[台本] やみどもえっ!!!
世界設定、場面状況
特に変わった事はない何の変哲も無い世界、つまり普通の世界、普通の日常。
青年の一年の恋愛は終りを告げ、新たな始まり、になりたいモノたちが動き出す。
これは三つ巴の愛の物語。しかしその愛は幼く無邪気で、非常識で不道徳で、凶器な狂気。
それを受ける人間は、ただただ平凡で優しい。
登場人物
○御七誌 宏樹(みなし ひろき)
24歳、男性
普通の会社員で普通の人。
優しく、お人好しな人で悩み癖がある。
ひょんな事から激動の数日を過ごす事になる。
○さよ
自称6歳、ょぅι゛ょ
幼女。ょぅι゛ょ。
自称6歳にしては落ち着いていて博識、時折見せる隙には確かにょぅι゛ょだが……
突如宏樹の前に現れ嫁宣言をする。さよは仮名。
○藍薔薇 透里(あいばら とおり)
24歳、男性
探偵をしている宏樹の昔馴染みの友人。
いつも飄々としていて掴めない人間で適当な人物。
宏樹が面白そうなことに足突っ込んでいるから首を突っ込むことにした。
○麻乃 千捺(あさの ちなつ)
26歳、女性
宏樹の勤める会社の先輩、よく宏樹の相談事に乗っていた。
とても頼れるお姉さんだが、少々ドジでよく腕とかを怪我している……。
宏樹が大変な事になっているから救い出す為に動く。
名前だけの登場人物
●観月 カノン(かんづき かのん)
24歳、女性
小学生教諭をしている宏樹の元彼女。
外面は良いが、性格は最悪。
御七誌 宏樹♂:
さよ♀:
藍薔薇 透里♂:
麻乃 千捺♀:
( 「」/『』が付いてない台詞はモノローグ、キャラクターナレーションです。)
↓これから下が台本本編です。
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宏樹:俺はその日、一年付き合っていた彼女に、フラれた。
~居酒屋~
(宏樹、ビールジョッキを一気飲みする。透里、串焼きを食べてる。)
宏樹:「ゴク……ゴク……ゴク……ゴクッぷはァ……!!
う~~ううう……あんまりだ……あ゛ァ゛ァァん゛ま゛り゛だ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ!!!」
透里:「まぁまァ、泣くなよ。
お前が付き合ってた……“観月 かのん(かんづき かのん)”って女……
正直、オレは別れて正解だと思うから、あむっ、むしろ祝砲を撃ってやるぜ?」
宏樹:「ふざけんなボケェ!
カンヅキさんはやっとできた彼女だぞ!?
てか、なんなんだよ……“重いわ”って……!
人間関係真剣にやってるだけじゃねぇかよぅ!!」
透里:「ハハハ、お前は色々難しく考えすぎなんだよ。宏樹(ひろき)。
確かに、恋愛は真剣に考えるのは良い事だ。大いに良い事だァ。
あむっ……けどなァ……考えすぎは良くねェな。」
宏樹:「……グスン……なんでだよ……」
透里:「なんでもそうだけどよ。やり過ぎは逆効果だ。
お前さァ、一緒に居た時、女の事、考えてたかよ。」
宏樹:「考えてたに決まってるだろ。だからボクは真剣に――」
透里:「違う違うちがァう。
お前の言う“考えてた”、は先々の事だ。先々の女の事だ。
今の、目の前の、女の事は考えてたのかよ、ってハナシだァ。あむっ。
(店員に向けて)あ、すんませーん、ぼんじり、タレで二本お願いします~!
……。
あい、以上でェ~よろしくおねがいしゃぁ~す。
(宏樹に向けて)……で、どうよ?」
宏樹:「………………分からない……。」
透里:「ま、そりゃそうか。
オレァ、お前じゃねェから、断定はできねェけど、お前はそういうヤツだから考えてなかったと思うぜ。」
宏樹:「…………。
ボクって駄目な彼氏だったんだな……。」
透里:「その女にとっては、な。
お前はわりィヤツじゃねェよ。
ま、さっきも言ったけどあの女いけ好かねェって思ってたから、尚の事、お前がわりィと思わねェ。
ただヒロキは、考えすぎなだけだ。」
宏樹:「……。」
透里:「イーじァねェかァ。
今回は縁が無かった、それだけだ。
お前の考え過ぎなとこも、愛してくれる相手が現れるさ。
お前と同じくらいやり過ぎなヤツとか、な。」
宏樹:「フフ……なんだよやり過ぎなヤツって……」
透里:「同じレベル同士ならウマが合うだろうよ、ってハナシだ。」
宏樹:「なんだと~?
そ~いや今日はお前の奢りって言ってたな透里(とおり)……。
フフフ……お前の財布空っぽになるまで飲んでやる!!」
透里:「お~言うたなァ~???
飲んでみろよォ~~」
宏樹:「ヘヘヘ!
(店員に向かって)すいませーん!!」
◇
透里:「いやァ~~~マジでクソ飲んだなァ~」
宏樹:「うぅ~~のみすぎたぁ~~~」
透里:「はっはっは!ホントに飲み過ぎだ馬鹿。
大丈夫か?一人で家帰れるかァ?」
宏樹:「だいろ~ぶだいろ~ぶ~」
透里:「心配だなオイ……けど……うー……ん……」
宏樹:「とーりぃ、あしたもようじあんだろぉ~ぼくぁだいじょうぶだからぁ~」
透里:「あ、そうか?じゃあ、気ィつけて帰れよ。」
宏樹:「あいあいさぁ~!」
透里:「……。」
宏樹:「(透里と目が合ってニコっ、と笑う)ん、どーしたんだよ。トオリ。」
透里:「フフフ、いや……じゃア、またなァ~!」
宏樹:「お~うぅ~」
◇
宏樹:「うぇぇえ~……流石に、ヤケ酒が過ぎたな……」
透里:『なんでもそうだけどよ。やり過ぎは逆効果だ。
お前さァ、一緒に居た時、女の事、考えてたかよ。』
宏樹:「…………。」
宏樹:ボクは、彼女の事を考えられていただろうか。
……分からない。覚えてない。
…………。
覚えてない……か……。
さよ:「ひろき……さん……?」
宏樹:「えぇ……?」
さよ:「そんなにふらふらして、だいじょうぶですか……?」
宏樹:「え……あ……ああ、大丈夫だよぉ……」
(宏樹、その場に倒れる。)
さよ:「きゃっ!
…………。
ひ、ひろきさん……?ひろきさん!!」
宏樹:ん……意識が……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~宏樹の家~
宏樹:「…………んぁ……?
……いっつつつつつ……
ああ、そうか、昨日飲みすぎて……あれ?ボクどうやって帰ってきたっけ……?」
(宏樹、起きる。)
千捺:「あ、ヒロキくん起きた?」
宏樹:「…………?」
(宏樹、さよが寝ぼけて千捺に見える。)
宏樹:……あさの……さん……?
今、ボクの名前……というか、どうして…………、あ……そっか……
宏樹:「…………ああ、なるほど……いつも通りトオリのヤツが気を効かせて……
また迷惑かけちゃいましたね……」
千捺:「ううん、気にしなくていいよ。
それより、お味噌汁、作っておいたから、顔洗ったら食べて。」
宏樹:「え……わざわざ……ありがとうございます……」
千捺:「いえいえ、これくらいお安い御用だよ。」
宏樹:「ははは……麻乃(あさの)先輩は良いお嫁さんになれますね。」
千捺:「……は?」
宏樹:「え……?」
(宏樹、目をパチパチし、さよを正しく認識する。)
さよ:「ダレデスカソノオンナ。」
宏樹:「……誰ぇ……?」
さよ:「しつもんをしつもんで返さないでくださいっ!」
(さよ、宏樹の枕元に包丁を刺す。)
宏樹「へェあッ!?ほ、包丁ッ!!!??」
さよ:「ぎもんぶんにはぎもんぶんでこたえなさいと教えられたのですか!?
アタシはだれですかそのオンナと聞いたのです!!!」
宏樹:「あッ、アサノさんはボクの会社の先せッ、輩です!!!!!!!!!!」
さよ:「せん……ぱい……?こいびとさんではないのですか?」
宏樹:「違う!違うから!!ただの先輩だから!!!」
さよ:「…………えへ♪ならいいです!」
(さよ、ぱあっと笑顔になる。)
宏樹:「……ハァ……た、助かった……」
さよ:「さ!ひろきさん!おみそしるつくったので、かおを洗ってきてください!」
宏樹:「あ、ああ……。」
◇
宏樹:「ズズズー……」
さよ:「ふふふ~♪ど~ですか~?ちゃんとできてますか~?」
宏樹:「うん、凄く美味しい。
凄く美味しいんだけど……」
さよ:「ほぇ?もっとこゆめの味のほーがすきでしたか?」
宏樹:「いや、味はもうジャストにボクの好みなんだけどさ。」
さよ:「ほ……よかったです!」
宏樹:「あはは……で、君は誰なの?」
さよ:「へ?」
宏樹:「え?」
さよ:「…………。
えへ♥」
宏樹:「幼女特有のあざとさで誤魔化さないでくれ。」
さよ:「うぅ……。
えっと、アタシの名前は“さよ”です。」
宏樹:「さよ、ちゃん……」
さよ:「はい♪」
宏樹:「……で、さよちゃんはどうしてボクの家にいるの?」
さよ:「え?おぼえてないのですか?」
宏樹:「う、うん……恥ずかしながら……
君がボクの家で味噌汁を作ってる状況に至るまでを全くもって記憶にない……。」
さよ:「…………えへ♪
アタシがひろきさんのおよめさんだから、ですよっ♪」
宏樹:「へぇ~……なるほど……」
間。
宏樹:「えぇッ!?君がボクのお嫁さん!?!??!?!?」
さよ「はい♥」
宏樹:「はい、って!?えぇ!!?
どういうことぉ!?」
さよ:「そのままのイミですよっ♥」
宏樹:「えぇ……何もわからない……
っていうか、君、お母さんはッ!?」
さよ:「…………ぷい。」
宏樹:「かわいいねぇ~、じゃなくて!!
そうだよ!お母さんとか家族の人が心配してるかもしれないじゃないか!
さよちゃん、君の住所とか親御さんの連絡先とか――」
さよ:「教えませんよ。」
宏樹:「……え?」
さよ:「教えたらひろきさんとバイバイしないといけなくなっちゃいますから。」
宏樹:「……へ……?」
さよ:「さきんじて言っておきますけども、アタシをけいさつさんに連れていくのはおすすめしません。
けいさつさんに連れていかられたらアタシはひろきさんにゆうかいされた、といいます。」
宏樹:「な、なにぃ!?」
さよ:「みせーねんしゃをりゃくしゅ、またはゆうかいしたばあい、三ヶ月以上、七年以下のちょーえき、
あるいは三十万円以下のばっきん、もしくはその両方がかせられるばあいもあります。」
宏樹:「え、えぇええ!?」
さよ:「けいさつさんがひろきさんの味方をしてくれる可能性は、考えない方が良いですよ?
たとえば、ひろきさんのおうちをかたくそーさされた時にしょーこが出るようにたくさん、しこんでおきましたから!!」
宏樹:「げぇえッ!?
さよちゃん何歳なんだよ!?」
さよ:「ろくさいです!えへっ♥」
宏樹:「6歳でここまで頭が回るのは異常だよ!!」
さよ:「ひろきさんのおよめさんになる為に!いっぱいべんきょーしましたっ!」
宏樹:「努力と健気さのベクトルがおかしいッ!!!」
宏樹:その時、家のチャイムが鳴った。
さよ:「?」
宏樹:「えっ!?」
千捺:「御七誌(みなし)く~ん?」
宏樹:「え……どうして……」
さよ:「オンナ……?」
宏樹:「ッ!!」
宏樹:今この二人を引き合わせるのは色々とマズイ気がするッ!!
千捺:「ミナシく~ん?大丈夫~?
藍薔薇(あいばら)くんから連絡来ていつも通り様子見に来たんだけど~。」
宏樹:「トオリのヤツ!今回ばかりはッ!」
さよ:「とーり……また別のオンナの名前ですか……。」
宏樹:「ちっ、違う!トオリは──」
千捺:「あら?鍵空いてる……。」
宏樹:「なんですと!?」
千捺:「もーちゃんと戸締まりはしっかりしないと怖い人が――っきゃッ!」
(千捺、開けて入ろうとするが、宏樹に内側からドアノブを握られドアを閉められる。)
宏樹:「おっ!おはようございます!!アサノさん!!」
千捺:「お、おはよう……なに?―どーしたのミナシくん。」
宏樹:「えっと!いえ、なんでもないです!!」
千捺:「じゃあ部屋にあげてよ。」
宏樹:「それはッ、出来ませんッ!!
そ、そのッ!へ、部屋が汚いんで!!」
千捺:「えぇ?それくらい今更気にしないよ。」
宏樹:「も~~~~!滅茶苦茶!!滅茶苦茶なんですよ!
なんかボクが外に出ている間にボクの部屋でハリケーンが起きたみたいで!!」
千捺:「ハリケーンはアメリカ大陸近海上でしか発生しないよ?」
宏樹:「いや博識!!さッ、流石アサノさんですねッ!!
とにかくもうしっちゃかめっちゃかなので!!!」
千捺:「だったら尚更片付けるの手伝うよ?」
宏樹:「いえ大丈夫なのでェ!!」
千捺:「……せっかくシジミの味噌汁作って持ってきたのに……。」
宏樹:「え゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛ッ!?」
さよ:「ひろきさん……。」
宏樹:「ひッ!!」
さよ:「さっきあさのさんはただのせんぱいって言ってましたよね……?」
宏樹:「へッえぁあッ!!」
さよ:「ただのせんぱいがおみそしるを持ってくるんですかぁ?
おへやのおそうじをてつだってくれるんですかぁ?
こんなにはくしきなんですかぁ??」
宏樹:「いや博識な可能性は十二分にあるだろッ!!」
千捺:「えぇ?急に口調荒くしてどーしたの?ミナシくん?誰と話してるの??」
宏樹:「えッッえぇ!?えェッとォ!!
あ!あれです!AIです!!アレクサとか!Siriとか!!
アレクサ!今日の天気はー!」
さよ:「すみません、よくわかりません。
三度(みたび)聞きます。
ひろきさん!おしえてください!あのオンナとはどういうかんけいですかっ!!」
宏樹:「スミマセン!ヨクワカリマセェエエエエエン!!!」
千捺:「ミナシくん!?ホントに大丈夫!?」
宏樹:「ああー!大丈夫ですゥ!!
あ!ちょっと開けるんで少し扉から離れてください!」
千捺:「えぇ?ああ、はい……」
宏樹:「フン!
おはようございますゥ!お味噌汁ありがとうございます!ありがたくいただきます!!
失礼は承知ですが、また後日!また後日お話しましょう!
ではさよな……って……アサノさんまた左腕怪我して……」
千捺:「え……?あーあははー……ちょっと昨日転んじゃってぇー……」
宏樹:「ボクの事を気にかけてくれるのは嬉しいですけど、気を付けてくださいよ?」
千捺:「……うん、ありがとう、ミナシくん。
ミナシくんが元気そうで良かったよ。」
宏樹:「アサノさん……。」
さよ:「フシュゥーーーーーーーー……」
宏樹:「あばばァッ!!
じゃあ!アサノさん!さよなら!また今度!!」
(宏樹、扉を閉める。)
千捺:「ああっ、ミナシ……くん…………」
間。
宏樹:「……ふぅー……なんとかな――」
さよ:「フシュゥーーーーーーーー……」
宏樹:「――ってない!!
お、おおおおおお落ち着いてさよちゃん!」
さよ:「ひろきさん……?」
宏樹:「は……はい……な、なんでしょうかぁ……」
さよ:「アタシ、あたまいいですよね?はくしきですよね?」
宏樹:「え……?あ、ああ……まぁ……誘拐云々に関してよく知ってるねって感じだったね……」
さよ:「おみそしる、おいしかったですよね?」
宏樹:「あ、ああ……凄く美味しかった。凄くボク好みだった……ね……」
さよ:「ですよね!ですよね!?」
宏樹:「う、うん……。」
さよ:「ふふ♪じゃあ、おそうじ!します!
あのアサノとかいうオンナよりアタシが上ってひろきさんにみとめさせますっ!」
宏樹:「え……あぁー……うん。」
宏樹:スゥーーーー…………今のうちに、トオリに連絡して……
アイツ、あれで結構凄い人だし、探偵だし、なんとか……
……いや、探偵ってそんな凄い職業だっけ……?
さよ:「ひーろっきさん♪」
宏樹:「でぇぁああッ!!な、なに……?」
さよ:「おともだちにおでんわとか……メっですよぉ……?
けいさつさん……いえ、たんていさんとかもダメですよ。」
宏樹:「なんでボクの思考が読めてんのこの幼女!!」
透里:『まァ、そういうこともあるっしょォ~』
宏樹:「ハッ!(小声で)トオリ!良かった……!もしもしッ、なあちょっとたすk――」
さよ:「せいっ!!」
(包丁が飛んでくる。)
宏樹:「がアッ!!?」
(宏樹、包丁が刺さった壁を見て、さよの方を見る。)
宏樹:「…………。
さよ……さん……?」
さよ:「メって……言いましたよね♪
消してください♪そしてスマホをわたしてください♪早く♪早く♪……早く。」
宏樹:「は……はい……。」
さよ:「……よろしっ♥♪
……あ、にげないで、くださいね……?」
宏樹:「…………くっ!詰んだ……!」
透里:『わお、面白いねェ。』
宏樹:「えっ!?」
透里:『っとォー騒ぐなよォヒロキィ。
あくまでも平静に、な。』
宏樹:「……あ、ああ……
(小声で)…………え……っとぉ……トオリ……なんだよな?
お前どこからボクと会話してんの……?」
透里:『ここだよ、ここ。
目の前の蚊みてぇなヤツ。』
宏樹:「えェ……?」
透里:『これ、オレが作った超小型モスキートガジェットなんだ。
どうよ、探偵っぽいっしョオ。』
宏樹:「ええ……?それはもう探偵の域じゃないんだが……?
え?どういう科学力?現代の科学力を凌駕してないか……?」
透里:『……あア、一般だとそんなモンだったか。』
宏樹:「へぇええ……?」
透里:『まァ、その話は置いといて、雰囲気からして脱出できそうにないな。』
宏樹:「あ、ああ……。」
透里:『おい、あの幼女、今何してんだ。
モスキートガジェットじゃ視覚情報が微妙なんだ。教えてくれ。』
宏樹:「今、あの子は……」
さよ:「ふっふふ~♪ふふ~♪」
宏樹:「今、ボクの部屋を掃除してる……」
透里:『そうか。だったら、掃除させとけ。
なんなら、その幼女に色々させてろ。』
宏樹:「え……?何を考えてるんだトオリ?」
透里:『まぁ、色々だ。
とりあえず、今はそうしておけ。
できればお前はあまり動かず、呼吸を浅くしておけ。
けど、怪しまれない様にな。』
宏樹:「わ、分かった……。」
宏樹:「……。」
さよ:「おっそうじたのしいなぁ~♪
……ほぇ?ひろきさんどーしたんですか?」
宏樹:「え、いや、色々とありがたいなぁ~もうしわけないなぁ~って思ってて……
えっと、ボクも何か手伝おうか?というか、ボクの部屋だし……。」
さよ:「ふふ!きにしなくていいですよっ!
アタシはアタシがやりたいことを、やってるだけなのでっ!」
宏樹:「あ……ああ……そう……」
さよ:「はいっ!♪」
◇
さよ:「ふうー!終わりましたっ!」
宏樹:「おおー……めちゃくちゃ部屋が綺麗に……
……君、本当に凄いね。
料理もそうだけど、掃除も……本当に6歳なの?」
さよ:「はいっ!
アタシ、ひろきさんのおよめさんになる為にいっぱいしゅぎょーしましたので!
それにしてもさっきのオンナが作ってきたおみそしる……なんだかすこしてつくさい気が……」
宏樹:「ねえ、さよちゃん。」
さよ:「ほ?どうしました?ひろきさん。」
宏樹:「……ボクはさよちゃんの事を知らない。
けどさよちゃんはボクの事を知っている……君はボクといつ出会ったの?」
さよ:「……。
……はなびたいかい……。」
宏樹:「え……?」
さよ:「……。
過去なんてどうでも良くないですか?」
宏樹:「……。」
さよ:「アタシは……おねえちゃんの様に、ひろきさんをきずつけません。」
宏樹:「お姉ちゃん……?」
透里:『……。』
さよ:「おねえちゃんはひろきさんをきずつけていた……。
それでも、ひろきさんはおねえちゃんのこいびとさんで……
けど、もうちがう。」
宏樹:「ちがう……?」
さよ:「アタシ、気付きました。。
アタシがおねえちゃんの為にガマンするひつようなんかないって……
だって、アタシは、おねえちゃんなんかよりも、もっと、もっともっとひろきさんのことが好きなんですから。
だから……おねえちゃんのことなんか忘れて、
これからは、アタシといっしょに思い出をつくりましょ?」
宏樹:「……なあ、お姉ちゃんって……」
透里:『そろそろだな。』
宏樹:「え?」
さよ:「……ん……あ、れ……なんだか……ねむくなってきましたぁ……」
宏樹:「え?大丈夫?
ずっと動きっぱなしだったもんね。
ごめんね、さよちゃん。」
さよ:「いえいえ……おやすいごよう、ですよぅ……
ですが、ちょっぴりだけ、ほんのちょっぴりだけ……やすませてください……」
宏樹:「……ああ、ありがとねさよちゃん。」
さよ:「えへへ……」
(さよ、クッションの上で丸くなって寝る。)
宏樹:「……そうだよな。さよちゃん、まだこんなに小さいんだ。
あれだけ動けば――」
透里:『催眠ガスが早く回るだろうな。』
宏樹:「…………えぇ……?」
透里:『オレが侵入してから徐々に催眠ガスを散布し、充満させた。
あの幼女はお前より背が低いし、身体も小さいし、若さ故に血の巡りも良い。
その上、あれだけよく動いていたんだ。本来3,4時間で眠るところ、1時間弱で効果発揮。
オレの想定通りだったな。』
宏樹:「は……?さい、みん、がす……?
お前、何もんだよ……」
透里:『藍薔薇 透里(あいばら とおり)、探偵さ……』
宏樹:「やってることが探偵より三代目ルパンなんだよな……」
透里:『あ、ヒロキ、あまり姿勢低くすんなよ。
下の方にガス溜まってッから。
あと早めに部屋の換気をしておけ。その幼女が窒息死しちまう。』
宏樹:「なァあァアッ!!それを早く言えッ!フン!!(窓を開ける。)」
透里:『その幼女が眠ってる間に脱出しろ。』
宏樹:「あ、ああ……
……。
先んじて言っておくが、拘束とかはしないからな。」
透里:『あ?まァ、本当はしといた方が良いが、ガキって何が理由で死ぬか分かんねェからな。
それでいい。
普通に家の戸締まりしてあったかいお布団に寝かしておくくらいにしとけ。
あと服は着替えておけ。出来ればタンスの奥底にあったヤツとかでな。
集合場所はいつものカフェで。』
宏樹:「了解……!」
間。
さよ:「……むにゃむにゃ……ひろき……さん……」
宏樹:「…………ごめんね……さよちゃん。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~藍薔薇家~
透里:「……フゥー……
とりあえず、なんとかなったなー……
……ん、電話……アサノさん……?
はい、もしもしー。」
千捺:『あ、アイバラくん?』
透里:「どうしました?」
千捺:『あの、ミナシくんなんだか様子がおかしかったんだけど、何か知らない?』
透里:「あー……それがですねェー……
……。
いや、なんもねェっすよ。」
千捺:『え……?』
透里:「酒が回りすぎてたんじゃないんですかねェー
ま、とにかく大丈夫ですよ。」
千捺:『……そう?』
透里:「はイィ。
じゃア、オレこれからやる事あるんで、これでェ。」
千捺:『あっ、ちょっと待って。』
透里:「なんです?」
千捺:『ミナシくんとカンヅキさん、予定通り別れたんだよね。』
透里:「……はい。」
千捺:『……。
そっか。教えてくれてありがと。
引き止めてごめんね。じゃあ、またね。』
透里:「はいはーい。
……。
……もう、オレも傍観者辞めるんで、勝負、ですよアサノさァん……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~カフェ“ビー・ストジェビュー”~
宏樹:「トオリ~!」
透里:「お、ヒロキ~、早かったなァ。」
宏樹:「いや、ホントに助かったよ。」
透里:「ダチのお前の為だァ、それくらい。」
宏樹:「……トオリ……ありがとな。」
透里:「おう。
んじゃ、本題に入るか。」
宏樹:「あ、ああ。」
透里:「大前提だが、ヒロキはホントにあの幼女に記憶は無いんだな?」
宏樹:「無い。忘れている可能性は大いにあるけど……」
透里:「そうか。じゃア、次。
あの幼女が言ってた“お姉ちゃん”ってェのは、やっぱ……」
宏樹:「ああ、多分。トオリの考えているとおりカンヅキさんで合っていると思う。」
透里:「だよな。
だが、前にあの女の身辺を調査した際、妹は居ない、なんなら一人っ子だとオレらは知ってる。」
宏樹:「ああ……え……お前身辺調査とかしてたの?」
透里:「とーぜんだろ。オレのダチが付き合う女がどんなヤツか気になるだろ。」
宏樹:「いや、そうかもしれないけど……スゥーーーー……ま、まぁ、いいや……
トオリの言う通りカンヅキさんには妹はいなかった。
というか、妹がいたとして、年の差離れすぎだし。」
透里:「年の差に関しては別段可能性が無いワケでは無いが、本当の姉妹って事は考えなくて良いだろうな。
とすると、アレの姪とかいとこ、はとこ……あとは、近所のガキ、
そういや、あの女、小学校教諭だったな。
となると、その小学校のガキも考えられる。」
宏樹:「……なんかトオリ、本当に探偵っぽいな。」
透里:「あ?はっはっは、さっきから散々オレの探偵っぽいとこ見せてたろうが。」
宏樹:「いや、あれは……もういいや……」
透里:「家でも軽く調べたが、やっぱあの女の周囲に“さよ”って名前に該当する幼女はいねェな。」
宏樹:「じゃあ、やっぱ偽名だったのか。」
透里:「フン、用意周到な幼女だ事。
……まさかとは思うが、GPSとか盗聴器とか仕掛けられてねェよな。」
宏樹:「え?いや、まさか。」
透里:「とりあえずスマホ貸せ。」
宏樹:「ほい。」
透里:「…………とりあえず、大丈夫そうだな。
服は言われたとおり着替えてきたか?」
宏樹:「ああ、問題ない。」
透里:「よし、これでしばらくは大丈夫だろうな。」
宏樹:「……なあ、ボクはこれからどうすれば良い?
警察に行った方が良いよな?」
透里:「それはどうだろうな。
現状だとシンプルに監禁犯だからお前が負けそうだな。
まぁ、あの幼女が、ヒロキが不利になる事言っても戯言とあしらってくれる可能性はあるが……
希望的観測はやめるか。」
宏樹:「うぅ……。」
透里:「……ッフ、ま、何か方法を考えておくわ。
まぁ、弁護士とか雇えばなんとかなるたァ思うけどよ。
正直、そこまでやる必要はねェだろうしな。」
宏樹:「……本当に、何から何までありがとなトオリ。」
透里:「ん、なんだよ改まって。」
宏樹:「いや、本当に助かってるからさ。」
透里:「……フン、ま、オレァ、ヒロキ、お前の事が好きだからな。」
宏樹:「え、なんだよそれ。
唐突だなーま、ボクもトオリが友達で本当に良かったよ。」
透里:「そういう意味じゃねェよ。
ダチとしての好きじゃねェ。」
宏樹:「え……。」
透里:「言っとくが冗談じゃねェぜ。マジだ。
突然ワリィな。
あの幼女の話聞いてたら、傍観者してんのアホらしくなってな。
……ワリィな。」
宏樹:「……別にトオリが謝る事じゃないだろ。
そりゃ、まぁ、本当に急だったから驚いたけど、
謝る事じゃない。」
透里:「……そういう優しいとこ……大好きなんだ……」
宏樹:「う、け、けど、あれだからな。
ボクはあくまでも友達として好きなんだからな。」
透里:「ああ、だから、これから振り向かせてやるよ。」
宏樹:「おっ、お前……そういう言葉マジで似合ってるな。」
透里:「そうかァ?ときめいちまったかァ?」
さよ:「ひろきさん……。」
宏樹:「へェあッ!?」
透里:「あ?」
宏樹:「さ、さよちゃんッ!?どうして此処に!?
まさか!自力で脱出をッ!?」
透里:「いや、ただお布団に寝かしつけてだけだろーが。」
宏樹:「それもそうか。じゃあどうして此処が!?」
さよ:「愛、ですっ♥」
宏樹:「何故そこで愛ッ!?」
さよ:「そんなことより!!」
宏樹:「ひぃッ!!」
さよ:「だれですか?そのオトコ……?
ひろきさんの守備範囲は名前通り広いとは思ってましたが、まさかオトコまでとは……」
宏樹:「ちッ、違う!トオリとはそんな関係じゃない!!」
透里:「えェ、違うのかァ?」
宏樹:「話をややこしくするな馬鹿ッ!!」
さよ:「ッ!!!!!!!!!やっぱりッ!!!!!!!!!」
(さよ、包丁を出す。)
透里:「ほォ~?」
宏樹:「なっ!!包丁!?
待て、さよちゃん!話を聞いてくれ!!」
さよ:「ひろきさんそんなヤツを庇わないでください!!」
宏樹:「んなわけに行かないよッ!!」
さよ:「ひろきさんどいてッ!!ソイツころせないッ!!!!」
宏樹:「お前絶対6歳じゃないだろォッ!!!」
透里:「ハハハ、面白いなこの幼女ォ。」
宏樹:「そんな呑気な事を言ってる場合じゃないだろ!」
さよ:「ひろきさんに色目を使わないでください!このイロオトコめっ!!」
宏樹:「それは普通に褒め言葉だよッ!!」
さよ:「ふッ!」
(さよ、宏樹の脇を素早く潜り抜ける。)
宏樹:「なッ!すばしっこい!!」
さよ:「かくごっ!はぁあああああああああっ!!!」
宏樹:「逃げろ!!トオリッ!!!」
千捺:「はぁああッ!フンッ!!」
(千捺、素早くさよと透里の間に入ってさよにラリアットをかます。)
さよ:「がは……っ!」
宏樹:「なあッ!?ラリアットォ!!?」
千捺:「ふぅー……二人共!大丈夫!?」
透里:「はイィ、オレは大丈夫っすよォ。」
宏樹:「ボクも……ってさよちゃん!さよちゃん大丈夫!?」
さよ:「ふにゅぅ~……」
千捺:「安心して、峰打ちよ。」
透里:「ラリアットにおける峰ってどこっすか?」
宏樹:「アサノさん!助かりましたけどやり過ぎですよッ!」
千捺:「いえいえ、ちゃんとした正当防衛だよ。
相手は刃物を持って明確な殺意を持って襲ってきたのだから、ちゃんと抵抗しなきゃ。
拳で!」
宏樹:「そう、ですか……
てか、アサノさん、どうしてここへ?」
千捺:「町を歩いていたらミナシくんの声が聞こえてきてね?
そしたら二人が襲われていたから急いで助けに来たの。」
宏樹:「ああ、なるほど、ありがとうございます。」
千捺:「にしても、この子は……え?セレナちゃん?」
透里:「ッ!」
宏樹:「え!?セレナちゃんって、カンヅキさんの姪っ子の……!」
さよ:「う……うぅ……ん?……あ、あれ?ちなつ……おねえちゃん……?」
宏樹:「チナツお姉ちゃん……!?」
千捺:「ええ、この子は私の姪の“月見屋 セレナ(つきみや せれな)”ちゃん。
セレナちゃん、どうしてここに?」
さよ:「……。」
千捺:「セレナちゃん?」
さよ:「……ひろきさんのおよめさんになりにきました。」
千捺:「え…………?」
透里:「そういえば、アサノさんとあの女……“観月 カノン(かんづき かのん)”もいとこ同士だったなァ。
なるほどなァ。まさかここで繋がってくるたァ思わなかった。」
千捺:「それはどういうことなの?セレナちゃん?」
さよ:「そのままのいみです。
アタシはひろきさんの事が好きです。だからおよめさんになりたいのです。」
千捺:「……。」
さよ:「……ちなつおねえちゃん……。」
宏樹:「……な、なあ、なんか空気重くないか……?」
透里:「まァ、落ち着け。じきに分かる。」
宏樹:「?」
千捺:「私が、ミナシくんの事好きなの、知ってるよねセレナちゃん。」
さよ:「はい。」
宏樹:「…………ん?」
千捺:「私の邪魔をした人がどうなったかも知ってるよね。」
さよ:「はい、つちのなかです。」
宏樹:「えぇ……?」
千捺:「貴女にその覚悟があるっていうのね……?」
さよ:「いいえ!そんなかくごはひつようありません!
ちなつおねえちゃんでも、じゃまものははいじょします!!」
千捺:「カノンのヤツをやっと取り除いたと思ったら次は貴女……」
宏樹:「え?え?」
千捺:「がんばったのに……
可愛い可愛い私の妹分だったから許してあげてたのに……
あの子ならミナシくんと一緒に幸せになってくれると思ってたのに……
カノン……あの女……ヒロキくんの事をぞんざいに扱って……
私の考え方が甘かった……
あのクソ虫を許すんじゃなかった……ッ!」
さよ:「……。」
透里:「……。」
宏樹:「えぇ……っとぉ……」
千捺:「だから脅したのに。だから刺したのに。だから排除したのに。」
宏樹:「え……?じゃあ……カンヅキさんがボクと別れたいって言ったのってもしかして……
アサノさんに脅されたから……?」
透里:「いィや、正直関係ないと思うぜ。
なんならカンヅキはアサノさんに脅されてちょうど良いとすら思ってたんじャねェかなァ。」
宏樹:「うわァ!!聞きたくなかったァ!!」
千捺:「がんばったのに……
がんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのにがんばったのに
ミナシくんの為に、ミナシくんに愛してもらう為にがんばったのに。
…………。
ねぇ、ミナシくん♪」
宏樹:「ひえ……ッ!」
千捺:「ミナシくんは私の作ったお味噌汁、好きだよね?」
宏樹:「え……?」
千捺:「好きだよね。」
宏樹:「はッ、はい!!
アサノさんが作る味噌汁は塩分控えめで高血圧なボクにも優しいです!!」
千捺:「んふふふ……♪
うんうん、だよねだよね。
あれはねぇー私の愛情がたっぷり入ってたの……。
喜んでもらえて良かったよぉー。」
宏樹:「あははは…………
……スゥーーーーーーーーーー……なんでご自分の左手首をなでなでしてるんです……?」
千捺:「んぇ?
えへへ……お味噌汁の事を思い出したら切った時の感覚も思い出しちゃって……。」
宏樹:「…………。何故にWhy?」
千捺:「それはもちろん、お味噌汁に材料として私の血を……愛を入れたからだよぅ。」
宏樹:「え……へ……?」
さよ:「ああ!どーりでてつくさかったのですね!あのおみそしるっ!!」
宏樹:「え……今日のお味噌汁……血が入ってたの……?」
千捺:「今日だけじゃないよ。
私が振舞ってきた料理ぜぇ~んぶに、入ってたよ♪
ミナシくん……ううん……ヒロキくん♪」
宏樹:「ぜ……ぜんぶぅ……?えぇ……おえぇ……」
さよ:「ちょっと!ちなつおねえちゃん!!
けつえきを入れるなんてふえーせーです!!
アタシもやってみたいけど……おりょうりはえーせーが大事なんですから!!」
宏樹:「うんそれもあるけどフツーに怖くて血の気引いた……」
千捺:「けど、私だったモノがヒロキくんの身体に取り込まれてると考えると……はァ……!」
さよ:「…………。
………………。
……へ、へんたいです!!!!!!!!!!!!!」
千捺:「知らないよ。そんなこと。」
さよ:「フシャーッ!!」
透里:「ま、こーゆーこったァ。女ってこえーよなァ~
どォーだァ、これが“やり過ぎ”だ。」
宏樹:「な……なるほど……確かに、やり過ぎはよくない……かも……」
透里:「だろォ?
なア、だからよォ、オレにしとかねェか?ヒロキ?
オレァ、コイツらみたいにやり過ぎるこたァねェよ?」
宏樹:「えぇ……?」
千捺:「……。
アイバラくん、貴方……私を裏切ったの……?」
透里:「あァア、そう思ってくれて構いませんよォ。
オレァ傍観者を辞めたんでねェ。
負ける気はねェよ。アサノさァん?」
千捺:「そう。
そうなんだね。」
(千捺、警棒を出す。)
宏樹:「け、警棒ッ!?」
千捺:「ふたりともめったうちにしてころすね♪」
宏樹:「暴力はまずいでしょ!!」
さよ:「ふん!そんなモノに私の愛は負けません!!
アタシはひろきさんのおよめさんになるんです!」
(さよ、宏樹にしがみつく。)
宏樹:「さ……じゃなくて、セレナちゃん……」
さよ:「アタシのことは変わらず“さよ”とおよびくださいっ!ひろきさん♪」
宏樹:「は……はい……
そんな場合じゃないでしょ!逃げなきゃ!!」
千捺:「逃がさないよ?」
(千捺、宏樹たちと間合いを詰める。)
宏樹:「いつの間に間合いをッ!!」
さよ:「きゃっ!」
千捺:「ヒロキくんごめんね。ちょっと痛い思いをしてもらうね。」
(宏樹、咄嗟にさよを庇う様に抱き上げる。)
宏樹:「くッ!!」
千捺:「ッ!!
(千捺、避ける。)ッ。
……アイバラくん、邪魔しないで。」
透里:「邪魔じゃアない。
ヒロキを守っただけだ。」
千捺:「……。」
透里:「ヒロキ、大丈夫かァ?」
宏樹:「お、おう……助かった、トオリ。」
透里:「そうかァ、そいつァ良かった。
だったらその幼女抱えてどっか逃げろ。」
宏樹:「ハァッ!?お前は!!?」
透里:「アサノさんと決着を着ける。」
宏樹:「いや、でも!」
千捺:「先に殺しちゃうよ?アイバラくん。」
宏樹:「ああ言ってるし!!」
透里:「……なあ、ヒロキ。
もしも、ここでアサノさんに殺されたら、後悔するか?罪悪の念を覚えるか?」
宏樹:「当然だろ!後悔するし罪悪感も覚える!!」
透里:「へッ、だったらいいやァ。」
宏樹:「……へ?」
透里:「ここで死んじまえばヒロキにずっと覚えていてもらえるんだァ。
嬉しい事じゃアねェか。
薔薇を見る度に思い出してくれ、探偵ってワードを見る度に思い出してくれ、
なんなら男を見る度に俺を思い出してくれ。」
宏樹:「え……急にお前も怖くなるじゃん……」
さよ:「きしょっ、ってやつですっ!」
透里:「その怖いとか気持ち悪いという印象すらも一生刻みつけてくれ。
さアァ、さっさと行けや。」
(透里、スタンガンを出す。)
宏樹:「スタンガンっておまッ、お前ッ!!?」
さよ:「わあ~びりびり!かっこいーですっ!」
透里:「さっさと行け!ヒロキ!!」
宏樹:「ッ!
し、死ぬなよトオリッ!!」
さよ:「ねがわくばあいうちでりょうほうともいなくなっちゃってくださいっ!」
(宏樹、さよを抱えたまま去る。)
千捺:「さて、滅多打ちにされる準備は良い?」
透里:「そっくりそのままその言葉を返しますよ、アサノさァん。」
千捺:「殺されてくれるんじゃなかったの?」
透里:「ヒロキに“死ぬな”って言われちまったからなァ。
ちィとばかし迷ってる所だ。
まァ、見るんだったら喜んでるヒロキの顔だよなァ。」
千捺:「じゃあ、私にヒロキくんを頂戴。
そしたらヒロキくん、一生幸せに、喜ばせられるよ。」
透里:「へァアッ!冗談ッ!!」
千捺:「存外馬鹿だね、君。
バイバイ、アイバラくん。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~どっかの公園~
宏樹:「はぁ……はぁ……はぁ……つ……疲れた……」
さよ:「だいじょうぶですか……?
あ、アタシ、おすいとう持ってきたので!飲んでくださいっ!」
宏樹:「あ、ありがとう……
……。
血とか……入ってないよね……?」
さよ:「入ってませんよっ!そんなふえーせーなことアタシはしませんっ!」
宏樹:「ほっ……じゃあ、頂くね……ごくっ、ごくっ……っはぁ……」
さよ:「あっ、あのっ、アタシものどがかわいてしまって……!」
宏樹:「あ、うん。ありがとね、さよちゃん。」
さよ:「はいっ!
…………えへへ……ひ、ひろきさんと、かんせつ……きっすぅ……!」
宏樹:「スゥーーーーーーーーーーーー…………あー……そういう……
……ていうか皆やり過ぎなんだよ……
……やりす……ぎ……」
透里:『なんでもそうだけどよ。やり過ぎは逆効果だ。』
宏樹:「……。
こういう……事か……。
…………。
さよちゃん……いや、セレナちゃん。」
さよ:「……?どうなさいましたか?ひろきさん。」
宏樹:「セレナちゃんがカンヅキさんと親戚関係なのは、前にカンヅキさんが君と仲が良いと言ってたから名前は知ってた。
けれどやっぱりボクは君の事を知らなかった。
ねえ、教えてくれないかい。セレナちゃんがボクのおよめさんになりたいって思ったきっかけを。」
さよ:「それは……」
宏樹:「お願い。今度は誤魔化さないで。」
さよ:「っ。
……アタシがひろきさんの事を知ったきっかけはカノンおねえちゃんが楽しそうに話していたからです。
ひろきさんの言うとーり、アタシはカノンおねえちゃんと仲良しでした。
カノンおねえちゃんは楽しそーに、嬉しそーに、ひろきさんの事を沢山話してくれました。」
宏樹:「カンヅキさんが……。」
さよ:「それで、ひろきさんの話を聞いてて、いいなーって思ったのです。
きっとおねえちゃんはひろきさんと嬉しい思い出をつくって、楽しそうに生きるんだろうな、と思ったのです。」
宏樹:「……。」
さよ:「けど、ある時からどんどんひろきさんの話をしなくなりました……。
アタシはどうしたのか聞きました。
そしたらカノンお姉ちゃんは……へきえきした様に言ったのです。
“重いしつまらないし金くれないオトコの話”って。」
宏樹:「スゥーーーーーー……知りたくなかったな、その言葉。」
さよ:「…………ゆるせませんでした。
優しくて、カノンおねえちゃんの事をすっごく見てくれてるひろきさんなのに……
そんなひろきさんの事をばかにしてっ!!」
千捺:「ヒロキく~ん♪」
宏樹:「どぶォオッ!?」
さよ:「アタシはカノンおねえちゃんがゆるせません……!
ひろきさんをきずつけたと嬉々として話してました……」
宏樹:「シーッ!静かにっ!(小声)」
千捺:「ヒロキくーん、どこかなー?どこかなー」
さよ:「……っ。」
宏樹:「……ッ。」
千捺:「私、分かったの、ヒロキくん。
ヒロキくんは女のセンスが悪すぎて不幸になってばかり……
君の幸せは人に任せるモノじゃないって、私自身が幸せにしなきゃって。
だから、私のモノになろ?ヒロキくん。」
さよ:「……ちなつおねえちゃんのいうとーりです。
だからアタシをおよめさんにしてくださいっ。」
宏樹:「……ッ」
千捺:「……スンスン……スンスン……
こっちかなー?」
宏樹:「にッ、匂いで感知しないでください……ッ!!」
さよ:「それに……アタシとひろきさんは会ったことありますよっ。」
宏樹:「え……?」
さよ:「去年の夏、はなびたいかいでまいごになっていたアタシを助けてくれたじゃないですか♪
ふふっ、アタシ、あのときにひろきさんにひとめぼれ……したんです……。」
宏樹:「えぇ?去年の花火大会って……」
千捺:「嘘吐かないでよ。」
宏樹:「うわああああああああああああッ!!!」
千捺:「全くこの子は……
去年の花火大会、ヒロキくんは私と一緒に居て、
下駄の鼻緒が切れちゃった時に優しく直してくれた……その思い出に領空侵犯しないでくれるかな?」
さよ:「フシャーーーーーーーーっ!」
宏樹:「え……いや……てッ……てかッ!トオリ!トオリはどうしたんですか!?
まさか、本当にころして……」
千捺:「殺してないよ。」
宏樹:「っほ……」
さよ:「ちっ!どっちもきえませんでしたか……」
千捺:「ヒロキくんに一生この男が残り続けるなんて絶ッッッッッッッッッ対嫌だったから。
加減、したよ。」
透里:「り、両足折られたし……引きずり回されたけどなァ。」
宏樹:「トオリッ!!てか怖ッ!!」
透里:「てェかァ、お二人さァん……。
記憶の差し替えは良くねェよォ。
ヒロキは去年の花火大会はカンヅキにデート断られたのを見かねて妹が連れ出し、二人きりで過ごしてェ、
迷子になったのも、下駄の鼻緒が切れちまったのも、ヒロキの妹だろう?」
宏樹:「え……あ……うん、そうだけど、そうなんだけど。
お前、やけに詳しくない……?」
千捺:「そんなの関係ないよ。」
さよ:「アタシの思い出にまちがいはありません!!じっしつ、アタシはひろきさんのいもーとですっ!」
宏樹:「それは断じて違う。」
さよ:「やっぱりおよめさんですよねっ!きゃっ!///」
千捺:「出しゃばらないでよセレナちゃん。
さあ、ヒロキくん。
私のモノになって、ヒロキくん。
ううん、ちがう。ちがうちがうちがうちがう……
……君の頭のてっぺんから足のつま先まで……ぜぇんぶ、私のモノだよ♪」
さよ:「渡しませんっ!
ひろきさんはアタシとめおとになるのですっ!!」
透里:「まァまァ……落ち着けよ……お二人さァん……」
さよ:「……っ」
千捺:「……ッ。」
透里:「結局選ぶのはヒロキなんだからよォ。
だから、聞きましょうよォ。ヒロキに直接、さァ……。」
宏樹:「えェ!!?」
千捺:「それもそうだね……。
ねぇ、ヒロキくん。
私を選んで?私だったらカノンみたいに“重いから”、なんて理由で貴方を手放したりしない。
ううん、絶対に離さない。
ヒロキくん……だから……ねぇ……?」
宏樹:「アサノさん……。」
透里:「オレはお前がどんな状況になっても絶対に助ける。
何故ならオレァ、ヒロキ、お前が好きだから。大好きだからだ。
オレァ……お前さえ居れば他は何も要らねぇ。
だからよォ……ヒロキ……オレの手をとってくれ……。」
宏樹:「トオリ……。」
さよ:「ア、アタシもっ!ぜったいにひろきさんをきずつけませんっ!
ひろきさんの為ならおりょうりでも、おそうじでも、なんだってしますっ!
アタシと、たくさん、たくさんたくさん楽しい思い出をつくりましょっ!!
だからっ!おねがいします!ひろきさん!アタシをおよめさんにしてくださいっ!!」
宏樹:「さよちゃん……。」
千捺:「ヒロキくん。」
透里:「ヒロキ……。」
さよ:「ひろきさんっ!」
宏樹:「…………皆……」
宏樹:「色々とやり過ぎなんだよォオオオオオオオオオオオ!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~宏樹の家~
宏樹:「ハァッ!?
……いっつつつつつ……
ああ、そうか、昨日飲みすぎて……
…………。
あー……あれ夢だったんだなぁー……
まぁ、そりゃそうか……」
(宏樹、起きる。)
透里:「夢じゃないぜェ。」
宏樹:「ん゛っ゛。」
千捺:「はー良かった。起きたんだねヒロキくん。」
宏樹:「ひえッ!!あぁ……ああ……!!」
千捺:「急に倒れたからビックリしたよー。」
宏樹:「べばばばっばべべべばばばっばばえべばっばばばば」
さよ:「あ~!ひろきさん!ちゃんとよこになってください!!」
宏樹:「ハァ↑ッ!!」
さよ:「いちおー、おかゆつくったのですが、食べられますか……?」
千捺:「料理だったら私もしたかったなぁ……。」
さよ:「だめですっ!ちなつおねえちゃんはすぐけつえきいれようするんですからっ!」
宏樹:「はぁはぁはぁ……!」
透里:「なア……ヒロキ。」
宏樹:「へッ、はぁッ!!」
千捺:「……さあ、ヒロキくん……。
誰を選ぶの?勿論、私……だよね……?」
透里:「オレだよなァ?ヒロキィ?」
さよ:「アタシですよねっ!アタシをおよめにしてくださいっ!ひろきさんっ!!」
千捺:、透里:、さよ:「「「さあっ!!」」」
宏樹:「…………はぁ……はぁ……はぁ……ハァハァ……ハァハァ……ハァ……ッ!!!」
(宏樹、卒倒。)
───────────────────────────────────────
END