[台本] Irregular_casecode:F
世界設定、場面情景
遥か未来の世界。
神の顕現により人類の在り方は大きく変わった。
そんな世界での始まりと“例外”の話。
登場人物
○エヴァ
年齢不詳、女性
感情を消失する事で進化した世界で
感情が表れる“感情発露症”という病を先天的に持つ。
主人公
○アダム・カドモン/アダム・??????
年齢不詳、男性
神曰く“人間の完了形”と言われる人類第一号。
エヴァの治療の為に尽力する。
+エヴァの目の前に現れたアダム・カドモンとそっくりな顔の無表情な男。
○フォーリナー
年齢不詳、男性(不問)
世界の外側からの来訪者で外側の世界のオリジナルの人間、らしい。
神の思惑通りに進んだが詰んでいる世界を崩す為にエヴァに接触する。
過去遡行付与権限を持つ。
○神(かみ)
大体46億歳、無し
この世界の唯一神で支配神。
人間を含め様々な生命のオリジナルを製造した。
一人称が神(シン)。
エヴァ ♀:
アダム・カドモン ♂:
フォーリナー 不問:
神 不問:
これより下から台本本編です。
───────────────────────────────────────
アダム:「全知全能の神は僕たち人間に“感情は不要”と判断した。
それ故に、僕たち人間は感情を捨てる方向に進化していった。
それは分かるね。」
エヴァ:「……まぁ、はい。そういう風に習い、育ったから。」
アダム:「うむ。
僕たち人間は感情を捨てる事で
争いを捨て、不安を捨て、無駄を捨てた。
実に合理的な進化だ。」
エヴァ:「…………。」
アダム:「感情が不要と切り捨て、幾千年以上経った今、
それでもどうしても、例外が発生する。
それが、君だ。エヴァ。」
エヴァ:「……そう、みたいですね。」
アダム:「先天的に感情が発生してしまう病、“感情発露症(エモーションデューシンドローム)”。
君に関わると関わった人々も後天的に“感情発露症(エモーションデューシンドローム)”になってしまうという。」
エヴァ:「……。」
アダム:「そうなってしまったら神が作り上げたこの世界は台無しだ。
故に君は人々から隔離され、今に至る。」
エヴァ:「分かってるよ……そんな事わざわざ言われなくても……
なんで私は、殺処分されないの?
両親はこれから殺処分されると言っていたのに、
これは何?そして貴方は誰なの?」
アダム:「おっと、名乗り忘れてたね。
僕の名前はアダム・カドモン。神によって造られた新人類。
つまり、君たちとは一歩先の進化を遂げた人間だ。」
エヴァ:「新たな人類……」
アダム:「僕は完全に感情が存在しない人間。
発生する事も無い。それ故に、僕が選ばれたんだ。」
エヴァ:「選ばれた……?
何に?」
アダム:「君を治療するのに、だよ。
僕に感情が発生しないからね。君から感情が感染する事は無い。」
エヴァ:「そう……で?
どうやって私を治療するの?
薬物?洗脳?手術?」
アダム:「どれでもない。」
エヴァ:「じゃあ、どうするの?」
アダム:「感情は感染する。
で、あれば、逆に無感情も感染するのではないか。」
エヴァ:「はぁ???」
アダム:「神はそれが起こるのかどうか、と実験してみたいらしいんだ。」
エヴァ:「実験……何?私はモルモットか何かなの?」
アダム:「そうだよ。」
エヴァ:「……。」
アダム:「僕たち人間は神のモルモット、或いは家畜だよ。」
エヴァ:「…………自分で言ってて虚しくないの……?」
アダム:「虚しいわけないじゃないか。
僕たちはそういう風に造られたのだがらさ。
僕たちもかつて牛や豚、鶏を家畜としていたんだ。
それと同じだよ。」
エヴァ:「……ッ」
アダム:「僕らは神の家畜だ。
ただ、神は僕らの血肉を欲する訳じゃない。
神が欲するのは僕らの情報なんだ。
神と言えど一個体。
それでは結局、思考の方向性は一方向になってしまう。
それをどうにかする為に、僕たちは知性体として進化したんだ。」
エヴァ:「…………一方向にならない為の感情じゃないの?」
アダム:「君はかなり歴史を学んでいる様だね。
それはとても良い事だ。
であれば、何故感情が不要となったかは知ってるのだろ。」
エヴァ:「……“ナインディストラスト”。」
アダム:「そう。
それら危機は人間でありながら神に背き、それだけに飽き足らず、
神へと成り代わりえる可能性を持っていた。
不死、それ故に神は先へ進めず、
“不殺(ころせず)”、それ故に神には倒せず、
強欲、それ故に神の計画が狂わされ、
傲慢、それ故に神は脅かされ、
変化、それ故に神は掴めず──」
エヴァ:「全知、それ故に神は並ばれ、
冒涜、それ故に神は裏切られ、
環状、それ故に神は見つけれず、
不屈、それ故に神は止まっていた。
……でしょ?」
アダム:「……その通り。
これらはそれ自体が感情であったり、感情が起因で発生した危機なんだ。
だから、九つの背信、通称“ナインディストラスト”を未然に砕いたんだ。
人類がもう混沌に陥らない為に、砕いたんだよ。」
エヴァ:「……。
私もそう習ったわ。
けど、何か変だと思わない?
全知全能の神の筈なのに、ナインディストラストなんて発生したの?
人間に感情なんてものが発生していたの?
全知全能というには余りにも雑というか、ボロが多くない?」
アダム:「それに関してはさっきも言っただろう。
神も一個体、それでは思考の方向性は一方向に……」
エヴァ:「そこだよ。」
アダム:「……ほう。」
エヴァ:「全知全能なら、一個体でも一方向にならないべきじゃない?
なんなら今のこの世界はまさに一方向を目指しているんじゃない?」
アダム:「……さて、それは僕にも分からないかな。」
エヴァ:「そう……新人類って言ってもその程度なんだね。」
アダム:「そうだね。」
エヴァ:「……張り合いが無いなぁ。」
アダム:「そういう人類だからね。
さて、今日はここまでだ。
また明日、同じ時間から講義を改めて開始するよ。」
エヴァ:「はいはい。
…………まさか、隔離されてまで勉強させられるとは。
まぁ、この部屋は何も無くて退屈だから、別に良いけどさ。」
エヴァ:「……“感情発露症(エモーションデューシンドローム)”。」
エヴァ:かつては感情があるのはごく当たり前だった。
が、神が不要と判断したが故に感情を消し去った。
何故か。脅威が生まれたから。停滞したから。
……今、人類は本当に進化しているのだろうか。
エヴァ:「文献を検索する限り、3000年は文明的には何も成長していないと思われる。
それに、この空……。」
エヴァ:私たちの時代の空は、なんというか、本物の空ではない。
この星は、巨大な球体に包まれている。
それをこの時代の人々は“外殻(がいかく)”、或いは“人造の空”と呼んでいる。
おおよそ6000年以上も前から外殻に包まれているらしい。
エヴァ:「代わり映えの無い空……なんだか、味気ない……。
……この味気ない、という感情を他の人は感じないのか……。
つまらないな。」
フォーリナー:「そういうものだから、仕方が無いさー」
エヴァ:「ッ!誰!?というか、どこから!?」
フォーリナー:「やっほー
上だよ上―
キミが見上げてる天窓の、君から見て右下辺りー
キミどうしてこんなところに監禁されてるのー?」
エヴァ:天窓の右下辺り、そこに居たのは
黒髪の青年だった。
エヴァ:「え、えっと“感情発露症(エモーションデューシンドローム)”で……」
フォーリナー:「え、えも……なんだって……?」
エヴァ:「“感情発露症(エモーションデューシンドローム)”。」
フォーリナー:「えもーしょ……あーはいはいー
なんか感情が発生するっていうあれねー」
エヴァ:「……それで、貴方……誰……?」
フォーリナー:「あー自己紹介しなきゃねー
俺はガー……じゃなくてフォーリナー
ちょっとーこの世界のカミサマに用があってさー
キミーちょっと何処いるか教えてくんなーい?」
エヴァ:「え……?かみさま……?
全知全能の神に会えるの?」
フォーリナー:「……?
ぜんちぜんのう……?
この世界のかみさまは全知全能の神ってそう呼ばれてるのー?」
エヴァ:「え?ええ。そうだよ……?」
フォーリナー:「ぷっ!全www知www全www能wwwのwww神www
あははははははー!!
あははははははははははー!!!
それは傑作だぁー!
それはそれは……愚かだねー」
エヴァ:「……?」
エヴァ:彼は大笑いしたと思ったら、急に冷静になった。
何を考えてるか、分からない。怖い。
フォーリナー:「お?俺のこと怖いー?
キミほんとに感情があるんだねー
いいねー」
エヴァ:「……貴方は神に会って何をするの?」
フォーリナー:「んー?
そうだねー言ってしまえば、
宣戦布告、かなー」
エヴァ:「宣戦布告……?
争いをするの?」
フォーリナー:「ああーその通りー
キミもこの世界に違和感、持ってるでしょー?
その違和感は正しいよー
だってこのままじゃこの世界は100年も経たずに詰むからねー」
エヴァ:「詰む……?」
フォーリナー:「そー
この世界のかみさまはこの世界の運営に失敗したんだー
人間という知性体から感情を抜き取った事でこの世界、この星は
もうこれ以上成長はしないんだー
だから、この世界は詰んでるのー」
エヴァ:「じゃあ……この世界はどうなるの?」
フォーリナー:「これからどうなるかかー
まぁ、そうだねーかみさまの思惑通りになるかなー
いや、ならないかもなー」
エヴァ:「思惑……?」
フォーリナー:「うんー
アレの目的はこの世界と、この星と“融和(アシミレーション)”して
世界の完全自由執行権を手にすることなんだー」
エヴァ:「この世界と融和……?そんな事になんの意味があるの……?」
フォーリナー:「キミー色々な事に疑問を持つんだねー
いいねーそれがキミの感情を持ってる所以なのかなー?
凄くいいと思うよー面白いー
意味の有無だけど、まぁ、正直無いと思うー
強いて言うならば、真に“全知全能”になる為なのかなー
……あーこれに関しての“なんで?”はやめてねー?俺も分かんないからー」
エヴァ:「……分かった。」
フォーリナー:「アレはかつて人間たちに感情、環境、関係、個人という個性を与えて
融和する方法を思いつくのを待っていたんだー
アレと人間たちは集合無意識下で繋がってるから
誰かがそれを思いつけば自分も行使出来るんだー
けれど、そう上手くいかなかったー
何故かー?」
エヴァ:「……もしかして、ナインディストラストが発生したから?」
フォーリナー:「そーそー
なんか未然に防いだーとかって言われてるけどー
全然そんな事ないからねー
その、ないんでぃすとらすとは皆何かおかしくてねー
不死とかは勿論おかしいのは分かると思うけど、
それ以外もやばかったんだよー
例えばー……ねぇ?今のこの時代の総人口ってどれくらいー?」
エヴァ:「えっと……
5億人くらい……かな。」
フォーリナー:「わぁー減りまくってるねー
今から6000年前くらいの出来事なんだけど、
75億人くらいだった人口を30億人まで減らした上に
この星をこの外殻で覆われる原因を作ったのは“傲慢”によるモノなんだー」
エヴァ:「えっ……?
それって本当に人間なの……?」
フォーリナー:「うんー
“傲慢”の彼は人々を従わせるなんというか、“術(すべ)”があったみたいで、
この世界のかみさまみたく人々の集合無意識に自力でアクセス出来たみたいでさー
それを利用して“鏖殺(おうさつ)”しかけたみたいー」
エヴァ:「ひえっ……」
フォーリナー:「原因って言っても素直にその時代の人たちの自業自得なんだけどねー
そうそうーこの世界のかみさまって馬鹿でさー
“不死”の子を消そうとして同音の“同姓異名(どうせいいめい)”の子を
殺しちゃってさー
これが始まりで世界のネジが狂ってアレが怖がってた
ないんでぃすとらすとが発生したんだよねー
本当に馬鹿だよねー」
エヴァ:「えぇ……」
フォーリナー:「ちょっとお喋りが過ぎたかもねー
さ、教えてくれないかなー?キミんところのかみさまの場所―」
エヴァ:「んー……とは言われたものの、私は神様の場所なんて知らないよ。」
フォーリナー:「えーまじかー
それはちょっと困ったなぁー
じゃーさー一緒に探しに行かないー?」
エヴァ:「え、面倒くさいし、いいよ。
貴方1人で頑張って。」
フォーリナー:「えー冷たいなー
まーいいやーじゃーなんかあったら呼んでよー
俺の名前呼んでくれればすぐに駆けつけるからさー
じゃーねぇー」
(フォーリナー、何処かへ行く)
エヴァ:「……なんだったんだ……?結局……?
……この世界は詰んでる……か……。
……明日、アダムにも聞いてみよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~
翌日
アダム:「え?この世界は詰んでるって?」
エヴァ:「お、初めて耳を疑ったね。」
アダム:「当たり前だろ。
我らが全知全能の神が統治するこの世界が詰んでいるだなんて、誰が思うものか。」
エヴァ:「でもそう言ってた人が居たんだもん。」
アダム:「ふむ……。
しかし、そうだな。世界が詰んでる、というのは
ありえないな。」
エヴァ:「どうしてそう思うの?」
アダム:「どうして、と思うまでも無い。
というか、僕たちがそんな事を気にする必要自体が無い。
僕らは神に作られた家畜でしかない。
この世界がどうなろうと、それに何かを思う必要は無いからね。」
エヴァ:「私の質問に答えてよ。アダム先生。」
アダム:「……そもそも、“世界が詰む”とは、つまり世界が終わるとはどういう状況なのか、
まずこれ定義する必要がある。
例えば、神が死に、地上の生物が死滅するのを意味するのか。
例えば、外宇宙から何ものかが飛来し、神を含めた僕たちが隷属してしまう事なのか。
例えば、そも星が死滅する寸前故に、世界が終わるのという事なのか。
例えば……まぁ、他にも色々とある。
しかし少なくとも今言った三例はありえない。
神は“永劫なる器”を所有している為に死ぬことは無いし、
この空を覆う人造の空は外宇宙からの侵入を許さないし、
星が死滅するとしても、神が存在すれば世界が終わったとは言えないからね。」
エヴァ:「なるほど、私たちの神様は完全無欠だから問題ないってことね。」
アダム:「そういうこと。
神は全知全能だからね。
だからありえない。」
エヴァ:「あっそ。」
アダム:「さ、くだらない話はこれで終わりにして、講義を始めよう。」
エヴァ:「はいはい。」
アダム:「“はい”は一回。」
エヴァ:「はーい。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
~同日、???の間~
アダム:「全知全能なる我らが神よ。」
(何も無い暗い空間が突如明るくなる。)
アダム:「うっ!眩しい……!」
神:「誰だ。神の間にて、
“神(シン)”を呼ぶのは誰だ。」
(神、登場。)
アダム:「僕です。
神の最新製造原型人類のアダム・カドモンです。」
神:「おおう。アダムか。
して、シンに何の用か。」
アダム:「先刻、“この世界は詰んでいる。”と聞かされました。
それは、本当でしょうか?」
神:「ッ!……誰がそんな事を。
誰がそのような世迷言を?」
アダム:「エヴァです。」
神:「エヴァ?誰だ?」
アダム:「先天的な“感情発露症(エモーションデューシンドローム)”の少女です。」
神:「嗚呼。あれか……。
何故そのような事を言ったんだ?」
アダム:「曰く、エヴァにそう言った人物が居る様です。」
神:「……誰だ。」
アダム:「それが、僕も分かりません。
エヴァに聞いても、忘れたというばかりで。」
神:「……そうか。
して、何故お前はそんな下らない話をシンにしたのだ?」
アダム:「え?あ、いや。
気になったから、です。」
神:「気になったから、か。
つまるところ、好奇心か。」
アダム:「……好奇心?」
神:「分からないか。お前は。好奇心が。」
アダム:「……分かりません。」
神:「まぁ、そうだろうな。
お前は真に感情を持たない人類として造ったからな。
好奇心とは感情の一つだ。」
アダム:「……。」
神:「ふむ。真に感情を持たない人類。
人類の完了形だと思っていたが、駄目だったか。」
アダム:「……?」
神:「さて、どうしたものか。
何故これは感情を持ってしまったのだろうか。
エヴァとかいう欠陥品に接触したからか?
これにも“感情発露症(エモーションデューシンドローム)”が感染したから?
そも、そうならないモノを造ったつもりなんだがなぁ……。
ふむ。」
アダム:「神……?どうなさいましたか……?」
神:「いや何、お前の欠陥、もとい、人類の欠陥である。
感情が芽生える、というのはどうすれば良いのか、と思ってな。」
アダム:「……。」
神:「まず、何故人は感情を持つ?
かつては感情を持っていた方が、効率が良いからだ。
しかし、今は違う。実に効率が悪い。
だが感情は芽生える。
何故だ?
何が起因して、感情を持つ?」
アダム:「……僕が考えるに―」
神:「うるさい。黙れ。
お前の様な欠陥品の意見など無意味だ。」
アダム:「……なっ!」
神:「考えろ。考えろ。シンよ。
万象万物はシンの為にある。
だが、感情とかいうのは違う。シンの為には無い。
いらない。いらないのだ。
シンが欲しいのは家畜だ。家畜に感情は要らない。家畜に意志は要らない。
…………。」
アダム:「…………?
神……?」
神:「そうか、そうかそうか!
そういう事か!
いやはや、そうだな。そうだとも。
アダム。分かったぞ。」
アダム:「なんでしょう……。」
神:「シンは自己解決能力が必要だと思い、意志は必要と考えていた。
が、しかし、違った。
確かに、かつては、自己解決能力は重要だ。重要だった。
だがな、シンが顕現した今、全てはシンが管理する。
故に、お前ら家畜に意志は必要ない。」
アダム:「……ッ!」
神:「さあ、アダム・カドモン。
こちらへ来い。
新しく製造するのは面倒故、お前を造り直してやる。」
アダム:「……!
神よ……!もっ、もしも僕から意志が無くなったら……
どっ、どうなりますか……ッ!?」
神:「んー?
何故お前がそんな事を気にする?
好奇心か?いや違うな。恐怖心か。
これはこれは……かなり重傷の様だな。
アダム・カドモン。何も考えるな。何も感じるな。
お前は家畜だ。シンの家畜だ。」
アダム:「ッ!
こっ、来ないでください……ッ!
くっ!来るなぁあああああああああああああ!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~翌日~
エヴァ:「……?」
アダム:「……。」
エヴァ:「……アダム?」
アダム:「……。」
エヴァ:「……なんか、いつにも増して無表情じゃん。
……笑ってみたら……?」
(アダム、急に目を見開き、ニカッと口角を上げる。)
アダム:「我らが全知全能の神は!外なる現実で形を成し!
人々はえも言えぬ恐怖に似た違和感を抱く!
が!しかし!次第にそれは日常に溶け込み通常へッ!」
エヴァ:「うわぁ……!え……?な、なに……?」
アダム:「神が与えし我らの幸福とは隷属であり!服従であり!
我らが嘲笑していた崇高なる良効率搾取存在、家畜へと昇華する!
そして幸福もまた!いつしか日常に溶け込み、通常へ!」
エヴァ:「アダム!?
急に笑って、どうしたの!?」
アダム:「平伏せよ!平伏せよ!
我らが神は永劫であり!不滅であり!幾星霜の先の!先の先まで!
永遠に!永久に!陰り無き栄光を掲げ続けるだろう!!」
エヴァ:「は?は?アダムさっきから何言ってんの?」
アダム:「我々は神の家畜!それ以上でも!それ以下でも無く!
我々が神へと昇華する事は無く!
仮にそう願えば!神によって焼き払われ!地に落ちる!
愚か!愚かである!!」
エヴァ:「え……?アダム……?」
フォーリナー:「あららー
どうやら、かみさまに改造されちゃったみたいだねー」
エヴァ:「……ッ!フォーリナー!
いつから……じゃなくて!
かみさまに改造されちゃったって何?どういう事!?
アダムはどうなっちゃったの??」
フォーリナー:「言葉のままだよー
(ここからは真面目な感じで)
……彼は、改造された。
察するに、感情を持ってしまったんだろうな。
神が造り上げたという“完全に感情が存在しない人間”、“人間の完了形”。
それは失敗だった。また、失敗だった。
故に、なのかな。
感情の次は“意志”を消された、というところか。」
エヴァ:「……?」
アダム:「背信は死を以って贖われるべきである!
が!しかし!神は我ら愚かな家畜に慈悲をくださった!!
殺さず!ただ、消せ!感情を!消せ!意志を!
我らは神の家畜である!情報を吐露する家畜である!
従え!従え!従え!」
エヴァ:「…………。」
フォーリナー:「かつて君が知っていた昨日までのアダムはもう居ない。
今の彼は、神を讃える中身空っぽの肉人形というところだな。」
エヴァ:「……アダムは……もう、戻らないの……?」
フォーリナー:「恐らくね。」
エヴァ:「…………。ッ!
アダム!どこ行くの!?」
アダム:「全ては神の為に!断じて我らでは無い!
脳無き獣共でも無い!声無き植物共でも無い!力無き羽虫、害虫共でも無い!
全ては!全ては!全知全能!万物万象を統べる我らが神の為である!!」
エヴァ:「アダム!アダム……!!」
フォーリナー:「ふむ、もしかしたら神の元に向かってるのかもしれない。
行かなくては──」
エヴァ:「待って!」
フォーリナー:「なんだ。
俺は急いでるんだが。」
エヴァ:「私も連れてって!
アダムの元に……神の元に……ッ!」
フォーリナー:「……分かったよー
じゃ、ここから出してあげるから急ごー」
エヴァ:「ありがとう……!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~神の間~
神:「……来たか。
アダム・カドモン。」
アダム:「人類は愚かである!6032年もの間、神への背信を続けていたのだ!
愚か!愚かである!
我らに考える能は要らず!ただ!ただただ唯一なる神に搾取されていれば良い!
それが!それこそが!我らの存在意義である!!」
神:「ふむ……。
良い出来だな。
アダム、お前からは感情なぞ微塵も感じない。
どうやら、今度こそ、完成したようだな。」
アダム:「我らの過去に意味は無し!我らの未来に意味は無し!
ただ現在神によって搾取されていれば良い!
それが我らの存在意義!
生きる価値など思考する必要は無し!
他者を想う思慮もまた必要無し!」
神:「よし、これを雛形に、
次の人類を鋳造するか。
……ん?」
エヴァ:「アダム!……ッ!
で、でかい……!」
(エヴァとフォーリナーが現れる。)
フォーリナー:「……ッ!」
神:「……お前は……ふむ、アダムが言っていた
エヴァとかいう欠陥品か。」
エヴァ:「ッ!神様!
なんでアダムをこんな風にしたんですか!?」
神:「シンに言葉を投げるな欠陥品が。
が、しかし、今シンはとても気分が良い。
お前の非礼を許してやろう。
そして、その愚問にも答えてやる。」
エヴァ:「……!」
神:「単純な話よ。
コレが、感情を宿してしまったからだ。
シンはコレを完全に感情が存在しない人間として造った。
故だ。故に造り直した。
ただそれだけだ。」
エヴァ:「ッ!
アナタは人間をなんだと思ってるの!?」
神:「家畜だが?」
エヴァ:「……ッ。」
神:「なんだ?
貴様には教育が行き届いていないのか?
シンは700万年前からそう言っている。
それは今も変わらず。
貴様ら人類は情報を収集し、シンに届けるだけの情報収集端末でしかない。」
エヴァ:「……そんな……!」
神:「何を嘆く?
貴様もシンが造った一体でしかないではないか。
貴様も他と変わらず家畜だ。」
エヴァ:「違う!!
私たちは意志を持ち、思考をする人間だ!
思考を放棄するなんて退化、私は認めない……ッ!」
神:「貴様に認められずとも別に構わん。
ついで言っておくが、思考の放棄、つまり家畜化は退化ではない。進化だ。」
エヴァ:「……は?」
神:「貴様らは獣共を家畜化した。
だが、それは違う。
獣共にとって、ある程度確実に生き抜き、種を残す為の手段であり、
家畜として飼われる為に進化したのだ。
進化し、人類に服従し、安寧を手にする。
貴様らが獣共を家畜化したのではない。
獣共が貴様らに飼われる為に家畜化、進化したのだ。
貴様ら人類もそれと同じ事をしているだけだ。
シンに飼われる為に家畜化、進化したのだ。」
エヴァ:「……はぁ……?
アナタが私たちの身体を弄り回してるのに、何を言ってるの……?」
神:「シンは進化のきっかけを与えてるだけだ。」
エヴァ:「……ッ!
アナタ……狂ってる……!!」
神:「貴様が壊れてるのだ欠陥品。」
エヴァ:「くッ……!」
フォーリナー:「いがみ合ってる所すまないけどー
俺もいるんだよねー」
エヴァ:「フォーリナー……!」
神:「…………。
なんだ?貴様?
……。
…………貴様……シンの鋳造した人間ではないな……。」
エヴァ:「え……ッ?」
フォーリナー:「ご名答ー
よく分かってんねーアンタには絶対分かんないと思ってたけど。」
神:「なんだ……貴様……
シンが鋳造していない人類がこの世界になんぞあるはずが無い。
どういうことだ。」
フォーリナー:「“鋳造していない人類がこの世界になんぞあるはずが無い”か……
愚かだねー
何も知らず、閉じこもって、神様気取ってるなんて……」
神:「……貴様……不敬だぞ。
このシンに向かって“愚か”だと?
愚かな家畜の分際で何を上から物を言っている?」
フォーリナー:「だってー事実だもんー
……まだ理解してないんだな。
アンタは唯一神なんかじゃない。
ティアマットディザスタァ……。」
エヴァ:「ティアマットディザスタァ……?」
神:「なんだ……?それは……?」
フォーリナー:「……分からない、か。
まぁ、良い。
愚かなる神よ。アンタの此度の行いにより、
世界の終焉は決定し、加速した!」
神:「ッ!!
貴様か!シンのこの世界が詰むなどと世迷言を吐いたのは!!」
フォーリナー:「ああ、そうだ!
だがこれは世迷言などでは無い!
事実だ!この世界は終わる!アンタの手によってな!」
神:「ふっ……ふはははははは!!
愚か!愚かである!
シンが統合したこの世界が滅びる??
そんなことは無い!
人類もまた一歩新たな段階に進化する!
シンの世界は更なる進歩を迎えるのだ!
それをどこから湧いてきたかも分からぬ異物が!
ほざくではないか!
不快だ!消えろぉ!!!」
エヴァ:「ひっ!」
エヴァ:神が巨大な手を伸ばす。
私たちを握り潰す気だ……!
フォーリナー:「……思慮が浅いよ。」
神:「ッ!?
何ィ!?」
エヴァ:「えっ?み、見えない障壁……?」
フォーリナー:「そー
君は本当に良いねー
賢い、それに加えてよく観てるー
あれとは違うねー」
神:「こッ!小癪なあッ!!」
フォーリナー:「……エヴァ。」
エヴァ:「何……!」
フォーリナー:「君に使命を授けるよ。」
エヴァ:「え……!?どういう事!?」
フォーリナー:「この世界は終わる。
だが、これで終わりじゃない。
君は今から過去へ渡り、
この、無知全能の神による人類の隷属から解き放って欲しい。
このままじゃ、どの道、この時点になったらどんな世界線でもこの世界は詰みだ。」
エヴァ:「わ、私が……!?」
フォーリナー:「そ。君が。
さっきも言ったけど、君はよく観てる。そして賢い。
そして、彼の、アダムのあの状態を良しとしなかった。
俺は君を信じる。
だから君に託すよ。」
エヴァ:「む、無理だよ……!私は、ただの人間でッ、
貴方みたいなその不思議な力を持っていない!!」
フォーリナー:「大丈夫。
君はきっと一人じゃない。
そして、これが、君の力だ。」
(フォーリナー、障壁を片手で展開しながらもう片方の手でエヴァに触れる。)
エヴァ:「な……に……?」
神:「!?
なんだそれは!?
貴様ッ!欠陥品に何を付与した!!
それはこの世界に存在しないモノだぞ!!」
(抑えるのが辛そうになるフォーリナー)
フォーリナー:「これは、俺の技術、知恵、俺の世界の法則。
君は、これ、で、
様々な時代に飛び、様々な概、念に干渉し、“きっかけ”を与え、る事が出来る。」
エヴァ:「きっかけ……?」
フォーリナー:「そ。そのきっ、かけは、次第に世界、に気付きを与える。
そして、無知、全能の神を、退ける。」
エヴァ:「フォーリナー……!」
フォーリナー:「頼、んだ。
もう時間が、無い。お、れ、にも、世界にも……!」
エヴァ:「……分かった……!」
フォーリナー:「……あり、がとう。
君は、俺にとって、素敵なイレギュラー、だ。」
エヴァ:「イレギュラー……?」
フォーリナー:「そう、だ。
本来、は、この世界を、終わ、らせて、それで、終わりの、
予定、だった、けれど、君の、おかげで
世界が、救えそうだ……。
(体勢を立て直す)
……エヴァ!九つの砕かれた物語たちと、一人の少女を、救出、修復しろ!
やることは極めて困難!
ナインディストラストとやらを発生させ、尚且つ殺させない事が重要だ!」
エヴァ:「分かった!」
神:「何をごちゃごちゃと話を進めているゥ!!」
フォーリナー:「ぐっ!ぐぉおおおお!!
エヴァ!さっきも言った極めて困難な使命だ!
仲間を募れ!
世界から外れた“員数外(いんすうがい)”を仲間としろ!!
これより!過去への転送を行う!
"時空間移動装置スペイェム"!!!」
神:「待て!
待てと言っている!!
聞け!何故シンが居ない世界の方が詰んでいないと言える??
もしかしたらより酷い結果になるやもしれないんだぞ!!!
シンによこせ!欠陥品!お前に与えられた力を!知恵を!」
フォーリナー:「エネルギー装填ッ!
“神力(じんりき)”絶対不可侵領域展開ッ!!
過去への時空門解放確認ッ!!!」
エヴァ:「了解!フォーリナーッ!
……神ィッ!!」
神:「ッ!!」
エヴァ:「待っていろッ!神様風情!!
アナタとッ、この死んだ世界をッ、私は殺す!!」
神:「ほざくなァアアア!!人間風情がァアアアアア!!!!」
フォーリナー:「転送開始ッ!!」
エヴァ:「……ッ!」
(エヴァ、一瞬にして消える。)
フォーリナー:「……ふっ。
俺の勝ち、だな。」
神:「~~~~~~ッ!!!
キィイイイサァマァアアアッ!!!
シンにもよこせ!!ヤツに与えた全てを!!
それがあれば世界の終わりも回避出来るやもしれぬ!!
さあ!早くッ!」
フォーリナー:「ほう……?
やはり世界は終わるんだな?」
神:「ッ!!」
フォーリナー:「世界が終わるから、急に更なる新人類を造った。
そしてまた急ごしらえに、造るのではなく、既にあるモノを造り直した。
急だな?」
神:「黙れ!!」
フォーリナー:「世界が終わる、つまり、基盤がなくなると俺たちは存在出来ない。
それはアンタも同じ。
だから世界の終わりを回避する為の情報が欲しい。
いや、本来は星と“融和(アシミレーション)”して
自分の存在を真に永劫不滅にしたかった、かな。
故に、知能を発達させた人類を家畜とし、情報を収集し、集積した。
が、この3000年間、何の発展も出来なかった。」
神:「黙れと言っているだろう!!!」
フォーリナー:「何の発展も無かった理由が分からないんだな……。
かわいそーにー。
理由を教えてやるよ馬鹿。」
神:「ッ!!」
フォーリナー:「人間の思考能力の発展には意志と感情が必要不可欠なんだよ!
意志が無ければ危機に違和を感じない!
感情が無ければ不安を抱かない!
そして、不安を解消しようと思考しようとしないッ!!
これは!アダムだった肉人形が言っていた事だ!
アンタは感情が無いと起きる不具合を理解していながら!奪い去った!
自分の存在を脅かされたくないから!!」
神:「……ッ!!」
フォーリナー:「愚かだ。愚かだよ。ティアマットディザスタァ!!
アンタはずっとそうだ!」
神:「……なんださっきから!ティアマットディザスタァとはなんだ!!
シンは!全知全能の、万象万物を統べる神だぞ!!」
フォーリナー:「……長い、長すぎる時を過ごしてかつての自分を忘れたんだな。呆れた。
お前が俺たちの世界で“始まりの災厄”として、始まりの地母神の名を与えられた
可哀そうな俺の分身だと、この世界に逃げてきた元はただの人間だと!」
神:「ッ!!!!!!!!!!!」
アダム:その瞬間、世界が音を立ててひび割れていく。
神:「ッ!?
なんだッ!?」
フォーリナー:「……おや、どうやら、始まったようだな。
詰んだ世界の終わりが。」
神:「何ッ!?
止めろ!!シンはこれで終わりたくはないッ!!」
フォーリナー:「無理だ。終わりだよ。ティアマットディザスタァ。
自業自得だ。
どのみち100年以内に終わる世界だったが、今じゃなかった。
アンタが終わりを早めたんだ。」
神:「ぬゥ…………ッ!!
ハッ!!シンも!シンも過去に渡れば!!
アダムッ!!」
アダム:「おお!おお!おお!神よ!
連呼せよ!歓喜せよ!神の顕現を!
昨日は明日に!今日は明後日に!明日は一昨日に!
全てはちぐはぐな環状の中に!
変化を殺し!不死を願い!強欲を捨て!”不殺(ころせず)”を冒涜する!
傲慢なる全知は愚かである!!」
神:「アダムッ!!
過去渡りの情報をよこせ!!
…………なんだ……これは……」
アダム:「九つの背信は今日を明日へと進める事象である!
連呼せよ!歓喜せよ!人々の勝利を!
環状を正し!変化を謳い!不死を忌み!強欲を知り!全知を冒涜する!
”不殺(ころせず)”なる傲慢にこそ正しさが生きるッ!!」
神:「なんなんだこれは……」
フォーリナー:「アダムが何を言っているかは分からないけれど、
どうやら既に、この世界はいままでの流れから切り離されたみたいだな。
多分、3000年から6000年ほど前からいままでの世界が切り離され、
消去されるだろうな。」
神:「あああ!ああああ!!あああああああ!!!」
アダム:世界が暗転する。
そう、世界が終わったのだ。
フォーリナー:「……頼んだよ。
イレギュラー:エヴァ……。」
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~????年、何処か~
(空中に穴が空き、そこからエヴァが出てくる。)
エヴァ:「うきゃッ!
いっっったぁーい……。
ここは、どこ……?」
(アダム・カドモンとは少し雰囲気が違う。)
アダム:「大丈夫か……?」
エヴァ:「え?……えっ!?」
エヴァ:私は過去に飛んだ筈、なのに、
私の目の前にいたのは──
エヴァ:「アダム!!?
貴方!なんでここに!?」
アダム:「……。
なんだ、お前は私を知っているのか。
私はお前を知らないが。」
エヴァ:「えっ……?」
エヴァ:……よく見たら、少し、アダムとは違った。
服装も、過去の時代特有のモノだ……
……偶々?偶々アダムに似てて、アダムと同じ名前なの?
アダム:「どうした。
頭でも打ったのか。」
エヴァ:「……今は、何年です、か……?」
アダム:「…………。
1993年だ。」
エヴァ:「…………ありがとう。
アダム。私は世界を救いに来た未来の人間。」
アダム:「…………。
強く頭を打っている様だな。
気が狂っている。可哀そうに。」
エヴァ:「あばばばばば!本当だって!
頼む!信じて!」
アダム:「…………まぁ、お前は急に現れたからな。
一応、信じよう。」
エヴァ:「……ほっ。ありがとう。」
アダム:「……して、お前は私の名前を知っているようだが、
私はお前の名を知らない。
教えてもらおうか。」
エヴァ:「……そうだね。教えるよ。
私はエヴァ。この世界の員数外、内側に居ない者。
私の事は、“イレギュラー”と呼んで。」
エヴァ:これは、私の、“イレギュラー”たちの使命の始まりの物語。
”Irregular_casecode:first(イレギュラー_ケースコード:ファースト)”だ。
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END