[台本]ゆるされないあなたにねがう
世界設定、場面情景
何もない世界にふたりぼっち。
ひとりは俯き罪を吐き懺悔する。
ひとりはそんなもうひとりを不思議に見つめる。
疑問は行動へ。
行動はゆるされる為の始まりとなる。
登場人物
〇エヴァ
女性、年齢不詳
何も無い。まっさらな人。
〇罪人(つみびと)
不問、年齢不詳
多くの大罪を犯した許されない人。
エ→エヴァ
罪→罪人
・エヴァ♀:
・罪人 不問:
↓これより下が本編です。
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エヴァ:「なにをしてるの?」
罪人:「懺悔だ。」
エヴァ:「どうして?」
罪人:「多くの人に、多くの許されない事をやったからだ。」
エヴァ:「どうしてやったの?」
罪人:「……それが、私にとって大事だと思い込んでいたから。」
エヴァ:「いつまでざんげし続けるの?」
罪人:「永遠に。」
エヴァ:「どうして?」
罪人:「許されないから。」
エヴァ:「どうして?」
罪人:「それだけの事を、やったから。」
エヴァ:「誰にやったの?」
罪人:「沢山の人に。」
エヴァ:「誰にも許されないの?」
罪人:「そうだ。」
エヴァ:「……何をやったの?」
罪人:「…………。」
罪人:「沢山の人の心を捻じ曲げた。」
罪人:「沢山の人の未来を閉ざした。」
罪人:「沢山の人の思い出を無茶苦茶にした。」
罪人:「沢山の人の感情を殺した。」
罪人:「沢山の……まだまだ、まだまだ、まだまだ、まだまだ、沢山、許されない事をした。」
エヴァ:「……だから許されないの?」
罪人:「ああ。」
エヴァ:「……それは凄く悲しいね。」
罪人:「ああ。悲しい思いをさせてしまった。」
エヴァ:「違うよ。あなたがだよ。
大事な事だと思ってやった結果、沢山の人を傷付けてしまって、
それが理由で許されないなんて……悲しい……。」
罪人:「……それだけの事を私はしたんだ。」
エヴァ:「人は、いつかは許されるべきだと思うの。」
罪人:「……何故?」
エヴァ:「だって、悲しいから。」
罪人:「何故?」
エヴァ:「許されないということは、あやまちを認めてもらえないという事だと思ってるの。」
罪人:「……。」
エヴァ:「あやまちを認めてもらえず、ただただ冷たい目で見られて、怯える事しかできない。
もしも一生許されなかったら一生怯えていなければならない。」
罪人:「……。」
エヴァ:「それってとても悲しいと思う。」
罪人:「それが過ちを犯した者への罰だ。」
エヴァ:「あなたが消えるまでずっとそれが続くんだよ?」
罪人:「ああ。」
エヴァ:「苦しくないの?」
罪人:「苦しいさ。」
エヴァ:「楽になりたくないの?」
罪人:「私は楽になってはいけないんだ。」
エヴァ:「許されないから?」
罪人:「ああ。」
エヴァ:「…………。」
罪人:「私は、永遠に冷たい目に晒され、沢山の苦しみを飲み続ける。
それが、私という罪人に課せられた罰だ。」
エヴァ:「逃げないの?」
罪人:「逃げない。何より、逃げられない。」
エヴァ:「どうして?」
罪人:「逃げたところで罪が消えるワケじゃないから。」
エヴァ:「ずっとこのままなの?」
罪人:「ずっとこのままだ。」
エヴァ:「ずっと俯いたままなの?」
罪人:「ああ。」
エヴァ:「ずっとざんげし続けるの?」
罪人:「ああ。」
エヴァ:「ずっと?」
罪人:「ずっと。」
エヴァ:「あなたに明日は来ないの?」
罪人:「……来ないよ。私に未来は無い。ただ、永遠に懺悔するだけ。」
エヴァ:「…………やっぱり悲しいよ……。」
罪人:「私はもっと悲しい思いを沢山の人にさせた。」
罪人:「救いようの無い罪人なんだ。」
エヴァ:「それでも。」
罪人:「……。」
エヴァ:「それでも、やっぱり許されるべきだよ。」
罪人:「……何故?」
エヴァ:「世界が残酷だって、思いたくないから。」
罪人:「……。」
エヴァ:「ねえ、ゆるしてもらおう?」
罪人:「……どうやって。」
エヴァ:「謝るの。」
罪人:「……それは、ずっとやってる。」
エヴァ:「違うよ。相手に向かって、ちゃんと“ごめんなさい”するの。」
罪人:「……。」
エヴァ:「こんなひとりぼっちなところで俯いて謝っても何にもならないよ。
謝るなら、本人に向かって直接。直接ゆるされないと。」
罪人:「……それでも許されなかったら?」
エヴァ:「それでも謝るの。」
罪人:「それでも、それでもやっぱり許されなかったら?」
エヴァ:「沢山、沢山謝るの。」
罪人:「……。」
エヴァ:「ゆるしてもらえるまで、謝るの。」
罪人:「その後は?」
エヴァ:「その後は、生まれ変わるの。」
罪人:「生まれ変わる?」
エヴァ:「そう、やっちゃった事は消えないけれど、新しく始めるの。
次は間違えない様に。笑っていられる様に。」
罪人:「間違えない様に、笑っていられる様に……。」
エヴァ:「うん。
あ、でも間違えないでね。“許されるべき”というのは、相手に“要求”する事じゃない。
あなたが“努力”する事なの。」
罪人:「私が、努力する……。」
エヴァ:「だから、諦めないでね。許されるまで。生まれ変わるまで。」
罪人:「分かった。」
エヴァ:「さよなら。」
罪人:「うん。」
エヴァ:「……あなたは沢山の人に辛い思いをさせてきたかもしれないけれど、
それとあなたが、許される事は別の話なの。」
エヴァ:「許されないと苦しむのは、あなただけじゃない。」
エヴァ:「あなたが傷付けた人たちも、苦しいままだから。」
エヴァ:「ゆるされないあなたにねがうよ。」
エヴァ:「あなたが、救ってあげて……
ううん。あなたが、解き放って。それが許されるって事だから。」
エヴァ:「そうしたら、その最後に、私もあなたを許すから。」
エヴァ:「……私は、あなたの明日が楽しくて、幸せで溢れてる事を、祈ってるよ。」
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END