「アナザー・サン」脚本・原作者情報

作品概要

国か、自分か?復讐か、友情か?新人作家、三矢佳一が描く、国籍も言語も違う、決して相まみえることのない二人の友情を描き出す、新感覚歴史演劇!時代に翻弄された彼らの運命は?!


題名:アナザー・サン

総監督:三矢佳一

原作:「アナザー・サン」(三矢佳一)

ストーリー

1969年、南ベトナムのとある都市。果物屋を営む16歳の少年、ホアンには、ある友人がいた。友人の名前は、イーサン。彼は街に駐屯する米軍空挺師団の軍曹だった。資本主義と社会主義が泥沼の戦いを続ける中、実った儚い友情は、ホアンの抱えるある秘密と、戦争によって崩れてゆく―

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キャスト

原作者情報

原作者名:三矢佳一(みつやけいいち)

主な著作:アナザー・サン、フォーチュネイト・サン(出版なし)

作者概要:幼少期から「自ら物語を作る」ことに興味を示し、テレビアニメなどの二次創作を行う。中学校入学後、友人や映画、演劇などに感化されたことにより自ら創作活動を行うようになり、現在に至る。受賞などの経験はない。

原作者からのメッセージ①

(2022年度開橋祭時に寄稿されたもの)

皆様、こんにちは。本日は、ご観劇いただき誠にありがとうございました。「アナザー・サン」は、お楽しみいただけたでしょうか?

ベトナム戦争を舞台とし、友情のあり方と平和への願いという重いテーマを持った本作を、つまらないと感じられた方も多いと思いますが、それでも本作の伝えたいことを理解しようとしてくだされば幸いです。

突然ですが、皆さんは、「ミス・サイゴン」というミュージカルをご存知でしょうか。ベトナム戦争末期の、アメリカ軍人とベトナム人女性の愛を描いたこの作品は、ジャコモ・プッチーニのオペラ「蝶々夫人」を原作として、世界各国で何度も上演され続ける大人気作品です。そして、私が「アナザー・サン」を執筆するにあたって、感情と戦争の間というテーマで、大きな影響を受けた作品でもあります。

人間は、どこかで感情によって自分の行動を決定されるのを嫌い、理性によって自分をコントロールするのを望む節があります。だからこそ、感情に任せて物事を判断したりする人のことを「子供っぽい」などと言って見下すことが多いのです。ですが、理性に全てを任せて物事を判断するのは、本当に「人間らしい」のでしょうか?

友人を心配させまいと軍の機密を漏らしてしまったイーサン、追い詰められ、友達を殺すという決断をしたものの、最後には感情に任せて上官を撃ってしまったホアン、家族を殺された恨みで復讐に狂い、政治的な思想を神の言葉のように崇めるクオン…本作には、感情に任せて物事を決断する、世間一般的に言えば「大人気ない、子供っぽい」キャラクターが多く登場します。

理性的に振る舞うことが人間らしいのか?それとも、人間にしかない感情を使い、感情の赴くままに行動を決定することが人間らしいのか?そんなことを考えながら、本作を観劇していただけると幸いです。

繰り返しになりますが、本日は「アナザー・サン」をご観劇いただき、誠にありがとうございました。


あなたが、人間らしくありますように―2022年10月4日 三矢 佳一


(開橋祭時に寄稿されたもの)

原作者からのメッセージ②

(歴史研究同好会で観劇したお客様のために執筆されたもの)

【“アナザー・サン” なぜ今、戦争演劇なのか?】


 拙作「アナザー・サン」をご観劇いただいた方や、概要をお聞きくださった方の中には、こんな考えを持たれる方もいらっしゃったでしょう。

「なぜいま、戦争を舞台にした演劇をするのか?不謹慎ではないか?」

現代、ウクライナやシリアなど、世界中の様々な場所で戦争や内戦が起き、沢山の方々がその犠牲となっています。そんな情勢下で、戦争を舞台にした演劇を行い、それを発表するのか、という思いを抱かれる方も当然、いらっしゃると思います。

 戦争が起きて、悲しんだり傷ついたりする人がいるから、戦争に関することを扱ったものを作らないようにしよう。そういった考え方のもとに物を作ったりすることは、確かに正しいやり方です。しかし、私は同時にこうも思うのです

「”臭いものには蓋”のやり方で、人々は戦争の恐ろしさを忘れないか?」

悲しむ人がいるから、残酷だから、戦争に関するものを作らないし見せない、というやり方を続けていけば、そのうち人々から戦争の恐ろしさ、悲しさ、残酷さを理解する力が失われて行きます。戦争の恐ろしさを忘れる、ということは、そこで苦しみ、悲しみ、傷ついた人々がいたことも忘れる、ということなのです。戦争の恐ろしさを人々が忘れた時、世界がどうなるかは歴史が証明しています。戦争に関する作品を作る、ということは、戦争とその恐ろしさを忘れず、同じ過ちを侵さないよう、後世まで語り継いでゆく、ということなのです。

 「アナザー・サン」は、決して戦争賛美の物語でも、武器を持った「正義」の超人的な主人公が敵をなぎ倒してゆくアクションムービーでもありません。本作がただ訴えるのは、「国境を超えた友情」と、「平和への願い」なのです。

 プロ、アマチュアの区切り無く、我々のような文章を書く人間に与えられた使命は、「後世に歴史を残す」ことだと、私は思っています。我々が文章を書き、どんな形でも歴史、その時代の人々の営みを後世に残す。それが、今を生きる我々に与えられた仕事なのです。


2022年10月4日 「アナザー・サン」原作者 三矢佳一

原作者からのメッセージ③

(「アナザー・サン」初公開時に寄稿されたもの)

【”アナザー・サン”を作るために】

 「アナザー・サン」は、当たり前ですが原作者の頭の中で構想が行われ、世に生み出されました。その過程で、数多くの名作たちが、「アナザー・サン」をより良い物語にするために、アイデアを貸してくれました。

 例えば、本作の源流は、私が私的に執筆した「フォーチュネイト・サン」という作品です。拙作という言葉がふさわしいほどの出来で、これを文学賞に出そうとした過去の自分を殴り飛ばしたいほどの作品ですが、私の書いた中でもかなり思い入れのある作品で、「この作品を現実に!」という思いで脚本の執筆が開始されたのは、この「アナザー・サン」です。

 本作のテーマのいくつかは、長年人々から愛される名作から得ています。例えば、何度も私が名前を上げているミュージカル「ミス・サイゴン」からは、ベトナム人とアメリカ軍人との深い関係というテーマを得て、同じくベトナム戦争を舞台にした映画「グッドモーニング、ベトナム」からは、アメリカ軍人の友人がベトコンの一員という要素の着想を得ました。その他にも、ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズからは、反戦・反核のメッセージを、映画「ハンバーガー・ヒル」からは、「ハンバーガー・ヒル」の戦いに派遣される米兵、という設定の着想を得ました。

 このように、数々の作品からヒントを得て作られた、ある意味ごった煮のような「アナザー・サン」には、実は何からも着想を得ずに一から考え出されたテーマもあります。作品全体に流れる、強烈な反戦の香りに隠されて影が薄いようですが、「少年から青年へ」というテーマも、うっすらとですが存在します。

主人公、ホアンの年齢を16歳に設定したのは、たんにこの学校の生徒と年が近いから、演者の邪神カネゴンさんが今年で16歳だから、というわけではありません。私は、彼の年齢を設定する上で、ホアンは「青年と少年の中間」の年齢にしようと思ったのです。16歳という年齢は、少年とも言えるし、青年とも言えなくもない微妙な年齢です。16歳の彼は、大人の支配から抜けて独り立ちしようと思えばできますし、大人の指示のままに生きることもできます。そんな瀬戸際の年齢だからこそ、「今まで大人の言いなりだった少年が、自分で決断を下して青年になる」という行為が映えるのだと思い、ホアンは16歳になったのです。

 国語の先生がよく言うように、「小説のすべての表現には意味がある」というわけではありませんが、本作にも少しは、意味のあるシーンや表現はあります。そういったシーンを探しつつ、数々の名作たちの要素を見つけてみるのも、本作の楽しみ方の一つだと思います。ぜひとも、そういった見方をして、本作をご鑑賞いただけると幸いです。