戦時通信

はい、みなさんこんにちは。これで3ヶ月連載になる溝口です。時間って早いですね(悟り)。


今回のテーマは「コードトーカー」について。コードトーカーについて知るためには、まず戦時下の通信について知る必要性があります。

近代はどの国も通信に電話やインターネットを使うと思います。これがちょっと古くなるとモールス信号やラジオ通信などになって、更に古くなると狼煙や伝書鳩になります。今回紹介するのはちょっと古い時代です。


さて、本題に入りますが、戦時中、軍隊の行動は普通秘匿されます。敵軍に先回りされたりしたら困りますからね。で、たいていそういう行動指令を出すのは大本営などの司令部であって、たいていはその国の首都などから発信されます。

さて、そういう時、地方にいる軍隊にどうやって指令を出すのでしょう。もちろん首都の将軍とかが「〇〇部隊は突撃して敵倒してこい!」とか叫んでももちろん遠くの軍隊には聞こえませんし、手紙も遅すぎます。そこで使われるのが無線です。少し古い時代、というより1940、30年代はたいていどこの軍隊も無線で連絡取り合ってました。

で、無線を使うのは良いんですが、少しここで問題が発生します。「無線使ったら電波キャッチされるんじゃね?」という問題です。もちろん電波ですから傍受しようと思えばされますし、傍受されたら作戦が筒抜けです。そこで使用されるのが「暗号」です。英語だとCipher(サイファー。某MGSVの敵じゃないやつ)などと呼ばれるやつですね。

さて、本題に戻りましょう。暗号を通信に使うと、確かに敵には解読しにくくなります。ですが「勝ったッ!戦争完!」とはなりません。ここでも新たな問題が発生します。暗号が複雑で解読されにくいのはいいことなんですが、それは味方にも同じこと。暗号を複雑化しすぎると解読まで時間がかかってしまい、軍事行動に支障をきたしてしまいます。「夜に行う作戦が、暗号解読に時間かけすぎて昼になってた」というのは困りますからね。結局暗号は「解読されにくく、かつ味方に解りやすいもの」が最高なんです。そこで、今回の主題となるコードトーカーが現れるのです。


コードトーカー

”コードトーカー”とは、米軍が採用した無線要員のことです。当然ながら声帯虫の研究なんかしてませんし、光合成もしません。ハンバーガー大好きかどうかは個人によります。

コードトーカーは、おもに第二次大戦の太平洋戦線、つまり日米の戦いに投入されました。コードトーカーはどんな人々なのかというと、ネイティブアメリカン部族の出身の通信兵の人々です。ネイティブアメリカンはもともと英語を喋っていたわけではなく、部族ごとに独自の言語を喋っていました。この部族語は話者が少なく、また習得が難しいため、専門家が少なく、敵に傍受されても解読される可能性が低いという理由で米軍は目をつけたのです。

コードトーカーのアイデアはもともと第一次大戦頃にはあり、実際にいくつかの部族の出身者がコードトーカーとして従事していました。しかし、この部族語には近代戦争で使用されるような用語はほぼなく、この点が最大の障害となっていました。

そして時は流れ、第二次大戦。コードトーカーが一気に有名となる出来事が起こりました。真珠湾攻撃などによる米国対日参戦です。この時動員されたコードトーカーはナバホ族出身の人々が多かったようです。ちなみにコードトーカーの中にはナバホ族の長老もいたらしく、「戦場で見た日本兵たちの見た目が自分たちと似ていて恐怖を感じた。(一部略)」というコメントを残しています。。米軍は第一次大戦の教訓をもとに、「英単語をそれと同じ文字で始まる別の英単語に置き換え、さらにそれをナバホ語に翻訳するといった置換暗号を作成し、英語で表現できる単語は何でも訳すことができるようにし、特別な意味を持たせたナバホ語や暗号書を使うことにより、交信をさらに暗号化する」というとんでもなく面倒な教育をしてコードトーカーに施しました。訓練期間たったの8週間()。フルメタルジャケットかな?(すっとぼけ)これで全部丸暗記しろってことらしいです(筆者には無理です)。ただそんな七面倒なことをしたおかげで解読されにくさは抜群で、より安全な通信ができるようになりました。

ですが時は戦争中、もしコードトーカーが敵に捕まって暗号の情報を教えたりしてしまえば、もちろん通信内容はダダ漏れ、その暗号も意味を成しません(そういえば日本にも同じような事態があったような)。また、ナバホ族の人々は見かけが日本人に似ていたので、「米兵に変装した日本兵(便衣兵)」と勘違いされて味方に殺されてしまう心配もありました。そこで、コードトーカーには必ず護衛がつけられました。護衛は上記のような事態を回避するだけでなく、もしコードトーカーが捕まってしまう状況になった場合、コードトーカーを殺害して秘密を守るという任務も課せられていました。たしかこの話は映画にもなっていたはずなので、みなさんもお時間があればぜひ(ナチュラルな宣伝)。

戦後しばらく、コードトーカーの多くは優れた働きの割にアメリカ社会で注目されることはありませんでした。しかし2001年、ブッシュ大統領がコードトーカーに議会名誉黄金勲章(アメリカの文民に与えられる最高位の賞)を授与するなど、年月を経て見方が変化してきているようです。


類似の暗号

さて、ここまでアメリカの暗号を解読できずに悔しがってる日本。では日本では類似の暗号が存在しなかったかというと、実はそんなことはありません。もっとも暗号というよりかは敵のわからない言語を使った感じですが…

1943年、技術提供の一環としてドイツから一隻の潜水艦が日本にもたらされます。伊50…ではなくU−511、日本名呂号第五百潜水艦が日本にもたらされました。この潜水艦のおかげで帝国海軍は大勝利…とはなりませんでした。実際は呂号第五百潜水艦、略して呂−500はあまり実戦には出撃せず、もっぱら訓練目標として出撃していたようです。ちなみにこの潜水艦、除籍1945年11月30日、撃沈処分1946年4月30日。ここでも帝国海軍3の不運(帝国海軍の潜水艦乗りには3という数字は忌み数と言われていた。)がつきまとって…いるのか?

本題に戻ると、いつしかこの潜水艦が出港するときに使われた暗号、まさかの「早口の薩摩方言」。この時は暗号化もせず堂々と国際電話を使っていたので簡単に傍受されるも、米軍にはこの分野、というより薩摩弁に対応した要員がおらず大苦戦。最終的に薩摩弁のわかる日系人によって解読されたようです。うんまぁ、筆者もライト長崎弁リスナーだが日本の方言は分かりづらいの多くt…わかりますよ米軍さん。 

さすがにこんな方言をフル活用した通信をしたのは日本だけですが、コードトーカーの類似システムは各国にあったようです。


現代のコードトーカー

現代のコードトーカーという題ですが、現在米軍はコードトーカーを採用していません。ただ軍事通信の重要性は依然変わらず、むしろインターネット通信などの発達により現代の軍隊における暗号、および通信技術の重要性はさらに高まっています。そのため、現代では多くの軍隊でサイバー、通信を専門とする部隊が創設されています。現代の軍事通信の多くは軍事インターネットで行われ、そこはいま我々の使っているインターネットよりもさらに高度なセキュリティで守られています。しかし、自国のインターネットが進歩すると同時に、敵のインターネットも進歩しています。そのため軍事インターネットの強化、および敵のインターネットへの侵入などの諜報合戦に終わりはありません。かつてのコードトーカーたちは、サイバー部隊へと姿を変えて現代を生きているとも言えるでしょう。


まとめ

今回はコードトーカーについて、ということでした。色々難しい内容が出てきたと思いますが、簡単にまとめると「暗号で電話する人」のことですね。まぁ、軽いノリで行けば仲間内でしかわからない略称を使う子供みたいなものです()。ちなみに本題から外れますが、暗号を作る機械を「暗号機」と呼び、ドイツのエニグマなどが該当します。え?ファイルにするスタンド?違うお前じゃない()。

このエニグマ、連合国軍にかなり早期に解読されるんですけどもドイツ軍はその事実を知らずに終戦まで使い続け、「ドイツ軍の指揮官が自分達への命令を確認するため、イギリスに問い合わせた」っていうジョークが生まれたらしいです。ちなみにさっき記述した大日本帝国海軍もエニグマを使ってたので仲良く共倒れです()。陸軍は独自の暗号を使ってたのであまり解読されることがなかったとか(ここでも陸海軍の仲の悪さが現れているじゃないか…)。

今回、軍事史上結構大事な暗号について話したつもりですが、やっぱり興味ない人が多いんじゃないでしょうか。実は筆者もあまり暗号に興味なかったのです。ですがまぁ、前回でも書いたとおり話の小ネタ程度に捉えて使ってもらうのが一番かなと考えています。


あとがき

今回はコードトーカーということで、なんだかMGSVネタが多かった気が…()。ま、まぁでもあのシリーズは普通に名作ですし、筆者も結構学ばせてもらってます。おかげでアフガニスタンとかに詳しくなりました()。実は歴史に興味持ったきっかけのひとつにメタルギアシリーズがありますし。ですからまぁ、一度動画を見るなりプレイするなりしてみても良いんじゃないでしょうか。人生において大切なことを教えてくれるのは実は教科書ではなくマンガやゲームなど教育現場で使われないものが多いですし。ん、誰だこんな夜中n…らりるれろ!らりるれろ!らりるれろ!(洗脳済み)

そういえばメタルギアソリッドの実写化決定したらしいですね(宣伝)。

ところで11月から始まったこの企画、軍歌だったり戦時中のタバコだったり結構軍事史や戦中史が多いんですが、みなさんどんな感じなんでしょうか。筆者の知識がその時代に特化してるので必然的にこうなってしまうのですが、なにか皆さんこんなのあるよ!とかこんなのが知りたい!というのがあったらアンケートに書いてみてください。可能であれば取り上げます。ちなみに筆者的には最初よりだいぶはっちゃけてきたなと思ってます。(自己批判)


そういえばそろそろ入試が近づいて来ましたね。帰国生入試はもう終わったのもあるかもしれません。とにかくこの学校を目指すみなさんも、そうでない受験生のみなさんも、自分の力を最大限発揮してください。


以上、トリビアコーナー三連勤の溝口(リアルネーム )でした!


筆者:2年・溝口(ペンネーム)