[断片]蕣 英美「おはよう。」
「おはよう。」
……。
返事は返って来ない。
けど、それがアタシの普通で、日常。
そう思って過ごしていた小学4年生がアタシだった。
お母さんにも、お父さんにも、お兄ちゃんにも、同級生にも、無視される。
それが、アタシなんだ。
どうしてか、どうしてなのだろう。
アタシは何かしたのだろうか。
アタシは変なのだろうか。
アタシが悪いのだろうか。
アタシには分からなかった。
「おはよう。」
返事はない。
「おはよう。」
返事はない。
「おはよう。」
返事は、ない。
どうしてなの?どうしてなのかな……
本当に、本当にアタシ、分からないの……
誰か……教えて……教えてよ……
そう、思いながら、今日も夢に沈む。
……。
…………。
………………。
「おはよう。」
「おはよー英美(えいみ)ー」
「おはよう。」
「おはよう、英美ちゃん。」
「おはよう。」
「おはよー!えいみちゃーん!」
………………。
…………。
……。
「……。」
「ああ、ゆめ……か……」
……。
起きる理由、あるんだろうか。
窓の空を見る。
……雨が上がって良い天気。虹が出てる。
「……ああ……きれい……だなぁ……。」
無理矢理、理由を作って起き上がる。
「おはよう。アタシ。」
「……うん、おはよう、アタシ。今日こそ、完成させようね。」
「うん、頑張るよ、アタシ。」
鏡の中の自分に挨拶をする。
学校の準備をして部屋出る。
「おはよう。」
返事はない。
だから、そのまま玄関へ向かう。
「ねぇ。」
っ!
「なっ、なにっ!」
声を、掛けられた!
「アンタが裏庭に置いてるゴミ、捨てて良い?」
「…………え……?」
「今日ちょうどゴミの日なのよ。捨てて良い?」
「だ……だめ……」
「……。フン……。」
お母さんはそれだけ言って台所に戻っていく。
……。
……え……?ご、ごみ……?
ご……ごみじゃ、ない……あれは……アタシが作った……
…………。
………………。
……このままじゃ……捨てられちゃう……?
い、いやだ……。
アタシは踵を返して家に戻った。
捨てられちゃわないように。
けど、学校に持ってくるのは間違ってた。
「…………。」
皆からの視線が、痛い。
「蕣(あさがお)さんが変なの持ってきてる。」
「おい、何持ってきたか聞いてこいよ。」
「えぇ、やだよ。どうせゴミだよ。」
「そうだね。」
「くすくす。」
「クスクス。」
ひそひそと、口々に、何かを言っている。
こわい。こわい、こわい、こわい……。
「…………。」
「きりーつ、今日は転校生がいますー」
先生が入ってくる。けどアタシはそれどころじゃなかった。
何か、嫌な予感がする。
「せんせー!あさがおさんが学校にゴミ持ってきてるー!」
「っ!?」
「そーなの!変なの持ってきてるのー!」
「っ!!」
「ああ?そうなのか?蕣。」
「っ!!あっ、あのっ!」
「どれ、出してご覧。先生が捨てといてやる。」
「あ、や、その、ちが……っ」
『アンタが裏庭に置いてるゴミ、捨てて良い?』
「ご……」
「ごみじゃ――」
「ごみなんかじゃないですよ。」
……えっ。
……だ、誰……?
声の方を見ると、先生の隣に綺麗な……女の子が居た。
「木彫り、ですね。まだ作り掛けですけど。」
……。
「ふむ……ねえ、これ、アナタが作ったの?」
……。
「……?おーい、もしもーし。」
「……あ、はい!アタシが、作りました!……じゃなくて、作ってます……」
アタシがそういうと、その子は一瞬、目を大きく目を見開いて、改めてアタシの作ってる木彫りのお馬さんに視線を移す。
「……へぇ〜……凄いね。アナタ、私と同じ10歳とかでしょ?
うん、凄いよ。しっかりと前足と後ろ足の違いが出てるし、
ただ突っ立てるだけじゃなくて走ってる姿を切り取っていて躍動感がある。」
「え……え……?」
「馬をよく観察出来てる。
……羨ましいな……。」
大きな目をキラキラさせて、アタシのお馬さんを褒める。
「……おっと、失礼。
不躾だったね。」
「ぶ、ぶしつけ……?」
「……ふふふ、まあまあ。
そういえば、まだ自己紹介も、挨拶もまだだったね。」
「おはよう、初めまして。
私は衝羽根 煌子(つくばね こうこ)。
今日から皆の、アナタの、クラスメイトとして、よろしくね。」
これが、アタシと煌子ちゃんとの出会いだった。
「おはよう。」
返事はない。
「おはよう。」
返事はない。
「ん、おや、おはよう英美ちゃん。」
「……うん!おはよう!煌子ちゃん!!」
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END