[台本]チグハグ環状の神様
世界設定、場面情景
今日も明日も昨日もバラバラに繋がり繰り返ししまう世界。
その世界を形成するのは1人の女性だった。
これは九つの砕かれた物語の断片の一つ。一つに戻るその時まで、悲劇は繰り返される。
どんなに足掻いてもハッピーエンドにはならない。
それでも尚、ハッピーエンドを掴む為に環状する。
登場人物
○大槻 由愛(おおつき ゆあ)
21歳、女性
ごく普通の大学生だった擬似神様。
ちぐはぐに環状し続ける七日間の世界を創り出した張本人。
幾億回と環状した結果卑屈になっている。
○多々良 恵(たたら めぐみ)
21歳、女性
繰り返される七日間の最終日に必ず死んでしまう故人。
そういう仕組みの世界で唯一何も知らない。
○フエゴ・ラドロン
年齢不詳、男性
飄々とした悪漢。
適当に見えて、しっかりと色々と考えてる。
〇斎場 杏子(さいじょう きょうこ)
年齢不詳、女性
自暴自棄になった悪女。
現実を、残酷を由愛に見せつける。
○イレギュラー
年齢不詳、性別不詳
なんでもありのこの世界の員数外。
恵に“死神さん”と呼ばれていた。
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◇亘理 進一(わたり しんいち)
21歳、男性
大槻由愛と多々良恵と深い関わりがある男性。だが由愛は大して気に留めてない。
登場人物としては居ないが、名前だけの登場。
大槻 由愛♀:
多々良 恵♀:
フエゴ・ラドロン♂:
斎場 杏子♀:
イレギュラー不問:
↓これより下が台本本編です。
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フエゴ:「ワタシたちのカミサマは七日間で世界を創造したらしィ。」
杏子:「一日目に光と闇を分けた、」
フエゴ:「二日目は空が造られ、水が現れ、
三日目で海と陸を分けて、植物だのを造ったァ。」
杏子:「四日目に太陽と月を造って、昼と夜が出来た。
五日目に水中に棲む生物と空を渡る鳥を製造した。」
フエゴ:「六日目に哺乳類だの爬虫類だのを製造し、最後に人間を造り、
そして、七日目、カミサマは全てを造り終えたことに満足して休息をとったァ。」
杏子:「あまりにも急ごしらえ、大雑把、いい加減よね。」
フエゴ:「同意見だよォ。」
杏子:「けど、この世界の神はもっといい加減ね。」
フエゴ:「それも、同意見だァ。
なんてったって、昨日は明日に、今日は明後日に、明日は一昨日に、
時間の流れがちぐはぐに繋ぎ合わされて、滅茶苦茶だァ。
その上で、繰り返される。環状される七日間。
くっくっく……面白い。実に、面白い。」
杏子:「ふん……何も面白くないわ。
ただただ自分の世界に籠ってお人形遊びをしてるだけじゃない。
一人の女を救えずに、後悔と罪悪に包まれ、否定、拒絶、逃避、それらの極致。
これが、このチグハグに環状した世界の正体。
下らないわ。」
フエゴ:「だとしてもだァ。
ワタシたちはそんな世界に迷い込んだ可哀そうな悪人でしかない。
そうだろォ?サイジョウキョウコ嬢?」
杏子:「……そうね。フエゴ・ラドロン。
さ、神様の様子でも見に行き来ましょ。」
フエゴ:「ああァ。そうしよゥ。
一途で、幼気な、壊れた神様もどきの少女の元に、行こうじゃァないかァ。」
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由愛:これは、ウチの人間だった頃の最後の記憶。大学生3回生の時の出来事。
ウチは好きな人と、もう一人、誰か覚えてないけれど、
三人で映画館に来た。
恵:「えーっとねーコレ!」
由愛:「特撮モノ……?」
恵:「うん!
主人公はフツーの青年だったんだけど、
ある日ひょんなことから身体を改造されて死闘に巻き込まれるの。
そして、闘いの中で敵味方が入れ替わり立ち替わり、
黒幕に次ぐ真の黒幕に次ぐ真の黒幕と、ラスボスも二転三転して……」
由愛:楽しそうに語る恵ちゃん。
この後、彼女は死んでしまう。
映画館が何かの爆発の影響で炎上して、
恵ちゃんはそれに巻き込まれて死んじゃうんだ。
恵:「ええ……ええ??なっ、なにが……何が……あっ、たの……!?」
イレギュラー:「爆発が起きた。」
恵:「し、死神、さん……?」
イレギュラー:「これが多々良恵さん。貴女の死因です。」
由愛:ウチの知らない登場人物。
“シニガミサン”。
コイツのせいで恵ちゃんはしんじゃったの……?
恵:「し、しい、ん……?
で、でも、アタ、シ死ん、で、ない……むしろ、“進一(しんいち)”、が……!」
イレギュラー:「“亘理 進一(わたり しんいち)”さんが死ぬかどうかは分かりませんが、
それでも、貴女は死にますよ。
彼だけでなく自分の事もちゃんと見たらどうですか?」
由愛:「そうだ。ウチと恵ちゃんと、その、シンイチくんとやらと一緒に観に来たんだ。
恵:「な、なにを、言っt……
…………あ、れ……?
え……えぇ…………えぇ……?」
由愛:恵(めぐみ)ちゃんは立とうとした。けれど、立てなかった。
何故か、恵ちゃんの足が無かったのだ。
それだけじゃない。
左腕が無い。右腹部も消し飛んでる。頭部の左上部分が無い。
…………。
フエゴ:「おやァ。今日は七日目、でしたかァ。」
由愛:「……フエゴさん。」
杏子:「ついに、諦めたのかしら?由愛(ゆあ)?いいえ、神様って呼んだ方が良いかしら?」
由愛:「どっちでも良いよ……ウチは諦めてない。諦めない。
今日は、確認の為。ただそれだけ。」
恵:「なに?なに?なに?なに?なに?
アタシが、アタシたちが何をしたっていうの……?
こんな惨い死に方する様な酷い事をアタシたちはしたって言うの……?
理不尽じゃん……やだ……やだやだやだやだやだ……ッ!」
フエゴ:「いやはやァ、何度も見ても惨い。
この少女の惨状は可哀そうで可哀そうで目を背いてしまいますねェ。」
杏子:「ふっ、なんとも思ってない癖に。」
由愛:「……。」
イレギュラー:「死に方にいままでの行いなんて大して関係無いですよ。
ただ、貴女はこういう死に方をする、それだけですよ。」
恵:「たすけて……助けてよ……
はっ……!ぶ、ぶ……:『ブラックハッピーグリムリーパーカード』……
これ……これで……これは、アタシの“徳”なんでしょ……?」
イレギュラー:「……言ったでしょう。
:『ブラックハッピーグリムリーパーカード』を使っても貴女を―」
恵:「アタシじゃないッ!!」
イレギュラー:「ッ!!」
恵:「アタシじゃなくて、進一を……!
ここでアタシが死ぬのはもう良い!!けど、進一はまだ死んじゃだめだ!!
“アタシ”の死の回避に使えないとは言ったけど、
“他者”の死の回避に使えないとは言ってなかった……ッ!!」
イレギュラー:「……ッ!」
杏子:「はぁあ~カッコイ。
自分が死ぬかもなのに、他人の事を考えるなんて。
痺れるわね。」
フエゴ:「でも憧れはしないだろゥ?」
杏子:「そうね。」
フエゴ:「ワタシは拍手喝采をあげたいねェ。
にしても、:『ブラックハッピーグリムリーパーカード』ってなんなんだろうねェ。
一見すると黒いクレジットカードって感じだけどォ。“徳”っていうのは一体……。」
由愛:「なんで……シンイチくんなんかの為に自分を捨てたんだろう……。」
フエゴ:「んん~~~?それは少女にとって大事な人だからだろゥ。
シンイチ少年はあの少女にとって元・家族で、親友で恩人らしいじゃアないかァ。
それだけの相手であれば、自分を捨ててでも救いたい、と思うのは必定だよォ。」
由愛:「……ウチにとっての恵ちゃん、みたいな感じかな。」
杏子:「でも、由愛は恵ちゃんを救えなかった。」
由愛:「…………。」
杏子:「フフフ、滑稽ね。
メグミちゃんはシンイチ君を救う事が出来たみたいなのに、貴女は彼女を救えなかった。
故に、こんな茶番舞台を造った。」
由愛:「…………さあ、やり直し。早く楽しい思い出に浸りたい。」
杏子:「あら、いじけちゃった?」
フエゴ:この神様の世界の一日は24時間じゃァない。
神様の気分次第。だから、こんな風に──
フエゴ:「お~~、世界が、暗転していくゥ。」
杏子:唐突な暗転。
そして、明転。
七日目だった世界は一日目に戻る。
フエゴ:「……ん~~~良い朝だァ。
って、今回の環状の一日目は昼からかァ。」
杏子:「本当にチグハグね。
さて、今日はどの甘ったれた一日を過ごしてるのかしらね。」
フエゴ:「お昼からってことはァ。
アレじゃないか。」
由愛:「メグミちゃーん!」
恵:「あ!ユアー!!」
杏子:「ユアが大学生1回生の時。
メグミちゃんが久々に地元に帰ってきた時のヤツね。」
フエゴ:「神様はこの日の事大好きだもんなァ。」
杏子:「これを一日目にするなんて、さっき私たちが虐めたの相当堪えてたみたいねぇ。
あれくらいで……しょうもない女ね。」
フエゴ:「ワタシ“たち”だって?違うだろうォ。虐めてたのは君だけだよォ。」
杏子:「あら、自覚が無いなんて本当に悪い人。」
フエゴ:「~~~~~~~???」
杏子:「……一体何周目なのかしらね。
正直もう飽きたわ。
ねぇ、フエゴ・ラドロン。ちょっとユアに絡んでみましょ?」
フエゴ:「んん~~~せっかくのデェトを邪魔するのは無粋じゃないかァ?」
杏子:「ほざくわね。
結局この後、変なのに絡まれて台無しになるじゃない。
私たちが絡んでも一緒よ。
さ、行くわよ。」
フエゴ:「はいはァ~ィ。」
◇
恵:「この後はどこに行こうか、ユア。」
由愛:「んー、とりあえず映画館以外、かなー。」
恵:「あはは、なんで?ユア、映画嫌いだったけ?」
由愛:「うん、大っ嫌い。
だから、ね?映画館が以外が良い。」
恵:「そっか、まぁ、良いけどね。
じゃあー……」
杏子:「ユア。大槻 由愛(おおつき ゆあ)。」
由愛:「……ッ。
杏子(きょうこ)……さん……。」
恵:「え?知り合い?」
由愛:「えっ……と……」
フエゴ:「おいお~~い、もしかして、白を切るのかァい???
それは悲しいねェ~~~」
恵:「え、ユアってこんな濃ゆい知り合い居たの?」
由愛:「……うん、まぁ……。」
杏子:「いつまでこんな茶番を続けるのかしら?」
恵:「え……?」
由愛:「……。」
杏子:「ユアは本当にメグミちゃんを救う気あるの?」
恵:「へ……?アタシを……?」
フエゴ:「ああ、あんまり深く考える必要はないよォ。」
恵:「……はぁ。」
由愛:「……あるよ。」
杏子:「じゃあ、アンタは一体今なにやってるの?」
由愛:「……。」
杏子:「アンタがやってるのは逃避。
死んだメグミちゃんから目を背けてるだけ。
何も変わらない。」
由愛:「……。」
杏子:「……またアンタは……
…………これで346億3435万4421回目。
フエゴ。」
フエゴ:「あいよォ。」
イレギュラー:唐突な銃声。
その音の先は──
恵:「ぐあッ――!!
うッ……あ、ああ……ッ!」
由愛:「ッ!!メグミちゃん!!!
メグミちゃん!メグミちゃん!!
フエゴさん!どうして!!!」
フエゴ:「んー?どうしてって、撃てって言われたからさァ。」
由愛:「……ッ!」
フエゴ:「125億35万8491回目。
流石にメグミ嬢を撃つのにも慣れたなァ。」
杏子:「そう。メグミちゃんがここで私たちに撃たれたのは初めてじゃない。
125億回以上。
だというのに、ユア。アンタは何の対策もしてない。
ねぇ?もう一回聞くけど。ユアは本当に恵ちゃんを救う気あるの?」
由愛:「……あるよ!
だけど!七日目の死の回避の方法が分からない!
色々試した!色々足した!色々消した!けれど恵ちゃんはあの日に死んじゃうの!
シンイチくんを庇って!或いはシンイチくんの為に!
アナタたち二人が現れるよりも前からずっと色々と試してた!!
1343兆6735億4132万4354回試行した!!」
フエゴ:「ワオ、数字が大きすぎてワケが分からないなァ。」
由愛:「でも!どれも駄目だった!!
一度や二度じゃない……何度も、何度も何度も何度も!!
……だったら、何をやっても、無駄じゃない……?
どうせ、また繰り返されるもん……
それに、七日目の死を回避しても、
この世界じゃない、本物の世界でもメグミちゃんは生き返るの?
ウチはそう言われて頑張ってるけど、本当にメグミちゃんは生き返るの???」
杏子:「さあ?
別に私がそう言ったワケじゃないし。
アンタにそう言ったのはイレギュラーってやつなんでしょう?
ソイツに聞いてよ。私に聞くんじゃなくて、さぁ!!」
由愛:「きゃっ……!」
フエゴ:「おいお~い。ビンタするなんてェ、神様でも21歳のおこちゃまだぞォ?」
杏子:「21歳は立派な大人よ。私は甘やかさないわ。」
由愛:「……。」
杏子:「……諦めたら?」
由愛:「……。」
杏子:「さっさと現実を見て、メグミちゃんのお墓参りにでも行ったらどう?」
由愛:「……。」
イレギュラー:「それは困ります。」
杏子:「あら?」
由愛:「……シニガミ……さん……」
フエゴ:「おやおやァ~……イレギュラー様が舞台にわざわざ立つとはァ。
今日は何用でェ?」
イレギュラー:「斎場 杏子(さいじょう きょうこ)。貴女やりすぎですよ。
私は大槻 由愛(おおつき ゆあ)が折れない様に貴女とフエゴ・ラドロンをここに呼んだのですよ。」
杏子:「勝手に呼んだだけじゃない?
私はあのまま幕を閉じるつもりだったの。
なのに、何?神様もどきのお守りをする羽目になるなんて、アナタの言う事を聞くと思って?」
フエゴ:「ワタシもだァ。
格好良く退場出来たと思ったんだけどなァ……。
まぁ、ワタシは?特に不満は無いけどねェ。
強いて言えば、“この世界を抜け出せれば自由をやる”と、
餌をぶら下げてワタシたちを手玉に取ろうと思ってるアンタァ……イレギュラー様には不平不満しかないけどねェ。」
イレギュラー:「…………。
それに関しては何も反論はありません。
ですが、二人は罪人で、私が二人の首を握っている状況だという事を忘れない様に。」
フエゴ:「おお~~怖い怖いィ
ワタシは死にたくないが、キョウコ嬢はどうだろうねェ?
そんな言葉で、御せるかなァ?」
イレギュラー:「ふふ……首を握っている、というのは何もいつでも殺せるって意味じゃないですよ。
例えば──」
杏子:「ぐあッ!!」
イレギュラー:「こんな風に身体中を抉り消したとして──」
杏子:「あ゛……ああ゛……」
イレギュラー:「私が許可なしに死ぬことは出来ません。
斎場 杏子(さいじょう きょうこ)は自暴自棄になり死を選んだ。
死にたかった。生きていたくなかった。
だけどここでは死ぬことが出来ない。私がいるから。
だからこの世界を抜け出そうとしている。」
フエゴ:「ぬァるほどゥ……賢いねェ。
……さて、おこちゃまな神様?
キミに与えられた選択肢は主に2つだァ。
いや、神様的には3つかなァ?」
由愛:「……。」
フエゴ:「一つ、メグミ嬢を救ってこの世界を終わらせる。
二つ、メグミ嬢を諦めてこの世界を崩壊させる。
そして、三つ、今神様やっている事だけどォ、
現実から逃避して甘い、あまァ~い夢ばかり見続けて停滞し続ける。
さァ、どうする???神様ァ?」
イレギュラー:「……。」
由愛:「…………ウチは……。
メグミちゃんを救いたい……だけど……」
フエゴ:「…………神様、いいや、ユア嬢。
諦めるというのも、手ではあるんだぜ?
確かに、救えるかもしれない人を切る選択はあまりのも、残酷だァ。
けどなァ、死んじまったメグミ嬢には本来、チャンスなんて無いんだよォ?
なのにユア嬢がズルをして、え~っと……1000兆?以上のチャンスを作った。
それでもダメだったんだ。どォしようもないじゃないかァ。」
由愛:「でも……」
フエゴ:「真にメグミ嬢を愛するなら、彼女の死をしっかりと見て、
彼女の死を弔い、彼女の、誇り高き意志を受け継ぐ事も大事じゃないかァ?」
イレギュラー:「フエゴさん。それは──」
フエゴ:「イレギュラー様は黙ってな。
……ここはユア嬢の世界だァ。」
イレギュラー:「っ。」
フエゴ:「アンタには何かしらの使命があるのだろうが、それとこれとは別さァ。
今ここで、優先されるべきはユア嬢の選択だ。」
イレギュラー:「けど、それでは世界が!」
フエゴ:「それとこれとは別と言っただろゥ。(少し強めな口調で)
……さ、ユア嬢。どうする?
諦めずに無限の地獄を繰り返すか、諦めて現実で時間を進めるか。
三つ目は聞かないよ。」
由愛:「ウチは──」
フエゴ:「おォっとォ。世界が暗転して来たァ。
一日目はこれで終わりかァ。
……そうか、答えは“先送り”……三つ目、か。
ま、良いさァ。ユア嬢……いや神様の選択を、ワタシは尊重しようじゃないかァ……。」
イレギュラー:「……フエゴ・ラドロン。
貴方は結局、どちらの味方ですか。」
フエゴ:「ん~~?誰の味方でも無いさァ。
強いて言えば、ワタシの、ワタシ自身の味方さ。
じゃあ、おやすみ、イレギュラー。また逢う日まで。」
イレギュラー:「……。」
杏子:世界が暗転する。一日目は終わる。
そして、二日目が始まる。
世界が明転する。
杏子:「……。
痛い目にあったわ……あら、一日目、終わったのね。」
フエゴ:「ああ、終わったよォ。
何も変わらず、だ。」
杏子:「……そう。
ホント、ウジウジしててあの子、嫌いだわ。
……今日は朝ね。少しお昼寄りみたいだけど。」
フエゴ:「そォだねェ。
今日は多分メグミ嬢が死ぬ前日だねェ。」
杏子:「二日続けて“久しぶりに恵ちゃんと会話した”日なのね。
久しぶりな恵ちゃんとのエピソードがとにかくお気に入りみたいねぇ。」
フエゴ:「そォみたいだねェ。
キミよりも少し先にこの世界に呼び込まれたけれど、
ワタシもよくこの光景は見ているよォ。」
由愛:「ん?あれ?電話……メグミちゃん……?」
……もしもしー?メグミちゃん?」
恵:『久しぶり、ユア。』
由愛:「急にどうしたの?メグミちゃん。
あ、電話かけてくれたのはとても嬉しいけどね。」
恵:『いやーあのーなんか久しぶりにユアの声聞きたくなっちゃって、さ。』
由愛:「そうなの?なんだかうれしいなー。
ねぇ、メグミちゃん。最近どう?」
恵:『え、え?最近?
うーーーん、そうだなー……ユアに逢いたくて逢いたくて震えてる~かな~。』
フエゴ:「ヒュゥ!さすがメグミ嬢だ。
何度聞いてもこの誤魔化し方はキザで良いねェ。」
杏子:「くっさ。」
由愛:「もうー何それー?
もしかして口説いてるの?
メグミちゃんは相変わらずだなー。」
恵:『だってアタシ、ユアの事大好きだからさ。』
由愛:「も~~~~誤魔化さないでよ~~~~~」
恵:『あはは。でも大好きなのはホントだよ?
最近かーまぁ、ぼちぼちかなー。
ユアは?』
杏子:「……気持ち悪いわね。
メグミちゃんにとってはこれが一回目の会話だから仕方ないけれど、
ユアは何度も同じ会話を続けてる……
不気味。気色悪い。わざとらしさに吐き気がするわ。」
フエゴ:「まァ、普通の精神じゃァこんな事続けられないよなァ。」
由愛:「えっと、実はね……」
恵:『は……ッ、まさか……彼氏……!?恋人……!?
アタシは認めないぞォ~~~~~~!!!』
由愛:「あはははは!違うに決まってるじゃ~ん。
だって、ウチはメグミちゃんが一番大好きで、愛してるもん。」
恵:『お……おう……///
えっ………と………。
……。
……じゃあ、さ。ユア。』
由愛:「……何?」
恵:『今から会いにいくよ。』
由愛:「……どうやって。
ユアちゃん今こっちに居るの?」
恵:『いないけど。
会いに行く。2時間後くらいに会おう!じゃ!また後でね!』
由愛:「……切れちゃった。
はぁ…………。」
フエゴ:「ンン~~~神様、ため息を吐いちゃアいけないよォ?
幸せが逃げちまうからねェ。」
由愛:「……フエゴさんは、ウチがため息を吐く度にそれを言いますね。」
フエゴ:「ワタシはあまり陰気なのは好かないモノでねェ。
何より、幸せを逃がした結果、どんな不幸が襲ってくるか分からないからねェ。
もしかしたら、自分の最愛の人が轢かれてしまうかもしれない。
謎の病に倒れてしまうかもしれない。
そして……死んでしまうかもしれない。」
由愛:「……ウチの最愛の人は爆発に巻き込まれて死にました。」
フエゴ:「そうだねェ。
過ぎた話かもしれないが、この世界は過ぎた話を変えられるんだ。
故に、一挙手一投足を気に掛けるのも大事かもしれないよォ?」
由愛:「……。」
杏子:「たった一度のため息でそんな大それた事起きたら世界は不幸で塗れてるわよ。
あ、塗れてたわね。
なんたって、結局七日目には恵ちゃん死んじゃうものね。フフフ。」
由愛:「……ウチはメグミちゃんを救う。」
杏子:「どうやって?」
由愛:「……そ、それは……」
杏子:「無策?その体たらくで“救う”なんて滑稽ね。」
由愛:「じゃあ、ウチはどうすればいいの?」
杏子:「さあ?私には分からないわ。
自分で考えなさい。
ま、私は諦めるのをお勧めするけど。」
由愛:「嫌だ……。」
杏子:「だったら尚更自分で考えなさい。
私に答えを求めるなんてもっての外、
言っておくけどそこの薄ら笑いしてる悪漢さんに聞いても駄目よ。」
フエゴ:「おや?ワタシ笑っていたかィ?
ワタシは常に真面目さ。薄ら笑いしてるだなんて流石に心外だよォ。
まぁ、悪漢と呼ばれるのは事実だから構わないけれどねェ。」
由愛:「……。」
杏子:「とりあえずメグミちゃんを助ける方法は自分で考えなさい。」
由愛:「……キョウコさんは、助けたくないんですか?」
杏子:「……は?」
由愛:「キョウコさん、メグミちゃんの事を“メグミちゃん”って呼んでる。
ウチの事はユアって呼ぶのに。
っということは、キョウコさんとメグミちゃんは親しい仲なんじゃないの?」
杏子:「……どうかしらね。
貴女がメグミちゃんメグミちゃん言ってるから言ってるから感染った、という面の方が強いと思うわ。」
由愛:「そうでですか?
初めて会った時から“メグミちゃん”と言ってた気がしますけれど。」
杏子:「……さあ、覚えてないわ。
仮にそうだとしても、考えるのは貴女よ。ユア。
ここは貴女の世界。それを忘れてはならないわ。」
由愛:「……だとしても、教えてください。
キョウコさんと、メグミちゃんの関係を。」
杏子:「……話したからって、貴女に協力するつもりはないから。
そうね、私はメグミちゃんと親しい仲、だったつもりよ。
だから、本当は私、メグミちゃんを助けたい……
だけど、それとこれとは別。
私はユアに協力する気は無いわ。」
由愛:「……もしかしたら貴女が協力してくだされば、どうにかなるのかもしれないですよ?」
杏子:「どうでしょうね。」
イレギュラー:「きっと駄目でしょうね。」
杏子:「……ですって。アナタ、急に現れるわね。」
由愛:「なんで、駄目なんですか?」
イレギュラー:「無駄だからです。」
由愛:「じゃあ、どうして杏子さんをここに呼んだんですか?
フエゴさんも。」
フエゴ:「確かに、なんでだァい?」
イレギュラー:「お二人は、未練を持っていたからです。
それも存在が消失したとしても成就したいと願う程の未練が。
その思いを利用させて頂いてます。が、これまでを考えると、無駄と感じます。」
杏子:「じゃあさっさと私を開放しなさいよ。」
イレギュラー:「……。」
フエゴ:「なァるほどゥ。
確かに?ワタシの未練は存在が消失したとしても消えないだろうなァ。
ま、それが、復讐心というモノだからなァ。」
杏子:「はっ、じゃあ私は消えたいという未練とでも言いたいの?」
イレギュラー:「さあ、自分で分かってるんじゃないんですか?」
杏子:「……。
さあ、私には分からないわ。」
フエゴ:「ま、そんな事は些細な話だァ。
さて神様、これからどうするゥ?」
由愛:「これ、から……?」
フエゴ:「このまま何もせずに居たらメグミ嬢が君の元へ現れるのは明日の明朝だァ。
つまり、二時間後には会えない、つまり今日はもうメグミ嬢とは会えない。
それで良いのかィ?」
由愛:「……。
良くない。けれど、どうしようも無いよ。」
フエゴ:「いやいやいやいやいやいやァ。
お姫様?今時はお城で待つだけでは駄目ですよォ?
お姫様自身も、王子の元へ向かわなければイマドキな視聴者は見てくれませんよォ?
ま、誰も見ていないけれどもねェ。
それはそれとしてェ君も向かうってのは、悪くないんじゃないかなァ?」
由愛:「……ウチは、何度かもう迎えに行ってる。
けど、何も変わらなかった。
何があっても今日は会えないの。」
フエゴ:「……そうか。
いやはや、ここはキミの世界なのに、キミの思い通りにならない面倒な世界だねェ。」
由愛:「ウチもそう思う。」
イレギュラー:「だからこそ、この世界で成し遂げられた成果は現実となるのです。」
杏子:「さて、それは本当なのかしらね。
さっき私たちがメグミちゃんを銃殺したのは現実になってるのかしら?
あれは私たちが成した成果と言って差し支えないんじゃないの?」
由愛:「……ッ!」
イレギュラー:「いいえ、大槻 由愛(おおつき ゆあ)にとって不都合なモノは現実になりません。」
由愛:「……っ。」(安堵する。)
杏子:「あら、それはあまりにも都合が良すぎなんじゃないかしら?」
イレギュラー:「それは──」
フエゴ:「神様の、ユア嬢の世界だから、だろゥ?」(前の台詞に被せる様に)
イレギュラー:「……はい。その通りです。
この世界は大槻由愛の思い通りにならないと同時に、
大槻 由愛(おおつき ゆあ)の都合の良い事実した現実しません。
そういう世界ですから。」
杏子:「そう。本当にチグハグね。」
フエゴ:「人の人生なんてそんなモンじゃァないかァ。
達成目標への道のりは異様に捻じれていて、
その目標が大きければ大きいほど捻じれに捻じれているもんさァ。
その癖、心が折れない様に道のりにはちゃアんと餌とか光が存在する。
この神様の道のりも、一緒さァ。」
イレギュラー:「それが、この世界……
いえ、大槻 由愛(おおつき ゆあ)が造り出した世界ではなく、
“無知全能の神”によって造られた世界の構造、システムですから。
この世界もそのシステムを引き継いでいる様です。」
杏子:「……厄介ね。」
フエゴ:「まぁ、そのシステムのおかげで無知全能のカミサマも手こずっているんだから、
世話無いねェ。」
杏子:「はッ」(嘲笑)
杏子:「どこの神様も馬鹿ばかりなのね。
いいえ、馬鹿しか神様になれないのかしら??」
フエゴ:「さあーどうだろうねェ。
……本当に無知全能の神様とやらが元の世界を造ったのか甚だ疑問だけどねェ。」
由愛:「……恵ちゃんに会ってきます。」
杏子:「唐突ね。いえ、そういえばフエゴがそんな事を提案してたわね。
でも結局また駄目なんじゃない?
以前にも会おうとして全部失敗してるのでしょう?」
由愛:「そうだけど……失敗しないかもしれない。」
杏子:「無策で繰り返すのは無駄でしかないわよ。」
由愛:「……。」
フエゴ:「航空の便が“何故か”全て欠航だしねェ。」
イレギュラー:「……。」
フエゴ:「提案しといてなんだが、さあ、どうするゥ?」
由愛:「…………。
……フエゴさん。」
フエゴ:「なんだァい?」
由愛:「力を、貸してください……!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~某バーキングエリア~
由愛:「メグミちゃん!!」
恵:「んぇ!?ユア!?
どうしてここに!!?」
由愛:「……えへへ。来ちゃった……。
待ってるだけじゃ嫌だったから、さ。」
間。
杏子:「会えちゃったわね。」
フエゴ:「まァ、このワタシが手を貸したからねェ。」
杏子:「流石未来人ね。あんな乗り物を何も無い所から出すなんてね。」
フエゴ:「ワタシの時代ではこれくらい普通だよォ。」
杏子:「さて、88万4851回目にしてやっとこの日に由愛は恵ちゃんと邂逅出来た。
今までやらなかった、“フエゴ・ラドロンに助けを求める”事で、やっと。
初めての流れ、どうなるかしらね。」
杏子:「あっ、未来人なフエゴには分からないのかしら?」(悪戯っ子の様に)
フエゴ:「……キョウコ嬢ォ……それ何度も聞くねェ。好きなのかィ?
じゃァいつも通りに返そうじゃアないか。
分からないよォ。未来人とは言え全てを知っているワケじゃないからねェ。」
杏子:「フフフ……未来人って思ったよりも普通ね。」
フエゴ:「なんだィ?ワタシが活躍したのに嫉妬しているのかァい?」
杏子:「別にぃ?」
イレギュラー:「私たちには分かりませんよ。
この世界の神である大槻 由愛(おおつき ゆあ)でさえ分からないのですから。」
杏子:「そう。」
間。
恵:「ははは……ユアは逞しいなぁ。」
由愛:「……ううん。
そんな事ない。ウチは逞しくなんか無い……。」
(由愛、恵に抱き着く。)
恵:「ッ。ユア……。」
由愛:「ウチは逞しくなんかない……ウチは弱いよ。
だから、メグミちゃんがいないと駄目なの……。」
恵:「……ッ!ユア……?なにか、あったの……?」
由愛:「ううん……ただ、メグミちゃんに会いたかっただけ……。」
恵:「そっか……まったくユアは仕方が無い子だね。」
由愛:「えへへ……
……。
だけどそれだけじゃ駄目なの。」
恵:「え?どういうこと……?」
由愛:「生きよう。生きよう恵ちゃん。」
恵:「えぇ、ユア?何を言ってるの??」
由愛:「だってメグミちゃんはッ……!って、え?何?
なんで視界が……???」
恵:「どッ、どうしたのユア!?」
間。
フエゴ:「暗転し始めている……今日が終わる、という事かァ。」
杏子:「あら、もう0時前なのね。
残酷ですこと。」
イレギュラー:「大槻 由愛(おおつき ゆあ)の気分で一日が終わる、
それだけでなく、通常の時間軸での24時間が経つ、それでも一日が終わる。
この世界は二つの方法で一日が終わる。」
由愛:「待って!待ってよ!!ウチはまだッ!何もッ!!
終わらないで!!まだ終わらないでよ!!!」
恵:「ユア……?ユア!!落ち着いて!ワタシが居る!ワタシが居るから大丈夫だから!!」
イレギュラー:世界が暗転する。
由愛:「……せっかく……上手く行くかもしれなかったのに……
せっかく変わったのに……ッ!駄目……だった……
……やっぱり、駄目なんだよ……
ウチにはッ、メグミちゃんは救えないんだ!ウチには変えれないんだ……!!」
フエゴ:「……。」
イレギュラー:「……。」
杏子:「……やっぱり駄目ね。あの子……。」
杏子:そして、世界が明転する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
由愛:「……。」
フエゴ:「何をやってるんだィ?
3日目も、4日目も、5日目も、何もしないで、ぼーっとしてェ。」
杏子:「諦めたのかしら?」
由愛:「…………諦めた。」
杏子:「……ッ!」
フエゴ:「……。」
由愛:「ウチ諦めるよ……。」
杏子:「……本気で言ってるのかしら?」
由愛:「……うん。」
杏子:「………………ま、まぁ、別に良いけれど。」
フエゴ:「そうかァ!決断したかァ!うんうんうんうんン~~~偉い!偉いよォ!
そうやって気を落とす必要は無いだよォ。ユア嬢。
キミはしッッッかりと決断したァ。ワタシはそれに対し、敬意を表するよォ。」
由愛:「……。」
杏子:「ちょっと……アナタ何を考えてるの……。」
フエゴ:「ンン~~~~~~?何を考えてるってェ……エェ?
ワタシは最初から言っていたじゃアないかァ。
彼女がどんな選択をするも良い、とね。
そして“諦める”という選択をした。ワタシはそれを良しとしている。
ただ、それだけの事だよォ。」
由愛:「ウチは沢山頑張った……だけどウチには恵ちゃんは救えない……救えなかった……。」
フエゴ:「大丈夫さァ。ユア嬢自身が言った通り、キミは頑張ったんだァ。
人々がキミを責めても、少なくともワタシは許そう。
何よりも、そもそもの話ィ。人々の責めを気にする必要はないよォ。」
由愛:「……。」
杏子:「……本当に良いのかしら?
アンタは1300兆回以上も頑張ってたのに、それを無駄にするの?」
由愛:「……ッ。
…………キョウコさんはウチに諦めて欲しかったんじゃないの……?」
杏子:「ッ!!
そうだけど……なんだか嫌なのよ……。」
由愛:「……?」
フエゴ:「クックック……ユア嬢、ここは察してあげようじゃアないかァ。
いやしかし、キョウコ嬢が何と言おうとキミの決意を曲げる必要はないよォ?
キミの決意を曲げて良いのはキミだけだからねェ。」
イレギュラー:「それは困ります。」
杏子:「イレギュラー……」
イレギュラー:「大槻 由愛(おおつき ゆあ)。本気ですか。
斎場杏子(さいじょう きょうこ)の言う通り貴女は1300兆回を超える環状を繰り返し、
多々良 恵(たたら めぐみ)を救おうとしていたというのに、ここに来て諦めるのですか。」
由愛:「だって……1300兆回以上だよ……?
それだけしたのに駄目だった……無駄だったんだよ……?
諦めて、当然じゃない……。」
イレギュラー:「貴女には世界の命運がかかっているのですよ?」
由愛:「ッ。」
フエゴ:「やめなァ?
この子はまだ21歳の少女だァ。
キョウコ嬢は、21歳は大人だと言ったが、21年で得られる経験値なんて多寡(たか)が知れているよォ。
そんなまだまだ未熟な精神性の少女一人に世界の命運を賭すだなんて、
あまりにも理不尽じゃあないかィ?」
イレギュラー:「だがそれでは……!!」
フエゴ:「前にもワタシは言ったよなァ。
アンタには何かしらの使命があるのだろうが、それとこれとは別だ、と。
優先されるべきはユア嬢の選択だとも。」
イレギュラー:「……ッ。フエゴ・ラドロン……貴方は復讐を遂げたくはないのですかッ!」
フエゴ:「ワタシの目的も関係無い。
さて、ということでこれが最後の環状という事だァ。
ユア嬢もキョウコ嬢もイレギュラーも思うところがあるだろゥ?
皆それぞれ最後の二日間を満喫しようじゃアないかァ!」
イレギュラー:「……ッ。」
杏子:「ッ。」
由愛:「……。」
フエゴ:「ではワタシはこれで、良い二日間をォ。」
杏子:「……。待ちなさい!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
杏子:「待ちなさいと言っているでしょう!フエゴ!」
フエゴ:「なんだィ?」
杏子:「アナタ、どういうつもりなの。」
フエゴ:「えェ?さっき言ったじゃアないか。
ワタシは嘘偽り無く本当に思っている事を伝えただけさァ。」
杏子:「……。」
フエゴ:「……ではキミにも聞こう。
キョウコ嬢……いや、斎場 杏子(さいじょう きょうこ)。
キミは何がしたいんだィ?」
杏子:「な、何よ急に。」
フエゴ:「答えろ。ワタシはキミに質問をしているんだ。
斎場 杏子(さいじょう きょうこ)の目的はなんだィ。
多々良 恵(たたら めぐみ)を助けたいとは思うが、それを手伝おうとは思わない。
諦めろと散々言っていながらいざ諦めると言われたら戸惑う。
キミは、何がしたい。」
杏子:「……私は──」
イレギュラー:世界が暗転する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
イレギュラー:そして、世界が明転し、6日目が始まる。
~浜辺~
(由愛、海を眺めている。)
由愛:「………………。
ああ、この日、か。」
恵:「ユアーーー!!」
由愛:「…………メグミちゃん。」
由愛:……メグミちゃんが死んでしまう一日前。
この日にウチは久しぶりに恵ちゃんに会ったんだ。
恵:「はぁはぁ……!
遅くなって、ごめん、ユア……!」
由愛:「……アハハ、いいよ。災難、だったね。」
恵:「あは、ははは……そうだね。
……会いたかったよ。ユア。」
由愛:「……ウチも。」
間。
恵:「どうしたの。ユア?」
由愛:「……?どうして?」
恵:「なんだか、ユア疲れてる。」
由愛:「…………そんなことないよ。」
恵:「……嘘。ユア、何があったの。」
由愛:「……本当だよ。何も、無かったよ。
そう……何も、出来なかった…………。」
恵:「……ユア。」
由愛:「……何?」
恵:「ワタシもだよ。」
由愛:「え……?」
(恵、由愛に近付く)
恵:「ワタシも何も出来なかった。」
由愛:「……。」
恵:「ワタシ一人じゃ由愛に会いに行くことが出来なかった。
……わあ!ねぇ!ユア!右向いて!」
由愛:「え?
(右を向く)
──ッ。」
由愛:メグミちゃんの言った方を向く。
視界に入ったのはかつてウチが恵ちゃんに見せたかった景色。
海から、水平線から登ってきた朝日。
光があまりにも眩しくて目を閉じたくなる。
けれど、美しい景色を見たくて、目を閉じる事が出来なかった。
恵:「…………綺麗だね……。」
由愛:「……これ、メグミちゃんと見たかったの……。」
恵:「アタシと?」
由愛:「うん……メグミちゃんと。」
恵:「そっか。
……さっきも言ったけど、ワタシも一人じゃ何も出来ない。
シンイチに助けて貰ってやっとユアに会えたんだ。」
由愛:「…………。
……フフフ……ウフフフフ……アハハハハハハ……」
(由愛、儚げに笑う。)
恵:「な、なに……ユア?」
由愛:「……はぁ……頑張らないと、ね……。
だってウチ、メグミちゃんの事大好きだもんね。」
恵:「ひゃ、ひゃいッ!?」
由愛:「へへへ」
由愛:そう、ウチはメグミちゃんが、多々良 恵(たたら めぐみ)の事が大好きだ。
だから死んだという現実から逃避し、拒絶し、否定したんだ。
ウチはまだ現実を見れない。ウチにとって都合の良い形になるまでは。
恵:「じょっ!じょじょじょじょじょじょじょ」
由愛:「冗談じゃないよ。ウチは本気。」
恵:「……え……っと。」
間。
由愛:メグミちゃんが固まる。
メグミちゃんは何を考えているんだろうか。
その間、ウチはメグミちゃんを真っ直ぐと見て、次の言葉を待った。
ウチは彼女がなんて言うのか知っているけれど、それを待った。
恵:「……。」
由愛:メグミちゃんは自分が明日死ぬ事を知っている。
由愛:「……。」
由愛:故にメグミちゃんはウチを拒む。
恵:「……ユア、ありがとう。
…………だけど、ごめん。
ユアの気持ちに応えられない。」
由愛:「……良いよ。」
恵:「……。」
由愛:「だって、行っちゃうんでしょ?遠くに。」
恵:「え……?」
由愛:「もう、ウチはメグミちゃんには会えなくなるんでしょ?」
恵:「な、なんで……」
由愛:「んーなんとなく、かな。
昨日メグミちゃんが電話くれた時からなんとなく、そんな気がしたの。
……ウチさ、結構勘が良いから、さ……。」
恵:「……そっか。
…………いや~~~~~~……ユアには敵わないなぁ~~~!」
由愛:「……。」
由愛:ウチは一番最初、この時に泣いてしまった。
だけど──
由愛:「だけど、迎えに行くよ。
ウチ、メグミちゃんを絶対に迎えに行く。」
由愛:──これからは泣かない。
恵:「ユア……?」
由愛:「ウチはメグミちゃんが大好きだからね。
諦める暇は無いよね。
……ありがとう。ありがとう恵ちゃん。」
(由愛、恵に抱きつく。)
恵:「ゆ、ユア……?
………………何を言ってるの……?」
由愛:「だから……──」
(由愛、恵に口付けをする。)
恵:「──……。
ユア……?」
由愛:「だから、またね。メグミちゃん。
次は互いに笑い合おうね。」
恵:「ユア!?」
恵:世界が、暗転した。
由愛:「……。」
イレギュラー:「大槻 由愛(おおつき ゆあ)。」
由愛:「アナタの願った通りになったよシニガミサン。
いえ、イレギュラーさん。」
イレギュラー:「……。
とてもありがたいです。」
由愛:「ずっと前にも言ったけれどアナタが言ってたナインディストラストとか、
無知全能の神様とか全然意味分かんないし興味無いけれど、ウチはメグミちゃんを救う為に頑張るよ。」
イレギュラー:「そうですか。」
由愛:「……イレギュラーさんはキョウコさんとフエゴさんの協力はこれまでの行動から無駄だと、そう言ってたけれど。」
イレギュラー:「……。」
由愛:「まだ分からないよ。」
イレギュラー:「……?」
由愛:「まだまだ試行してみないと。」
イレギュラー:「1343兆6735億4132万4354回も既に環状しているのに?」
由愛:「うん。足らない。
ウチはまだまだ廻るよ。」
イレギュラー:「そうですか。」
由愛:「ウチの愛は1343兆6735億4132万4354なんて数字じゃ止まれない。
ううん、たとえ“不可説不可説転(ふかせつふかせつてん)”回以上試行して駄目だったとしても諦められないよ。」
イレギュラー:「……であれば、大槻 由愛(おおつき ゆあ)はどの段階で諦めるというのですか。」
由愛:「メグミちゃんを救ったら、かな。」
イレギュラー:「……。」
由愛:「だけど、ウチ一人じゃ何も出来ないし、多分折れちゃう。
だから、キョウコさんとフエゴさん、そして、アナタも。
アナタも協力してください。」
イレギュラー:「…………分かりました。」
フエゴ:「よォ~~~く言ったァ~~~~~~~~~!!」
イレギュラー:「ッ!」
由愛:「フエゴさん!?」
フエゴ:「良いねェ、良いねェ!
前にも言ったけれど、ワタシは陰気なのは好かないからねェ。
今みたいな顔の方が断然良いよォユア嬢ォ。」
由愛:「フエゴさん……。
……ありがとうございます。」
杏子:「……。」
由愛:「キョウコさん……
……ごめんなさい。ウチ、まだ諦められません。」
杏子:「そう。アンタ言う事コロコロ変わるわね。」
由愛:「……ごめんなさい。」
杏子:「……次に言う事変えたら一日が来る度にアンタを殺すわ。」
由愛:「はっ、ハイ……!」
フエゴ:「でェ?どうやってメグミ嬢を救うんだィ?
知りたいなァ、ユア嬢の、いいや、神様の考えを。」
由愛:「考えって程ではないですけど、ただただ繰り返し試行して思考しようと思います。」
杏子:「ハンッ、結局無策なのね。」
由愛:「……はい、けれど、これからは“チグハグな七日間を繰り返す”んじゃありません。
七日間で区切らず、積み重ねて行きます。
いままでよりももっとちゃんと時間をかけて、きちんと計画を立ててメグミちゃんを救います。」
イレギュラー:「……我々の意識としてこの七日間を終わらせるのですね。」
由愛:「はい。」
フエゴ:「良いねェ。
では、そろそろ、始めようかァ。
この“環状世界(かんじょうせかい)”の終わりを、その第一歩をォ!」
杏子:「ハァ……何目をキラキラさせてるのよ……。
ま、良いけど。」
恵:そして、世界が明転する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~?????????????????回目の環状世界~
フエゴ:「ワタシたちのカミサマは七日間で世界を創造したらしィよォ。」
杏子:「何?またそれやんの?」
由愛:「それってなんですか?」
フエゴ:「ンフフフフ~まずゥ、一日目に光と闇を分けたァ、」
杏子:「……ハァ、二日目は空が造られ、水が現れ、
三日目で海と陸を分けて、植物だのを造った。」
由愛:「え?何々??」
イレギュラー:「四日目に太陽と月を造って、昼と夜が出来た。
五日目に水中に棲む生物と空を渡る鳥を製造した。」
由愛:「イレギュラーさんまで!?」
フエゴ:「六日目に哺乳類だの爬虫類だのを製造し、最後に人間を造り、
そして、七日目、カミサマは全てを造り終えたことに満足して休息をとったァ。」
杏子:「あまりにも急ごしらえ、大雑把、いい加減よね。」
フエゴ:「同意見だよォ。」
イレギュラー:「分かります。」
杏子:「けど、この世界の神はもっといい加減ね。」
由愛:「え……っ?」
フエゴ:「それも、同意見だァ。」
由愛:「えぇ!?」
フエゴ:「一人の女の子を救う為だけに世界を維持し、試行を繰り返しているゥ。
くっくっく……面白い。実に、面白い。」
杏子:「ふん……何も面白くないわ。
ただただ頑固なだけじゃない。
一人の女を救えずに、後悔と罪悪に包まれ、否定、拒絶、逃避、それらの極致。
これがこの世界の正体。
下らないわ。」
由愛:「うぅ……ごめんなさい。」
杏子:「謝らなくて良いわよ。
それとも、諦めるのかしら?」
由愛:「いえ、諦めないです。」
杏子:「そう、それは良かったわ。
諦めるなんて言ったら、毎日殺すって言ったからね。」
由愛:「は、はい。覚えてます……。
それが無くても、諦めないですけど……!」
フエゴ:「さァ、神様ァ、今日はどうするゥ??」
イレギュラー:「何度でもチャンスがあると言っても、そろそろ抜け出したいですね。」
杏子:「あら~?イレギュラーの癖に弱音~?
ウフフフフ、可愛いとこあるじゃなぁい。」
イレギュラー:「……。」
由愛:「あああ……!二人ともバチバチしないでください……!
コホン……とりあえず、今日は──」
イレギュラー:これは九つの砕かれた物語の断片の一つ。
フエゴ:一つに戻るその時まで、悲劇は繰り返される。
杏子:どんなに足掻いてもハッピーエンドにはならない。
恵:それでも尚、ハッピーエンドを掴む為に環状する。
由愛:「ウチは諦めない。恵ちゃんとまた笑い合う為に……!」
───────────────────────────────────────
END