[台本]今を生きる者共よ 第一話
世界設定、場面情景
特に変わった事はない何の変哲も無い世界、つまり普通の世界、普通の日常。
舞台は“安鶴町(あづるちょう)”という港町。
突如の来訪者により少女の平穏は音を立てて崩れ去った。
これは愛の物語。ほんの少し、逸脱した登場人物達の。
登場人物
○門柏 薫(かどわく かおる)
高校二年生、16歳、女性
どこにでもいる少々物静かだった女子高生。
ある日現れた転校生(?)によって平穏な日常がかき乱される事にある。
普段は物静かで純粋な子だが、根っからのツッコミ気質で苦労人タイプ。
趣味は読書。好きな食べ物は豚汁。
主人公。
○アルター・エンキラウタ
???、??歳(憶測17歳)、男性
突如薫たちの元に現れた謎の人物。
自分の事を“未来か過去から来た死に行く人類”エンキラウタ“の王”と名乗るが……
王を名乗るのに十分の威厳があり、凛としているが、本来は明るく快活な性格。
瞬時に薫たちの言語形態を理解し扱う程の知性を有している。
好きな科目は世界史、日本史。特技は交渉。
○新垣 透(にいがき とおる)
高校二年生、16歳、男性
ぽんこつ臭を醸し出しており、ぼーっとしてる系男子高校生。
薫の幼馴染で、人間関係は基本的に広く浅くだが、薫とは特別仲が良い。
飄々としているワケではないが、何かと適当な事が多い。
頭良くなさそうだが実は学年主席。その事実は幼なじみである薫以外あまり知らない……。
好きなお肉は豚肉。役員は風紀委員。
○凛優院 ほむら(りゆういん ほむら)
高校二年生、17歳、女性
人々に容姿端麗、羞花閉月、光彩奪目と称される女子高生。
性格にも基本的には難なく純情可憐、頭も良く詠雪之才。
正に完璧な存在、天姿国色と周りからのもっぱらの評価。
しかし、その真の顔は薫の事が好き過ぎて拗らせ、気狂いとなった所謂本物。
好きなものは薫。好きな人は薫。
〇上条 広嗣(上条 ひろつぐ)
教師、38歳、男性
薫たちの学校の教師で薫たちの担任の先生(担当は現代文)
無口だけど優しくて渋カッコイイと生徒たちに評判の先生。
評判通り無口だが、生徒思いで温かみのある人物。
既婚者で美人な奥さんがいる。
(その事実を彼の事を好いている女生徒たち含め、あまり知られていない。)
調理部の顧問をしている。
得意料理は肉じゃが。好きな作家はハンス・クリスチャン・アンデルセン。
〇ニードリッヒ・オンツァリグネ
???、??歳(推定16歳)、女性
アルターと同じ時代の人間。
アルターが使命の為に時を飛ぶのを見送ってた人物で、
時空間移動装置をアルターと共に開発したアルターと遜色のない知性を持つ。
色々と高性能だが、可愛いものが好き。アルターの事も好き。
アルター曰く、見た目は全くだが、薫に雰囲気が似ているらしい。
(今回は薫と兼ね役)
役表
・門柏 薫/ニードリッヒ・オンツァリグネ ♀:
・アルター・エンキラウタ ♂:
・新垣 透 ♂:
・凛優院 ほむら ♀:
・上条 広嗣 ♂:
これより下からが台本本編です。
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~王の間~
(玉座に座っているアルター、傍で立っているニードリッヒ。)
ニードリッヒ:人類は衰退の一途(いっと)を辿っていました。
星は衰え、枯れ、痩せ、そして人類は徐々に減っていく……。
故に、かつての人類は自分たちを自分たちで運営する事を放棄し、
天から降りし神の集団“イルディム”に管理される事を選びました。
アルター:「愚か……愚かなり……が、憤る気すらも起きん……。」
ニードリッヒ:端的に言えば、かつての人類の選択は“間違い”でした。
その当時5億人程だった人類は今や1万未満となりました。
アルター:「このままでは、人類は終わってしまうだろうな……。」
ニードリッヒ:故に、我らの王。人類の王、“アルター・エンキラウタ”は決断しました。
アルター:「イルディムの神々を殺す……!」
ニードリッヒ:しかし、イルディムの神々の力は強大で、更に九柱(きゅうはしら)も居ます。
故に──
~ボロボロな王宮前の広間にて~
アルター:「ククク……クハハ……ふははははははははははッ!!!
ついに……ついにッ!完成したぞッ!!
我が叡智(えいち)……否ッ!!
エンキラウタの王、臣民全て、総ての叡智の結晶にして神々の楔(くさび)を解き放つ鍵ッ!!」
(民衆、歓声をあげる。)
ニードリッヒ:「アルター王……!」
アルター:「その名も!“時空間移動装置スペイェム”ッ!!!
これによって神々の力が及ぶ前の世界に飛び、人類の隷属化(れいぞくか)を阻止するッ!!」
(先程より大きな歓声があがる。)
アルター:「ニードリッヒッ!!エネルギー装填だッ!!!」
ニードリッヒ:「はいッ!
エネルギー装填ッ!」
アルター:「エンキラウタの民たちよ!!
我はこれより過去へ飛ぶ!もしかしたら帰ってこないやもしれぬッ!!」
ニードリッヒ:「神力絶対不可侵領域(じんりきぜったいふかしんりょういき)、展開ッ!!」
アルター:「だが嘆く必要は無い!
たとえ我は死のうとも、必ずや神々を殺し、人類を救って見せるッ!!」
ニードリッヒ:「過去への時空門開放確認(じくうもんかいほうかくにん)ッ!!!」
アルター:「我はお前たちの未来の為、全力を尽くすと誓おうッ!!!」
ニードリッヒ:「アルター王!」
アルター:「っ。」
ニードリッヒ:「どうか……どうか!ご無事で……ッ!!
また再会出来る事を祈っておりますッ!!!」
アルター:「……それは約束出来ぬ故、謝罪する……。
達者でな。ニードリッヒ。我が忠実なる家臣よ。」
ニードリッヒ:「………………はいッ!
王!貴方の威光はッ、永劫であり!不滅であり!幾星霜(いくせいそう)の先の!先の先まで!
私たちはッ、永遠に!永久に!陰り無き王の栄光を掲げ続けますッ!!」
アルター:「……。(無言で頷く。)
ニードリッヒ・オンツァリグネッ!忠道、大義であるッ!!!
さあ!時は来たッ!!
決別の儀の開始であるッ!!
待っていろよッ!イルディムの神々共よッ!!」
(民衆、どよめく。)
ニードリッヒ:「…………?
何……?
空が……」
アルター:「……ッ!?何ッ!?イルディムッ!!」
ニードリッヒ:「ッ!?何故!?神の力は及ばない筈なのにッ!?」
(空から巨大な何かが降り立ち、人々を睥睨する。)
アルター:「……おのれ……ッ!
最高神にして天空領域の支配者“ウンナ”がおいでなすったか……ッ!
ニードリッヒ!転送は中止だ!ここでヤツを殺すぞ!!」
ニードリッヒ:「む、無理です!今の私たちでは不可能です!
なので王は過去へ!!」
アルター:「そんな事言っている場合かッ!このままでは民たちがッ、くッ!
ニードリッヒ!開けろ!!我を外に出せ!!」
ニードリッヒ:「……ッ、駄目ですッ!王を死なせる訳にはいきません!!」
アルター:「ごちゃごちゃ言うでない!!開けろッ!!
王の命令だぞ!!聞けんのか!ニードリッヒッ!!」
ニードリッヒ:「聞けません!!!
…………民たちよ!王を守るのです!!」
アルター:「待て!!お前たちッ!!やめろッ!!!」
(民衆、ウンナと呼ばれた巨大な存在に立ち向かうが轢き殺されていく。)
アルター:「…………くそッ!!」
ニードリッヒ:「王!アルター王!!
貴方の役目は私たちを神の隷属から解き放つ事です!
だから…………頑張って生きてください……
転送開始ッ!!」
アルター:「ニードリッヒッ!
…………嗚呼……相分かった……ッ!
必ずや……必ずや我が役目ッ、果たして見せようぞッ!!」
(アルター、一瞬にして消える。)
ニードリッヒ:「はい……よろしくお願いいたします……
アルター王……私の……私の最愛の人……」
(ニードリッヒ、目を瞑る。)
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~朝、薫の部屋~
(薫、目を開ける。)
薫:「ん…………。」
(薫、起き上がる。)
薫:「………………。
……ああ、夢か……はぁ~……変な夢だったなぁ……。
……あれ?どんな夢だったけ?」
(窓の外から)
透:「お~い!門柏(かどわく)~!!」
薫:「んぁ……?
ああ、透(とおる)く~ん」
透:「のんきしてんなぁ~……このままじゃ遅刻だぞ~!」
薫:「は~い……今行く~……」
透:「早めになぁ~!」
薫:「……。」
薫:アタシが生きる世界は余りにも平穏だ。
~通学路~
薫:故に、退屈。
透:「カドワク、大丈夫か?今日はいつもに増して眠そうだけど?」
薫:「ん~……眠いかも……。」
透:「はははっ、しっかりしろよ~学級委員長~
全く……相変わらずだな~お前は。」
薫:だが、この退屈が実に心地良い。
アタシは、友人関係もそれなりに悪くなく、成績も特に問題無く安泰。
薫:「昨日、というか今日は3時くらいまで読書に耽ってて……
それと、アタシ低血圧なのよ……だから、朝は……ふぁ~……弱いの……。」
透:「その低血圧の下りは何度も聞いたな。もう耳タコだぜ?
多分今年に入ってー……あー……9回目だな!」
薫:「え~そんなに~?」
透:「ああ、毎年毎年同じこと言ってるぞぉ。もう高校二年生だってのに、変わんないな~。」
薫:平凡で淡々として、凡百的(ぼんぴゃくてき)でとても平穏な学校生活だ。
透:「って!ゆっくりしてる場合じゃなかった!
急ぐぞ!カドワク!」
(透、駆け出す。)
薫:「あ~待ってよ~」
(薫も走り出す。)
薫:素晴らしい……。
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~教室~
薫:「おはようございますー!」
透:「ギリギリセェーフ!」
広嗣:「本当にギリギリだな。」
透:「おはようございますー上条(かみじょう)センセー!」
広嗣:「おはよう。新垣(にいがき)。カドワク。
さ、ホームルームを始めるから早く席に着きなさい。
あと、二人とももっと早く登校する様に。」
薫、透:「「はーい。」」
(薫、透、席に向かう。)
ほむら:「おはようございます。カオルさん。」
ほむら:(今日もカワイイですねカオル。)
薫:「おはよーほむらさん。」
透:「おはよー凛優院(りゆういん)ー。」
薫:高校を卒業した後、如何に平穏を崩されようとも、
少なくとも今は平和なのだ。
ほむら:「カオルさん。数学の授業は復習しましたか?今日、小テストがあるみたいですよ。」
透:「って無視かよ……。」
薫:「小テスト?そんな事言ってたっけ?」
ほむら:「ええ、授業の最後にちょろっと。」
薫:「ええーいやらしいー……全然対策出来てないんだけど……」
薫:この平穏はそう簡単には崩れない。
ほむら:「まぁ、皆さんそうでしょうし、休み時間に要所要所復習しましょう。」
ほむら:(二人っきりの勉強会ッ!!♡)
透:「あぁ、あの先生の出題傾向結構分かりやすいから俺も手伝うぜ。」
ほむら:「……。」
透:「……また無視かよッ!」
広嗣:「新垣ー!ホームルーム中だ。静かにしなさい。」
透:「…………はーい。」
(クラスメイトたちクスクスと笑う。)
広嗣:「さて、最近世の中物騒で、不審者がこの町にも出ているという報告があるから、
皆も気を付ける様に……ん?」
(教室の中央上に謎の光が出現する。生徒たち、慌てふためく。)
広嗣:「ッ!?」
透:「なんだ……!?」
ほむら:「カオルさんッ!退避を!!」
薫:「え……?」
薫:アタシの平穏とは場違いな光がアタシたちの目の前に突如現れた。
広嗣:「皆!教室の外へ逃げなさい!早くッ!!」
薫:アタシたちは慌てて教室の外へと走った。
目の前に現れた光は徐々に消えていき、その中から“誰か”が現れた。
透:「人……ッ!?」
ほむら:「カオルさんは私の後ろへ……ッ!」
薫:「う、うん……!」
広嗣:「……な、何が起きているんだ……?」
(更にざわつく生徒たち。)
アルター:「…………。」
薫:光の中から現れたのは、金髪、金色の瞳の男の人だった。
広嗣:「……誰だ……?」
(周りを見渡し、口々に喋る生徒たちの口を観察するアルター。)
アルター:「…………。」
透:「うわぁ……なんか古代人みたいな見た目だなぁ……」
ほむら:「……。」
広嗣:「こら!お前たち!あまり近付くな!!」
アルター:「ふむ……なるほど……こういう感じか。」(言語体系を理解し、喋り始める。)
薫:「え……?」
アルター:「皆の者!驚かせてしまって済まない!我の言葉は伝わっているだろうか!」
ほむら:「……日本語?」
広嗣:「……日本語が分かるのか……?」
アルター:「ほう、ニホンゴ、というのか、この言語形態は。
ふむ、そこの者。我の言葉は通じているのだな?」
広嗣:「……ああ、貴方が一体何者かは分からないが、確かに貴方の言葉は私たちに通じている。」
アルター:「そうか。それは良かった。
……では、我が名は“アルター・エンキラウタ”!!
ある時代の滅び行く人類“エンキラウタ”の王である!」
薫:「王……様……?」
ほむら:「滅び行く人類……?」
透:「エンキラウタ……?初めて聞いたな……
センセー知ってる?」
広嗣:「いや、私も初めて聞いた。
……で、では……その……お、王よ。貴方は何故ここに?」
透:「え……!?あの人が言う事信じる前提なんですか……ッ!?」(超小声)
アルター:「……それは、神々を殺し、人類を隷属から解放する為である!
その為に我は時空間移動装置スペイェムを行使し、過去へ飛んできた!
…………が、この時代は過去なのか?」
薫:「……。」
透:「……。」
ほむら:「……。」
広嗣:「……。」
アルター:「……?」
薫:「……いや……分かるワケ無いでしょ……」
透:「……ちょッ、カドワクッ!?
今滅茶苦茶シリアスな雰囲気だったから誰も言わなかったのに!?」
薫:「あッ!しまった!」
アルター:「ッ!」
薫:「うわッ!滅茶苦茶睨んできてる!怖い!」
ほむら:「私の後ろに隠れてください!」
(アルター、薫に向かって歩みだす。)
アルター:「そこの者。」
薫:「ひょえッ!」
ほむら:「ッ!!」
広嗣:「お待ちください王よ!彼女の非礼は私が詫びますッ!
ですがッ!」
(アルター、手で“大丈夫”と促す。)
アルター:「好い(よい)。気にするな。
その娘が言った事は最もだ。
すまなかった。阿呆な質問をした。」
広嗣:「……ッ、はぁー……(安心して胸を撫で下ろす。)」
アルター:「おい、娘。」
薫:「はっ、はい!」
アルター:「名は何と言う。」
薫:「え……え、えっと……門柏 薫(かどわく かおる)……です……。」
アルター:「カドワク・カオル……そうか、良い名だな。カオル。」
薫:「あ……え……あ、ありがとうございます……?」
アルター:「ふむ、センセーとやら、この場において、センセーが最も上の人間と見て良いな?」
広嗣:「あ、ああ、構わない。」
アルター:「この時代に関して色々聞きたい事がある故、付き合ってはくれぬか?」
広嗣:「………………ああ、分かった。
お前たちは教室に戻ってなさい。」
(アルター、広嗣、去る。)
薫:「……。」
透:「な、なんだったんだ……?」
ほむら:「……とりあえず教室に戻りましょうカオルさん。」
薫:「う、うん。」
薫:彼が現れた事で、アタシの平穏は崩れ去る。
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~四限目終わり間際、教室~
(教室内はアルターの話題で持ち切り。)
ほむら:「なんだったんでしょうね、彼。」
透:「ホントな~恰好は古代の王様って感じだけど、未来から来たっていう王様……。
あれって本当なんかなー?」
薫:「……分からない……けど、突然現れたし……」
ほむら:「彼の口ぶり的に嘘を言っている様子はありませんでしたが……」
薫:「…………。」
ほむら:「……?カオルさん?どうしたんですか?」
薫:「え?いや……なんだろう……なんか……」
薫:どこかで見たことがある様な……
薫:「……ううん、何でもない。」
ほむら:「そう……ですか。」
(四限目終業のチャイムが鳴る。)
透:「お、昼休みだ。
……あ、カミジョウセンセーだ」
広嗣:「ハァー……あ、国橋(くにはし)先生お疲れ様です……。」
ほむら:「……なんだか思いの外ゲッソリしていません……?」
薫:「う、うん……アタシもそう思った。」
広嗣:「……う゛ぅ゛……腹がキリキリする……。
皆、昼休みだがすまない。少し座っててくれ……。」
透:「えー?……はーい。」
広嗣:「スゥーーーーーーー……ハァー……さ、入ってきなさい……。」
薫:教室のドアから──
アルター:「うむ。」
薫:再び彼が現れた。
広嗣:「えーーーーーーーーーーーーー……っとーーーーーーーーーー……スゥーーーーーーー……
色々あって校長との話し合いの結果………………」
アルター:「この教室でお前たちと共に学ぶ事になった!よろしくなッ!!」
(シン、とする教室。)
薫:「………………え……」
薫:、透:、ほむら:「「「えぇ~~~~~~!!?」」」
透:「どうしてそうなる!!?」
アルター:「ま、色々あったのだ。
あー……名は何と言う。」
透:「え?俺?俺は新垣 透(にいがき とおる)。」
アルター:「そうか。よろしくな。」
薫:「え………なに……?何事……?」
ほむら:「私にもよく分からないです……」
広嗣:「……では、えっと……王、一応改めて自己紹介を……」
アルター:「おいセンセー。
コウチョーとの約束で我を他の生徒と同様に扱う様にと言われたであろう。
楽にせい。我もセンセーを師としてよく言う事を聞くよう努める故。」
広嗣:「そうか……それは、まぁ、助かる。
あと一応言っておくが、私の名前は上条 広嗣(かみじょう ひろつぐ)だ。
“先生”というのは私の役職だ。
まぁ、先生と呼んでくれて構わないが。」
アルター:「そうか。ではよろしくな。ヒロツグ先生。
……では、改めて。
先ほどは驚かせてしまって済まなかったな!重ねて謝罪する!
我が名はアルター。アルター・エンキラウタだ。
色々あってお前たちの学友としてこの学び舎を共にする事となった。
一応、王だがこの時代では別に王では無い故、皆と変わらずに接してくれて構わない。
皆の者、よろしくな!
そして……」
薫:「え?またアタシの事を見てる……?」
透:「にしても日本語滅茶苦茶上手いなー。」
広嗣:「…………すまない……カドワク……」
薫:「え?」
アルター:「ガッキューイインチョー!カドワク・カオルよ!」
薫:「え?あ!はい!」
アルター:「うむ!良い返事だ!
学級委員長よ!このクラスの学友共の長よ!!
コウチョーの計らいにより、我は、お前からこの学校を!この街を!
教示(きょうじ)してもらうことになった!よろしく、だな!!」
薫:「……へェ?」
薫:(つぁあああああ!!校長先生何やってくれてんのー!!?)
ほむら:「な゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛?゛」
透:「リユウイン?大丈夫か?なんか、凄い声出したけど?」
薫:「…………ぃよ……よ、よろしくです…………えーっと……エンキラウタくん……。」
アルター:「む………………ふむ、少々堅苦しいな。
カオル、我の事は気軽に“アルター”と呼ぶが良い。我が許す。
(教室内の生徒に向かって)お前たちも!気軽にアルターと呼べ!!」
薫:「あ……あ…………」
アルター:「む?どうした?カオル?」
広嗣:「カドワク……だらしない先生ですまない……」
アルター:「カオル?おーい……?」
薫:(ちくしょー!学級委員長だったばかりに……!!)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~食堂に向かう道中~
透:「厄介な事になったなー。」
薫:「……トオルくん……“ヒャー面白い事になったなー!”って思ってるでしょ。」
透:「思ってないよ。」
薫:「……本当に?」
透:「さっきのカドワクの固まった顔面白かったって思ってる。」
薫:「むぅ…………。」
透:「まぁ、学級委員長になったカドワクの仕事なんだ。頑張れ。
それに、素性が全然分かんないけど悪いヤツって訳じゃなさそうだし、
なんとかなるって。」
薫:「うん。それなりに頑張るけどさ……。」
アルター:「学級委員長よ!」
透:「ん、呼ばれてるぞ。」
薫:「うん、行ってくる……。」
(薫、アルターの方へ向かう。)
ほむら:「…………嗚呼……カオル、可哀想……」
透:「ッ!?」
透:(いっ、一体いつから後ろに居たんだ……ッ!?)
間。
薫:「な、なんですか……。
あ、先生も。」
広嗣:「……ああ、すまないな。」
アルター:「…………。」
薫:「えー……っと、どう、したんです?」
アルター:「……我自身が王と名乗ったのが悪かったのだろうが、
今の我とカオルは学友なのだ。もっと気易く接して良い。
多少の無礼や不敬があろうと目を瞑る。我が許す。」
薫:「あー……ありがとう……それで、どうしたの?」
アルター:「うむ、我は腹が減った、故にヤキソバパンをふるまえ。」
薫:「え……?焼きそばパン?」
アルター:「うむ。ヤキソバパンだ。コウチョーが美味しいと言っていた故、気になった。
故に持って来い。」
薫:「なっ!持って来いって!そんな王様みたいな偉そうに!」
アルター:「……何ィ?王様みたいに偉そうに、だとォ?」
広嗣:「おい、エンキラウタ……!」
薫:あッ……みたいにってか本当に王様じゃん……!!やばい!!
アルター:「っく……くははははははは!!
そうであったそうであった!
我は今、王では無くお前たちと同じ学生であったな。
失礼、詫びようカオル。で、こういう時はどうするのだ?ヒロツグ?」
広嗣:「こういう時は、自分の足で購買に向かい、自分で買うんだ。
食堂の場所はカドワクに聞くと良い。金は私が出そう。」
アルター:「そうか、ではカオル。いや、学級委員長よ。コーバイとやらへ案内せい。」
薫:「あー……まぁ、それは別に構わないけどさ。」
透:「あのー……アルター……さん。」
アルター:「よそよそしいぞ。“アルター”、或いは“アルターくん”で良い。して、なんだトオルよ。
そのような渋柿を連想させる様な申し訳無さ気な顔をして。」
透:「渋柿って……語彙凄いなー……
ってそうじゃなくて、焼きそばパンはこの学校の人気メニューで
早くしないと売り切れるかもだぜ?」
アルター:「なんと!それは由々しき事態ではないかっ!!
というか早急にコーバイとやらの所在を我に教えるのだ!!
ええい!お前も付いてこい!トオルよ!」
透:「なっ!俺もかよ!」
薫:「え、あ、えぇ~……」
広嗣:「こらっ!廊下を走るんじゃない!」
アルター:「むっ!すまぬ!!」
間。
ほむら:「カオル……可哀想……!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~食堂、購買~
透:「はぁ……はぁ……はぁ……道を教えたら超特急で強歩しやがって……
あれってセーフなんですか……」
広嗣:「ま、まぁ……走っては、いない、からな……」
透:「そういう……問題、なんですかね……」
ほむら:「大丈夫?カオルさん?」
透:「ッ!?」
薫:「はぁはぁはぁ……うん……だ、大丈夫……」
透:(リユウイン……!!いつの間に……ッ!!てか何故誰も気に留めないッ!!)
ほむら:(汗ばむカオル……すぅーーーーーーーーー)(鼻で香りを吸引)
透:「リユウイン???どうした???急に息吸って?????」
薫:「は……はぁはぁ……早いよぅアルターくん……
……アルターくん?」
アルター:「……。」(涙が頬を静かに伝う。)
広嗣:「落涙(らくるい)ッ!?」
透:「だ、大丈夫か?アルター?」
アルター:「フッ……いくら我が誇り高き血や精神を受け継いだ人間であろうと、
今の我はただの一学生に過ぎない……
故に、戦士の如く、この闘争……“購買戦争”に勝ち抜かねばならない……
そういうことであろう……。」
薫:「何言ってるの?アルターくん?」
ほむら:「私にもさっぱりです。」
アルター:「しかし!我は、この戦に出遅れた……つまり、敗北したのだ……敗者は益を得られない。
ただ……ただただ苦渋の味を喉の奥で実感するのみ……!!」
広嗣:「ふむ、察するに焼きそばパンが売り切れていたんだな。」
薫:「大袈裟な……」
ほむら:「大袈裟ですね。」
透:「俺は分かるぜ……!アルターが言う事……!!」
ほむら:「…………。」
透:「なんだよリユウイン……」
薫:「……ん?おばさんどうしたんですか?
え?そうなんですか?
アルターくん!まだ焼きそばパンあるって!あと1個だけ残ってるんだってさ!」
アルター:「何ッ!それは……誠か……?
夢や幻想、戯言(たわごと)と言った類ではないのか……?」
透:「センセー。アルターってなんであんなに語彙凄いの?」
広嗣:「私が目を離している隙に校長先生が色々と教えていた。」
透:「……それで何故こんな言語センスに…………。」
アルター:「……フッ……クッハッハッハ……そうか!それは僥倖(ぎょうこう)であった!
コーバイノオバチャンよ!ヤキソバパンを所望するッ!!」
薫:「よっ、良かったね!アルターくん!」
広嗣:「私の金だがな。」
透:「焼きそばパン一個でこんなに一喜一憂する人初めて見た……。」
アルター:「コーバイノオバチャンよ、大義である……いや違うか。ありがとう!、だったか。
では皆の衆、席に着こうではないか!」
透:「はいよー。」
広嗣:「では私は所要があるから戻る。カドワク、エンキラウタを頼んだ。」
薫:「は、はい。」
アルター:「うむ。色々とすまないなヒロツグ!」
ほむら:(カオルの隣盗られた……ッ!)
アルター:「では、いざ実食ッ!!
はむ……はむ……
…………これは……中々どうして美味い!!
うむ!とても美味いぞ!!
我の時代の食べ物には全く比べ物にならない程に……!!
この細長いのに絡まった液体の香料が実にスパイシーかつフルーティー!!
それが細い長いのの集合体を挟んでいるこのふわふわののと絡み合い……
嗚呼、何と言うべきか……次々と……次々と様々な言葉が……
YATAI……HANABI……BON-ODORI……!」
薫:「……ねえ、アルターくん。
アルターくんがさっき言ってた事って……本当なの……?」
アルター:「む?さっきとは?」
薫:「その、王様とか、未来とか過去とか」
アルター:「…………うむ、真実だ。
コウチョー曰く、この時代に時間遡行(じかんそこう)の技術はまだ無い、或いは失われている上に、
神という存在もほぼほぼ形骸化(けいがいか)していると聞いた故、
信じられないのも無理も無いが、まごう事無き事実だ。」
ほむら:「貴方が言う事が本当だと仮定して、どうして“まだ無い、或いは失われている”という風に
あやふやな表現をしているのです?」
アルター:「む。お前は……リユウイン……ホムラ……だったな。」
ほむら:「“さん”を付けなさい。金髪。」
アルター:「きんぱっ……ま、まぁ……事実だが……
して、リユウイン……さん……の問に対してだが、
我は本来の目的であれば300年程過去へ飛ぶ予定だったが、
我が降り立ったこの時代は間違いなく300年前では無いからだ。」
ほむら:「根拠は?」
アルター:「ヒロツグから聞いたが、人類の総人口が5億人以上だからだ。」
ほむら:「5億?」
透:「今の総人口は80億人をとうに超えてるから、確かに違うな。」
アルター:「ああ、故に、ここが我の時代から過去と断定する事が出来ぬ。
神の存在が強くないのは我の認識の過去と同じだが、
文明が我の時代より発達しすぎている。」
薫:「その条件だったら、アルターくんの時代より過去の可能性が高いんじゃないの?
今の時代も人類は緩やかだけど滅亡に向かってるって言うし……」
アルター:「我もそう思った。が、コウチョーが言ったのだ。
“神なら殺された”……と。」
ほむら:「……。」
透:「なんで校長先生がそんな事を……」
アルター:「分からん。
コウチョーは飄々(ひょうひょう)としていてふざけている感じがあったが、
あの言葉を言う時のあやつは……嘘を言っている様には感じなかった……。」
ほむら:「……。」
透:「……。」
薫:「…………え、何この空気。」
アルター:「……ッフ、そうだな。神妙な空気になる必要は無い。
とにかく、この時代を知り、過去か未来か見極めつつ、神を殺す方法を模索する。
それが我の役目だ。」
透:「な、なるほど……。」
アルター:「ま、コウチョーもあまり固くならずにやれと言っていた故、そうする事にした。
それに時空間移動装置スペイェムを紛失した故、元の時代に戻る事も出来ないしな!」
薫:「あ~そうなんだ~それはしかたな………………え……?」
薫:、透:「「えぇ~~~~~~~~!!!??」」
薫:これが彼、アルター・エンキラウタとのファーストコンタクトであった。
今回はそんなに辛くは無かったが……
その後、事ある毎にアタシの平穏を脅かし、アタシたちを振り回すのであった……。
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To Be Continued…