[台本]改造戦屍ファルシファイ~第二話:“透明人間(インビジブル・ヒューマン)”~
世界設定、場面情景
日常の中に潜む狂気、或いは凶器。
これは、不条理にも巻き込まれてしまった青年が、『狂鬼』と化す物語。
登場人物
〇亘理 進一(わたり しんいち)/“改造戦屍(かいぞうせんし)”ファルシファイ
22歳、男性
兄貴肌で頼りになる青年。
勝手な都合で殺され、勝手な都合で改造され、“改造戦屍(かいぞうせんし)ファルシファイ”となる。
ファルシファイに変身してる時は雄たけびと唸り声しかあげれなくなる。
主人公。
〇Dr.ラプラス
年齢不詳、女性
研究施設クレアシオンの所長にして唯一の研究員。
天才であり愚者。傲慢、ウザいそして何より色々とワガママな女性、を装っている。
殺された進一を勝手に改造し、改造戦屍ファルシファイに仕立て上げる。
自称する名である“Dr.ラプラス”は「当然ですが仮名です。」とのこと。
〇レプリコント・ラプラス(複数体)
年齢不詳、女性
第二研究施設を管理しているDr.ラプラスが作った自身のレプリカたち。
オリジナルのDr.ラプラスと記憶をクラウドストレージ形式で共有している。
作中にて亘理進一もレプリコント・ラプラスのうちの一人。
役としてはDr.ラプラスと兼ね役が好ましい。
〇キタガワ
15歳、女性
謎の秘密結社“マクスウェル”から送られた刺客の改造人間。
人並み外れた怪力を持つ。
とても真面目な性格で、殺し合いも真摯に行う。
一人称は“キタガワ”。
〇ナレーション
年齢不問、性別不問
作中のナレーション。そして改造戦屍ファルシファイの言葉と技名を代弁する。
・☆亘理 進一/ファルシファイ ♂:
・♡Dr.ラプラス/レプリコント・ラプラス ♀:
・キタガワ♀:
・ナレーション 不問:
↓これより下が台本本編です。
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~某所にて~
キタガワ:「では、今回のキタガワのミッションは……」
間。
キタガワ:「……そうなのですね。」
N:キタガワと名乗る少女は通信機器越しに誰かと会話する。
キタガワ:「……相分かりました。
このキタガワ、全身全霊を持って、遂行します。」
N:そう言うと、通信機器を破壊し、西の方角を見やる。
進一(しんいち)とDr.ラプラスの所へと向かう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
N:一方、シンイチは唖然としていた。
☆進一:「…………。」
♡ラプラス:「どうしたのですか?シンイチ。」
♡レプリコント:「どうしたのですか?シンイチ。」
☆進一:「いや……何事が起きてんだ。」
N:ここはDr.ラプラスが第二研究施設としている場所“シーヴォン”。
そこでシンイチが目にしたのはDr.ラプラスと瓜二つ……
どころか全く同じ顔、容姿の人物がたくさんいる光景だった。
☆進一:「ラプラス、アンタ“幾つ子(いくつご)”なんだよ。」
♡ラプラス:「ああ!なるほど!
こほん、彼女たちと私は姉妹とかではないですよ。」
♡レプリコント:「私たちは彼女、Dr.ラプラスにより造られた、
彼女自身のクローン、ドッペルギャンガー、
レプリコント・ヒューマン……まぁ、詰まる所、模造人間です。
私たちの事は“レプリコント・ラプラス”とでも呼んでください。」
☆進一:「模造人間……それは、改造人間とは……違う、という認識でいいのか?」
♡ラプラス:「そうですね。彼女たちは“改め”て造られたワケではなく、
一から造られた“人造人間”です。
まあ、改造人間も人造人間ですけどねぇ。」
☆進一:「そう、なのか。
しかし、なんで自分とそっくりな人間なんか作ったんだ?」
♡ラプラス:「……。」
♡レプリコント:「……。」
N:Dr.ラプラスとレプリコント・ラプラスは互いに目を合わせ、同時に首を傾ける。
そして、シンイチに向き直り──
♡ラプラス:「それは──」
♡レプリコント:「とっても──」
♡ラプラス:「便利だから──」
♡レプリコント:「ですっ★」
N:──と、示し合わせたかのように言った。
☆進一:「うざっ」
♡ラプラス:「まあ、便利なのは勿論、非常事態に備えて、というのもあります。」
☆進一:「非常事態?」
♡レプリコント:「はい。
私たちは、オリジナルのDr.ラプラスが死んでしまっても良い様に造られたのです。」
☆進一:「死ぬって……」
♡ラプラス:「命を狙われている身ですからね。
いつ、どこで、誰に、どの様に、命を落とすか、分からないですからね。
なのでっ、彼女たちを造ったのです!」
☆進一:「……。」
♡レプリコント:「オリジナルと私たちはクラウド形式で記憶を共有しています。
なので、リアルタイムで記憶、記録を更新し続けているのです。」
☆進一:「…………あぁ…………?ううん?…………
…………。
……うん………………?」
♡ラプラス:「私のレプリコント・ヒューマンの優秀な面は
クラウド式記憶共有だけではありません。
一番の凄さは“自壊機能(アポトーシス)”、です!最強の自殺機構です!!」
☆進一:「……は?あぽ……?じさつ……?」
♡レプリコント:「そうです!
例えば、不治の病やウィルスに身体が侵されたり──」
♡ラプラス:「例えば、敵に捕まり拷問にあったり──」
♡レプリコント:「例えば、催眠だの洗脳だのを受けたり──」
♡ラプラス:「みたいな事があった時に、自動的にクラウドとの連携を切り、
原子レベルまで分解される機構が働くのですっ!」
♡レプリコント:「凄いですね!オリジナル!」
♡ラプラス:「流石でしょ!レプリコント!」
♡ラプラス:&♡レプリコント:「「いえーいっ!」」
(ラプラス、レプリコント、ハイタッチする。)
N:陽気に、楽しげに、同じ顔が戯れ合う。
……が、シンイチは眉間に皺を寄せる。
♡レプリコント:「……?どうしたのですか?」
♡ラプラス:「お腹が痛いのですか?何か身体に異常が?
シンイチ、メディカルチェックを推奨しますよ。」
☆進一:「なんで……
そんなヘラヘラできんだよ。」
♡ラプラス:「……?と、言うと?」
☆進一:「ラプラス!アンタ!なんで自分が死んじまった時の想定をしてんだよ!
アンタらもだ!模倣だかなんだか知らねぇけど!
なんで自分らが壊される機構なんてもん良しとしてんだよ!?」
♡レプリコント:「……。」
☆進一:「……。」
♡レプリコント:「まあ、そういうもの、だから、ですかね?」
☆進一:「そっ、そういうものって!!」
♡ラプラス:「私たちは。」
☆進一:「っ」
♡ラプラス:「……私は、神をも凌ぐ天才的頭脳を持つが故のデメリットがあります。
それは命を狙われる、ということ。それに対して対策を打つのは至極当然です。」
☆進一:「そうかもしれないが!!
…………。」
N:シンイチは言い淀む。
自分が言っているのことは間違っているだろうか。
少なくとも、De.ラプラスの言い分は正解の一つであるのは間違いない、と考えた。
だが、どうしても腑に落ちない、とも考えた。
☆進一:「…………それで、アンタらはいいのか?」
♡レプリコント:「はい。それが、私たちレプリコント・ラプラスですから。」
間。
N:場に沈黙が流れる。
間。
N:Dr.ラプラスとレプリコント・ラプラスは、シンイチの死生観、倫理観に関して考え、
シンイチは現状にて、如何に己が異物なのか、それを呑み込もうと努力する。
それぞれ、沈黙の中で時間が流れる。
間。
N:沈黙を破ったのは、その場に似合わない音だった。
☆進一:「……は?」
キタガワ:ぴんぽーん
♡ラプラス:「あら?」
N:その音は、一般家庭で良く用いられる、所謂、インターホンの音だった。
♡ラプラス:「こんな時間に誰かしら?
そもそも、ここにインターホンは付いてない筈ですが……」
♡レプリコント:「なんでしょうかね。」
☆進一:「……とりあえず、出ないのが正解なんじゃないか?」
キタガワ:「いえ、出るべきです。」
♡レプリコント:「え?」
N;別に出てもいないのに、インターホンの音を鳴らしたと思われる少女がシンイチたちの目の前にいた。
☆進一:「うわぁあああああ!!!???」
♡ラプラス:「わ、私の演算に無い出来事がッ!?」
♡レプリコント:「私たちの演算の中からもこの様な事態は導き出されませんでした!
この子は一体ッ!!」
キタガワ:「初めましてDr.ラプラス。
そして──」
☆進一:「ッ」
キタガワ:「……初めまして、Dr.ラプラスの最新作、亘理 進一(わたり しんいち)。
キタガワはキタガワと申します。」
☆進一:「き、きたがわ……?」
N:キタガワと名乗る少女は、浅黒い肌、白い髪、黄色に輝く真っ直ぐな目をしている。
風体は、普通の少女にしか見えない。
♡ラプラス:「……ッ!何故……!」
キタガワ:「Dr.ラプラス。貴女の“悪魔的規格外演算”による未来予測に、キタガワは反映されませんよ。」
☆進一:「未来予測……?」
キタガワ:「はい。Dr.ラプラスは神に成り代れる程の天才です。
その天才的頭脳は“一を知れば全”を知る。
つまり彼女には過去は勿論、現在も未来も観測、予測出来るのです。」
☆進一:「…………。」
キタガワ:「しかし、そんなDr.ラプラスの悪魔的規格外演算にも弱点があります。」
♡ラプラス:「……。」
キタガワ:「キタガワは、その弱点を突く為に造られた、改造人間なのです。」
☆進一:「やはりお前も……ッ!!」
キタガワ:「はい、改造人間です。
キタガワに内蔵される力は概念的消失存在。
“Negative Existence (ネガティヴエグジスタンス)”。
“観測出来ない、或いはさせない存在”、それがキタガワです。」
♡ラプラス:「存在そのものを概念から排斥する事で演算の中から外れるという事なの!?」
♡レプリコント:「しかし、その能力から弾き出される貴女の特性は……!」
♡ラプラス:「“透明人間(インビジブル・ヒューマン)”!!」
N:透明人間。それは、身体が全く見えず、その体を透かして向こう側の景色を見ることができる。そこにいてもわからないが、感触では確認できる。
そういった物理的な透明状態になった人間を指す。
キタガワはそれを概念的に起こしているのだ。
キタガワ:「とにかく、キタガワの役目を果たす為に、押し通させて頂きますッ!!」
☆進一:「ラプラスッ!!」
N:シンイチはDr.ラプラスを庇う様にキタガワの前に立ち、鋭い拳を放つ。
☆進一:「はぁッ!!」
キタガワ:「──ッ」(寸での所で避ける。)
☆進一:「へっ!!やっぱり!!
改造人間とは言え、ただのよく分からん透明人間!!!
以前戦ったトラースよか弱いッ!!!」
キタガワ:「まあ、そうですね。トラースさんよりは圧倒的に弱いです。
ですが──」
☆進一:「ッ!!」
N:キタガワはシンイチの腕をがっちりと掴み、離さない。
☆進一:「くっ!!なんだッ!!!!」
♡ラプラス:「ッ!!シンイチ!腕を切断してでも退避を!!」
キタガワ:「もう遅い!!
”絶対不可侵領域―Negative Existence Shield(ネガティヴエグジスタンスシールド)―”!発動ッ!!!」
N:シンイチとキタガワを囲む様に円柱状の結界が張られる。
♡レプリコント:「この障壁もキタガワの能力と同質です!!
概念的に消失しているが故に、障壁内の目視。
障壁の接触、及び破壊が出来ません!!」
♡ラプラス:「外からの干渉を一切受け付けない……ですってッ!?
シンイチ!シンイチ!!
くッ!!障壁内の音も遮断されている……!
逆説的にこちらのも聞えない様ね……!」
♡レプリコント:「障壁内での事象を、私たちですら演算出来きませんね。」
♡ラプラス:「……そうね。
……シンイチ……。」
N:Dr.ラプラスは唇を噛む。自分の無力さ故に。
間。
N:一方、障壁内では。
☆進一:「クッソッ!!なんだこれは!!外に出れない!!
今すぐにでも断片解錠して──」
キタガワ:「待ってください。」
☆進一:「あ?」
キタガワ:「話し合いをしましょう。」
☆進一:「話し合い、だぁ?」
キタガワ:「殺し合いは、その後でも大丈夫だとキタガワは考えます。」
☆進一:「殺し合いは、結局するんだな。」
キタガワ:「話し合いの結果によっては、回避出来るかもしれません。」
☆進一:「……分かった。」
キタガワ:「さて、まずですが、何故貴方はDr.ラプラスの味方をするのですか?」
☆進一:「助けられたからだ。
そして、ラプラスが助けを求めてるからだ。」
キタガワ:「そうですか。
次に、貴方にとって、Dr.ラプラスは、そして我々“人類保安機関マクスウェル”はなんですか?」
☆進一:「人類保安機関……?
マクスウェルは悪の結社かなんかじゃないのか?」
キタガワ:「……どうやら、知らない、いえ、知らされていない様ですね。
人類保安機関マクスウェルは人類の存続の為に造られた組織です。
たとえ世界が無秩序に陥ろうとも人類が存続出来るように合法非合法問わず裏から人知れず干渉する存在です。」
☆進一:「そんな奴らがなんでラプラスを狙う。」
キタガワ:「それに関しては、先ほどの質問に答えてもらってから答えます。
改めて、貴方にとって、Dr.ラプラスは、そして我々“人類保安機関マクスウェル”はなんですか?」
☆進一:「……ラプラスは俺が守るべき存在で、アンタらは俺がぶっ潰す存在だ。」
キタガワ:「貴方の正義の心ゆえに、ですか。」
☆進一:「正義……そうだな、それで良い。」
キタガワ:「……たとえラプラスがこの世界を壊さんとする“悪”、だとしてもですか。」
☆進一:「……それはどういう意味だ?」
キタガワ:「そのままの意味です。どうするのですか。」
☆進一:「……阻止する。」
キタガワ:「でしたら、キタガワたちと貴方は手を取り合う事が出来ます。」
☆進一:「いいや、お前たちの手は取らない。」
キタガワ:「……何故、なのですか。」
☆進一:「俺は、ラプラスを信じる。」
キタガワ:「そう……ですか……。
で、あれば──」
N:進一は構える。
少女の姿をしていようと、相手は改造人間。
突然で突飛な攻撃をしてこないとも限らない、と考えたからだ。
☆進一:「“断片解錠―リリース―”ッ!!!」
間。
☆進一:「……!?変身、しねぇだと???」
キタガワ:「“規則固定”。」
☆進一:「ッ!!」
キタガワ:「キタガワの付与された二つ目の、この空間でのみ発動可能な能力。
この空間のルールは、私が決めます。
キタガワは貴方やトラースさんの様な戦闘に特化した改造人間ではありません。
故に、定めさせて頂きました。
“変身を禁止”です。」
☆進一:「なに!?汚ねぇぞ!!」
キタガワ:「キタガワから言わせれば変身してパワーアップの方がずるです、よッ!!」
☆進一:「くっ!!」
N:キタガワの連撃がシンイチを襲う。
変身する事の出来ないシンイチは防戦一方であった。
キタガワ:「そして!“この戦いの勝者は敗者の能力を奪取する”というルールです!!」
☆進一:「はぁ!!?」
キタガワ:「キタガワの任務は、亘理 進一(わたり しんいち)、貴方に備えられた能力、
“ARTS(アーツ)”の奪取です。
故に、大人しく!!!」
☆進一:「やられるかよ!!!!」
キタガワ:「諦めてはどうですか!!」
☆進一:「ああ!?」
キタガワ:「改造人間のッ、本能に任せるだけでは、キタガワにはおろか、
これから闘う。かもしれない人たちには、勝てません!!」
☆進一:「っ!!!」
キタガワ:「であれば!!さっさとその力を渡し、平穏な生活に戻るのです!!」
☆進一:「ッ」
キタガワ:「大丈夫です。キタガワたちであれば!必ず──ぐあッ!!」
N:シンイチの拳がキタガワの顔面にクリンヒットする。
☆進一:「いらねぇよ。」
間。
☆進一:「俺は平穏が欲しくて戦ってるんじゃねぇ。」
キタガワ:「──ッ」
☆進一:「……衝動だ。衝動で俺は動いている。
ラプラスを……誰かを助けたいから動いている。
俺が助かりてぇから動いてんじゃねえ!!!」
N:シンイチの叫びに呼応するかのように概念炉心が強い輝きを放つ。
キタガワ:「──なに!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♡レプリコント:「Gotcha(ガッチャ)!!概念炉心ジャイレートの輝きを補足しましたっ!!」
♡ラプラス:「I copy(アイコピー)!!こじ開けるわよ!!
“アゾート砲”準備!!」
♡レプリコント:「ラジャー!!」
N:アゾート砲。
それは“ラプラス元素周期表”という彼女オリジナルの周期表に置けるAtoZ、
全ての元素を凝縮し化合した物質“アゾート”を撃ち出す砲撃。
“始まりであり終わりである”という意味を持つ“Azoth(アゾート)”から名を取られた最高峰の一撃である。
♡ラプラス:「ファイア!!!!!!!!!!!!!」
N:一線。“アゾート”が障壁を貫く。
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キタガワ:「ッ!!!シンイチ!避けて!!!」
☆進一:「ッ!!」(アゾート砲を寸での所で避ける。)
N:Dr.ラプラスたちが放った一撃は、確かに障壁に干渉し、破壊に至ったのだ。
キタガワ:「なに!?ネガティブイグジスタンスシールドが破られた!ですって!?
そんな!!概念的に存在しない、干渉しえない筈のモノをどうやって!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♡ラプラス:「──と、あの少女はさぞかし驚いている事でしょうね。」
♡レプリコント:「概念的消失存在、確かに防御に置いては最強と言っても差し支え無いかもしれません。
ですが、私たちを相手にしたのが運の尽き!」
♡ラプラス:「認知出来ないということは、“認知出来ない”という事を認知しているという事にもなります!
フフフ!かの物理学者や数学者、科学者の先人たちも、
幾度となく“認知できない何か”を仮定し、方程式を組んできました!
私も“そう”というだけのことです!!」
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☆進一:(空間が破られた?なら!!)
☆進一:「おおおおおおおッ!“断片解錠(リリース)”ッ!!!」
キタガワ:「しまった!!再展開ッ!!」
N:再び空間を閉じる。
だが──
☆ファルシファイ:「「クォオオオオ……!」」
キタガワ:「くっ!遅かった……!」
N:シンイチからファルシファイへと変貌し、静かに猛る。
再び空間は閉じ、規則固定による“変身出来ない”というルールは復活した。
が、既に変身した以上、もはや意味は無い。
キタガワ:「であっても!!負けるわけにはいきませんッ!!」
☆ファルシファイ:「「キッシャアアアアアッ!!!」」
N:二人の拳が幾度と無くぶつかりあう。
その度にキタガワの拳が壊れていく。
キタガワ:「ぐ……ッ!」
☆ファルシファイ:「「アアアアアアアアッ!!!」」
キタガワ:「まだですッ!!!!」
☆ファルシファイ:「「アギャッ!?」」
N:キタガワは一瞬の隙を逃さなかった。
隠し持っていた二対の剣でファルシファイの両腕を切り落とす。
☆ファルシファイ:「「ガアアアアアッ!!!!」」
キタガワ:「言ったでしょう!!
改造人間の本能に任せるだけではキタガワにはおろか、
これから闘うかもしれない人たちに勝てないとッ!!!」
☆ファルシファイ:「「ギギッ!!」」
キタガワ:「理性をッ、人間性をッ!忘れてはいけません……ッ!
それらを保ち、“改造戦屍(かいぞうせんし)”の獣性に打ち勝ち続けるのです……ッ!
亘理 進一(わたり しんいち)ッ!!」
N:キタガワの剣技と足技による連撃。
ファルシファイはそれを受ける一方。
だが──
キタガワ:「ッ!!」
☆ファルシファイ:「「──ッ」」
N:キタガワの攻撃を受け流す。
ただ力を暴力的に振るうだけであった今までファルシファイの動きからは考えられない、“人”の構えを取る。
キタガワ:「っ」
(キタガワ、構え直す。)
キタガワ:「その意気や良し!全身全霊でッ!うおおおおおおおおおおッ!!」
☆ファルシファイ:「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」
N:先程まで獣の様な泥臭い争いではなく、人と人との、信念と信念のぶつかり合いが続く。
キタガワ:「とは言え!拳を切り落とされた貴方に!勝機はありませんッ!!」
☆ファルシファイ:「「──────────────。」」
キタガワ:「ッ!!」
キタガワ:(何か、まずいッ!!)
N:キタガワの悪寒は正しかった。
ファルシファイがキタガワに向けて突き出された両腕の先から、
ちょうど彼女の胸部を貫く程の距離まで両手が再生した。
もしも避けていなかったらひとたまりもなかっただろう。
キタガワ:「今のはヒヤリとしましたが、横がガラ空きです!!
とった──────────」
(キタガワ、何かに掴まれ動きが止まる。)
キタガワ:「なッ……に……?」
N:最後の一手を決めれば勝ち、という所で何かに邪魔された。
この状況で、何が邪魔するというのか。
キタガワは、自分の足元を見やる。
キタガワ:「……ッ!!」
N:キタガワの邪魔をしたのは、彼女が切り落としたファルシファイの拳であった。
キタガワ:「なッ、なんだとッ!!!!???」
☆ファルシファイ:「「ギギギ……」」
キタガワ:「はッ!!」
N:キタガワは強大な熱を感じてその方を見る。
その熱源は、ファルシファイの右手に構築された赤く燃え猛る剣。
キタガワ:「しッ、しまったッ!!!」
☆ファルシファイ:「「ゥウウゥウォオオオオオオオオオオオオッ!!!」」
キタガワ:「くっ!!」
間。
キタガワ:「……え?」
N:キタガワは死を覚悟していたが、ファルシファイの剣は寸での所で止まっていた。
キタガワ:「……どうして……。」
☆ファルシファイ:「「ガ……ア……ア……」」
N:ファルシファイは完全に停止し、鎧がボロボロと崩れていく。
その中からシンイチの姿が露わになる。
☆進一:「はぁ……はぁ……はぁ……
ふぅー……もう良いだろ。勝負アリだ。」
キタガワ:「……シンイチ……。」
☆進一:「お前、なんかよく分からんビームみたいなのが飛んできた時、俺に避けろって言った。
俺に死ぬことを強要しなかった。
……だから、俺もお前を殺さん。」
キタガワ:「…………。
……シンイチくんは相変わらずですね……。」
☆進一:「は?」
キタガワ:「ですが、それではミッションの完遂はならないのですよ。」
N:キタガワがそう言った瞬間、空間が変異する。
そして、複数の鋭利な刃物がキタガワの身体を貫き抉る。
キタガワ:「グッ……ガハァッ……!!」
☆進一:「なッ!!!」
キタガワ:「キタガワ、の、ミッション……は、キタガワ自身の、死を持ってしても……完遂、されます……」
☆進一:「死を持ってしてって……!!」
N:キタガワの言動で、自身らの自壊機能を楽しそうに話しているDr.ラプラスとレプリコント・ラプラスを思い出す。
☆進一:「なんで……自分が死ぬ事をそんな平気で勘定に入れられるんだよ……!!
あいつらも……お前もッ!!」
キタガワ:「…………まあ……キタガワ、は……そんなに平気では、無いですけどね……」
☆進一:「…………。」
キタガワ:「……シンイチは、Dr.ラプラスを信じている、と言っていましたね……。
それは、良いです……構いません……
ですが、彼女が悪を成す時、止めてくれませんか……?」
☆進一:「……。」
キタガワ:「…………まあ……是非も……無い──」
N:串刺しにされ命の灯が消えかけているキタガワ。
そんな彼女の手をシンイチが優しく握る。
キタガワ:「──え……。」
☆進一:「俺は、ラプラスを信じる。
これは、もう“正義の心”がどうとかじゃねぇ。
ただの衝動だ。俺がそうしたいからそうする。」
キタガワ:「……。」
☆進一:「そして、もしもアイツがなんかやらかそうものなら、俺が阻止する。」
キタガワ:「─────────」
☆進一:「言っとくが、お前と約束するとかじゃねぇ。
俺が、俺が嫌だから阻止する。」
キタガワ:「……ああ……キミは相変わらず…………」
間。
キタガワ:「だけど、まぁ、ありがとうございます……
あ、そうだ……勝者には、褒賞を…………」
☆進一:「……褒賞とか言うんだったらさ。
俺とお前って、どこで──」
N:キタガワは唇に人差し指を当て、力無く笑う。
シンイチは察した。彼女は自分自身の正体を教えてくれない。
会った時も、話し合っている時も、戦っている時も、
ずっと、ずっとずっと、“懐かしさ”を感じるのに、頭に靄が掛かっていて思い出せない彼女の正体を。
キタガワ:「……私は……“透明人間(インビジブル・ヒューマン)”ですから……。」
☆進一:「……。」
キタガワ:「……シンイチ……耳を、こちらに……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
N:一方、同時刻。
ラプラスたちはアゾート砲の再充填をしていた。
♡レプリコント:「アゾート砲、第二射、準備完了まで残り3%!!」
♡ラプラス:「出来る限り急いで!!」
♡レプリコント:「ラジャ!!」
N:障壁に異変が生じる。
♡レプリコント:「ッ!!ネガティブイグジスタンスシールドが崩壊します!!!」
♡ラプラス:「ッ!!」
N:レプリコント・ラプラスの宣言と共に障壁が音を立てて崩れる。
その中からシンイチの姿が現れる。
♡レプリコント:「崩壊により認知が可能に!生命反応は──」
(ラプラス、レプリコント・ラプラスの報告を聞ききる前に駆け出し、
進一の胸に飛ぶ。)
☆進一:「どわッ!!!」
♡ラプラス:「……ッ!シンイチ!!無事ですか!!」
☆進一:「あ、ああ……大丈夫だ……。」
♡ラプラス:「それは良かったです……!!
すいませんシンイチ……私、何も貴方の助けになれず……」
☆進一:「……いや、気にすんな。
それより、情報だ。」
♡ラプラス:「情報、ですか?」
☆進一:「ああ。キタガワが、俺が勝利した褒賞だと情報をくれた。
俺たちの次に行くべき場所を。」
♡ラプラス:「それは、信じられるのですか?」
☆進一:「分からない。俺はキタガワを信じたい。
だが、情報の精査は、そちらがしてくれ。俺はアンタの決定に従う。」
ラプラス「……分りました。私はシンイチを信じます。
では、ここに来た第一の目的であるシンイチのメディカルチェック、そしてファルシファイとしての性能向上を。」
(ラプラス、一旦進一から離れる。)
♡ラプラス:「そしてぇー!」
☆進一:「そして……?」
♡ラプラス:「ふふーん!レプリコント・ラプラス!」
♡レプリコント:「はい。ポチっとな、と。」
☆進一:「うわぁああ!!な、なんだ!!」
N:レプリコント・ラプラスが何かのスイッチを起動する。
それを合図に地響きを鳴らしながら床が開き、そこから──
♡ラプラス:「“ラプラスモービル”!!
これが!私たちの基地であり!脚です!!」
☆進一:「な……なんだこれ……!なんだこれえ!!(歓喜)」
♡ラプラス:「シンイチのメンテナンス、及び情報の解析、精査が完了次第、これで奴らを強襲しますッ!!!」
☆進一:「おーーーー!!!!」
N:和気藹々と、士気を高めていくDr.ラプラスとファルシファイであった。
───────────────────────────────────────
To Be Continued…
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