[台本]壊れ人形の可笑しく愚かで可哀想な儚きつまらないお話
・CAST…一人
○壊れ人形
自分を人形と言い張る可笑しな人間
楽観的なフリをした愚かな人
己の戒めを守る為に笑顔を貼り付ける可哀想な子
この世界の無情を理解している儚ない生き物
口先では自分に飽きたあの人を許すつまらない男
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これは人形ぶっている人間の中身の無い薄っぺらなお話。
僕はあの人に呆れられ飽きられ捨てられた人形。
よく出来た人形。
よく出来た欠陥だらけの人形。
僕の父、人間である彼は口々に僕のことをこう評価する。
”嗚呼、完璧だ。これ以外の言葉は当てはまらないだろう”と。
そう、僕は完璧な人形だった。
まるで人間の様に動き、最高峰の人工知能を詰んだ最高で完璧な人形。
そう、あの人に会うまではそうだった。
僕はあの人に惹かれた。いや、惹かれてしまった。
人形である僕には必要の無いハプニング。
一目惚れだった。
実に、実に、実に愚かしい行為だと思った。
しかし、どうしてもあの人の気を引きたかった。
そしてあの人は僕に興味を持ってくれた。
嬉しかった。本当に嬉しかった。本当に、本当に。
人形の分際で恋をしたんだ。
恋をするなんて…
我ながら僕の人工知能が人間の感情を擬似している事に驚いていた。
あの時は本当に楽しかった。
あの人は僕に心を打ち解けてくれた。そして、ある日相談を持ちかけてきた。
あの人はこの世界に疲れていたみたいだ。所謂、病んでいるという状態だった。
ただ、僕には”病む”という状態が理解できない。
故に、あの人と同調同情はできなかった。
何故?何故?何故そんな不毛な問題を悩むんだ?理解に苦しむ。
だけども、そんなモノは些細な問題。今はあの人の悩みだ。
僕はあの人の悩みとは裏腹に嬉しかった。
あの人の悩み、疲れというのは
生きている限り決して解消されることはないと思ったからだ。
故に、ずっと僕を頼ってくれる筈。
あの人は悩み苦しむ度に僕を頼ってくれる。
嗚呼…嗚呼!あの人が僕を必要としてくれている!
あの人が僕を見てくれている!
嗚呼!嬉しくて庭駆け回りたい!!
僕はあの人の沈んだ顔が笑顔に変わる瞬間が大好きで仕方が無かった。
故に、あの人の為に色々と勉強した。ユーモア溢れる会話もできる様になった。
結果的にあの人は僕に色んなモノを教えてくれた。
そして月日は流れ、あの人は笑顔をよく見せてくれる様になった。
”沈んだ顔が笑顔に変わる瞬間が大好き”だが、
最初から笑ってくれているのも大好きだ。見ていると心が和らぐ。
まぁ、僕には”心”なんてモノはないんだけどね。
あの人との日々。それは僕にとって最高の日々。
そんなある日。
あの人は一人の人間を僕に紹介してきた。
屈託のない笑顔で、嬉しそうに、楽しそうに。
その笑顔は…僕に向けられたモノじゃないことはすぐにわかった。
コイツだ。この笑顔はコイツに向けられている。
なんだろう。モヤモヤする。
僕の中でドス黒い何かが渦巻いているのを感じていた。
そして、なんとなく察した。僕はコイツに嫉妬しているのだ。
ははは・・・本当に阿呆らしい。
僕は元々、父の後を継ぐ為の人形じゃないか。
こんな想いをする必要はない。
僕は人形なんだ。
それからだ。
あの人は僕からどんどん離れていった。
きっとアイツの方に向かっているんだろう。
僕は人形だ。
そう、”まるで人間の様に動き、最高峰の人工知能を詰んだ最高で完璧な人形”
僕は人形である故にこんな想いをする必要はない。
なのに…なのに!
嗚呼!抑えられない!この感情を!
何故?何故僕は必要とされていない?
小粋なジョークも言えるし、相談にも乗れる!
なんで?訳がわからない!!
あの人が僕以外のモノに笑顔を向けるのを見ているのが辛い。
僕はある日、自分からあの人に声を掛けた。
嗚呼…君の声を聞いていると落ち着く…
無いはずの荒んだ僕の心が安らぐ気がする。
が、それは一時的なモノだった。
あの人はすぐに何処かへと行ってました。
・・・もしかして僕は…嫌われたのか…?
いや・・・いやいやいやいやいやいや…そんな筈はない…
僕はあの人の為に尽くしてきたんだ。嫌われる筈がない。
そう、ありえない。
今、あの人は笑顔だ。前みたいに暗い表情はあまりしなくなった。
それは良い事だ。実に良い事だ。
だが…そうなるとあの人は僕に相談事を…悩み事を持ちかける事がなくなる…
だからか…?あの人は僕に相談することがなくなったから離れたのか?
嫌だ…僕を頼ってくれ!見てくれ!僕に微笑んでくれ!!
だが、僕のこの想いは言葉になる事はない。
だって、僕は人形なのだから。
僕の人工知能(かんじょう)は僕のモノじゃない。
父のモノだ。元来、彼の為に僕は存在する。本当はあの人の為じゃない。
それに僕はあの人の笑顔が好きだ。曇り顔はあまり好きではない。
だから、僕はあの人を困らせない様に自分のこの想いを殺す。
父の為でなく、あの人の為に。
僕は、明確な意志を持っていることにその時気付いた。
そして、本当はいままで全て自分の為に彼女に尽くしていくことにも気付いた。
それからだ。それから僕は、僕の全てを、気を引く為でなく、
あの人の為に、あの人が笑顔で居られる様に努力した。
今日もあの人は笑顔だ。僕はそれが嬉しい。
・・・だが、その笑顔は僕に向けられたモノじゃない。
僕以外の”何か”だ。
また僕の中でドス黒い何かが生まれた。
ダメだ…駄目だだめだダメだ!
アイツの事を考えちゃいけない!大切なのはあの人の事だけだ!
あの人が喜んでいるなら、それでいいじゃないか!
なのに!なんで!!アイツが憎い…!
僕は人形だ。
僕は欠陥だらけの人形だ。
人工知能(かんじょう)の制御もまともにできない不良品。
だけど!今は!あの人の為に存在する!
最高だろうが最低だろうが関係ない。あの人が幸せならそれでいい!
だから、僕はあの人の安らぎを願い、自分のこの想いを殺す。
また更に時が経ったある日。
あの人は言った。
”この関係はもうやめよう。”
最初、言葉の意味がわからなかった。
あの人は色々な事を言っていた…が、一つ分かった。
あの人は”僕に飽きた”んだ。
人間は”飽きる生き物”だ。
飽きてしまうのはどうしようもないことだ。
どんなことにも人間は必ず飽きてしまう。
実に勝手な生き物。
だが、それが正しいのだ。
君が申し訳なさそうな顔をする必要はない。
人間として当たり前なのだから。
だけど君は、僕を傷つけまいと色んな事を言う。
嗚呼・・・なんて優しい人なんだ・・・
こんな僕の為に…
あの人が…僕の前から君が居なくなる・・・?
ああ・・・あああああ!
嘘だ!そんなのありえない!嘘だ!!
嫌だ!嫌だ!僕は君を失いたくない!
君が遠くに行ってしまう!?もう君の笑顔が見れない!?
嫌だ!嘘だ!信じない!僕は信じない!!こんなの夢だ!
夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!
夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!夢だ!
…そう、夢だったのかもしれない…
この幸福な日々は僕の夢だったのかもしれない…
いや、僕の夢ですらなかったのかもしれない・・・
胡蝶の夢…だったのかもしれない…
あの人は顔を曇らせていた。
ははは…存外こういう顔も嫌いではないみたいだ。
でも、僕は君には笑顔が一番似合うと思っている。
だから…
だから、僕はあの人が笑顔であるために自分のこの想いを殺し、
僕は顔に笑顔を貼り付けた。
空虚で愚かしい愉快な顔をしたお面を被る。
全てはあの人の為に。
僕の中に生まれたこのドス黒いモノは僕を一生蝕むのだろう・・・
嫉妬、憎悪、独占欲、劣等感、怨嗟、自棄、破壊衝動・・・
でも、僕は構わない。
この感情はあの人を想っていた証拠だ。
それだけで僕は生きていける。
更に月日は流れた。
あれからどれくらい過ぎだのだろうか。
この世の全てが憎い…醜い…
あの人の影も無い日々。
あの人を失って僕はなにもかもぶっ壊れた。
”よく出来た人形”はただの”欠陥だらけの人間”になっていた。
いや、なったんじゃない。戻ったんだ。
読者諸兄はなんとなく察しては居ただろう。
僕は人形なんかじゃない、最初から人間だ。
だが、僕は人形なんだ。
父の為の人形。
まぁ、今じゃその役目もなくなったんだけどね。
じゃあ、僕は誰の為の、何の為の人形?
僕の父?
いいや、違う。彼は僕の事はどうでもいいと思っている。
あの人?
いいや、違う。あの人は僕に飽きたんだ。もう必要ない。
何故、僕は人形である必要がある?
いいや、そんな必要はない。
・・・否、僕は人形である必要はある。
でないと、僕は自分を維持できなくなってしまう。
そう思った。誰の為じゃない。僕の為だ。
僕が壊れない為に僕は人形である必要がある。
僕は人形。僕は人形。僕は人形。僕は人形。
・・・嗚呼…あの人の事を忘れられない…
何故・・・飽きられたのだろうか・・・
わからない。
…分かるわけがないのかもしれない。
僕は欠陥だらけなのだから。
きっと一生わからない。
自分を人形と言い張る可笑しな人間。
それが僕。
決して人前で公言した訳ではない。けれども、僕は人形と主張していた。
僕が僕を守る為に。人間であることを否定していた。
嗚呼、可笑しい。
楽観的なフリをした愚かな人。
それが僕。
本当は辛くて苦しくて仕様がないのに、
僕の心の内を見られたくないから楽観的に振舞う。
嗚呼、愚かしい。
己の戒めを守る為に笑顔を貼り付ける可哀想な子。
それが僕。
あの人は僕は見ていないのに、僕はあの人の為に笑顔をくっつける。
僕は自分より君を優先した。僕なんか価値が無いのだから。
嗚呼、可哀想に。
この世界の無情を理解している儚ない生き物。
それが僕。
そんなに長く生きた訳じゃないけども、この世界の仕組みは重々分かっている。
世界は、人間は飽き性で忘れっぽい。それがこの世界の摂理。
嗚呼、儚い。
口先では自分に飽きたあの人を許すつまらない男。
それが僕。
本当は許せてなんかいない。今でも納得なんてしていない。
今でも自問自答を繰り返す。あの時、もっと我儘でも良かったのでは?
嗚呼、つまらない。
僕は…可笑しくって、愚かで、可哀想で、儚くて、つまらない、壊れた人形。
きっと、人間としてぶっ壊れているから、人形と言い張っていたんだろうね。
僕は今、ぶっ壊れているだけで、あの時のあの人の様に病んでいるわけじゃない。
僕は”病む”ことを知らない。だから、今の僕は決して病んじゃいない。
ただ…ぶっ壊れているだけ。
壊れているのなら直せばいいだけ。
だから、直るまで僕は欠陥だらけの人形なんだ。
それまでは瞼の裏で、
あの楽しい日々をオルゴールの様に巻き戻しては流し続ける…
壊れ人形のお話はハッピーエンドでもバッドエンドでもトゥルーエンドでもない。
…なんなんだろうか?僕のお話の終幕は?
ははは…わかんないや…
とにかく、一体の人形のお話はここまで。
なんて、なんてつまらない、そして中身の無い人生(おはなし)なんだろうか。
壊れ人形の終幕後のお話は綴られる事はなかった。
はてさて、それはどういう意味なのだろうか?
このままズルズル死んでいったのか、それとも・・・?
まぁ、これは”私”からは話すことはできませんね。
ではではぁ…皆さんご機嫌よう。また、会う日まで…
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END