったので、いつもよりもさくさくと筆を動かすことができました。
皆様も、これを機会に、一度自分の持っておられる服や物の色について、考えてみてはいかがでしょうか?
それでは、今回はここでお別れとなります。これからも、「歴史小ネタ帳」をよろしくお願いいたします。