[台本]素敵で素晴らしい貴女は
世界設定、場面状況
謎の流行り病、人々の奇行、異常気象が世界を混沌へと誘う。
しかしそんなものでは変わらない人々の日常もあった。
これは九つに砕かれた物語の断片の一つ……とは関係あるが関係なく進む雑談譚。
登場人物
○凛優院 はなび(りゆういん はなび)
高校二年生、17歳、女性
世界に退屈している普段は無気力な話を聞かない女性。
退屈故か世界がどうなろうとどうだっていい冒涜的人物だが好奇心旺盛。
最羽 日葵が好き。主人公。
○最羽 日葵(さいはね ひまり)
27歳、女性
一般非常勤講師として現代で暮らす未来人。
元々は優しい性格だったらしいが、冷徹な人間。或いは子供とも言える。
凛優院 はなびに振り回され続けている。。
凛優院 はなび♀:
最羽 日葵♀:
~M→各キャラのモノローグ、キャラクターナレーション
これより下から台本本編です。
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~学園内の体育館倉庫~
日葵「……困ったわね。」
はなび「困りましたねー」
日葵「まさか、私たちが体育館倉庫に閉じ込められるなんて……」
はなび「定番のイベントと言われればそうなんですけどねー
まさか、現実になるとは。」
はなび「……。」
はなび「わたしの名前は凛優院 はなび。
こちらは化学の先生で、未来人でわたしの好きな人の
素敵で素晴らしい最羽 日葵さん。」
日葵「…………は?」
はなび「わたしたちは色々あって体育館倉庫に忍び込んで
ちょっとムフフな事してたら
わたしたちの事気付かれずに外から鍵を閉められてしまって
外に出られなくなっています。」
日葵「ちょっと!はなび!?貴女何を言ってるの!!?
というか、どこ向いて誰に話しかけてるのッ!?」
はなび「ん?ああ、今わたしたちを見ている人、聞いている人にですよ!日葵さん!」
日葵「ッ!?はなび、私の後ろへ……ッ。」
はなび「え?あっ、はい。」
日葵「誰が、私たちを見ていると言うの……ッ!」
日葵、構える。
はなび「分かりません!」
日(ガクッ)
日葵「はぁ????」
はなび「というか、本当に見られてるか聞かれてるかも分からないです!」
日葵「……はぁ……何を言ってるかしらこの子は……」
はなび「日葵さんは“シミュレーション仮説”って知ってます??」
日葵「え?……ああ、私たちは実は現実を生きているのではなく、
造られたシミュレーションの中の存在である、というアレ?」
はなび「その通りです!流石は日葵さん!なんでも知ってますね!」
日葵「なんでもは知らないけれどね。」
はなび「一見、“何だそれ?”、“創作物の見過ぎじゃないか??”、
“それは草www”、“草にw(くさ)を生やすなァ!!”
と、一蹴されそうな仮説ですが――」
日葵「途中変なの挟んだわよね。」
はなび「――実はとても現実味のある仮設なのです!
いいえ、厳密には“否定が出来ない”仮説、というべきでしょうか。」
日葵「悪魔の証明というやつね。」
はなび「その通りです!
このシミュレーション仮説は多くの物理学者や哲学者が支持している説なのです。」
日葵「それで、それがさっきの貴女の奇行とどう関係あるのかしら?」
はなび「え?だからわたしはシミュレーション仮説に則って、
もしかしたらわたしたちの事を今しがた見聞きし始めた人たちに
懇切丁寧に注釈を入れただけですよ!」
日葵「そう……。それはもう良いわ……ツッコミしきれないし……」
はなび「もう……///突っ込まれてたのは日葵さんなのに……///」
日葵「突っ込まれてないわよッ!!!!
そうそれよ!!何なの急にッ!
私たちは貴女が
“体育館倉庫に忘れ物しましたぁ~(馬鹿っぽく)”
って言ってたからその忘れ物を探してたら閉じ込められただけじゃない!!
なのに、なッ、何よ……!む、ムフフな事なんて……///
そんな事してないじゃない!!」
はなび「わぁ~丁寧に状況説明ありがとうございますー
でもでも、今見聞きしている人にはその真偽は分かりませんよ?
だって、ムフフな事してないという主張は日葵さんが恥ずかしがって
嘘を吐いている可能性がありますからね!」
日葵「くッ!この子は……本当に……ッ!
でも、まぁ、そうね……一つ言っておくわ。
そのシミュレーション仮説は大方正解と言って良いと思うわ。」
はなび「お、そうなんですか!」
日葵「この時代ではまだ存在は確定されていないけれども、
私の生きていた未来は“神”の存在は確定され、顕現していたわ。
つまり、私たちはその神に造られたわけだから、
私たちはその神に造られたシミュレーションの中を生きるプログラムというわけね。」
はなび「ふむ、では、その神とやらを造ったのは誰でしょう。」
日葵「……え?」
はなび「ああ、いえ。シミュレーション仮説はループする仕組みになっているので。
わたしたちを造った神様を造ったのを造ったのを造ったのを造ったのを……
っていう感じに。
だけど、わたし思うんですよ。
今、日葵さんが話しているかつての神様。通称“無知全能の神”は一方的な干渉ではなく、
わたしたち……いいえ、日葵さんたちは干渉する事が出来た。」
日葵「……そうね。」
はなび「つまる所、神様もこのシミュレーションの中の存在なんじゃないかなって、
わたし思うんですよね。
なんならこの状況も、もしかしたら誰かに用意されたんじゃないかって……」
日葵「…………。」
はなび「ま、そんな事はどうでもいいんですけどね!」
日葵「……そうね。とりあえず今はここからどうやって出るか、ね。
んー……携帯は化学準備室に置いてて連絡手段は無いし……」
はなび「それもどうでもいいです!」
日葵「はぁ!?」
はなび「日葵さん。日葵さん日葵さん!」
日葵「なっ、何よ……」
はなび「なんで日葵さんは先生としてこの学校に来たのですか?」
日葵「え?……この時代に生きていく為には生活しなきゃじゃない?
生活するにはお金が必要でしょ?
お金は仕事しないと手に入らないでしょう?
だから、仕事で教師をしようと思って。」
はなび「じゃあ!わたしに会いに来てくれたんですか!」
日葵「違うわよ!」
はなび「そうですよね。違いますよね。」(冷たい感じに)
日葵「へ……?」
日M「……なんとなくだけど、
倉庫内の温度が一気に4度くらい下がった気がしたわ。」
はなび「誰目当てですか。」
日葵「へ?貴女何を言ってるの……?」
はなび「わたしに会いに来たワケじゃないなら、特に理由も無く
教師なんてストレスしかないハズレ職業選ぶワケないじゃないですか。」
日葵「貴女!そんな冒涜的なッ!
この世全ての、いいえ、地球史地球上全てに存在した教師たちに
ごめんなさいしなさい!私も一緒にしてあげるから!!」
はなび「どうして教師なんですかッ!?」
日葵「未来でも教師してたからよッ!!」
はなび「誰なんですか!どこの女ですかッ!?」
日葵「なんで女子限定なのッ!?」
はなび「くっ……中々吐かないですね……」
日葵「いや貴女が話聞かないだけじゃない……!」
はなび「とは言いつつも、実は目星はついてるのですけど。」
日葵「へぇー……言うじゃな――」
はなび「“最羽 美兎(さいはね みう)”。」
日葵「――い゛ッ゛!゛」
はなび「同じ学年、Cクラスの最羽 美兎。
最羽という圧倒的に珍しい苗字、何処となく似ている顔立ち。
お二人が同じ空間に居る時の妙な視線の投げ合い。
もしかして、前に話してた妹さんですか?」
日葵「……さ、さあ。何の話かしら……
私は知らないわよ。そんな子……。」
はなび「噓つきは殺人者の始まりですよ!」
日葵「いや、私既にそうなんだけど……」
はなび「わたしめちゃんこ記憶力良いから覚えてるんですからね!!
この間――
あ、回想入りますね。」
日葵「居るか居ないか分からない人たちに配慮しなくて良いから!!」
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はM「これは先週の試験が終わり。
お昼休みに化学準備室で日葵さんがテストの採点をしている横で
お昼ごはん食べてた時のお話。」
日葵「ふふーん♪ふふーん♪」
はなび「今日はやけにご機嫌ですねー日葵さーん。
はい、あーん」
日葵「ぱくっ、ありがと。
そう?でも、そうかもしれないわね。」
はなび「テストの採点ってそんなに楽しいです?」
日葵「楽しいわよ?
生徒たちの内在意識とでも言うのかしら、
テスト用紙には授業中の態度との差異が表されるのよ。」
はなび「ほう。つまり?」
日葵「例えば、この子とこの子。
この子は授業中ちゃんと聞いてて、試験の結果も良いわ。
これはあまり差異が無くて“妥当”だけど。
この子はさっきの子と同じでちゃんと聞いてる風だけど、試験の結果は残念。
これは驚きな差異よ。」
はなび「へぇーなんで後者の人はそんな結果になったんでしょう。」
日葵「端的に言えば話を聞いてないのだと思うわ。
ちゃんと解けてる部分と解けてない部分が明確だから、テスト範囲間違えてたのね。」
はなび「アホの子ですね!そんな差異があるなんて確かに面白いですね!
あーん。」
日葵「あむっ。
……言っておくけど、はなびも差異あり過ぎタイプよ。
テスト満点なのは良いけれど貴女ちゃんと授業真面目に受けなさいよ……。」
はなび「えぇ?真面目に受けてますよ!?
真面目に日葵さんを見つめています!!」
日葵「それをやめなさいって言ってるのよ!
全く……何よ……化学式答えなさいって言ってるのに“サイハネヒマリウム”って!
他の子の頭の上はてなだらけだったわよ!!」
はなび「えへへ……わたしは頭の中日葵さんだらけですぅ~」
日葵「うっさいわよ!
……それに比べ……美兎はしっかり授業聞いてて質問もしにきてくれるし、
テスト満点……本当に良い子だわ……。」
はM「ミウって誰……ッ!?知らない女と比べられたッ!!?」
はなび「……スゥーーーーーーー……日葵さん……みu――」
学校の鐘が鳴る。
日葵「あら予鈴ね。
さ、はなび、早く教室に戻りなさい。
お弁当ありがとうね。」
日葵、去る。
はなび「……行っちゃった。
ミウって誰だ……。」
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はなび「――って事ありましたよ!!
しっかり!しつかりとッ!美兎さんの事認識してるじゃないですかー!」
日葵「ぐッ!不覚ッ!!」
はなび「わたし、日葵さんが言った事全部覚えてるますからっ!」
日葵「恐ろしい子……」
はなび「それで!結局どうなんですか!!妹さんですか!妹さんなんですか!!」
日葵「…………はぁ……そうよ……
あの子は私の妹よ。
でも、ここに来たのは本当に偶然よ?
妹がいるからここを選んだワケじゃないのよ。」
はなび「妹LOVEなんですか。」
日葵「…………本当に今日はいつもに増してぐいぐい来るわね……。」
はなび「どうなんですか!妹萌えなんですか!!
じゃあ私も妹キャラやります!!
日葵おねえty――ぐぶっ!!」
キレ気味日葵、はなびの口元を掴んで塞ぐ。
日葵「私の妹は二人だけ。
たとえ貴女でもそれやったら嫌いになるから。
次やったら殺すわよ。」
はなび「あぇ、ぼうにゃれぃまひぇん。」(特別翻訳:はい、もうやりません。)
日葵「……よろしい。」
日葵、手を離す。
はなび「――っぷはぁ!
今の日葵さんの射て刺す目!とっても格好良かったです!
皆さんもそう思いますよね!」
日葵「虚空に話しかけないの。」
はなび「はーい!あ、さっきのは日葵さんに嫌われたくないのでもうやりません!!
約束します!」
日葵「そう……。
…………言っておくけど、あの子にちょっかい出すんじゃないわよ。」
はなび「嫌いになりますか……?」
日葵「……ん、んー……まぁ、嫌な思いさせなきゃ良いわ。」
はなび「それは良かったです!
わたし、美兎さんとも普通に仲良くなりたかったので!」
日葵「そう……
……ねぇ、一つ質問良いかしら?」
はなび「はい?」
日葵「貴女もしかして美兎に嫉妬してるの?」
はなび「……勘の良い日葵さん大好きですよ。」
日葵「はぁー……しょうもないわね……
あの子は妹で、貴女は貴女でしょ。
……察して頂戴。」
はなび「ッ!はいッ!!
その言葉聞けて良かったです。
わたしの素敵で素晴らしい日葵さんは、何処まで行っても日葵さんですね……
……じゃあ!出ましょうか!!」
体育館倉庫の扉が開く
日葵「えぇッ!!?開いてたのッ!!??」
はなび「はい、というかわたしが閉めましたし!」
日葵「なッ……はっ!じゃあ、貴女ッ、忘れ物は……」
はなび「ないですよ?
体育館倉庫になんか用事ある事自体無いですし。
さっ、とにかく、出ましょ!」
日葵「くっ!してやられたわ……」
はなび「さぁさぁ、帰りましょー日葵さーんー」
日葵「なんかぐったりしたわ……」
日葵、体育館倉庫から出る。
はなび「……。」
はなび、体育館倉庫から出る前に振り返る。
はなび「シミュレーション仮説。
皆さん、自分には関係ないと思わない方が良いですよ。
わたしたちが模造品であっても、皆さんが模造品でないとは限らないんですから。
さて、問います。
アナタは現実を生きてますか?シミュレーションで生きてますか?」
はなび「なんてね。
――待ってくださいよー!日葵さーん!!」
───────────────────────────────────────
END