[台本] Why done it?(ホワイダニット?)
世界設定、場面状況
特に変わった事はない何の変哲も無い世界、つまり普通の世界、普通の日常。
他の世界とはなんら干渉しない逸脱の物語。
そんな平和な世界、そう願われた物語。
しかし、事件が起きる。
登場人物
〇貞ヶ谷 正臣(さだがや まさおみ)
大学三年生、21歳、男性
物静かで優しく、何かに怯えている青年。主人公。
〇月乃 玲(つきの れい)
大学三年生、21歳、女性
明るく誰からも好かれる女性。正臣が好き。
〇時和 よぞら(ときわ よぞら)
大学三年生、21歳、女性
冷静で常に落ち着いている。同性異性からも人気。
○城田 慶太郎(きだ けいたろう)
無職、21歳、男性
気性も素行も荒い。正臣の元親友。
○比嘉塚 剛(ひがつか つよし)
刑事、36歳、男性
とある事件の調査の為に動いている刑事。紳士。
貞ヶ谷 正臣♂:
月乃 玲♀:
時和 よぞら♀:
城田 慶太郎♂:
比嘉塚 剛♂:
これより下が台本本編です。
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剛:『音声ファイル:09。
この事件は“Why done it?(ホワイダニット)”を探る物語。
犯人の犯行動機を解明しない事にはこの事件は解決しない。
但し、求めるのは常識からでは無い。事実から見出すんだ。
事の始まりは、彼らの再会からだ。』
~大学構内~
玲:「いや~~~講義終わったぁ~~~」
正臣:「お疲れ様。月乃(つきの)さん。」
玲:「いやぁーホント、“紫久(ゆかりひさ)”先生って何言ってるか分からないよー」
正臣:「あはは、それは同感だ。
なんだか難しそうな事を口にしてるけれど、
あまり意味はなさそうだよね。」
玲:「うふふふ!それはひどいよー!
けど、うん、アタシもそう思う。
無意味に難しい上に無意味に長い!
先生向いてないかもねー」
正臣:「あーそれ先生本人もそう思ってるみたいで、
今年いっぱいで講師辞めようと思ってるらしいんだ。」
玲:「えー!そうだったの!?
そっかー……でもそれが良いのかもねー
お昼ごはんどうするー正臣(まさおみ)くんー?」
正臣:「んーカレーかな。」
玲:「え~~~またカレーなの?
毎日カレーで飽きたりしないの?」
正臣:「飽きないか…………(冷や汗を流す)」
玲:「?
マサオミくん?」
よぞら:「こんにちは。」
玲:「んぇ?あ!よぞらさん!
こんにちはです!どうしたんですか?」
よぞら:「懐かしい顔が見えたから声をかけたのに、
無視するの?マサオミ。」
玲:「え?マサオミくんってよぞらさんと知り合いだったの?」
正臣:「ま、まぁ……」
よぞら:「貴方もこの学校だったのね。
どうして教えてくれなかったの?」
正臣:「…………。」
玲:「あ、あのー」
よぞら:「うん?どうしたの?」
玲:「あっ、初めまして!アタシ──」
よぞら:「月乃 玲(つきの れい)さんよね。
初めまして、時和 よぞら(ときわ よぞら)よ。」
玲:「えっ、よ、よろしくお願いします……!
よぞらさん、アタシの名前知っててくださったんですね……!」
よぞら:「ふふふ、当然よ。」
玲:「わあー光栄だなぁー!
天才で万能と名高いよぞらさんに名前を憶えてもらえてるなんて!」
よぞら:「買いかぶりすぎよ。
私は普通の学生で、普通の女の子だもの。
それで?マサオミ。3年間も無視してたのはどういう了見かしら?
貴方が一緒って知ってたらもっと有意義な3年間が過ごせたかもしれないのに。」
正臣:「……噓つき(小声)」
玲:「……え?」
正臣:「ツキノさん今日もう講義ないでしょ。行こう。外で食べよ。」
玲:「えぇ?あっ、マサオミくん!ちょっと待ってよ!
さ、さよなら!よぞらさん!」
よぞら:「……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(玲、正臣を追いかける。)
玲:「マサオミくん!」
正臣:「……。」
玲:「待ってよマサオミくん!……どうしたの?」
正臣:「……ごめんねツキノさん。
急に……」
玲:「それはもう良いけど、どうしたの?その、よぞらさんと、何かあったの?」
正臣:「……いいや、なんでもないよ。
トキワ……さんとは小中高同じ学校で、その……三年間顔合わせなかったのが、
気まずくって……みたいな感じだよ。」
玲:「へーそんな昔からの知り合いなんだ……
……ねぇ、マサオミくんは、よぞらさんの事どう思ってる……?」
正臣:「えっ、いや……な、何も思ってないよ……」
玲:「………………そっか!(めっちゃうれしそう)
何食べる?マサオミくん?
アタシはジャンクフードな気分!」
正臣:「……?
じゃあハンバーガーでも食べようか。」
玲:「うん!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ハンバーガーチェーン店~
玲:「とは言ったものの、ハンバーガーなんて久しぶりだから
何を食べるか迷うなー」
正臣:「僕はいつも通りかな。」
慶太郎:「らっしゃっせぇー…………おー……マサオミィ。」
正臣:「え。」
玲:「え?」
正臣:「…………城田(きだ)……君……。」
慶太郎:「……ご注文、何になさいますか?」
正臣:「…………。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
玲:「ねぇ、もしかして、さっきの店員さんも……?」
正臣:「……ああ、アイツも僕の、高校生時代の……知り合い……」
玲:「へぇー今日は再会の日だねー」
正臣:「…………ツキノさん。アイツは──」
慶太郎:「よう。マサオミィ。」
正臣:「ッ!!
……き、キダ……君……ッ」
玲:「あれ?さっきのマサオミくんの知り合いの店員さん。
どうかしたんですか?」
慶太郎:「知り合い?はっはっは!
つれないねェマサオミくゥん……」
正臣:「……ッ」
慶太郎:「ま、良いけどよ。
……初めまして、俺は城田 慶太郎(きだ けいたろう)だ。
こいつとは高校ん時の親友なんだよ。
えー……っとぉ……」
玲:「あ、アタシ月乃 玲(つきの れい)って言います。」
慶太郎:「そうか。
よろしく、レイちゃん。」
正臣:「おい。なんの用だよ。」
慶太郎:「……普通に挨拶しただけなのに何つんけんしてんだよ。」
正臣:「用が無いなら仕事に戻ったらどうだ。」
慶太郎:「……へぇ~……言う様になったじゃねぇか。
何の用か、だったな。
(咳払い)
ご注文のチーズバーガーセット、テリヤキバーガーセットお持ちしました。」
玲:「ありがとうございますー!」
(慶太郎、正臣の耳元でささやく。)
慶太郎:「後で俺たちの高校の前に来い(小声)」
正臣:「ッ!」
慶太郎:「ではごゆっくり~」
玲:「さ!食べよ!」
正臣:「…………。」
玲:「……マサオミくん?」
正臣:「……あ、な、何でもないよ。うん、食べよう。
……あむ……うん、やっぱりチーズバーガーは良いね。」
玲:「……?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
玲:「いやー久しぶりに食べると美味しかったねー!」
正臣:「……そうだね。
じゃあ、僕こっちだから。また明日、ツキノさん。」
玲:「え……?うん……また明日……」
(正臣、去る。)
玲:「……マサオミくん……顔色悪かったなぁ……大丈夫かな……」
(玲、踵を返す。)
玲:「……マサオミくんが心配……!」
(玲、誰かにぶつかる。)
玲:「キャ!……いってて……ぶ、ぶつかってごめんなさい……!
前を見て無かったです……あ……」
よぞら:「大丈夫?手、握りなさい。」
玲:「ああ、ありがとうございます。
えっと、ぶつかっちゃってごめんなさい。」
よぞら:「良いわよ、気にしないで。
それで、どうしたの?慌ててた様子だったけど。」
玲:「えっ、ああ、その、マサオミくんの顔色が悪かったので、
心配で追いかけようとしてて。」
よぞら:「そう。貴女とても“他人思い(ひとおもい)”なのね。とても良い事だと思うわ。」
玲:「え、えへへ……そ、そんな事ないですよー」
よぞら:「そう?そうね。貴女はどちらかというと、
他人思いというよりも“マサオミくん思い”って方が正しいかしら?」
玲:「ひゃえッ!!?
な、ななな何を言ってるんですか!!?」
よぞら:「うふふふ、ずっと見てたから分かるわよ。
好きなんでしょ。マサオミの事。」
玲:「ええ……!えええ……!ええええっとぉ……!」
よぞら:「取り繕う必要はないわ。
それで?どうして好きになったのかしら?
私、とても気になるわ。」
玲:「~~~~~~~~~~~///
……その、大学1年の時の事なんですけど、
アタシいじめられていたんです……その、最初の頃に学科の中心の子の
機嫌を損ねちゃって……」
よぞら:「あら、それは災難ね。」
玲:「それで半年くらいずっといじめられてて……
もう死のうと思ってた時に、正臣くんに助けられたんです……
それからはもういじめられる事も無く、
それにいつもマサオミくんが一緒に居てくれて……」
よぞら:「……彼の正義感に、彼の善性に好かれていったのね…………。」
玲:「……はい///」
よぞら:「くすくすくす……とても可愛いわ。
ねぇ?もっと聞かせて?貴女と彼の話を。」
玲:「……はいっ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~某高校前~
慶太郎:「おう、来たか。」
正臣:「……何の用だよ。」
慶太郎:「いやはや、親友に対して冷たいねェ。
お仕事お疲れ様でした、くらい言えないのかねぇ?」
正臣:「僕とお前はもう親友でもなければ友人でも無い。
さっさと用件を言ってくれ。」
慶太郎:「そう邪険にすんなよって……なぁ?共犯者……?」
正臣:「ッ!!」
慶太郎:「そう驚くこたぁないだろぉ。
事実を言ってるだけなんだからよぉ。」
正臣:「……ッ」
慶太郎:「用件ってほどじゃァねぇけどよ。
……今日マサオミと一緒に居た子さぁ……可愛いなぁ……?」
正臣:「ッ!?
ケイタロウッ、お前まさか……ッ!」
慶太郎:「はっはっはー!やっと俺の名前言ってくれたかァ。
そうだよ。お前が想像している通りだ。
なあ?マサオミ?いいや、親友。前みたいに手ェ貸してくれよ……。」
正臣:「ふッ、ふざけんなよ!
なんで僕が──」
慶太郎:「マサオミィ!」(正臣の胸倉を掴んで顔を近づける。)
正臣:「──……ッ」
慶太郎:「なあ~マサオミィ……俺ぁ3年間も良い子にしてたんだ……
そろそろな?したいんだよ……お前なら分かるだろ?」
正臣:「……僕はもうお前に手を貸さない。
僕を巻き込むな……。」
慶太郎:「……。」
正臣:「……。」
慶太郎:「……分かったぜ。悪かったなマサオミ。
……あ?何見てんだよ!!」
(慶太郎、学校の職員を威嚇し、職員どこかへ行く。)
慶太郎:「……俺帰るわ。じゃあな。」
正臣:「…………ケイタロウ……!」
慶太郎:「あぁ?なんだ?」
正臣:「ツキノさんに手を出すんじゃないぞ……!」
慶太郎:「…………。
へッ……わーったよ。」
(慶太郎、去る。)
正臣:「…………。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
正臣:翌日、事件が発生する。
正臣:「…………。」
玲:「……まさか私たちの学校でこんな事が起きるだなんて…………」
正臣:「……?
あ、ああ、本当に……」
正臣:大学構内にて、謎の変死体が発見された。
その死体は何故か皮が綺麗に剥がされていたらしく、
一見しただけでは身元が分からない様になっていたという。
玲:「……怖いね……マサオミくん……」
正臣:「……。」
玲:「……?マサオミくん?どうかしたの?」
正臣:「え……?あ、いや……」
剛:「あれ?もしかして……マサオミ君?」
正臣:「え……あ、刑事さん……。」
玲:「刑事さん?」
剛:「こんにちは。お嬢さん。
久しぶりだね。マサオミ君。」
正臣:「そうですね……えっと……3年、ぶりですね。」
剛:「そうだね……3年前に関わった時もそうだけど、
君は本当に災難だね……。」
正臣:「ええ……まぁ、そうですね。」
玲:「……。」
剛:「おっと、失礼。
私はこういう者だ。」
(剛、玲に警察手帳を見せる。)
玲:「巡査部長の……比嘉塚(ひがつか)……剛(つよし)……さん……?」
剛:「そう、刑事をやってる比嘉塚 剛(ひがつか つよし)だ。
タケシじゃなくて、ツヨシ。間違えないでね?
よろしく、お嬢さん。」
玲:「くすくすくす……私はツキノ レイです。
手帳にふりがな振られてるので間違えませんよ!」
剛:「はっはっは!それは良かった!
……それで、ここからは真面目な話なのだけど。
例の件に関して、何か知っていることは無いかな?」
玲:「例の…………」
正臣:「…………。」
正臣:例の件に関して。
十中八九、あの変死体に関してだろう。
正臣:「いいえ、僕は何も知らないです。」
剛:「そうか。最近、この学校付近で怪しい人は見なかったかい?」
玲:「んー……あまり記憶に無いですかね。」
剛:「では、最近変わったことは無かった?」
正臣:「…………いえ……。」
剛:「ん?……マサオミ君。何か引っ掛かる事があるのかい?」
正臣:「え……?いや……別に……」
玲:「ヒガツカさんは何か知ってるんですか?」
剛:「えぇ…………んー……これは一般の人には教えられない話なんだけど……」
正臣:「まッ、待ってください。なんでそんな大切そうな話を僕らにするんですか……!」
剛:「僕はマサオミ君。君を信用している。
そしてマサオミ君と一緒にいる子って事は多分、信用出来るって事さ。
僕の刑事の勘ってやつかな。」
正臣:「その勘、頼らない方が……」
剛:「2人は変死体について、何処まで知っている?」
玲:「えっと、私が知ってるのは皮が剥がされてた事……くらいです。」
正臣:「…………?」
剛:「おや、一般の君たちにもその情報が行き届いているのか……
私たち警察の調べだと遺体には暴行を受けた形跡が見られ、
身元の確認はまだ出来ていないが、察するにこの大学の関係者と思われる。
……くらいかな。私たちもまだ十分に捜査を進めれてなくてね。
特に、被害者の特定が出来ていない故に動機が全く予想出来ない。」
玲:「そうなんですね……。
……私、怖いです……。」
剛:「そうだね。これはあまりにも残虐だ。残虐性の高い事件だ。
恐怖を感じるのも仕方が無い。」
玲:「被害者の女性の為にも早く犯人捕まってほしいです……。」
正臣:「…………!」
玲:「マサオミくん?どうかしたの?」
(玲、正臣に手を伸ばす。)
正臣:「寄るなッ!」
玲:「え……………………?」
剛:「ま、正臣君……?」
玲:「ど、どうしたの?マサオミくん……?」
正臣:「寄るなって言ってるだろッ!!」
玲:「……まさ……おみ……くん……?」
正臣:「寄るな……気持ち悪い……!」
玲:「なんでそんな事言うの……?」
正臣:「うるさい……!」
玲:「な……なんで……?
マサオミくん……?私は、私は正臣くんの事が好きだよ……?」
正臣:「僕はお前なんか嫌いだよ……!
寄るな……ッ!!」
剛:「……ち……痴話喧嘩……?」
玲:「酷い……酷いよ……正臣くん……
私は、一年生の時に正臣くんに助けられてから――」
正臣:「何の話だよッ!適当な事を言うなッ!!」
玲:「──ッ」
(正臣、逃げる。)
玲:「……酷い……酷い……(泣く)」
剛:「…………えー……っと……
その…………うん、まぁー……そ、そんな事もある……さ……」
玲:「……ありがとうございます……ヒガツカさん……。」
剛:「んんー……気を落とさない……のは無理だろうけど、
気を落とし過ぎない様にね……?
じゃあ……ぼ、僕はマサオミ君を追いかけるよ……。
な、何か分かったこととかあったらここまで連絡してくれ。
じゃ、じゃあまたー!!」
玲:「…………。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
正臣:「…………。」
(剛、正臣を追って走ってくる。)
剛:「マサオミ君ー!」
正臣:「……刑事さん…………。」
剛:「マサオミ君どうしたんだい?急に。」
正臣:「えっと……いえ、なんでも……無いです……。」
剛:「なんでもない事は無いだろ。
何があったんだ?教えてくれ。
君はどうして急にあんな態度をとったんだい?」
正臣:「…………。」
剛:「…………だんまりか……。
まぁ、この年頃は色々あるか……。
録音ファイル:02。
年頃の男女の痴話喧嘩にはあまり口出ししない事。
嫌な大人扱いされてしまう。
教訓として記録しておく。
──録音終了。」
正臣:「……え?」
剛:「ん……?ああ、これは最近始めた習慣でね。
自分が思った事とか教訓とか、あとは事件に関して思った事を
録音しているんだ。」
正臣:「あぁ……そうなんですね……」
剛:「とにかく……何があったかはもう聞かないけれど、
あまり一人で外を出歩かない様に。
君とは特に関係無いとは思うけれど、まだ犯人の狙いが分からないからね。」
正臣:「……刑事さんは、人の仕業だと思ってるんですか?」
剛:「えぇ……?それはどういう……」
正臣:「じゃあ、僕はこれで……。」
剛:「あっ!ちょっと!マサオミ君!」
剛:「…………。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
剛:「…………。」
剛:「録音ファイル:03。
今回の事件に関しての記録。
犯人は誰か、犯人はどうやったか、
犯人はどうしてあんな殺害方法を選んだのか、私たちは分からない。
…………。」
正臣:『……刑事さんは、人の仕業だと思ってるんですか?』
剛:「…………私の知り合いに妙な事を言われた。
“人の仕業だと思っているのか”と。
人ではないというのなら、何による犯行なのだろうか。
野犬や野生動物?
いいや、全身の皮を綺麗に剥ぐだなんて、動物に出来るとは到底思えない。
…………。依然、捜査は難航を極めている。
──録音終了。」
剛:「…………はぁ……」
よぞら:「あら?ヒガツカさん?」
剛:「ん?あれ!よぞらちゃん!?」
よぞら:「お久しぶりです。ヒガツカさん。」
剛:「いやーまさかよぞらちゃんにまで会えるとは!
今日は再会の日だね。」
よぞら:「その口ぶりですと、もしかして正臣にも?」
剛:「そうなんだよ!
いやはや……元気そうで良かったよ。」
よぞら:「ええ、お陰様で。
それで、どうしたんですか?神妙な顔をしていらっしゃいましたけれど。」
剛:「……ああ、いや、なんでもないよ。」
よぞら:「もしかして……私の大学であった変死体に関して……ですか?」
剛:「ッ!?
もしかしてッ、君もあの学校の生徒なのかい??」
よぞら:「はい、そうですよ。」
剛:「………………。
そう、なのか……いやー……君たちは本当に大変だね……。」
よぞら:「?」
剛:「ああ、いや、なんでもない。」
よぞら:「……3年前の、事ですか。」
剛:「…………すまないね……嫌な記憶を──」
よぞら:「大丈夫です。私は大丈夫です。」
剛:「……そうかい。
ああーそうだ、近々君のお父さん、トキワ警部に検視を頼みに尋ねると思うけど、
その時はまたよろしくね。」
よぞら:「はい。一応父に伝えておきます。」
剛:「ああ、助かる。
じゃあ僕はもう行くよ。」
よぞら:「はい。さようなら。」
(剛、去る。)
よぞら:「こそこそしてないで、堂々としたら?
城田 慶太郎(きだ けいたろう)。」
慶太郎:「……おっとぉ、気付かれちゃァ仕方が無い。
俺ァアンタの事を思ってひっそりとしてたってのにぃ。」
よぞら:「相も変わらずほざくわね。
刑事さんが怖かっただけでしょ?」
慶太郎:「……アンタも変わんねぇな。
その目ェ、嫌いだぜ。」
よぞら:「貴方に嫌われてて良かったわ。」
慶太郎:「……なあ、時和(ときわ)ァ。
アンタァ、マサオミと同じ学校なんだろ?」
よぞら:「ええ、そうよ。それがどうかしたのかしら?」
慶太郎:「へっ、アイツは平気って感じか。
まぁ、んなことはどうだっていい。
ツキノ レイちゃんってぇ知ってるか?」
よぞら:「知ってるわよ。
あの子がどうかしての。」
慶太郎:「いや何、ちょっとな。
そろそろ良い子ちゃん貯金も貯まっただろうし、
3年前にアンタにやったことをしたいなぁーと思ってな。」
よぞら:「そう。」
慶太郎:「なあ、協力してくれよォトキワァ……」
よぞら:「どうして私が貴方の協力をしないといけないのかしら?」
(慶太郎、よぞらに詰め寄る。)
慶太郎:「なんだよ……お前も俺に逆らうのか?」
よぞら:「くすくすくす……誰もそんな事言ってないじゃない?
私は私が貴方に協力しなきゃならない理由を聞いてるだけよ?」
慶太郎:「……なるほど?
俺は別にレイちゃんじゃなくてお前でも良いんだぜ?」
よぞら:「あら怖い。だったら仕方が無いわね。
協力する他無いわ。
じゃあ……着いて来なさい。」
慶太郎:「……?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(大学前、人々がざわついている。)
剛:「録音ファイル:04。
たった2日で彼らの日常は引っ掻き回された。
この事件、なんとしても早急に解決させねばならない……。
──録音終了。」
剛:「…………。
なんてことだ……。」
正臣:「……あ、刑事さん。」
剛:「……。
マサオミ君……とりあえず君が無事で良かったよ。
いや、何も良い、なんて事はないけれど……。」
正臣:「……?」
剛:「……ッ。
(正臣の耳元で小声で)
……変死体が増えたんだ…………。」
正臣:「え……?」
剛:「まだ一人目の遺体の検視も終わってないのに……
2日続けてだなんて……
マサオミ君……昨日も言ったけれど、犯人の狙いは依然分からない。
だから、あまり外出はしない方が良いかもしれない。
……いいや、かもしれない、なんかじゃない。安全な場所で終息するのを待つんだ。」
正臣:「そんなに必死な顔してどうしたんですか……。」
剛:「……変死体なんだが、昨日女性だったが、今日は男性だったんだ。
今回も全身の皮が剥がされていた……。」
正臣:「…………。」
剛:「頼む……!マサオミ君……!私情なのは重々承知だが、
僕は僕が知っている人が亡くなるのがとにかく怖いんだ。
今回ばかりは僕の言う事を……――
すまない。連絡が入ったようだ。」
正臣:「ああ、いえ、お気になさらず。」
剛:「──もしもし、私だ。
…………。
……ッ!それは本当か!?
ああ、今すぐそちらに向かうッ!
…………。
マサオミ君……いや……君にもついて来てもらっても良いかい?」
正臣:「ああ、はい……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^
~某留置所~
剛:「録音ファイル:05。
もしかしたら事件の真相に一歩進めるかもしれない。
どうやら昨日深夜に大学前で怪しい人物を見たという通報があり、
留置所にてその人物と接触する事になった。
その人物とは……キダ ケイタロウ……。
…………。
──録音終了。」
慶太郎:「お久しぶりです刑事さァん。
あ、マサオミ君も。」
正臣:「……ッ」
剛:「ああ、久しぶり。
まさか、また君とここで会う事になるとは……残念だよ。」
慶太郎:「え~?俺なンもしてないのになんかこんな所にぶち込まれただけっすよ?」
剛:「……本当に何もしてないか。」
慶太郎:「はァい。なンもしてないですよォ。」
剛:「じゃあ一昨日の夕方から深夜は何をしていた?」
慶太郎:「んー……何やってたっけなぁー……ちょォっと思い出せませんねー。」
剛:「……何かやってたんじゃないか?」
慶太郎:「俺が?何か?俺が何やったってんだよ?」
剛:「…………君は付近の大学で起きた事件を知っているか?」
慶太郎:「……ああーなんか全身の皮が剥がされた死体がどーのってやつっすか?
あれ怖いよなァ~マサオミィ?」
正臣:「……。」
剛:「ああ、それだ。
単刀直入に聞こう。あれをやったのは君なんじゃないか。」
慶太郎:「……はっはっはっは!
なんすかー?流石に俺もそんな事しませんよォー。
それともなんすか?刑事さんは
一度やらかした人間はなんでもやるとでも思ってんすか?」
剛:「いいや、だが君は昨日の夜にあの大学の前を何かを抱えてうろついていた姿を
目撃されており、現状最も怪しい人物だ。
私たちは当てずっぽうで人を疑ったりはしない。」
慶太郎:「ははーん……なるほど?
だけど、本当に俺はやってませんよ。
(わざとらしく)……ああ!そうだー!思い出したー!
俺キダ ケイタロウはァ一昨日マサオミ君と一緒にいましたよォ。」
剛:「え?マサオミ君、それは本当かい?」
正臣:「え……ああ、はい……確かに僕はキダ君とは一緒にいました……。」
剛:「ふむ……それを証明出来る人は誰かいるかい?」
正臣:「……多分僕らの母校の職員の誰かが見てたかもしれないです。」
剛:「………そうか。
では少なくとも一人目に関してはアリバイがあるわけか……。」
慶太郎:「じゃあーそういう事で。
そろそろ出してもらっても良いっすか?」
剛:「いいや、駄目だ。
君の容疑は完全に晴れたわけではない。
そもそも、君を留置しているのは深夜に大学に不法侵入した件に関してだ。」
慶太郎:「ちぇッ、へぇーへぇー」
剛:「……すまなかったねケイタロウ君。
高圧的に迫って。」
慶太郎:「いえいえェ……
ま、俺はバリバリに犯罪者だったし、仕方ないっすよ。
あれからは良い子にしてますけどねェ。」
剛:「心を入れ替えた様で良かったよ。
じゃ、また来るよ。」
慶太郎:「はいは~いィ」
剛:「マサオミ君、家まで送るよ。」
正臣:「あ、ありがとうございます。」
慶太郎:「マサオミ君もまたなァ」
正臣:「僕に話しかけるな……。」
慶太郎:「ひゃ~~怖い怖い~」
慶太郎:「くすくすくす……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~正臣宅前~
正臣:「わざわざ家まで送ってくださりありがとうございました。」
剛:「お安い御用だよ。
こちらこそ付き合わせてしまってすまなかった。」
正臣:「いえ、大丈夫です。
じゃあ、僕はこれで。
さようなら。」
剛:「うん。さようなら。」
剛:「さて……
音声ファイル:06。
多分ケイタロウ君は今回の事件の犯人では無い。
証拠不十分だから、というのもあるが私の刑事としての勘がそう言っている。
彼は犯人じゃない。
……おっと、連絡が……
──録音終了。」
剛:「もしもし、私だ。
……何ッ!?キダ ケイタロウが逃げた!?
すぐ行く!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
剛:……何故逃げたりなんかしたんだ……!
(剛、誰かにぶつかる。)
剛:「おっと!失礼!」
玲:「きゃっ!」
剛:「ツキノさん!?こんな時間に何をしているんだい!?」
玲:「ッ!ヒガツカさん!助けてください!!
私追われているんです!!」
剛:「何ッ!?」
玲:「キダ……!キダ ケイタロウに追われてるんです!!」
剛:「なんだって!?」
玲:「マサオミくんをッ、殺すって言ってました……!」
剛:「……ッ
君はマサオミ君の所へ行ってくれ!
私はキダ ケイタロウを迎え撃つ……!」
玲:「はい……ッ!」
(玲、先へ行く。)
剛:「……さあッ、来い……キダ ケイタロウ……ッ!」
剛:「…………?」
剛:おかしい。ツキノ レイは追われている、と言っていた。
あの様子だと10秒、20秒ほどで接触すると思ったが、
全く人が来る気配が無い……。
剛:「……。」
玲:『キダ……!キダ ケイタロウに追われてるんです!!』
剛:「……まさかッ」
玲:『マサオミくんをッ、殺すって言ってました……!』
剛:「しまった!あの二人はグルかッ!!
急がなければッ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
剛:「ハァ……ッ!ハァッ!
録音ファイル:07!!
今回の事件と関係あるかは分からないがッ、
極めて事件性の高い事態が発生ッ!
キダ ケイタロウとキツノ レイがサダガヤ マサオミの命を狙っている可能性があるッ!!
ツキノ レイは私がキダ ケイタロウと既に接触している事を知っていたッ!
──録音終了ッ!」
剛:「間に合え……!間に合え……ッ!
ッ!!
ツキノ レイッ!!」
玲:「──ッ
……あら、早かったですね。ヒガツカさん。」
剛:「ツキノ レイ!何故マサオミ君の命を狙うッ!!」
玲:「…………えぇ??
何を言ってるんですか?」
剛:「……え?」
玲:「私はそんな事考えて無いですよ?」
剛:「じゃあ……君はケイタロウ君と手を組んで何をしようとしているんだ……?」
玲:「ケイタロウ君と……?
そんな事、していませんよ。」
剛:「え、えぇ……?」
玲:「全部、全部私一人でやってます。」
剛:「ッ!!
(銃を構える)
手を床に伏せろッ!」
玲:「今よ!キダ ケイタロウ!」
剛:「何ッ!?
──ぐあッ!!」
剛:後ろに注意を向けた瞬間だった。
腹部に何か異物が突き刺さる感触がし、その場に倒れ込んだ。
剛:「──ぐッ!しッ、しまった……ッ!
どこに刃物を……ッ!
がは……ッ!!」
玲:「もう、言ったじゃないですか……。
全部私一人でやってるって……。」
剛:「くぁ……ッ!」
玲:「さて……これで怖がってくれるかしら……。」
剛:「ツキノ レイ……ッ
お、お前の、目的は、なんだ……ッ!」
玲:「目的?それは──」
正臣:「もうやめろ!!」
玲:「あ、マサオミくん。」
剛:「まッ、マサオミ君……ッ
にッ、逃げろ……ッ、ツキノ レイは危険だ……ッ」
玲:「行かないで……?
私、マサオミくんの事大好きなんだよ……?」
正臣:「僕は大っ嫌いだ……!」
玲:「なんでぇ……私の事……レイの事、嫌いなの……?」
剛:「逃げろ……ッ!!」
正臣:「ツキノさんじゃなくてお前が嫌いなんだよ!!」
玲:「……ッ!」
剛:「…………え……えぇ?」
剛:マサオミ君は一体、何を言っているんだ……?
玲:「あら……あらあら──」
よぞら:「──あらあら……気付いていたのね。マサオミ。」
剛:「……は?」
剛:怪奇。
ツキノ レイからトキワ よぞらの声がした。
わけが、分からない。
正臣:「誰がお前を間違えるっていうんだ……。」
よぞら:「そうかしら?
多分、貴方以外にはバレてないわよ?
ツキノさんのご家族にもバレなかったし、
キダ ケイタロウにも、ヒガツカさんにもバレていなかったわ。
……でも、そうね……マサオミにだけ分かられたってのは少しキュンとしたわ……。」
剛:間違いなく、トキワ よぞらの声だ。
正臣:「トキワ……お前、何がしたいんだよ……!」
よぞら:「何がしたいって?
くすくすくす……ずっと言ってるじゃなあい……」
よぞら:「あの時みたいにマサオミに私をグチャグチャにして欲しいのよ。」
正臣:「は…………?それでツキノさんとキダを殺したっていうのか……!?」
剛:「……ッ!?」
剛:ツキノ レイとキダ ケイタロウを、殺した……ッ!?
どういう事だ……???
まさか、あの変死体はその2人だと言うのか???
どういう事だ???だって2人は、昨日にも今日にも僕は会っている。
死亡時期が合わない。
それとも僕は死人と会って話していたというのか???
正臣:「そんなの信じられるかよッ!
本当はあれだろ!?あの時の復讐なんじゃないのかッ!?
僕の事を3年間も付け回しやがってッ!
今になって急に話しかけやがって!!
本当の事を言えよ!!」
剛:あの時……察するに3年前の出来事……。
それは彼らが高校3年生の時、トキワ よぞらがキダ ケイタロウを含む5人の男子生徒に集団強姦された事件。
だがしかし、マサオミ君がやった事はその現場を見て通報し、トキワ よぞらを救ったハズ。
だというのに、あの時の様にグチャグチャにして欲しいとはどういう事だ?
よぞら:「本当の事よ?
本当に、本当にあの時みたいにして欲しいのよ?」
正臣:「…………ッ。
ゆ、許してくれよ……!あれは、一時の気の迷いというかッ、気が動転してて……
とにかく正気じゃなかったんだよッ!」
よぞら:「謝る必要なんてないわ。
むしろ私は感謝してるの。」
正臣:「……は?」
よぞら:「私はあの時グチャグチャにされて気持ち悪くて死にたくて苦しくて……
とにかくいままで生きてきた中で一番の苦痛だった。
一生続くかと思ってた……けれど貴方が来てくれて助けられたと思ってたわ。
だというのに、貴方にまでやられるだなんて全く思いもしなかった……。」
正臣:「……ッ」
よぞら:「希望の芽を唐突に摘み取られた気分だったわ。
あれって貴方も加担してたんでしょ?
それを知って、私も最初は人並みに傷ついたわよ?
でもね?忘れられないの、あの感覚が……!」
正臣:「……やめろッ
そんな目で見るなよ……。」
よぞら:「怖い?恐怖を感じてる?
貴方はあの時恐怖を感じて、
その恐怖を塗りつぶす為に私をグチャグチャにしたんでしょ?
ねぇ?怖い?怖い??」
正臣:「そッ……そんな理由で──」
剛:──そんな理由で、貞ヶ谷 正臣(さだがや まさおみ)に恐怖を感じてもらう為に、
延いては自分をグチャグチャにしてもらう為だけで、
ツキノ レイとキダ ケイタロウを、殺した。
それが、トキワ よぞらの殺害の動機。
到底、正気とは思えない。
正臣:「トキワ……お前壊れてるよ……ッ!!」
よぞら:「貴方が私を壊したのよ。」
正臣:「――っひぃ!!」
よぞら:「さあ、マサオミ……?私をグチャグチャにして?私をもっと壊して?」
正臣:「ああ……ああああああああああああああ!!!」
(正臣、逃げる。)
よぞら:「逃げちゃった……。
……あら?ヒガツカさん……?
ヒガツカさんも逃げちゃった……?」
剛:「逃げなければ……ッ」
よぞら:「ヒガツカさん?何処へ行くんですか?」
剛:「ッ!!」
よぞら:「駄目じゃないですか。私、困ってしまいます。」
剛:「くっ!ここまで……かッ!」
よぞら:「くすくすくす……よくお分かりで。」
剛:「……とき、わ、よぞ、ら……ッ
最後に、ひとつ、だけ、教え、てくれ……ッ」
よぞら:「ええ、良いですよ。」
剛:「き、君の、その、姿と、さっき、の、声ッ、
あれは、どうこう、こと、なんだ……ッ!」
よぞら:「ああーこれですか?これはあれですよ。
この子たちの死体って全身の皮が剥がされてて無かったですよね?」
剛:「まッ、まさかッ」
よぞら:「そのまさかです。
お二人の人皮で着ぐるみを作ったんですよ。
我ながら、綺麗に出来たと思ってます。
凄いでしょう?ツキノさんだけじゃなくてキダ ケイタロウのも、
身長差が結構あったので色々調整するの、大変でした。」
剛:「な、なんて事を……ッ!」
よぞら:「そして声ですけど──」
玲:「昔から──」
慶太郎:「こういうのが──」
よぞら:「──得意なんですよ。」
剛:「なッ……なッ……!」
玲:「つーまーり~~──」
慶太郎:「今日会った俺も──」
玲:「昨日会った私……じゃなくてアタシも──」
よぞら:「──私、だったんですよ。」
剛:「……ッ……!」
剛:なんという事だ。
こんな都合の良い事があって良いのか……ッ!
よぞら:「こんな都合の良い事があって良いのかって思うでしょう?
私もそう思います。
けれど、出来ちゃうんです。あ、勿論一朝一夕では無いですよ?」
剛:「なん……て、いう……事だ……ッ!」
正臣:『……刑事さんは、人の仕業だと思ってるんですか?』
剛:「まッ、まさかッ、本当に……ッ
ハァ……ハァ……ぐッ……!」
よぞら:「あら、そろそろこと切れそうですね……。
では少し失礼します。」
剛:「…………ッ
な、何をする……ッ」
(よぞら、剛の録音機をオンにする。)
よぞら:「こほん……」
剛:「録音……ファイル……8……ッ
なッ、何者かによってッ、数度、刺されて、しまった……ッ
犯人はッ、男性と、思われ、る……
ハァ……ハァ……
私はッ……もう駄目、だろう……
──録音、終了ッ
…………。」
よぞら:「携帯もお借りしますね。
……んんっ、」
剛:「(電話をかける)
……ぐふッ、わ、私だッ
例の、変死体事件の、犯人ッ、に刺された……ッ
私は、もう、駄目、かもしれない……
ああ……ああッ、後は頼ん、だ……ッ」
よぞら:「──こんな感じかしら。」
剛:「なッ……何を……ッ」
よぞら:「くすくすくす……
ヒガツカさんにはお世話になりましたし、お顔を立てるというかなんというか……
まぁ……なんというか、きまぐれです。
では──」
慶太郎:「マサオミに恐怖を与える為に──」
玲:「延いては私の快楽の為に──」
よぞら:「──マサオミの心の支えになりそうな貴方には退場して頂きます。
さようなら。ヒガツカ ツヨシさん。」
剛:「まッ、ま……て……ッ」
剛:そこで私の意識は途切れた。
剛:『――録音終了。』
よぞら:「くすくすくす……」
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END