[台本]未来少女の傷心談
世界設定、場面状況
特に変わった事はない何の変哲も無い世界、つまり普通の世界、普通の日常……のはずだった。
突如降りかかった不条理により引き離された仲間たち。覆す事の許されない結末、だがそれを良しとせず覆した傲慢稚気。
その後の物語。
時は経ち、異常は通常に、そして日常へなっても変わらない傷心が、トラウマがある。
これはトラウマを克服する傷心談。
良かったらそちらもやってみてください。
登場人物
○最羽 美兎(さいはね みう)
高校二年生、17歳、女性
少し大人びている女性。
とある出来事がきっかけでトラウマを持ち苦しんでいる。
主人公。
○蜘旗 浩満(くもはた ひろみつ)
高校三年生、17歳、男性
好青年感出してるけども発言の節々が妙に傲慢。そして時に冷酷。
だけど悪い奴ではないし悪気もない。むしろ割と優しくて良い子。
〇最羽 日葵(さいはね ひまり)
26歳、女性
美兎の姉。
元々は優しい性格だったらしいが、冷徹な人間。或いは子供とも言える。
美兎にトラウマを植え付けた張本人。
最羽 美兎♀:
蜘旗 浩満♂:
最羽 日葵♀:
これより下から台本本編です。
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美兎、寝ている。
日葵『……美兎?貴女のせいよ?』
美兎「ッ!!」
日葵『ええ、そうよ?美兎。貴女が過去に飛ばなければ、
あのクモハタとかいう人は死なずに済んだわ?
もっと言えば、さっきみたいに私に逆らわなければ
彼らきっと出しゃばってこなかったでしょうねー?
そうじゃない?』
美兎「私の……ちっ、違うッ!!」
日葵『いいえ、貴女の所為よ。』
美兎「――――ッ。」
日葵『全部、全部、ぜぇーんぶ、貴女の所為。
目を逸らしてはならないわ?』
美兎「違う……」
日葵『父さんも、母さんも妹の“麗(うらら)”も、
全員貴女が見捨てたから私に殺されたのよ?』
美兎「違うッ……違う……ッ!!!」
日葵、手を伸ばし美兎の顔に添える。
日葵『貴方には――――何も出来ないわ。』
美兎、目を覚まし起き上がる。
美兎「――――――ッ。」
間。
美兎「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ………………
…………夢……。」
日葵『貴女には何も出来ないわ。』
美兎「ッ!!
……私には、何も、出来ない……。」
美兎、蹲る。
美兎「…………私は……何か……ッ」
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~学校にて~
美兎「……。」
美兎M「私は…………」
浩満「……美兎さん?」
美兎「……。」
浩満「美兎さん……美兎さん!」
美兎「うわぁわわわわ!なッ、なんですか!?」
浩満「なんですか、じゃないですよー。
この僕が勉強を教えているというのに、ぼーっとしてどうしたんですか?」
美兎「……あぁ、蜘旗、先輩……いえ、なんでも、無いです。」
浩満「……………………。
深くは聞きません。美兎さんが話さない内は。」
美兎「……ありがとうございます。蜘旗先輩……。」
浩満「いえ、お気になさらず。
美兎さんには美兎さんの事情とかありますからね。」
美兎「……。」
浩満「……ですが、次の試験で高得点を取るのでしょう?」
美兎「え、あー……はい。」
浩満「だったら、こちらにも集中してください。
今の美兎さんでは平均点ちょい超えくらいしか点数採れないですよ。」
美兎「えぇ!それだけ……ッ!?」
浩満「はい。ですが美兎さんは地頭が良いですから、ちゃんと集中すれば満点なんて余裕です。
美兎さんなら出来ますよ。」
美兎「私なら……でき……る……」
日葵『貴女には何も出来ないわ。』
美兎「――――――ッ……!」
浩満「……美兎さん?大丈夫ですか?
顔色が良くないですけど……。」
浩満、美兎に手を伸ばす。
美兎「ッ!」
美兎、慌てて立つ。
浩満「……美兎……さん……?」
美兎「……は……ッ!ご、ごめんなさい!先輩……!」
浩満「大丈夫です。お気になさらず。
僕は大丈夫ですよ。」
美兎「でッ、でも……でも……」
浩満「大丈夫ですよ。僕を誰だと思ってるんですか??」
美兎「……蜘旗……先輩……。」
浩満「そう、僕は蜘旗 浩満です。
僕は真に天才であり、秀才であり、この世界は僕の思い通りになります。
故に、余裕があります。
ただの一度、後輩である貴女が気を乱しただけで謝られる必要はありません。」
美兎「……。」
浩満「だから、僕は大丈夫です。
心配無用です。」
美兎「……あははは、流石先輩。相変わらず傲慢ですね。」
浩満「いえいえ、傲慢なんかじゃありません。事実ですから。
まぁ、先輩たる者、後輩に対してマリアナ海溝よりも深く大きい度量を
見せてこそ、ですよ。」
美兎「……フフフ、先輩の器はIC 1101よりも広く大きいです……!」
浩満「???????????」
美兎「あれ……?どうしました……?先輩?」
浩満「いや……?スゥーーーーーーー……なんでもないです、よ……??」
浩満M「IC1101ってなにッ!!!!!!!!!!!!???」
※IC 1101とは?…観測史上最大の銀河。太陽の1000兆倍以上の質量を持つ、らしい。
浩満「まぁ、とにかく、うん、その、そんなに器が広く、深く、大きい僕なので、
気にしないでください。
さ、勉強を再開しましょ。」
美兎「……。はい……!(気を取り直す)」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
浩満「――今日はとりあえずここまでとしておきましょう。」
美兎「あい。いつもありがとうございます。蜘旗先輩。」
浩満「いえいえ、礼には及びませんよ。
勉強を教えるには三倍の理解量が必要らしいです。
つまり美兎さんがしっかり理解出来ていれば、
僕はその三倍しっかり理解出来ている事になります。
それはとても良い事なので、その再確認が出来て僕にとってもメリットが多いです。」
美兎「なるほど。大丈夫です。
蜘旗先輩は教えるの上手なので、私、しっかり理解出来てますよ。
えへへ……私は素晴らしい先輩……いえ、先生に指導してもらえて幸栄ですよ。」
浩満「そうですか。
であれば、そんな素晴らしい先生の生徒である美兎さんは全教科満点ですね。」
美兎「げえェッ…………あ、で、でも、正直全然満点採れそうな気はします。」
浩満「そうでしょう。なんたって僕が教えてますから。
…………それに、美兎さんが僕と同じ大学進学を志していると聞いたので、
俄然教えるのに力が入りますよ。」
美兎「え?どうして力が入るんです?」
浩満「フフフ……そんなの決まってるじゃないですか。」
美兎「?」
浩満「嬉しいから、ですよ。」
美兎「…………え?」
浩満「では、僕はこちらなので、また明日。
さようなら、美兎さん。」
美兎「あ、はい。さよなら!蜘旗先輩!」
・・・
美兎「嬉しいから……?
そういうモノ……なのかな?」
美兎M「多少の疑問を抱きつつも、私は帰路を行く。」
美兎、歩きながらカバンからメモ帳的なのを出す。
美兎「……それにしても、蜘旗先輩几帳面だなー
私の学年の教科担当の出題傾向の要点をまとめてるだなんて……
でも、先輩は――」
浩満『別段これに限った話ではありませんが、対人間である以上、試験とは情報戦です。
先生方の出題の癖を知っておく事は重要です。
ん?“自分の学力で勝負するべき?”
フフフ、情報検索能力、収集能力も立派に学力で勝負していますよ。』
美兎「――って言ってたし。
これからは私も先生たちの事をよく観るのは良いかもしれないなー
……へぇ……数学の“尊海(とうとうみ)”先生ってプリント課題の中間部分の問題を
テストに出しがちなんだぁ……気が付かなかった……
――うわぁっ!」
美兎、手帳を見ていて前を見てなくて人とぶつかる。
日葵「きゃっ!」
美兎「いてて……ご、ごめんなさい……
前を見て無くて……こちらの不注意でした……――えっ……?」
日葵「いいえ、私の方こそ前を見ていなかったわ。
ごめんなさいね…………――ッ!」
美兎「え……?えぇ……?」
日葵「……。」
美兎M「何故……何故この人が、この時代にいるの……?
だって……この人は……この人は……ッ!」
美兎「……ひ、ひまり……ねえ……さん……?」
美兎M「目の前にいるのは、私の姉である日葵。
最羽 日葵だった。
だがしかし、それはありえない。
何故か、彼女は未来の人間で、この時代にはいない筈だからだ。」
日葵「……。」
美兎M「この人が未来人である以上、
当然、彼女の妹の私も未来人だ。」
美兎「こッ、答えて……!な、何故貴女がこの時代に居るの……ッ!?」
日葵「…………。」
美兎M「私がこの時代に来る事になった経緯を回想します。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
美兎M「これは6年前、私が11歳の時の出来事。」
美兎「え………………?」
日葵「んー……?あら!おかえりなさい。美兎。私の可愛い可愛い美兎♪」
美兎「日葵……姉さん……?」
美兎M「私が用事から家に帰ったら私の姉、日葵姉さんが血塗れで立っていた。」
美兎「な……何が……あったの……?」
日葵「何があった……?……んー……何があったのかしらね。」
美兎「そ、その血……どうしたの……?
日葵姉さん怪我してるの……?」
日葵「あら、私の心配をしてくれるのね。嬉しいわ。
けれど、心配はいらないわ。これは私の血じゃないから♪
この血は床に転がってるコレとコレとコレのだから、私は怪我してないわよ。」
美兎「…………………………えぇ……?」
美兎M「目線を下げた私の脳は理解する事を拒んだ。
だけど、次第に、勝手に身体が、意識が理解していく。
床に転がっているのは母さんと父さんと、妹の麗だ。」
美兎「ッ!!
母さん!父さん!麗!!しっかりして!
…………し、死んでる……。
ね、姉さん!本当にッ、な、何がッ、あったの!?」
日葵「父さん?母さん?うらら……?
……あ!思い出したわ!
そうそう!そうだったわ!
この人達は私の父さんと母さんと妹のうらなんとか!
私が殺したのだったわ。」
美兎「なッ、どうして!?どうして三人を殺したの!!!」
日葵「なんで?なんでかしら?
分からないわ?何か理由があった気がするのだけど……
いいえ、もしかしたら無いかもしれないわ♪
だけどそんな事、関係無いじゃない。
改めておかえりなさい。可愛い可愛い私の美兎♡
さ、お夕飯にしましょ。」
美兎「ひッ……!」
日葵「…………何?その目……?
なんで貴女がそんな目で私を見るの……?」
美兎M「日葵姉さんの目から光が消えた。
私は殺される、と予感し、恐怖した。
そして――」
美兎「――うッ、うわぁああああああああああああああああああ!!!」
美兎M「――駆けだした。」
日葵「美兎!どこへいくの!!」
美兎M「当時の私は思った。
どこに逃げれば良いのか、と。
友達の所?駄目だ。友達諸共に殺されかねない。
警備軍の所?駄目だ。日葵姉さんはそれらに対して強く出られるだけの
権力を持っている。結局姉さんの所に戻されるかもしれない。
どこへ逃げれば良いか分からない。」
美兎「ハァ……ハァ……!とにかく、遠くに……遠くに……!」
美兎M「ただただ遠くへ、あの人に捕まらないところへ、
あの人に見つからないところへ、それだけを考えて走り続けた。
そして、気が付いたら私の知らない町、私の知らない空、私の知らない空気……
そう……気が付いたら、私は過去に飛んでいた。」
美兎「……あれ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
美兎M「無我夢中だった。
私はいつ、タイムマシンを使用したのか、
何故、この時代に飛んだのか、分からないまま、ただこの時代に逃げてきた。」
美兎M「回想終了。
そして――」
美兎「こッ、答えて……!な、何故貴女がこの時代に居るの……ッ!?」
日葵「…………。
貴女……誰です?」
美兎「……へ?」
日葵「それに、ヒマリ……さん?ですっけ?
どなたかしら?その美目麗しそうで気品溢れ出てそうな名前の方は。
少なくとも、私ではないわ?」
美兎「……へ?………………へ?」
美兎M「人……違い……?
だけど、その顔は……確かに……」
美兎「……本当に、日葵姉さんじゃ……無いの……?」
日葵「ええ、違うわ。
あぁ、あれじゃないかしら?
ドッペルゲンガーだのドッペルギャンガーだのというものじゃないかしら?
いいえ、いいえいいいえ。それだとどちらかは怪異になっちゃうわね?
あっ、ほら?世界には似た顔の人が自分含めて三人いるとも言うじゃない?
きっとそれよ。」
美兎「…………そう、ですか……。」
日葵「じゃ、私はもう行くわ。
改めてぶつかってしまってごめんなさいね。
気を付けて帰るのよ。」
美兎「あっ……はい。
こちらこそごめんなさい。ありがとうございます。」
日葵「さようなら。美兎。」
美兎「……さようなら。」
日葵、去る。
美兎「……本当に、日葵姉さんじゃ、ない……?」
美兎M「あれは、本当に日葵姉さんでは無かったのか。
分からない。
けれど私は無意識的にそう思おうと、日葵姉さんではないと信じ込もうとしていた。」
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~翌日、登校中~
浩満「え?美兎さんのお姉さんを見た?
この時代でですか?」
美兎「はい……。」
浩満「ふむ……。」
美兎「その人は、人違いだと言っていたのですが……。」
浩満「ほう。であれば、人違いなのかもしれませんね。
そもそも美兎さんの元々居た時代はもう僕が消失させたじゃないですか。」
美兎「……ッ。そう……ですね。」
美兎M「そう。この蜘旗 浩満という人間は、
私が生きてきた時代を消失させた。
張本人、というわけではないが、そのトリガーを引いたのは間違いなく
蜘旗先輩だ。」
浩満「話によれば、僕たちがこの時代に戻った時点、つまり去年の夏からの世界線は
すべて消失し、去年の夏から美兎さんが存在する世界線が構築される、らしい。」
美兎「……それによって世界は以前とは違う未来を辿る。
故に日葵姉さんが存在しない可能性がある、というわけですか。」
浩満「そうですね。
もしかしたら存在するかもしれませんが、少なくとも美兎さんの事を知っている
可能性は非常に低いですね。」
美兎「……そうですか。」
浩満「……思う事があるとは思いますが、気にしない事が良いと思いますよ。」
美兎「そうですよね……。」
浩満「それにしても、未来だの世界線だのといった話をするのは久しぶりですね。」
美兎「……あぁ、確かに、そうかもしれませんね。」
浩満「なんとなく美兎さんとこの話をしてはならない気がしてて、
自然とそういう話題は避けちゃってましたね。」
美兎「え?あの蜘旗先輩が、気を遣ってくれたのですか……?」
浩満「……“あの”ってなんですか。
もう、美兎さんは僕の事何だと思ってるんですか。」
美兎「他者を虫けらだと思ってる傲慢な人。」
浩満「………………不敬ですね。
僕ほど純粋無垢で清廉潔白、迦陵頻伽(かりょうびんが)なか弱い少年が傲慢?
ありえません。ありえませんとも。」
美兎「それを冗談で言ってないのが恐ろしい所……。」
浩満「とにかく。
……少しは未来に関心を持てる様になったのですね。」
美兎「……。
別に、そういうわけではありません。」
浩満「……そうですか。」
美兎「では蜘旗先輩、私こっちなので。
また放課後に。」
浩満「……はい。
今日は数学と日本史ですからね。」
美兎「了解です!先輩。」
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~三限目くらい~
美兎「…………。」
美兎M「昨日見たあの顔がフラッシュバックする。」
日葵『そうそう!そうだったわ!
この人達は私の父さんと母さんと妹のうらなんとか!
私が殺したのだったわ。』
美兎「……ッ。――うぅッ!!」
美兎M「吐き気が押し寄せてくる。」
日葵『なんて事を言うの……!なんて事を言うの……!!
……!そうよ!分かったわ!
お前、さては私の可愛い可愛い美兎じゃないわね……!?
よくも、私を騙したわね……!
殺す!お前も殺す!!』
美兎「――ッ!!」
美兎M「去年の夏、一度元の時代に戻った時に言われた言葉。
当時は何の恐怖も無かったけれど、今は、
どうしようもなく怖くなってしまっていた。」
美兎「うッ……」
日葵『美兎……貴女はもう何も考えなくて良いわ……。
全て私に任せなさい……。
貴女が私と決別するなんてムリだったのよ。』
美兎「む…………む、ムリ…………」
日葵『貴方には――――何も出来ないわ。』
美兎「ハァ……!ハァ……!!ハァ……ッ!!!」
美兎M「クラスの人や先生たちに心配されている事にも気付けず、
ただただ思考を遮断し、世界から意識を閉ざしていた。」
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美兎「……あれ?」
浩満「起きましたか。」
美兎「…………せん……ぱい……」
浩満「ここがどこか分かりますか、美兎さん。」
美兎「……保健室……ああ、私……倒れたんですね……。」
浩満「その通りです。大丈夫では……ないでしょうね。」
美兎「……はい……。」
浩満「お姉さん……と思われる人の事ですか。」
美兎「……はい。」
浩満「そうですか。
……であれば、また会うのが良いかもしれませんね。」
美兎「まッ、またッ、会う……ッ?」
浩満「はい。」
美兎「むッ無理ですよ……私には、そ、そんな事出来ません。私ッ、次に会ったらもう、
恐怖で、に、二度と立てなくなるかもしれません……。」
浩満「いいえ、無理ではありませんよ。
美兎さんなら出来ます。」
美兎「無理ですッ!!」
浩満「……ッ。」
美兎「怖いッ、怖いんです……ッ。
あの人は私の家族を殺したんですよ……そんな怖い人にもう一度会う……?
そんなのッ、無理ですよ……ッ!」
浩満「…………だけど美兎さん。
僕は美兎さんが11年間生きてきた時代を、世界を殺した人間ですよ。」
美兎「……ッ。」
浩満「美兎さんが通っていた学校も、
その学校で共に過ごした美兎さんの友人たち、先生たちも、
その時代の著名人も……とにかく、僕は
美兎さんの元々の暮らしや生活を殺しました。」
美兎「……。」
浩満「そんな僕と日葵さん。
一体何が違うんですか?」
美兎「…………え?」
美兎M「先輩は、一体何を言っているのだろうか。
蜘旗先輩と日葵姉さんが同じ……?
私からしたら全く別……いや、殺人者として同じという事だろうか。
仮に、そうだとしたら、いやそうだとしても、
先輩と姉さんは全く別だと思う。」
浩満「そう。今美兎さんが思っている通りです。
僕は日葵さんと同じ殺人者で、殺人者としては僕の方が圧倒的に上です。
まぁ、僕は殺戮者というべきですが。」
美兎「……そうですね。」
浩満「では、美兎さんは僕の事も怖いですか。」
美兎「えぇ……?」
浩満「僕は日葵さんと同じ、いえ、それ以上の殺人者です。
そんな僕と対面している美兎さんは、僕に対して恐怖を抱いていますか?」
美兎「……いえ。」
浩満「ですよね。
僕には恐怖を覚えず、日葵さんには恐怖を覚える。
それは、美兎さんが傷心故に、
……トラウマから“日葵さん”を見ていないからです。
日葵さんの目を、見てあげてください。」
浩満「では再び問います。
僕と日葵さん、一体何が違うんですか。」
美兎「――――。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~放課後~
日葵「……。」
美兎「待ってッ!!」
日葵「――ッ!
……あら、昨日のお嬢さん。
また会ったわね。どうしたの?美兎。
私に何か用が――」
美兎「貴女に用がありますッ!日葵姉さんッ!!」
日葵「…………。
昨日も言ったけれど、私はそのヒマリという人じゃ――」
美兎「姉さんは姉さんだよッ!!」
日葵「……。」
美兎「日葵……姉さん……。」
日葵「そう……その目。
私を見る事にしたのね……良いわ。では改めて。
私は最羽 日葵。貴女の姉にして、貴女の家族を皆殺しにした張本人よ。」
美兎「ッ!」
美兎M「真実が、現実が、私を見、私を射抜く様に直面する。」
日葵「さて、美兎。私の可愛かった可愛かった美兎。
私に何の用かしら?」
美兎「……。」
日葵「あら、だんまり?恐怖で竦んだのかしら?
安心なさい。私は貴女を殺そうだなんて思ってないわ。
繰り返し聞くけれど、私に何の用なの。」
美兎「わ、私は……」
日葵「何?私に対して恨み言でも吐きに来たのかしら?
それとも復讐?
申し訳ないけれど、私まだ死ぬわけには――」
美兎「姉さんはッ!蜘旗先輩と何も変わらないッ!!!」
日葵「…………誰ぇー?」(素っ頓狂な声で)
美兎「蜘旗先輩はとても傲慢で、人々を虫けらとしか思ってないけれど、
私たちは大切にしてくれている……!
それは日葵姉さんも同じでッ、私を大切にしてくれたッ!」
日葵「ねぇ、美兎。クモハタセンパイって誰なの?
私、私の知らない誰かと比べられてるの凄くなんとも言えない気持ちなのだけど。」
(誰か気になって話に集中できない様子。)
美兎「先輩は私に、日葵姉さんの“目”を見て、と言ってくれた……!
私は見れていなかった……六年前も、去年も、昨日も……」
日葵「……。」
美兎「けど……今、凄く久しぶりに日葵姉さんの目を見て気付いたよ……。
姉さんは……私の知ってる姉さんとは、やっぱり少し違うけど、
……でもやっぱり、私の姉さんなんだなって……。」
日葵「美兎……。」
美兎「姉さんは、いつもそういう落ち着いた口調で、
私に対して姉さんだって気付かれない様にしてた時も
私の名前を呼んじゃう抜けちゃってるおっちょこちょいで……」
日葵「うっ……」
美兎「それでも、私を見ている目は、
凄く優しい……
私の、優しい優しい日葵姉さんなんだなって……」(泣きそうになる。)
日葵「…………。」
美兎、泣く。
美兎「私……“日葵姉さん”にさよならを言いたかったの……
私を殺そうとしたって、別の世界線の同一人物だとしても、
それでも、私の姉さんだから……!」
日葵「そう……。」
美兎「……日葵姉さん……!ありがとう……!
いままで私の姉で居てくれて……!
私はッ、改めて……ッ、姉さんとッ、日葵姉さんと……ッ!
貴女と……決別する……ッ!」
日葵「………………フフ、結局、決別しちゃうのね……。
私たちは、この世界にたった二人の家族なのに。」
美兎「だとしても、私は決別するよ……。
もう貴女を見ない。
(再び涙が溢れる)…………。
もう……貴女に囚われない……ッ。」
日葵「そう……。辛い思い、してたのね……。
…………きっと謝罪を欲してないのだろうけど、ごめんなさいね。美兎。
………………。
もう、私の可愛い可愛い美兎は本当にいないのね……。」
美兎「そうだよ……。」
日葵「強くなったわね……美兎。
強く、美しいわ。」
美兎「えへへ……。
……さようなら、日葵姉さん。」
日葵「さようなら、美兎。」
美兎M「私たち姉妹はこの日、決別した。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
美兎M「後日の出来事。」
浩満『おはようございます。美兎さん。
どうやら今日から非常勤講師の方が美兎さんの学年に来るみたいですね。
いや~~~こんな時期に珍しいですね~~~~』
美兎「――と、先輩は言っていたけれど、
本当に、珍しいなぁ。
……どんな先生なんだろう。」
(美兎の教室に人が入ってくる。)
日葵「初めまして。
本日から皆さんに化学を教えることになりました。
(黒板に名前を書く)
最羽 日葵、と言います。
皆さん、よろしくお願いしま゛……ッ゛!゛」
美兎「ま“……ッ゛
ね゛、姉゛さ゛ん゛……。」
日葵「み゛……み゛う゛……。」
日葵「なに?なに?なになに??どういう事なの???
はわわっ、なんで美兎が……ここに???????」
美兎「………………絶ッッッッッ対蜘旗先輩が何かしましたね……!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
浩満「くしゅんッ!
……各国の優秀な人たちが僕の噂をしてるみたいですね…………。」
美兎M「私たちの決意と、私のトラウマは先輩の手によって茶番となったのだった。」
───────────────────────────────────────
END