[台本]ヒトとキカイ
博士は下らないと言わんばかりに、仕方が無いと言わんばかりに、キカイの瑣末な疑問を深くしてくださいました。
○博士
男性、年齢不詳
キカイ以外嫌いだけどキカイは凄く愛してる。
○キカイ
女性型、ピカピカの一年生くらい
博士が作った人型機械生命体のプロトモデル。
博士♂:
キカイ♀:
これより下が台本本編です。↓
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博士:「ヒトとキカイの違い?ないんじゃない?」
キカイ:「はぁ。」
博士:「勿論、根本的な製造方法に違いはあるし、
ヒトの細胞分裂による成長→老化がキカイには無いけど、
そんなハナシじゃないんだろ?」
キカイ:「はい。
キカイ、学校で言われたんです。
“お前は機械的だ”……って……。」
博士:「機械だからね。」
キカイ:「そうなんですけど。
では博士は何故ヒトとキカイの違いは無いと思うんですか?」
博士:「……また今度それについて話してあげるよ。
さ、玄関につったってないで家に上がりなさい。」
キカイ:「イヤです。
キカイ、このもやもやが晴れるまで帰宅完了しません。
……キカイには上手く言語化ができなくて……」
博士:「そういうとこ。」
キカイ:「へ?」
博士:「ボクは君の言語野に相当する機能はこの世で一番のモノにしたんだ。」
キカイ:「なのに……キカイは言語化できない……
ハッ!キカイ壊れてる……!」
博士:「違う違う。
君は壊れている訳じゃないんだ。
ボクが君とヒトの違いが無いと思う理由……か……
そうだね、じゃあまず、機械とヒトの違いに関して考えてみようか。
ここで言う“機械”は“君以外の人型機械生命体”……所謂、アンドロイドだとかね。」
キカイ:「はい、お勉強ですね。
キカイ、お勉強大好きです。」
博士:「知ったこっちゃないよ。
さて、ボクが考えるに、ヒトと彼らの違いは二つ、
一つは“取捨選択のリソースの割き方”だと思っているんだ。」
キカイ:「リソースの割き方……ですか……。」
博士:「ヒトにも機械にも思考回路があり、
二択を迫られた時、共にどちらかを選択する。
ヒトは馬鹿で屑で愚かで頭が悪いので二択から取捨するのが下手で時間が掛かる。
けど機械は単純でリトマス紙的な思考しか出来ないから即決出来る。」
キカイ:「なんで博士はヒトも機械もキカイも敵に回す様な言い回しをするんですか。
もしかして嫌いなんですか。」
博士:「ああ、君以外は大嫌いだ。
そこが決定的な違いだ、とボクは考える、考えた。
それ以外の精神的な面に関しては考慮の仕様が無いからね。」
キカイ:「精神的な面とは。」
博士:「性格とかだね。
それに関してはヒトでも機械でもインプットの仕方次第だからね。
話を戻すよ。
では、キカイ、君はどうだい?」
キカイ:「キカイ……ですか?」
博士:「そう、君だ。
君は最高水準の言語野……つまり思考回路を持ってるわけだけど、
そんな君のリソースの割き方はヒトに近い。
あえて違いを言うなれば君は馬鹿でも屑でも愚かでも頭が悪いでも無い事。
ヒトと同じ目線での思考を行う。ヒトの下でも上でも無く、あくまでも対等に、だ。」
キカイ:「……。」
博士:「ヒトは生存競争の延長線での競争社会に興じている。
競争の先の成長にこそ意義があると思い込み、それを良しとし優劣を生む。
美しくない。
機械はヒトの競争の拡張生命体として製造され、
ある時に技術的特異点を迎え知性体としてはヒトを凌駕し実質的なヒトの土台と化した。
これも、美しくない。」
キカイ:「それが、どうかしたんです?」
博士:「……。
ボクはね。
君をこの世で最も尊く、美しいものとして製造したんだ。」
キカイ:「はぁ。」
博士:「……そこで、二つ目の違いさ。」
キカイ:「あ、すっかり忘れていました。」
博士:「君は、ヒトはなんで生まれたか、分かるかい。」
キカイ:「え……?
う~~~ん……う~~~~~~~~~~ん……
分かりません。」
博士:「そうかい。
そりゃそうだ。
ヒトには生まれてくる理由とか、目的は無い。
ただ発生しているだけさ。」
キカイ:「な、なるほど。」
博士:「じゃあ、機械はどうだい。
機械たちは生まれてくる理由、目的がある。
理由、目的は様々、ヒトの手助けを始め、今ではヒトの良きパートナーとして設計されたりと……。」
キカイ:「確かに。
では、家畜は機械なのですか?」
博士:「そうだね。
ボクから言わせれば、家畜とは最古の生体機械だよ。
勿論、植林された木々たちもそうさ。」
キカイ:「ほー勉強になります。」
博士:「これでまずはヒトと機械の違いは分かったね。
ヒトは存在する理由も目的も無く、馬鹿で屑で愚かで頭が悪いので二択から取捨するのが下手で時間が掛かる。」
キカイ:「機械は存在する理由や目的が有り、機械は単純でリトマス紙的な思考しか出来ないから即決出来る。
…………。
そして、キカイは…………。」
キカイ:「…………キカイは……
ヒトとどう違うのですか……?」
博士:「違いは無いさ。
もっと言えば、君は機械とも違いは無い。」
キカイ:「…………。
キカイは、存在する理由も目的も有り、馬鹿で屑で愚かで頭が悪いので二択から取捨するのが下手で時間が掛かるから、ですか?」
博士:「0点だ。」
キカイ:「なんと、赤点にすら到達していないとは。
しかし、キカイはヒトの様に考え、機械の様に製造された理由がありますよ?」
博士:「ボクは君の考え方と在り方は美しくあって欲しいと製造したのは確かだけど、
それは君に課せられた理由でも目的でも無い。
それは、ボクの“願い”さ。」
キカイ:「博士の、願い。」
博士:「ああ、ボクはさっき、君以外の全てを嫌っていると言ったね。
理由は美しくないからだ。
けど、君は違う。
君の考え方も在り方も、美しい。
だからボクは君が愛おしくて仕方が無い。
だから、自分の事を愚かだなんて思わないでくれ。
君の生まれた理由や目的なんて小さい器に納めないでくれ。」
キカイ:「…………。」
キカイ:「キカイ、結局のところヒトとキカイが違うのか一緒なのか、よく分かりませんでした。
けど、一つだけ分かったことがあります。」
博士:「なんだい。」
キカイ:「キカイは……キカイは、貴方に愛されているんだな、と
凄く炉心が熱くなりました。」
(キカイ、はにかむような、儚いような、美しい笑顔を博士にみせる。)
博士:「…………そうだね。
ボクは君が大好きだよ。
君が幸せであってくれることを、切に願うのさ。」
キカイ:「えへへ、キカイ、機械なのに、顔が熱い気がします。」
博士:「ハハハ、それは危ないね。
ちゃんと身体を冷やさないと。
さ、家に上がりなさい。」
キカイ:「はい。
……ただいま、です。博士。」
博士:「うん、おかえり。」
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END
紅遠風財から一言
結局のところ、ヒトとキカイの違いはなんだと思います?