[台本]緩々百合心中(ゆるゆるゆりしんじゅう)
登場人物
○糸女 輝美(いとめ きみ)
19歳、女性
大人しくしてた恋する乙女。
○冬台 輝美(ふゆうてな てるみ)
19歳、女性
一人しか見てない関西弁少女
糸女 輝美♀:
冬台 輝美♀:
※事前に最後部分を読んで流れを打ち合わせしておく事をオススメします。
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きみ:「……月が綺麗…………。」
てるみ:「……?なんや?口説いてんのか?」
きみ:「……ちーがーいーまーすぅー……。
…………。」
てるみ:「……どしたん?もしかして怖くなったん?」
きみ:「うん、怖くなっちゃった。てるみちゃんはそんなことない?」
てるみ:「ううん。うちも怖くなってきた。」
きみ:「……だよね。」
てるみ:「やっぱやめとくか?」
きみ:「ううん。だって、仕方ないもん。」
てるみ:「そやね~……ホンマにいややわぁー」
きみ:「別に悪いことしてる訳じゃないんだけどなぁー」
てるみ:「そやねー。でも、今はまだそういう世の中やから。しゃーないわ。」
きみ:「……フフフ、"まだ"っててるみちゃんはそのうち大丈夫になるって思ってるの?」
てるみ:「うむ。思うとるで。
世の中の情勢というか、流れというか、まぁ、いつかは生きやすくなると思うとる。」
きみ:「へぇー……好意的なんだね。」
てるみ:「ま、そういう性格やから。」
きみ:「じゃあ。やめとく?」
てるみ:「……んにゃ。それとこれとは別や。
ウチはきみが居ない世界でわざわざ生きて行こうとは思わん。」
きみ:「……そっか。」
てるみ:「そうや。」
きみ:「じゃあ……本当に死ぬんだね。私たち。」
てるみ:「……せやで。」
きみ:「…………ねぇ、てるみちゃん。
死ぬ前にさ、お話しようよ。」
てるみ:「……ええで。」
きみ:「なんで死に方コレにしたの?」
てるみ:「転落死?」
きみ:「そう。」
てるみ:「ん~~~まぁ、高い所からぴょーんと飛べばもう終わりやからかな~。」
きみ:「な、なるほど……」
てるみ:「話によれば落ちとる時気絶するらしいし、まぁ、楽なんかなぁ思うて。
この高さならまぁ、死ぬやろうし。」
きみ:「そうだね。ここから落ちて生きてるなんてことはないだろうね。」
てるみ:「ま、無くは無いやろうけど、無いやろうなぁ。」
きみ:「だよねー。
……。」
てるみ:「……。」
きみ:「……。」
てるみ:「いや、話終わりかい!」
きみ:「いてっ!チョップしなくても良いじゃーん。」
てるみ:「こんなんチョップなんて言わんよ。
他には無いんか?話しておきたい事。」
きみ:「あ、あるけど。なんというか。
言葉がまとまらないというか、沢山あって何から言えば良いのか……
ほら、私頭悪いからさ。」
てるみ:「あぁ、めっちゃ阿保やな。」
きみ:「ちょっと!」
てるみ:「やかましなー自分で言うたんやろが。
じゃあ、ウチからなんか話題出しちゃるか。
…………。
これからの話しようや。」
きみ:「え?」
てるみ:「ウチらが死んでから、それからの話。」
きみ:「……それは、私たちが死んで、それ以降の世界の話?」
てるみ:「まぁ、それでもええけど。
それより、ウチらの話しようや。」
きみ:「?」
てるみ:「“転生”って考え方知っとる?」
きみ:「てんせい?」
てるみ:「そう、転生や。
色んな宗教とか考え方であるんやけど、
死んだ後、その魂が人だったり犬だったり虫だったりに新たに生まれる。
要は“生命は生まれ変わる”って考えや。」
きみ:「生まれ変わる……」
てるみ:「まぁ、ウチは別に何か信じてるってワケやないけど……
キミは、生まれ変わったら何になりたい?
それが、ウチらのこれからの話や。」
きみ:「そっか……
うーん……迷うな~……
猫に生まれ変わって気ままに過ごしてみたいし、
鳥になって大空を飛び回ってみたいかも~~~
あ、魚も良いな~~~!」
てるみ:「ははは、きみは色々なりたいモンあるんやな~」
きみ:「勿論!
あ、でもでも、何に生まれ変わってもてるみちゃんと一緒になりたいなー」
てるみ:「……フっ、やっぱ口説いとる?」
きみ:「今回はそうかも。」
てるみ:「そか。
なんでウチと一緒が良いん?」
きみ:「それはもちろん、てるみちゃんが好きだからだよ。」
てるみ:「照れ臭いわ~」
きみ:「ふふふ……てるみちゃんは何に生まれ変わりたいの?」
てるみ:「んー……なんやろなー……自分から振っといてなんやけどマジで思いつかん。」
きみ:「えぇー何それー」
てるみ:「ま。ウチもきみが隣に居たら嬉しいやろなー」
きみ:「えへへ。嬉しい。
…………もしも、互いに別々の性別に生まれてたら、
普通に受け入れられて、普通に付き合えて、普通に一緒に居れたのかな。」
てるみ:「……どうやろうなぁ。なんとも言えんわ。」
きみ:「…………生まれ変わるなら!また女の子が良いなー!」
てるみ:「えぇーまた女の子するん?ウチ男に生まれてみたいけどなー」
きみ:「じゃあ、カップル成立だね!」
てるみ:「フッ、まぁ、そやけど。
きみとウチが会う前に別の男の子好きになるんやないの?」
きみ:「そんな事無いよー
現に、そんな事無かったし。」
てるみ:「そっか。」
きみ:「……てるみちゃんは、男の子に生まれたら何したいの?」
てるみ:「そうやなーウチってバスケ部やったやん?」
きみ:「そうだね。去年の夏も格好良かったよ!
試合終了間際に決めたスリーポイントは痺れたよ!!
ぴゅーん!スポーンッ!ワァーーーーッ!って!!」
てるみ:「ははは……ま、その次の試合で負けたんやけど……
まぁ、バスケに限らんけど、スポーツって何かと背が高いと得なんよ。
んでウチ今175㎝くらいやけど、まだまだ足らんかったんよね~」
きみ:「女の子で170㎝以上って高いけどな~」
てるみ:「ウチも高いつもりでおるよ。
でももっと身長欲しいからなー
それに、男と女じゃ筋肉量の差とか色々あるし、
そういうので理不尽を感じたことあるから、男になって男子らに勝ちたいわ。」
きみ:「あぁーそれも良いねー
じゃあ私も男の子になりたいなー」
てるみ:「じゃあ、来世は男の子同士カップルやな。」
きみ:「キャー!一部のお姉さまに需要が!」
てるみ:「で、きみは男になってどうするん?
運動能力ゲボカスやん。」
きみ:「なっ!失礼な!そ、そんなこと……あるようなー……ないようなー……」
てるみ:「あるで。」
きみ:「くッ!」
てるみ:「で、何したいん?」
きみ:「えーっとねぇー牛丼屋さんとかに一人で入って特盛頼みたい!」
てるみ:「…………。」
きみ:「ふふ~~!」
てるみ:「別に女の子で入ってもええやろ。」
きみ:「いやだって!なんか、ちょっと、ほら……ね?」
てるみ:「情報量0で同意求められても困るんやけど。」
きみ:「だからー!恥ずかしいの!私は!恥ずかしいの!」
てるみ:「さよか。
にしても、男のきみか~……ま、それでも可愛いんやろな~」
きみ:「えっ、ちょっ、ちょっと、え~っと……いやいや!
男の子に生まれたらやっぱり格好良いって言われたいよ!」
てるみ:「じゃあきみが男に生まれたらカッコえぇ言われるためにどんな努力するん?」
きみ:「え……?えーっと……毎日筋トレ……とか?」
てるみ:「安直やんな~」
きみ:「むっ、じゃあてるみちゃんだったらどうするの?」
てるみ:「男の鍛錬は“飯食って映画見て寝る”で十分らしいで。
やからウチもそうするー」
きみ:「そんな自堕落な生活したらお腹も二の腕もたぷんたぷんになっちゃうよ?」
てるみ:「ならへんよ。だって、ウチやから。」
きみ:「そんなキメ顔で言っても説得力無いよー」
てるみ:「はっはっはっは!」
きみ:「笑って誤魔化さないでー!
まぁ、でも、そんなんでもてるみちゃんは格好良いんだろうね。」
てるみ:「当たり前やろ。
今もめちゃくちゃカッコえぇやろ?」
きみ:「そうだね。
そんなてるみちゃんの格好良い所に私は惹かれたんだもん。」
てるみ:「そんなわざわざ言葉にせんでもえぇよ。」
きみ:「ううん。言葉にしなきゃ。もう、言えないかもしれないんだから。」
てるみ:「そうかもしれんけど……気恥ずかしいわ~」
きみ:「えへへ。照れるてるみちゃん可愛い。
あ。」
てるみ:「ん?どうしたん。」
きみ:「もしかしたら、私たち双子とか兄弟姉妹で生まれるかも!」
てるみ:「?
なんでなん?」
きみ:「ほら、よく私たち言われてたじゃない。
“あれ?どっちがてるみさんで、どっちがきみさんだっけ?”って!
私少しあの下り好きだったの!
なんだか双子みたいな感じがあって!」
てるみ:「あーなるほどー
ウチら名前の漢字一緒やもんな。
いや~割かし不便したわ~
顔は全然似てへんのに異音同名(いおんどうめい)だったせいでよく言われとったなぁ~
おもろかったけど。」
きみ:「そうだね~
じゃあ、生まれ変わったら双子かもね。」
てるみ:「もしかしたら同じ人かも知れへんよ?」
きみ:「え……?
……えーっと……二重人格ぅ~的な?」
てるみ:「ま、そんな感じやな~
人って多面的な生き物やからさ、
一人の人間の中に全然違う性格というか、性質を持った面ってのがあるもんなんよ。」
きみ:「な、なるほど?」
てるみ:「例えばやけど、怒りんぼな人って常に怒ってるって事は無くて、
盆栽がすきーとか日向ぼっこがすきーみたいな落ち着いた面が
あったりするやん。」
きみ:「あっ!ギャップって事?」
てるみ:「そうやなそんな感じかな。
やから一人の中にきみみたいな面やウチみたいな面が内包した人間に
生まれるかもって事。」
きみ:「あー…………でも、それは嫌だなぁー」
てるみ:「え?なんでなん?」
きみ:「確かに、てるみちゃんと一緒に居たいって思うけど
それでも、一緒は一緒でも隣に居て欲しいかな。」
てるみ:「…………そか。
ま、自分の中にきみみたいな鈍臭い面があったら
イライラして自分殺してまうかもやからウチもそれで良いかもな。」
きみ:「こわっ……
というか、私てるみちゃんをイライラさせてた……?」
てるみ:「んー?
あーすまんすまん。そういう事やないで。
ウチ自身はなるべくスピーディでありたいってだけや。
別にきみの歩く速さ遅すぎてイライラしたりとかなかったで。」
きみ:「えぇ……その言い方どっちか分かんないんだけど。」
てるみ:「まぁまぁ、細かいことは気にせんでええよー」
きみ:「こ、こわいなー……」
てるみ:「はははっ、ま、結果としてウチはきみの事大好きやから、安心せぇよ。」
きみ:「な、なら良いのかな……?
……ねぇ。」
てるみ:「なん?」
きみ:「次も女の子同士で生まれたらどうする?」
てるみ:「………………。
……また、きみに出会って、きみに恋をして、きみと付き合って……
次こそはきみと末永く平和に生きていく……かな~」
きみ:「嬉しい。
それに、やっぱり好意的なんだね。」
てるみ:「言うたやろ?そういう性格やから。」
きみ:「ふふふ……”言うたね”。」
てるみ:「ウチは変わらんよ。いままでも、多分、これからも。」
きみ:「やっぱりてるみちゃんは格好良いね。」
てるみ:「せやろ。
…………きみ。」
きみ:「なに?」
てるみ:「ホントに良かったん?」
きみ:「……何が?」
てるみ:「ウチの話に乗って、これから死ぬって事。」
きみ:「あぁー……何度も聞くね。」
てるみ:「何度も聞くで。けど、これが最後や。」
きみ:「そっか。
……うん。良いよ。
そもそも、死にたいって言いだしたのは私だし。」
てるみ:「……。」
きみ:「…………駄目なのかな。
女の子同士で……同性の子を好きになるって。」
てるみ:「……。」
きみ:「私とてるみちゃんが付き合ってるって知った人は皆好奇の目で私たちを見てた。
動物園の檻の中の動物たちもこんな気持ちなのかな。
遠目で見られてる感じ……。」
てるみ:「ウチには動物園の動物らの気持ちは分からんなぁ~」
きみ:「あはは……そりゃそうだよね。
………………“気持ち悪い”かー……」
てるみ:「……ま、非生産的なモンちゅーは本能的に“気持ち悪い”と感じるモンやからな。
確かに生物的にはウチらは気持ち悪いって事になるんやろな。」
きみ:「じゃあ、私たちは気持ち悪いんだね。」
てるみ:「気持ち悪い同士やから、こんなに惹かれたんかもな。」
きみ:「ん~あんまり嬉しくない!」
てるみ:「ま、気持ち悪い、気持ち悪くないなんて些末な差やで。
それに、ウチは別に女を好きになったとか男を好きになったとかやない。
きみを、“糸女 輝美(いとめ きみ)”っていう一人の人間を好きになったんやから。
他の人の言葉とかどうだってえぇなぁウチは。」
きみ:「……ふふふ、格好良すぎるよー」
てるみ:「せやろ~?」
きみ:「あはは!
……最初はそんなてるみちゃんさえ居てくれれば生きていけるって思ってた。
けれど、この世界は私とてるみちゃんだけの世界じゃない。
他の人がいる。他の物がある。
私たち以外が拒絶してくるこの世界で生きて行ける自信が無い……
……ごめんね……私、弱くて……」
てるみ:「別にええよ。」
きみ:「……てるみちゃんは良いの……?私に付き合って死んじゃって……」
てるみ:「ええよ。」
きみ:「だって、もしかしたらこの世界には私なんかより素敵な人はいっぱい居て、
もしかしたら私の事よりもっと好きになれる人gいたいッ!」
(てるみ、頬っぺたを引っ張る)
てるみ:「はァ~~~自惚れんなや。
“もしかしたら”やなくて、確実にこの世界にはきみより素敵な人はいっぱいおるやろ。」
きみ:「ひぅん!」
てるみ:「なんやったっけ?この間テレビに出てたクモハタとかいうとこの坊ちゃんなんか
顔も整ってて優しそうできみより賢いし。」
きみ:「くッ!」
てるみ:「リカイバシのお嬢さんなんか清楚な感じで女子力じゃきみじゃ勝てんやろ。」
きみ:「ぴぇん!
……どうせ私は運動ゲボカスでテストは赤点スレスレの残念頭ですよぉーだ……」
てるみ:「それでもや。」
きみ:「?」
てるみ:「それでも、そんなきみよりも素敵な人らよりも、ウチはきみを選んだんやで。
ウチはな。運動ゲボカスでテストは赤点スレスレの残念頭なところも可愛らしいんよ。
他の素敵な人よりもウチはきみの方がよっぽど可愛いくて仕方なくて、大好きなんや。
……だから、ウチがきみ以外を好きになるかもなんてそんな滅多な事言わんで欲しい。
……その……あ……っと……ちょっと、傷付く……から……///」
きみ:「……えへへ……ごめんね。
…………てるみちゃん、ありがと。
てるみちゃんのおかげで少し怖くなくなった。」
てるみ:「……そか。」
きみ:「…………。」
てるみ:「きみ。」
きみ:「……なに?」
てるみ:「俯くなや。
ウチらは今から死ぬけど、楽しいこれからの為やからさ。」
きみ:「……うん。終わるんだね。」
てるみ:「ちゃうよ。始まるんやよ。」
きみ:「あはは!そうだね。
じゃ、始めよっか。」
てるみ:「おう。」
きみ:「…………ねぇ、てるみちゃん。手、握って?」
てるみ:「……相分かった。」
きみ:「…………。」
てるみ:「……なあ!せっかくやし思いきり飛ぼうや!」
きみ:「思いっきり?」
てるみ:「おん!なんやったっけ?なんかアニメだか漫画で見たんやけど、
きらきらジャンプってやつで行こうや。」
きみ:「あっはっは!何それー
何?それってどうやるの?」
てるみ:「まぁ、とにかく楽しそうに飛べばええんよ。」
きみ:「ふふふ、分かった!」
てるみ:「よし!じゃあ準備良いか?」
きみ:「うん!」
てるみ:「行くで~~!」
きみ:「1!」
てるみ:「2の!」
きみ:&てるみ:「「3!!」」
────── ※続けるか続けないかは、貴方達次第です。───────────────────────────────────────
きみ:「…………。」
てるみ:「…………。」
きみ:「……。」
てるみ:「……生きとるな~ウチら~」
きみ:「そうだね~」
てるみ:「よくあれでウチら生きてられたよな~」
きみ:「本当にね~絶対に死ぬって思ってた。」
てるみ:「まさか、目ぇ覚めたら包帯ぐるぐる巻きで病院のベッドに横たわってるとは思わんかったわ。」
きみ:「それで済むんだ~って感じだよね~」
てるみ:「せやな~…………どうする?もっかいきらきらチャレンジやる?」
きみ:「……………………ううん。しばらくは良いや。
めちゃくちゃ怖かったし。」
てるみ:「わかるわ~」
きみ:「…………生まれ変わったのかな。」
てるみ:「え?」
きみ:「実はさ、実は生まれ変わってて、今の今まで二人とも寝てたのかもって思って。」
てるみ:「…………じゃ、今世も女の子同士カップルやな~」
きみ:「大きなお友達の需要が凄い。」
てるみ:「じゃ、生まれ変わったなら、“次こそはきみと末永く平和に生きていくって”のを叶えなやな~
頑張るか~」
きみ:「あはhい~ってってって……ははは……てるみちゃんは本当に好意的だね。」(傷が痛む。)
てるみ:「そういう性格やから。」
きみ:「格好良い。」
てるみ:「やろ~~~」
きみ:「…………終わらなかったね。」
てるみ:「せやな。でも、これからは始まってるで。」
きみ:「そだね。
次は頑張るよ。」
てるみ:「えぇ心掛けや。
…………お、月が綺麗やな~~~」
きみ:「……?なに?口説いてるの?」
てるみ:「…………ちゃうわアホ。」
───────────────────────────────────────
END