[台本] 愛おしくて、愛してまス。
世界設定、場面情景
特に変わった事はない何の変哲も無い世界、つまり普通の世界、普通の日常。
これは愛の物語。
・登場人物
〇詩喜薬 愛夢(しぎやく あむ)
女性、20歳
自分の嗜虐性愛(サディズム)という特性に悩み、
人との関わりを極力絶った結果、内気で喋るのが苦手になってしまった女性。
喋るのと笑うのは下手くそだが別に人が嫌いというワケではない。
〇九世舎 仁(くぜやどり じん)
男性、23歳
家族が居なく、孤独故に人を慈しむべきと考える博愛主義者、と思い込む自己排斥他者救済者。
一年前にとある事件の解決に導いた一人で有名人だがそれはまた別の話。
愛夢に愛されるまではどこか冷めたような物言いが多かった。
役表
詩喜薬 愛夢♀:
九世舎 仁♂:
↓これより下が台本本編です。
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~真夜中、寝室~
愛夢:「好キ……好キ……好キ……愛してル……」
仁:「……。」
仁:いつからだろう。
俺とこの子がこんな関係になったのは。
……あれは確か──
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~夕方、大学校門前~
仁:「……雨かぁ。結構降ってるなぁ……。
台風の進行が早まった……といったところかな……。
全く、こんな日にまで大学があるなんて、正気を疑うなぁ……。
傘は……そういえば鞄に入れっぱなしだったか。」
仁:あれは確か、梅雨の時期。
去年の6月の出来事。
その日全ての講義が終わり、家に帰ろうと思っていた時の出来事だった。
愛夢:「うゥ……うゥ……」
仁:「ん……?」
仁:誰かがすすり泣いていた。
いや、誰かだなんて白々しい。
これが俺と彼女とのファーストコンタクトだった。
愛夢:「うグっ……うゥ……」
仁:「……君、どうしたの?」
愛夢:「ぇ、んェ……?
…………
わ、わた、私……ですカ……?」
仁:「そう、君。」
愛夢:「……ぐズっ……え、えっと、その……か、家族が亡くなってしまいましテ……」
仁:「……あー……そういう、ことね……。
すまない、不躾だった。」
愛夢:「い、いえ……だいじょうぶ、でス……」
仁:「そう……。」
愛夢:「…………ぐズっ……うゥ……」
仁:「…………えーっと……とりあえず、ハンカチ、貸すよ。」
愛夢:「エ……?い、いいの、です、カ……?」
仁:「ああ、構わない。」
愛夢:「ありがどございまヅ……」
仁:「いえいえ。」
愛夢:「……い、いろいろ、と、ごめんなさい……と、あ、ありがとう、ございまス……
せ、先輩は、優しい、です、ネ……」
仁:「そんな事は無いよ。
ただ人として当たり前の事を、当たり前にやっただけださ。」
愛夢:「……その“人としての当たり前”、は、なかなか出来る事じゃないでス……
“余裕”、というモノがあってこその“当たり前”……で、
現代人、というのは須らく余裕が、無く、先輩の、言う当たり前、を成すのは
とっても難しく、す、すごい事……でス……
な、なので先輩は、優しく、て、凄い、でス……」
仁:「……。」
愛夢:「あ゛……す、すみませン。
私なんかが偉そうに先輩に講釈垂れるだなんて甚だ図々しいですよネヘヘ……ごめんなさイ……」
仁:「いや、そんな事は思ってないけど。
えーっと、俺の事、褒めてくれたんだよね。ありがとう。
……えっと、あー……俺は九世舍 仁(くぜやどり じん)。君の名前は?」
愛夢:「あ、あ、え、え、えっと詩喜薬 愛夢(しぎやく あむ)……でス……
そ、その、先輩の事は前々から、知っていましタ……有名人、なのデ……」
仁:「有名……?ああ、まぁ、確かに、そうだね……。
ま、それはどうでも良いよ。
とりあえず、よろしくねシギヤク。」
愛夢:「ひょえ……そ、その、きょうしゅく……で、ス……
え、っと……その、じゃ、私は、こ、これ、デ……」
仁:「うん。さようならシギヤク。」
(傘を差さずに走り出す愛夢)
仁:「えッ!!?シギヤク!!?傘は!?
土砂降りだぞ!!??風邪引くぞ!?冷めるぞッ!!?
シギヤク!!?シギヤクさァーん!!!!!」
愛夢:「か、かかかか顔が熱くて冷めたい気分なのデェ!!」
仁:「傘が無いなら貸すから!!
止まって!!!」
愛夢:「そう言うと思ってましたのでェー!!!」
仁:「言うだろ!!!
ちょっと!待って!!」
(愛夢、足が絡まり転びそうになる。)
愛夢:「うぉおぅおオ!ぉびャ!!」
仁:「ぉあっと!!危ない!!」
(仁、転ぶ寸前で愛夢を受け止める。)
愛夢:「ぁあ……え、えっト……」
仁:「ふぅ……大丈夫?」
愛夢:「は、はいぃ……だい、じょうぶ、でス……」
仁:「なら、良かったよ。
とにかく、傘無いなら貸すよ。」
愛夢:「えぇっと……あ、ありがとうございまス……
で、ですガ……」
仁:「ん?」
愛夢:「わ、私の所為なの、ですが、もう、先輩、も、私もずぶ濡れ、でス……」
仁:「………………………………本当だ。
何も考えずに追いかけてしまった……。」
愛夢:「うぅ、もうし、わけ、ありまぜン゛……」
仁:「気にすることは無いよ。
俺が勝手にシギヤクを追ってずぶ濡れになっただけさ。
そこに君が謝る余地は無い。」
愛夢:「……ァア……は、はィ……
……ヘ、ヘ、へくチっ!(くしゃみ)」
仁:「あ~……言わんこっちゃない……
んー……仕方が無い。シギヤク、とりあえず、俺の家近いから寄って行きなよ。」
愛夢:「んぇえッ!?そ、そんな、せ、先輩の、おうちだ、だなんテ……!」
仁:「このままじゃ風邪引いちゃうし、仕方ないよ。
安心してくれ。俺にそれ以外の他意は無い。」
愛夢:「う゛、うぅ……そう、真っ直ぐと曇り無き眼で言うだなんテ……さ、刺さります……視線ガ……」
仁:「あっ、すまない。」
愛夢:「あ、いエ。だ、だいじょうぶ、でス……
じ、じゃあ……その、厚顔無恥な事では、ある、と、思いますが、よ、よろしくお願いいたしまス……」
仁:「ああ、分かった。」
仁:これが、きっかけだった。
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~朝、寝室~
仁:そして再び、今。
愛夢:「すゥ……すゥ……(寝息)」
仁:「……アム……アム……朝だよ。
このままじゃ大学遅刻しちゃうよ。」
愛夢:「…………ン……ん~…………ふぁア~~……
……おはようございまス……ジンくン……」
仁:「うん、おはよう。」
愛夢:「えへヘ///……おはようございまス……おはようございまス……
……アっ、」
仁:「ん?どうしたんだアム。」
愛夢:「その目……」
仁:「……ああ、これか。
別に失明してないから大丈夫だよ。」
愛夢:「まタ……私、やっちゃったのですネ……
ごめんなさィ……ジンくン……」
仁:「大丈夫だ。問題無い。
いつもの事じゃないか。アムが気にすることは無いよ。」
(仁、愛夢を抱きしめる。)
愛夢:「はゥ……あ、ありがとう……ございまス……」
仁:「……。
アムは……どうだった?」
愛夢:「…………。
キヒっ♡キィヒヒヒヒィハハハッ!!
とっても楽しくテ!気持ち良かったでス!!!
ジンくン!大好きッでス!!!」
仁:「そうか。それは良かったよ。」
仁:彼女と共に居ると痛みを伴う。物理的に。
俺は彼女に愛されている。愛されているが故に傷つけられる。
アムは嗜虐性愛者、つまりサディスト。真正の、真性のサディストだった。
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仁:去年の話の続き。
~夕方、リビング~
愛夢:「わワ……ひ、広いお部屋……」
仁:「上がったかシギヤク。」
愛夢:「ア……はイ……えっと、お、お風呂、ありがとうございまス……
とても、広くて……温かくて、き、気持ち良かったでス……」
仁:「そっか、それは良かった。
珈琲淹れたけど飲む?」
愛夢:「アッ……えっと、い、頂きまス……
へへヘ……あたたかイ……」
仁:「……。
ミルクと砂糖はいる?」
愛夢:「……ア、だ、だいじょうぶ、でス…………
えっと、先輩、何から何まで、あ、ありがとうございまス……」
仁:「いえいえ。
……服は流石に大きすぎたか。
すまないね、俺の服しか無くて。」
愛夢:「いッ、いえいエ!滅相もございませン……!
お風呂も使わせていただいた上に珈琲を馳走に預かり、
その上にお洋服までお貸しして頂いている身で文句などございませン……!
本当に、本当に、ありがとうございまス……!」
仁:「あっははは……そんな大袈裟な。
……でも、本当に良かったよ。泣き止んだみたいで。」
愛夢:「エ……あ、本当ダ……涙が引いてまス……」
仁:「それは良かった。」
愛夢:「…………
その、先輩、は、何故こんなに、わ、私に、良くしてくれるんですカ……?」
仁:「何故……か。
……。
特に理由は無いよ。まぁ、敢えて言うのであれば当たり前の事をしただけさ。
人が泣いてたら、困ってたら、手を差し伸べる。
俺にとっては当たり前の事で、当たり前で無ければならない事なんだ。
だから、“何故(なにゆえ)か”を問われたら理由は無いとしか答えられない、かな。」
愛夢:「…………なる、ほド……。
まるで、“無償の愛”故、の、行動です、ネ……。」
仁:「……アガペー……か。
フッ……そんな大層なモノじゃないよ。
自己満足さ。俺に恩を感じる必要は無い。」
愛夢:「だとしてモ!」
(愛夢、立ち上がる。)
仁:「……?」
愛夢:「……だとしてモ……!わたし……ハ!ハンカチも、お風呂も、珈琲も、お洋服、モ!
嬉しかった、でス!
なので、ありがとう、ございまス……!」
仁:「……ふふ、君はさっきから感謝してばかりだね。」
愛夢:「エッ、あ、え、あ、え、えっと、その、えー……ご、ごめんなさィ……」
仁:「えっ、いやいや謝る事は無いよ。
なんか人に感謝されるの久々だなと感じただけで、別に不快とかじゃないから。」
愛夢:「あっ、な、なら良かったでス……」
仁:「うん、ありがとうシギヤク。
感謝の言葉をたくさんくれて、嬉しいよ。」
愛夢:「……えへへヘ…………。」
仁:「あ、そういえば……
今言うのもなんだけど、家族が亡くなられたんだよね。
その、行かなくて良いの?」
愛夢:「……はイ。だいじょうぶ、でス
亡くなった、のは、一週間前、でしテ……
さっきは、ただ、思い出して、泣いちゃってただけなのデ……」
仁:「ああ、そうなんだ……。
俺にはちょっとよく分からない涙だけど、まぁ、うん、その気持ちは大事にすると良いよ。」
愛夢:「そ、そういえば、先輩、も、家族がいらっしゃらない、の、でしたネ……
えへヘ……私、仲間入り、し、しちゃいましタ……///
……ア゛ァ゛……フキンシンガスギマシタゴメンナサィ……」
仁:「いや大丈夫。
……そうなのか。シギヤクも……じゃ、お互い頑張ろうね。」
愛夢:「は、はイ……!
そ、その、先輩……」
仁:「ん?」
愛夢:「先輩、が……困った、り、した時、は、わたッ、私、力になりまス……!
私、程度に、何が出来るか、は……分からないですけド……」
仁:「……フフ、ありがとうシギヤク。」
愛夢:「ェア///
じゃ、じゃぁ、私はこれで、帰ります……ネ……
色々とありがとうございましタ」
仁:「ああ。」
(愛夢、玄関の扉を開ける。)
愛夢:「…………ピァ???」
仁:「……うわ、雨だけじゃなくて風も凄い……」
愛夢:「アッ、アッ、アッ、エ、エ、エット、デ、デハ、アラタメテ、サヨウナラデス、
ワ、ワタシガ、イ、イキテタ、ラ、マタアイマショウゥ……」
仁:「いやいや!この気象状況で帰すわけないだろ!!
行くなシギヤク!今日は泊っていけ!!死ぬぞ!!!」
愛夢:「スゥーーーーーーーーーー……さ、流石に、素直に、御厚意に、あ、預かりまスゥ……」
仁:この選択が俺と彼女の関係に楔を打ち込む事となった。
夜、彼女は豹変した。
おどおどとした自信の無い姿は無く、
俺の苦悶の表情と呻き声に熱っぽい息を吐き、頬を赤らめ恍惚とした獣が居た。
~夜、寝室~
仁:「……しッ、シギヤク……ッ」
愛夢:「うふふフゥ♡
……せぇんぱぁイ……好キ……好キ……好きでス……」
仁:「ハァ……ハァ……どうしたんだ……急に……」
愛夢:「愛してまス……愛してまス……愛してまスゥ……♡」
(愛夢、仁に馬乗りになりカッターで仁を切りつけ続ける。)
仁:「あ゛ぁ゛……!があ゛……ッ!
しッ、シギヤクッ!シギヤクッ!!」
(仁、カッターを持つ方の腕を掴んで愛夢を押し倒す。)
愛夢:「ァがっ……んァ……はぁはぁはぁはァ……
……………………
せ、ん、ぱ……イ……?」
仁:「お、落ち着いた、か……シギヤク……」
愛夢:「…………。
ッ!
……ア……あア……わ、わた、私……まッ、まタ……
ごッ、ごめんなさイごめんなさイごめんなさイごめんなさイごめんなさイめんなさイごめんなさイごめんなさイごめんなさイごめんなさイごめんなさイ!!」
仁:「シギヤク!落ち着いて!!俺はッ、大丈夫だからッ!!」(ごめんなさイ連呼を気にせずに被せる。)
愛夢:「大丈夫、な、ワケない、じゃないですカ……!
私、の、所為で先輩ガ……!!」
仁:「大丈夫だから……シギヤク、自分を責めるな……」
愛夢:「……せん、ぱイ……貴方は何故……」
仁:「そんなことより、さっきのはなんだったの?
シギヤクは、“また”って言ってたけど。」
愛夢:「…………そ、その……わ、私……気持ちが昂る、と……
人を、その、傷つけたく、なっちゃうんでス……
……そ、それが……ィヒ……堪らなく、気持ちよくテエェ……」
仁:「………………なるほど……加虐性……いや、これはどちらかと言えば嗜虐性……か。」
愛夢:「んェ……?」
仁:「パラフィリアの一つ、嗜虐性愛、つまりサディズムってやつだよ。
シギヤクのその性質は嗜虐性愛だと思う。」
愛夢:「しぎゃく、せい、あイ……」
仁:「……そうと分かれば何も問題無い。
シギヤク、落ち着いたかい?」
愛夢:「エ、あ、は、はイ……落ち着き、まし、タ……
って、そうではなク!先輩ッ、何が大丈夫で、何が問題無い、んですカ……?
だ、だいじょばないですし、問題大有りだと思うのですガ……」
仁:「……シギヤクの嗜虐性に君自身が葛藤しているのはさっきのでなんとなく分かった。
そして、シギヤクの引っ込み思案な性格は嗜虐性を抑え込んでいるが故の弊害だと思われる。」
愛夢:「……え、えっト……な、何故私が引っ込み思案だと、分かったのでス……?」
仁:「……………………見ればわかるけど。」
愛夢:「あゥ……」
仁:「……君は、一人だ。」
愛夢:「…………」
仁:「家族が居なくなり、独りになったシギヤクの嗜虐性を抑え込み続けるのは多分、無理だと思う。
なんとなく、そんな気がする。
だからこのままだとシギヤクは抑え込み過ぎるか、はたまた溢れ出すかしていつか破裂し、自滅し終わる。」
愛夢:「…………良いんでス……それデ……私なんか……いエ、私、にはお似合い、の終わり方、でス……」
仁:「良くない。」
愛夢:「エ……?」
仁:「俺も、一人なんだ。」
愛夢:「……せんぱイ……?」
仁:「袖振り合うも他生の縁、乗り掛かった舟、だ。
……君のその性(さが)に悩んでいるのなら、俺が助けになる。」
愛夢:「な、なんデ……」
仁:「シギヤクが言ってくれたじゃないか。
俺が困ったときは君が力になってくれるって。
だから俺も、シギヤクが悩んでいるなら力になりたいんだ。」
愛夢:「…………」
愛夢:その時、私は気付きましタ
先輩は、ジンくんはおかしい人なんだト
その在り方はアガペーでは無ク……自己犠牲というよりは自己排斥、他者救済の愛
私は……知っていル
愛夢:「せん、ぱイ……」
(愛夢、仁を抱きしめる。)
仁:「えっ……シギヤク……?」
愛夢:「はイ……よろしく、お願いしまス……
い、一緒に、生きましょウ……じ、じ、じ、ジン、くン……」
仁:「…………うん、アム。」
愛夢:家族が居なくて独りなジンくんの在り方はその内、廻り続ける事が出来なくなル
間違いなク、そうなル
だかラ、このままだとジンくんは自滅して終わル
……だかラ——
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
愛夢:だかラ、決めましタ
私ハ、貴方を愛すル、ト……
愛夢:これは、半年後くらいのできごト
愛夢:「傷、増えましたネ……」
仁:「……そうだね。でも気にする事は無いよ。アム。」
(仁、愛夢を抱きしめる。)
愛夢:「あゥ……じ、ジンくん、は、いつもそうやっテ……」
仁:「嫌かい?」
愛夢:「いいェ……とっても、好きでス……ジンくんに抱きしめられる、ノ……」
(愛夢、仁の傷に触れる。)
愛夢:「……かさぶタ」
仁:「だから、気にしなくて——」
愛夢:「ヒヘヘッ……」
仁:「……?」
愛夢:「こ、このゴツゴツした感ジ……好キ……でス……
“嗚呼、こレ、私がやったんダァ……”って、イヒヒッ、私の“愛した事実”が形として残っているようデ……へへヘッ!」
仁:「……そうなんだ。」
愛夢:「この切り傷モ……この青あざモ……この鬱血痕モ……!!
ぜんブ、ぜんブ!イヒヒャハハハハ!!!!!
ジンくんから香る湿布薬モォ……うふふフ!!
ぜぇんブ……好きですヨ……イヒヒヒつ!」
仁:「ははは……こんなみっともない姿も愛してくれるなんて、アムだけだよ。」
愛夢:「ふふふふふふふふふふふフ!
ねエ!ジンくン!
今日モ、ひヒっ、お願い、しまスゥ……♡」
(愛夢、仁に跨る。)
仁:「ああ……あがッ——(首を絞められる。)」
愛夢:「へへヘ!苦しそウ!苦しそウ!!
あひゃひゃひゃヒャっ!!
苦しそうなジンくんも……とてもす、素敵でスゥ……♡
首絞める、の、は、初めてでしたネうふふふふフぅ!
あははははハ、ハァあアぁ……♡
すキ……♡
すキ……っ♡
すキ……!♡
すキっ!♡
あいしてルッ!!!♡」
仁:「あ゛あ゛ッ……がッ……アッア゛ァ゛ッ……!」
愛夢:「クケケ!!ジンくン!好キ!好キ!好キっ!!うぐァっ——(首を絞められる。)
あガ……あぐぁあア……ア……ア……♡」
仁:「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!」
愛夢:初めテ……初めてジンくんにやり返されタ
初めテ、殺意を向けられタ
ジンくんの大きくてゴツゴツしてて綺麗な手ガ、私の首を絞めようト……いヤぁ♡、折ろうト!!
仁:「はぁ……!はぁ……!!ハァ……ッ!!!」
愛夢:じ、ジンくン、の、目……ギラギラ!、してて……きれイ……ッ!
ひヒっ、ひへぁははハっ!!ェアハハハハハッ!!!
くるしイ……くるしィ……くるしイィ……♡
愛夢:「ぐ……く゛る゛し゛イ゛ィ゛……♡」
仁:「……はっ!」
(仁、我に返り愛夢を離す。愛夢、その場に倒れ込む。)
愛夢:「あ゛ウ゛……けホっ……けホけホっ……」
仁:「……………………(脳が自分の行動を理解するまで茫然とする。)
っ!アム、アム!!
……だ……大丈夫……?」
(仁、愛夢を抱き上げる。)
愛夢:「ヒュー……ヒュー……ヒュー……ヒュー……(呼吸)
……だ、だいじょうぶ、でス……
え、えへヘ……じん、くン、なかなか、しげき、てき、です、ネ……」
仁:「……すっ、すまないアム……か、身体が……勝手に、動いて……」
愛夢:「いえいエ……おきに、なさらズ……
わ、わたし、が、いつもやってること、ですシ……
たま、には、こういうのモ……いいです、ネ……♡
どーぱみン、どばどバぁ……でしタ……♡
へへヘ……へへヘ……♡」
仁:「…………アム?」
愛夢:苦しかっタ、怖かっタ、死ぬかと思っタ
けれド、それと同じくらイ……
楽しかっタ……嬉しかっタ…………気持ち良かっタァ……♡
酸素が供給されなくなっていく感覚ガ、
電撃が流れてニューロンが焼き切れた様な感覚ガ、
……殺意に満ちたジンくんの手の圧迫感ガぁ……!
仁:「アム……本当に大丈夫……?
な、なんだかさっきからぼーっとしてるけれど……」
愛夢:ジンくんの優しい声……これが、さっきまで……ぐひヒっ、ひヒ!
あんなに荒々しク、私を殺そう、としてタ……えへヘ!!♡
思い出しただけで笑みが零れそうになル
いけなイ……ジンくんが心配してくれてるのニ……
…………さっきまデ……♡
(愛夢、自分の首を手でなぞる。)
愛夢:「……ア……手の、痕……」
仁:「……ああ、鬱血しちゃったね……ごめんねアム……」
愛夢:「…………いいエ……いいエ……!
ジンくんが謝る事、は、無い、でス……♡
……!
じ、ジンくンジンくン」
仁:「どうしたの?アム?」
愛夢:「ジンくん、モ、首に、痕、付いてまス♡
えへへヘ……!お、おそろイ、ですネ!!」
仁:「…………ははは……恐ろしいお揃いだね。」
愛夢:「ア、そうダ
ジンくン、首輪、買いませんカ?お揃いノ!」
仁:「く、首輪……?ああ、チョーカーか。
良いよ。今日買いに行こうか。」
愛夢:「は、はイ!
ふフ……イヒヒヒっ♡」
愛夢:“ジンくんはおかしイ”
たぶン、これは間違ってなイ
けれド、“完全”におかしいワケじゃなイ
だからこそジンくんは抵抗をしタ
ジンくんの普通ヲ、たぶん初めて感じタ
それも、嬉しかっタ
愛夢:「ジンくン……」
(愛夢、仁の手を握る。)
仁:「ん?」
愛夢:正直、私はジンくんにあまり人間味を感じていなかっタ
何処カ、別の世界の人のようナ……
だけどそうじゃなかっタ
ジンくんも私と同ジ、人間だっタ
それがたまらなく嬉しくテ、愛おしかっタ
仁:「どうしたんだアム?」
愛夢:最初は彼に壊れて欲しくなイ、という思いで彼を愛そうと思っタ
けれど今ハ、今は違ウ
純粋にジンくんが愛おしイ
おかしくテ、無理をしているジンくんガ……
私がジンくんを壊したイ
それと同じくらイ……私はジンくんに壊されたイ♡
自覚……しましタぁ♡
愛夢:「うっふっふっフぅ♡」
仁:「……?」
愛夢:だかラ——
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~夜、寝室~
仁:そして再び、今。
(愛夢、仁を抱きしめている。)
愛夢:「——愛してまス……ジンくン……」
仁:「俺もだよアム。
……。
アム、今日は一段と良い香りがするね。」
愛夢:「えッ、えへへヘェ……じ、実は、お、お友達、の、ゆきなちゃんニ……
ねりこうすい、というモノを、頂いたの、でス……
は、はちみつの香リ……ジンくん、好き、だかラ……」
仁:「うん、好きだね。
アムは俺の好きなもの、なんでも知ってるね。」
愛夢:「ぁあ゛ゥウ……はイィ……ジンくんの事、好き、だかラ……ジンくんの好きなモノ、も、好き、でス……
あ、あの、ジンくん、め、目は、どう、ですカ……?」
仁:「ん?ああ、もう大丈夫だよ。」
愛夢:「……はァ、よ、良かったでス……
いつも、ありがとうございまス……ジンくン」
仁:「うん。
今日は大丈夫かな?」
愛夢:「…………………………ヒヒッ……ヘヒァア!♡
ごめんなさいジンくン!♡今日モ、少し高揚しちゃってまス……!♡」
仁:「そっか。じゃあ、今日もやろうか。」
愛夢:「イヒヒッ!!!ありがとうございまス!ジンくン!!
愛してまス!!好きでス!大好キ!!」
仁:「ありがとう。アム。俺も大好きだよ。」
仁:今日の痛みは幾分か、甘かった。
~真夜中、寝室~
愛夢:「すゥ……すゥ……」
仁:「……。」
(仁、眠る愛夢の頭を優しく撫でる。)
愛夢:「……んン……ふふフ……」
仁:……いつからだろう。
この痛みも、ギラギラした君の目も、愛おしく感じる様になったのは。
仁:「……。」
愛夢:「……ジン……くン……」
仁:「…………フフ、一番好きなのは君の安らぐその顔……かな。
おやすみ。アム。」
(仁、愛夢の首筋に口づけをする。)
愛夢:「……えヘ……えへヘ……」
(暗転)
───────────────────────────────────────
END