[台本]二人の名無し英雄
世界設定、場面情景
神秘がまだ存在する過去の話。
イレギュラーを崩す物語。
・破壊者
神々に作られた神造兵器。全てを貫く槍を持つ。
ただ一つの使命を課せられ、その為だけに動く“英雄”。
名前はない。
・守護者
国の為と精進し、人知を超越した人間。決して負けぬ剣を持つ。
国の門番をしており、“英雄”と人々に讃えられている。
名前は捨てた。
破壊者 不問:
守護者 不問:
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破壊者M「ありえぬ事が起きた。
本来の人類史であればとうの昔に衰退し、滅びさっている文明が
今もなお、繁栄し続けている。
人類史にとって不要、存在してはならないからこそ滅ぶ運命だった文明。
それの存続を、運命を捻じ曲げたのは・・・・・・ただ一人の人間であった。
元はなんの変哲もない人間だった。
その人間は“国の為、人類の為”と鍛錬し続けたのだ。
ただひたすらに、闇雲に。
正史では巨人族に為すすべもなく滅ぼされる筈の国を守ってしまった。
たった一人で。
その鍛錬はいつしか人知を超越した力を得ることに繋がったのだ。
ヤツはその力を振るい、巨人族を屠った。そして人類史を、運命を強引に変えた。
その偉業は国の人々に讃えられ、その人間は“英雄”と呼ばれた。
英雄?笑わせるな。奴は・・・化物だ。
ヤツはすでに人間の域を脱している。
“人の皮を被った化物”
ああ、ぴったりだ・・・。
だが、人類史は正さねばならない。
僕はこの特異点を、化物を・・・英雄と讃えられた化物を排除する・・・。」
破壊者「貴様を殺しに来た。人の皮を被りし化物よ!
そして、貴様を殺した暁には、神の命においてこの国を、この文明を破壊するっ!!」
守護者「へぇ・・・おもしれぇこと言うじゃねぇか・・・神様とやらの玩具がよぉ!!
やってみろ!俺はこの国の守護者!お前の様な侵略者からこの国を守る者!」
破壊者「うおおおおおおおお!」
破壊者M「その人間……この文明の守護者は身の丈の1.5倍はある大剣を構えた。
巨人族の王が所有していた剣“マルミアドワーズ”。元々は7mほどの人間には扱えぬ剣だったらしい。
が、理由は知らないが縮んでいる様だ。非常に鋭い切れ味を持つという名剣。本来であれば彼ではなく、
人類史において長く名を轟かす王が所有するはずであった。
この様にこの守護者一人によって、様々な運命が捻じ曲げられている。
必ず、殺さねばならない。」
守護者「ほほう!オタク良い槍を持ってるじゃあねぇか!
どんな物も貫き通しそうだぜ!」
破壊者「お褒めの言葉ありがとうございます、と言っておこう!
遠慮は要らん!さあ、受けてみろ!そして死ねぇええ!!」
守護者「そいつは御免だ!ぃよっとぉ!
ふぃー危ない、危ない・・・。
お前さんのその槍の名前はなんだ?どこで手に入れた?」
破壊者「殺し合い中だと言うのにごちゃごちゃぺちゃくちゃとよく喋る奴だッ!
喋ってないで!さっさと死ねっ!!」
守護者「おっと、よっとぉ、ほっ!」
破壊者「チッ!その様な大剣を抱えてるくせにちょろちょろと!!」
守護者「避けるのには結構自信あんのだよー。
んで、教えてくれよ~その槍についてさぁー。」
破壊者「この槍の出自など知らん!僕が地上に降りた時に神から与えられた物だっ!
名も知らん!だが、この地上の物全てを貫く最強の槍であることは確かだ!
はぁっ!」
守護者「全てを貫く・・・ねぇ・・・。ますます欲しくなった!
その槍をよこせ!!」
破壊者「貴様が大人しく死ねばくれてやる!!」
守護者「嫌だね!俺は死ぬ気はさらさらねぇ!
ぅおりゃぁあっ!!」
破壊者M「マルミアドワーズの斬撃。僕の避けた後の誰も居ない空間ごと切り捨てた。
いくら切れ味が良いと言っても空間そのものを切るなんて!
これはマルミアドワーズだけの力ではない。
アイツの・・・人知を超越した力による物なのか・・・?
奴の力はよもや運命的にだけではなく、概念的に破壊していくというのか・・・?
アイツの攻撃を受けてはならない。そう改めて実感させられた。」
破壊者「化物め・・・。」
守護者「お前風に言うならば、“お褒めの言葉ありがとうございます、と言っておこう”。
力の差は歴然だろ?さぁ・・・その槍を、ぐふぅっ!!」
破壊者「油断したな?馬鹿め!」
守護者「地面から・・・槍が生えてくるって・・・あり・・・かよ・・・。」
破壊者「殺し合いだぞ?有りも無しも無い。油断したお前が悪い。
僕の得物がこの槍だけだと思ったか?
残念だったね。僕は神々が創り出した“神造兵器”。そう、僕自身が武器なのさ。
僕は地面と接している間は地面と同化したり変形したりできるのさ。じゃあ・・・さようならだ。
せめてもの情けだ。この槍の必殺の一撃でとどめを刺してあげる。」
破壊者M「守護者の右腕と左足は僕の槍に貫かれて失われた。
勝負は決まった。そう確信していた。
僕は彼に手を抜くといった愚かな行為はしない。するはずがない。
しかし、この瞬間、ほんのわずか、ほんのちょっぴりだけ、
慢心してしまったのかもしれない。
僕の左腕が食い千切られた。
槍を構えた瞬間。男は残った手足を使い立ち上がり、
槍の軌道をずれ、僕の左腕を食い千切ったのだ。」
破壊者「んん!?んぐぁあああああああああああああああああああああ!!!
あぁ…!ああああああああああ・・・!!おのれぇ・・・!!」
守護者「ただで死ぬ訳ねぇだろ!ヴァーカッ!!」
破壊者「くぅ・・・!きぃさまぁあああ・・・ッ!」
守護者「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・お前・・・名は何と言う・・・。」
破壊者「・・・名などない・・・僕は神造兵器!ただそれだけだ・・・!」
守護者「名前が無い・・・のか・・・ははは・・・俺と一緒だな・・・。」
破壊者「・・・貴様には名が無いのか・・・?」
破壊者M「互いに負傷し、身動きが取れなくなったからだろうか・・・。
僕は奴の言葉に耳を傾けていた・・・。
地と同化し、新たな左腕を生成するには些か時間がかかる・・・。
一刻も早く槍を取り、コイツを殺さねばならないのに・・・。」
守護者「あぁ・・・遠い昔に捨てた・・・。
この身は姿こそ人間だが、お前の言うとおり中身は化物だ・・・。
そう自覚した時に名を捨てた・・・。」
破壊者「・・・宛ら“無名の英雄”と言った所か・・・。」
守護者「英・・・雄・・・。クックック・・・ハハハ・・・・
あーっはははははははははは!!!!
前は誇らしく聞こえたんだけどなぁ・・・。今では虚しい限りだ・・・。」
破壊者「・・・・・・貴様は嬉しくないのか・・・?その称号が・・・?」
守護者「嬉しかったさ・・・そう、嬉しかった・・・。
その称号を聞き、俺を讃えてくれる奴が居れば、俺に戦いを挑んでくる奴も居た…。
最初は俺も嬉しかったのさ・・・。
だが、思ったのさ・・・。
“俺は何故英雄なのか?”
・・・巨人族を屠り、人類を守り、そして彼らの王からこの剣を授かったからか?
違うな・・・。
敵対していた国々からこの国を守っていたからか?
違うな・・・。
俺はわからなくなったんだ・・・。俺は何故英雄なのか・・・。」
破壊者M「どう考えてもその二つが英雄と言われる所以だろ、っと声を大にして言いたかったが、
僕は堪えた。」
守護者「それからだ・・・日々が寂しい。過去が虚しい。人々の声が痛い。
そう感じる様になったのは・・・。
・・・結局のところ、俺の戦いに意味はなかったのだ・・・。」
破壊者「そうか・・・ならばさっさと大人しく死ね・・・。」
守護者「嫌だね・・・・・・そうだ。」
破壊者「・・・なんだ?」
守護者「お前、もうぶっちゃけあと一撃を繰り出すがやっとだろ?」
破壊者M「そうでもない。このまま待てば左腕も回復するだろう。
だが・・・」
破壊者「ああ、そうかもしれないな。」
破壊者M「僕は嘘を吐いた。」
守護者「ふふふ・・・そうだよな・・・
いくら巨人族より強い神造兵器といえども、
左腕を失っちまえば堪えるよなぁ・・・。
なあ・・・一騎打ちをしねぇか?」
破壊者「・・・はぁ?今正に、さっきまで一騎打ちしていただろうが。
頭大丈夫か?」
守護者「頭は大丈夫じゃねぇだろうが、そうじゃねぇ。
お前がさっき言っていたその槍の“必殺の一撃”とやらを放ってみろ。
俺も最高の一発をくれてやるよ・・・。」
破壊者「・・・ほう。受けてたとうじゃないか。」
破壊者M「敗北を知らぬ剣と槍。どちらかはそのまま敗北を知らぬ武器として、
もう片方は敗北を知ら“なかった”武器となる・・・。
面白いじゃないか。
何よりもこの勝負、再生できる僕が確実に勝つことは必然だ。
それ故か、その時の僕に神から授かった命や、
人類史がどうのといったことには興味がなかった。
奴を負かしたい。ただそれだけの思いしかなかった。」
守護者「いいか。三つ数えたら同時に、だぞ。」
破壊者M「互いに距離を置き、最後の一撃の準備をする・
勝負は一発。
僕は必ずアイツに勝つ。」
守護者「じゃあ行くぞ!
1!」
破壊者M「カウントが始まる。
奴が放つはマルミアドワーズと奴自身の力による斬撃であろう。
斬撃と言っても、奴の斬撃は空間をも削る衝撃波と言っても過言ではない。」
破壊者「2!」
破壊者M「対する僕が放つのはこの槍と神造兵器としての力を大いに振るう突き。
分かってはいるだろうが、ただの突きではない。
諸兄が分かるように言うなれば“ビーム”だ。
きっと奴はなんか技名を宣言するだろう・・・。
僕も考えてやるか・・・。」
守護者「3!」
破壊者M「同時に構える。そして・・・」
守護者「“最果ての王の武勲(マルミアドワーズ)”ッ!!」
破壊者「“真なる英雄は大地をも分かつ(エリスロードクライシス)”ッ!!」
破壊者M「二つの閃光が走る。
我が槍は必中の一撃。僕が放った瞬間勝負は決した様なものだ。
重ねて言うが、このまま僕は奴の必殺の一撃を受けたとしても、死ぬことはにない。
勝つことはなくとも負けることのない勝負。
同時に放った筈の一撃だが、僕の一撃の方が数拍ほど奴に到達した。
そして、奴を貫く・・・はずだった。
ありえない事が起きた。
必中の一撃であった筈の僕の槍の一撃を奴は…
右腕と左足を失った守護者が避けたのだ。
ありえない・・・ありえない・・・。
うろたえた瞬間、思い出した。
奴は運命を捻じ曲げた人間。だから僕は奴を殺しに来た。
無意識なのだろう。だが、あの化物は“必中”という運命を捻じ曲げたのだ。
いや、違うのかもしれない。
僕の槍は“いままで”は必中の一撃だったのかもしれない。
いままでに避けられた者がいなかっただけで、本当は、
実は、実際は、本来は必中ではなかったのかもしれない。
だが、今はどうでもいい。
このままでは僕は負けてしまう。
許せない。ありえない。ありえてはならない。
負けたくない。
負けたくないっ!
奴に!勝ちたいっ!!」
破壊者「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
破壊者M「僕は駆ける。
奴を倒すために。
奴の一撃は完璧には避けられない。
足が動けばそれでいい。
奴の一撃が僕に接触する。
僕の左脇腹と腕の関節まで再生していた左腕を破壊する。
運命的にも、概念的にも破壊し尽くす奴の一撃。
二度と再生しないだろう。
だが、知ったことではない。
奴を倒す。奴を殺す。奴に勝つ。
神の命なんぞ知らん。
それだけが目的だ。」
守護者「なっ!なにぃ!!」
破壊者M「横槍を入れる邪魔な使命なんぞ最早関係ない。
成否を決するものは己が槍のみ。
神造兵器としての矜持と共に、
己の中に内在していた勝利を渇望する醜き獣が今、奴を殺さんと駆け出す。」
守護者「くっ!人の事を化物呼ばわりしていたが、てめぇも差して変わんねぇなぁ!!」
破壊者M「奴は構える。
これまで幾度と無く強者を屠ってきた男。
この状況では僕が負けるのが必然の展開。
僕の心が乱れている限り、何度挑もうとも、その結果は揺るがない。」
破壊者「貴様を!倒すっ!!」
破壊者M「そう、心が乱れている限りは・・・。だがー」
破壊者「はぁあああああああああああああ!!」
破壊者M「この状況に心を乱されぬ者は居るのか???
互いの必殺の一撃では仕留めるまでに至らなかった。
まだ両者共に立っている。
こんな展開予想だにしなかった。
心が躍る。高揚せずにはいられない!
それはどうやら奴とて同じにようだ。」
守護者「こぉおおおおおおいッ!返り討ちにしてやるよぉ!!」
破壊者M「満面の笑みを顔に貼り付ける守護者。
奴は今、英雄であり、化物だ。
奴のあの顔は強者を屠ることへの英雄としての狂気の表れ。
正しき人類史へと導く者達を数多葬り去ってきた、化物の矜持。」
破壊者「あの一撃がやっと繰り出せる最後の力じゃなかったのかよぉ!!」
守護者「誰がそんなこと言ったぁ!この馬鹿がぁ!!」
破壊者M「そういえば、自分は限界だなどと一言も漏らしていなかったな。
上手いこと誘導されたようだ。
激しく刃を打ち付け合う。
眼に映るのは最強の試練!!
この瞬間にこそ“英雄”としての真価が問われる!!」
破壊者「ぐっ!」
守護者「もらったぁ!!」
破壊者M「思考が止まる。秒にも満たぬ瞬間、襲い来る守護者の眼を睨む。
考えている時間はない。考える必要はない。
地から槍を、奴の首目掛けて放つ。」
守護者「っとぉ!あぶねぇ!!」
破壊者「チィッ!!」
破壊者M「仰け反り槍を避け、距離を置く。
奴は距離を置いた先で剣を再び構える。
第二撃目だ。
僕も再び槍を構える。」
守護者「“最果ての(マルミ)―”!」
破壊者M「最早二人の歩みを阻むものはない。」
破壊者「“真なる英雄は(エリスロード)―”!」
破壊者M「この距離では両者共にただでは済まない。
避ける事もできない。」
守護者「―“王の武勲(アドワーズ)”ッ!!」 破壊者「―”大地をも分かつ(クライシス)“!!」
破壊者M「天地を揺るがす咆哮が鳴り響いた。
勝者の居ない虚しい戦い。
そう、勝者は居なかった。
守護者は剣諸共消え去り、僕は槍を破壊され、僕自身の身体の9割を失った。
再生はできない。奴の斬撃がそれを許さないのだ。
だが、世界は勝った。
奴の死によって人類史は修正し始めたのだ。
時期に奴が惰性で守り続けた文明は滅び、改めて正しき歩みを始める。
だが…しまったな。マルミアドワーズは消え去ってしまった・・・。
果たして、どうなるのか・・・。
まぁ、どうにかなるだろう。」
破壊者「無名の英雄・・・。己の武勲と英雄としての矜持を理解できなかった哀れで虚しい化物・・・。
まぁ、そういう英雄も悪くはないな。」
破壊者M「奴の英雄譚は後世に語られる事は決して無いだろう。それは僕も一緒だけど。
名を捨てた英雄の物語の結末は存在を残す事も出来ず、無意味に終わった。」
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END