[台本]三日命(みっかいのち)の多々良さん
世界設定、場面情景
特に変わった事はない何の変哲も無い世界、つまり普通の世界、普通の日常
そんな中でちょっとした違和感。そして絶望。
これは先へ繋げる為の絶命譚。
登場人物
○多々良 恵(たたら めぐみ)
21歳、女性
親兄弟が居ない以外はごく普通の大学生。
主人公。
○死神さん
年齢不詳、性別不詳
死神。割りとなんでも出来るというかなんでも用意してくれるイレギュラー的存在。
○大槻 由愛(おおつき ゆあ)
21歳、女性
ごく普通の多々良の親友。
多々良とは違う大学に通っている。
○亘理 進一(わたり しんいち)
21歳、男性
家族がいない恵を亘理家で過ごしていてずっと彼女の事を知っている。
恵と同じ大学の友人。
多々良 恵 ♀:
死神さん 不問:
大槻 由愛 ♀:
亘理 進一 ♂:
これより下が本編です。
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~タタラ メグミの家~
死神:「三日後に貴女は死にます。」
間。
恵:「え゛……マ゛ジ゛で゛……?゛」
死神:「はい、マジです。」
恵:「え…………。
………………え?…………。
…………あ、夢?」
死神:「残念。夢じゃありません。現実です。」
恵:「いや!夢だ!」
思いっきりグーで自分の顔を殴る。
恵:「──ッイ゛ッ゛テ゛ェ゛!゛!゛」
死神:「夢じゃないのでグーパンしたら滅茶苦茶痛いですよ。
やめてください。」
恵:「……本当に死ぬの?」
死神:「本当に死にます。」
恵:「どうやって死んじゃうの……?」
死神:「それは―」
恵:「ああ!やっぱ待ってぇー!
き、聞くのが怖い……」
死神:「……。」
恵:「……というか、急に現れて『三日後に貴女は死にます。』って、アナタなんなの?
死神さんなの?」
死神:「死神さんです。」
恵:「本当に?」
死神:「本当です。」
恵:「証明出来る?」
死神:「はい。では、ほい。」
恵:『……?』
死神:「貴女の身体と魂を分けました。」
恵:『っ!?うわぁ!よく見たらアタシ透けてんじゃん!!
しかもアタシの隣にいる白目向いて痙攣してるのアタシじゃん!!』
死神:「信じますか?」
恵:『信じます!』
死神:「はい、証明しました。身体と魂戻します。」
恵:「はぁ……!戻った……。
本物の死神だぁ……。」
死神:「本物の死神さんです。」
恵:「……では、その、改めてどうやって死んじゃうんですか……?」
死神:「どう死ぬかというと……いえ、内緒にしておきます。」
恵:「ええ!?どうしてぇ!!?」
死神:「なんとなくです。
とにかく、多々良 恵(たたら めぐみ)さん、貴女は三日後に死にます。
この三日間、悔いの無い日々を。」
恵:「悔いの無いって……!無理だよ!」
死神:「無理、というと?」
恵:「アタシ結構忙しい身でして……
これからだって、大学に行かなきゃだし……。」
死神:「そうですか。」
恵:「それに、お金とかも無い、です、しー……。」
死神:「お金ですか。
お金であれば……」
恵:「んえ……?」
死神:「これを使って下さい。」
恵:「これは……黒い……クレジットカード……?」
死神:「はい、『ブラックハッピーグリムリーパーカード』です。」
恵:「はい……?ぶらっ……?」
死神:「『ブラックハッピーグリムリーパーカード』。」
恵:「ぶらっくはっぴーぐりむりーぱーかーど」
死神:「限度額は存在しないので幾らでも使って構わないですよ。」
恵:「え?た、例えば……じゅうまんえんくらい使っても……?」
死神:「全然構いませんよ。
なんなら十万飛んで飛んで飛びまくって1200兆円くらい全然大丈夫ですよ。」
恵:「ひ、ひえ……国家レベルでの借金……」
死神:「?」
恵:「え……えーっとー……仮にそのカードを使ったとして、
私死んじゃうのにどうやってお金を返せば良いんですか……?」
死神:「返す必要はありませんよ。」
恵:「え?」
死神:「返す必要は無いです。
その理由は内緒です。
まぁ、貴女の積んできた徳の結果だと思ってください。」
恵:「は、はぁ……。」
死神:「あ、そろそろ大学とやらに行く時間では無いですか?」
恵:「あ!やべっ!えっと!話はまた後でで!!
行ってきまぁーす!!」
死神:「いってらっしゃいませ。
…………。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~大学~
死神:一日目、残り61時間。
恵:「……。」
恵:というか、アタシ……死ぬの……?
恵:「…………別に、体調は悪くない……よね?」
間。
恵:「うん。健康そのもの。元気一杯明朗快活。うん。」
間。
恵:「じゃあ……事故……?事件……?
……どうしようもなくない?」
恵:うわぁ……講義全然頭に入んない……。
……。
死神:『タタラ メグミさん、貴女は三日後に死にます。
この三日間、悔いの無い日々を。』
恵:「……。
悔いの無い日々……。」
間。
恵:「無理だよ……。そんな急に言われて……心の準備だって……」
間。
恵:死ぬのか。アタシ。
恵:「死ぬ……。」
恵:想像……する……。
恵:「…………う゛……!お゛ぇ゛え゛え゛え゛!゛!゛」
恵:たまらず吐いてしまった。
講義中だというのに。吐いてしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
保健室
死神:一日目。残り59時間。
恵:「…………あれ……。」
進一:「おう、目覚めたか。タタラ。」
恵:「……亘理(わたり)。
ここは……保健室……
アタシ、どうしちゃったの?」
進一:「……まぁ、なんというかゲーって吐いちゃって気絶した。」
恵:「……うわぁ……最悪だ……。」
進一:「気にすんなよ。この時期だ。吐きたくなる気持ちは分かる。」
恵:「……就活、の時期だもんね。」
進一:「ああ、俺も就活失敗続きだからなぁー
……大丈夫か?まだ顔青ざめてっけど。」
恵:「え……?ああ、大丈夫。
ワタ……」
進一:「……?」
恵:「ねぇ、進一(しんいち)。」
進一:「……どうした。」
恵:「もしも……の話なんだけど、さ。
もうすぐ死ぬって、分かったらさ……たとえ話だからね?
……分かったらさ、どうする……?」
進一:「んー?……そうだなー……
俺はとりあえず友達や家族の顔や声聞きたくなるからとりあえず電話かけるなー。」
恵:「うんうん。それで?」
進一:「え?……うーん……まぁ、食いてぇもん食うかなぁー。
そんで…………終わりかな。」
恵:「……終わり……?それだけ……?」
進一:「ああ、それだけだ。」
恵:「……なんかアタシが言う様な事でも無いけどさ。
シンイチさぁ、あんまりなんも考えてないでしょ?」
進一:「はぁ?急に馬鹿にすんじゃねぇよ。
言っとくが、考えて考えた結果だぞ。」
恵:「考えた結果がそんなんなの?」
進一:「ああ。実はさ。俺、前にもそういう感じの事を考えたことあんだよ。」
恵:「もうすぐ死ぬってこと?」
進一:「そう、それ。
死っていうのはさ、生きている限り、消えない存在……。
命ある全てのモノにとっての最強の天敵……。
人類が克服しようと目論む概念……。
どんなに未来に希望を抱こうが、不安を感じようが結局は死ぬ。
すべて無駄になる。それが死であり、死ぬって事なんだよ。」
恵:「シンイチ……痛いやつだな……。
そういう事言うの許されるのは中学生までだよ……。」
進一:「うるせっ!黙れ黙れ黙れ!
とにかく!……いっぱい考えた結果、会いたいやつに会って食いたいもん食う!
……最終的に、悔いが残らない様にする為にな。」
恵:「悔いの……残らない様に……。
……ありがとう。シンイチ。
話聞いてくれたのも介抱してくれたのも。」
進一:「……おう。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~大学構内~
死神:一日目。残り56時間
恵:「会いたい……人か……。」
(恵、電話をかける。)
由愛:『もしもしー?メグミちゃん?』
恵:「久しぶり、由愛(ゆあ)。」
由愛:『急にどうしたの?メグミちゃん。
あ、電話かけてくれたのはとても嬉しいけどね。』
恵:「いやーあのーなんか久しぶりにユアの声聞きたくなっちゃって、さ。」
由愛:『そうなの?なんだかうれしいなー。
ねぇ、メグミちゃん。最近どう?』
恵:「え、え?最近?
うーーーん、そうだなー……由愛に逢いたくて逢いたくて震えてる~かな~。」
由愛:『もうー何それー?
もしかして口説いてるの?
メグミちゃんは相変わらずだなー。』
恵:「だってアタシ、ユアの事大好きだからさ。」
由愛:『も~~~~誤魔化さないでよ~~~~~』
恵:「あはは。でも大好きなのはホントだよ?
最近かーまぁ、ぼちぼちかなー。
ユアは?」
由愛:『ウチ?ウチはねーまぁ、悪くないって感じ。』
恵:「お?ユアの“悪くない”は凄く良いって事だよね???
なになに~~?何があったの~~~?教えて教えて!」
由愛:『えっと、実はね……』
恵:「は……ッ、まさか……彼氏……!?恋人……!?
お父さんは認めないぞォ~~~~~~!!!」
由愛:『あはははは!違うに決まってるじゃ~ん。
実は~~~……行きたかったところの内定貰えました~~~!!』
恵:「おおお~~~!!おめでと~~~~~じゃ~~~~ん!!」
由愛:『ありがと!!』
恵:「……じゃあ、さ。ユア。」
由愛:『?』
恵:「今から会いにいくよ。」
由愛:『え??メグミちゃん、今こっちにいるの??』
恵:「いないけど。
会いに行く。2時間後くらいに会おう!じゃ!また後でね!」
由愛:『あっ!ちょっ―』
恵:「…………。」
恵:「……時間がない!」
~~~~~~~~~~~~~~
~大学校門前~
恵:「へい!ワタリ!」
進一:「ん??おう、どうした?」
恵:「バイク貸せ!」
進一:「なっ!なんだよ急に!」
恵:「これからアタシ、ユアに会いに行く。」
進一:「はぁ??大槻(おおつき)に!?なんで唐突に!?」
恵:「衝動的だ!アタシは後悔したくないから会いに行く!」
進一:「ッ!!
……ああ!分かったぜ!
ほらよ、鍵だ!」
(進一バイクの鍵を恵に投げる。)
恵:「おっと。」
進一:「バイク、明日までには返せよ!」
恵:「待って。」
進一:「あー?……なんだよォタタラァ。せっかく俺盛り上がってきたのにィ!」
恵:「アタシ運転出来ない。乗せてってよ。」
進一:「………………そういや免許採ってなかったな。」
恵:「うむ。」
進一:「……あいよ、乗りな。」
恵:「恩に着る!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~空港~
死神:一日目。残り55時間30分。
恵:「な~~んでよぉ~~~~~~~~~~~~!!!」
進一:「……なんでだろうな…………
飛行機の便が全部欠航って…………
……理由は教えてもらえなかったが、とりあえず大混乱って感じだな。」
恵:「くっそ~~~~~~~~!!なんでこんな日に限ってぇー!!!」
進一:「まぁ、こういう事もあるって事だ。」
恵:「どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ
どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ
どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよぉ~~~~~~~~!!!
アタシ、ユアに“会いに行く。2時間後くらいに会おう!きりっ”って
格好付けて言っちゃったんだけど~~~~~!!!!」
進一:「まぁ、仮に飛行機動いてても二時間じゃ厳しかっただろうけどな。」
恵:「うるせぇー!!
…………
ユア、電話出ないし!てかあれ???なんか携帯おかしくない?????
やややややややややややべべべべべべべべべべべ~~~~!!」
進一:「慌て方がきめぇ。」
恵:「どーーーーしよーーーーーーー!シンイチ~~~~~~~~!!
なぁ~~~~~~~~どうすれば良いと思う~~~~?????
助けてよぉ~~~~~~~~~家族だろぉ~~~~~~~~????」
進一:「掴むな揺らすな騒ぐなァ!!
落ち着け!とにかく!!
メグミ!落ち着けって!」
恵:「はい、落ち着いた。どうすればいい??」
進一:「わぁーーー!!急に落ち着くな!!
と!り!あ!え!ず!
行くしかねぇだろ!」
恵:「行くって……どうやって?」
進一:「俺が居るだろ?
この際だ。最後まで付き合ってやるよ。」
恵:「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!
シンイチィ~~~~~~~~~~~~~!!!」
進一:「手を広げて寄るな。
片道半日くらいだ!
ほら!さっさと行くぞ!!」
恵:「あいよ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~どこかのパーキングエリア~
死神:一日目。残り50時間。
進一:「もう暗いし、もう今日はここまでだな。
……。
休憩には、コーヒーが一番だよな。
ほらよ。」
恵:「ありがと。」
進一:「(自分のコーヒーを飲む。)
で、なんでオオツキに会いたくなったんだ?」
恵:「え?だから衝動的だから……」
進一:「それは分かってる。
なんで衝動的にそう思うようになったんだ?」
恵:「…………。」
進一:「……もうすぐ死ぬって、分かったらのたとえ話、か?」
恵:「…………。」
進一:「話したくないなら別に話さなくても良いけどよ。
さっきも滅茶苦茶顔色悪かったし、まぁ、なんかあるんだろうな。」
恵:「……。」
進一:「理由は聞かねぇ。悔いのねえようにな。」
恵:「ありがと。
…………シンイチはいつもそうだよね。」
進一:「ん?……何が?」
恵:「アタシに何かあったら、そうやってアタシの力になってくれるじゃん。」
進一:「……?そうか?」
恵:「そうじゃん。
ほら……シンイチの父さん母さんが、
アタシの本当の親じゃないってアタシが知ったときも。」
進一:「ああ……。」
恵:「まぁ、昔からアタシら似てないって思ってたし、
なんとなく、そんな気も、してたんだけどね。」
進一:「……。」
恵:「でも……父さん母さんに直接、実は血が繋がってないって
言われたのは……キツかったなぁ……。」
進一:「あれから3年……か。」
恵:「そうだね……早いね。
あの時も、こんな感じだった気がする。」
進一:「…………ハハ、そうだな。
あの時も“衝動的に、後悔が無いように”だったもんな。」
恵:「あははははは!そうだったそうだった!
なんだろうね……アタシにとって重要なんだろうね。
衝動も、後悔も。」
進一:「そうなんだろうな。
血は繋がってないけど、同じ環境で育ったんだ。
俺にとっても衝動も後悔も重要だからな。
だからこそ、俺はお前に力を貸すんだろうな。」
恵:「……そっか。
シンイチは、昔からそうだから、だからシンイチに頼っちゃうんだろうな。多分。」
進一:「そうか。
なあ、今日はここまでだ、と言ったが……どうする?
やっぱ暗いからここで休憩していくか?
それとも行くか?」
恵:「シンイチは……大丈夫なの?」
進一:「おう、余裕だ。
お前こそ、しがみついてるってのはかなり疲れるだろ。」
恵:「アタシは大丈夫。
……シンイチ、ごめん。頑張ってもらえるかな。」
進一:「相分かった。任せろ!
海岸沿い抜ければすぐだ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
死神:二日目。残り44時間。
進一:「ぃよっしッ!オオツキ家前!着いたぞ!恵!!」
恵:「サンキュー!シンイチ!」
進一:「じゃ、あとは二人でよろしくやってくれ。」
恵:「えっ、でも、シンイチ──」
進一:「オオツキに会いたかったんだろ。
俺は、しばらく適当にぶらぶらしとくさ。
帰るときに連絡してくればそれで良い。
じゃ!」
(進一、どっか行く。)
恵:「……本当に、恩に着る!」
(死神が現れる。)
死神:「一日経ちましたよ。」
恵:「分かってる。」
死神:「まさか、このタイミングで空港や携帯が機能しなくなるとは。
不運でしたね。」
恵:「本当に、そうね。」
死神:「一応言っておきますが、死神の仕業では無いですから。」
恵:「そんなこと思ってないよ。」
死神:「……一応言っておきますが、オオキツ ユアさんはここにはいませんよ。」
恵:「え?」
死神:「お二人が到着する前に海の方へ歩いて行きました。」
恵:「え!?それって、どれくらい前!?」
死神:「一時間ほど前、でしょうか。」
恵:「マジか!すれ違ったか……!!
ありがとう!死神さん!」
(恵、海へ駆けていく。)
死神:「……お気になさらず。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~浜辺~
死神:二日目。残り43時間。
(由愛、海を眺めている。)
恵:「ユアーーー!!」
由愛:「っ!あ、メグミちゃん。」
恵:「はぁはぁ……!
遅くなって、ごめん、ユア……!」
由愛:「アハハ、いいよ。
空港封鎖されたんだってね、災難だったね。」
恵:「あは、ははは……そうだね。
……会いたかったよ、ユア。」
由愛:「ウチも会いたかった。」
間。
恵:「えっ……なんか面と向かって言われると、は、恥ずかしいな……///」
由愛:「あっはっはっはっは!
もうメグミちゃんは本当に可愛いだから~~~!!」
恵:「くぅ……!///」
由愛:「それで、ウチと会って何したかったの?」
恵:「え、あ、えーっと……そのー……」
由愛:「んー?」
恵:「その、“会いたい”って衝動的に思って、
それ以上は、考えてない……です……」
由愛:「ふふふ、メグミちゃんらしいね。」
恵:「あ、あははは……そ、そうだねー。」
由愛:「ウチはいっぱいあるよ。メグミちゃんと会ってやりたいこと。」
(由愛、恵に近付く)
恵:「ひょっ、ひょえっ!?」
由愛:「ほら、右向いて。」
恵:「ひゃ、ひゃい!!──ッ……はぁ……ッ!!」
由愛:「綺麗でしょ?」
恵:アタシのやましい想像がかき消される程綺麗だった。
海から、水平線から日が登ってきた。
その景色はあまりにも眩しくて目を閉じたくなる。
けれど、美しい景色を見たくて、目を閉じる事が出来なかった。
恵:「…………綺麗……。」
由愛:「でしょ?
メグミちゃんとこれ見たかったの。」
恵:「アタシと?」
由愛:「そ、メグミちゃんと。」
恵:「ど、どうして……?」
由愛:「…………。
フフフ……。」
(由愛、楽しげに笑う。)
恵:「な、なに……ユア?」
由愛:「……“だってウチメグミちゃんの事大好きだからさ。”」
恵:「ひゃ、ひゃいッ!?」
由愛:「へへへ」
恵:「じょっ!じょじょじょじょじょじょじょ」
由愛:「じょ?JOJOォーー!!、?」
恵:「違う!こんな素敵な雰囲気な中でそんな冗談言っちゃダメだよ!!
アタシ惚れちゃうよ!!??」
由愛:「うん、惚れちゃってよウチに。」
恵:「えっ……!」
恵:アタシは固まってしまった。
あまりにも長い間が生まれてしまった。
その間、ユアはアタシの事を真っ直ぐと見ていて、ずっと笑顔だった。
アタシも、ユアの事が好きだ。大好きだ。これは友愛ではなく、恋愛の大好きだ。
本当は、直ぐにでもユアの事を抱きしめたかった。
アタシもユアにもっと愛を囁きたかった。
だけど、アタシは──
恵:「……。」
恵:──もうすぐ死ぬのだ。
由愛:「……。」
恵:なんで、こんなにもうまくいかないものなのだろうか。
互いの気持ちが通じ合っていると分かったのに、
現実はどうしようもなく残酷で、残酷で……とにかく惨い……。
恵:「……ユア、ありがとう。
…………だけど―」
由愛:「良いよ。」
恵:「え?」
由愛:「だって、行っちゃうんでしょ?遠くに。」
恵:「え……?」
由愛:「もう、ウチはメグミちゃんには会えなくなるんでしょ?」
恵:「な、なんで……」
恵:“なんで知っているの?”
そういうつもりだったのに、言葉が出ない。
由愛:「んーなんとなく、かな。
昨日メグミちゃんが電話くれた時からなんとなく、そんな気がしたの。
……ウチさ、結構勘が良いから、さ……。」
恵:「……そっか。
…………いや~~~~~~……ユアには敵わないなぁ~~~!」
(由愛、泣く。)
恵:「……え……。」
由愛:「……否定、してくれないんだね……嗚呼、本当なんだ……本当に何処かへ……
……ねぇ、どうして?どうしてなの?
ウチ、メグミちゃんの事大好きなのに……!
なんでメグミちゃんはウチから離れていくの!?」
恵:「ユア……」
由愛:「ウチは嫌だよ……?
メグミちゃんと離れ離れになるの……“良いよ”だなんて嘘。
ホントは、もっと、もっともっとメグミちゃんと一緒に居たい……!
もっともっとメグミちゃんとの思い出を作りたい……!
もっともっとメグミちゃんと気持ちを共有したいのに……!
メグミちゃん……ッ!!」
(由愛、恵に抱きつく。)
恵:「ユア……
………………アタシもだよ……
アタシも、ユアと一緒に居たいし、思い出を作りたいし、気持ちを共有したい……。」
由愛:「だったら……!──」
(恵、由愛に口付けをする。)
間。
恵:「──……
だけど、ごめんねユア。
アタシたちは一緒になれない。」
由愛:「メグミ……ちゃん……うあ……
うあああああ!!うあああああああああ!!!
うああああああああああ!うあああああああああ!!!」
恵:「……よしよし……
ユアは、本当は泣き虫なんだから、強がらずに今みたいに泣いてて良いんだよ……
……可愛い可愛いユア……」
恵:ユアは泣き続けた。
アタシの胸の中で、子供の様に泣き続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
死神:二日目。残り41時間。
(由愛、恵におんぶされて寝てる。)
死神:「オオツキ ユアさん、寝ていらっしゃるのですか。」
恵:「うわあああッ!……きゅ、急に現れるじゃん……。
うん、寝てるよ。昨日から寝てなかったみたいでさ、
泣き疲れて寝ちゃったみたい。」
死神:「そうですか。
しかし、タタラ メグミさん、寝てないのは貴女もじゃないですか。
大丈夫ですか?」
恵:「そーだけど。
だって、ほら……ねぇ?」
死神:「……まぁ、そう考えるのも無理も無いですね。
しかし、寝ずに無理をして体調を崩してしまい、
残りの時間を無駄に過ごしてしまう、という場合もあります。
お気を付けて。」
恵:「へいへーい。ご忠告どーも。
……ねぇ、死神さん。」
死神:「なんでしょう。タタラ メグミさん。」
恵:「アタシあとどれくらいで……し、死ぬ……の……?」
死神:「だいたい41時間でタタラ メグミさんの命は終わります。」
恵:「よ、41時間……
思ったより時間あるんだね。」
死神:「そうかもしれませんね。
この41時間を長いと捉えるか、短いと捉えるかは自由ですが、
くれぐれも悔いの無い様にお過ごしください。」
(死神さんがいなくなる)
恵:「悔いの無い様に、ねぇー……
やっぱり難しいよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
死神:二日目。残り38時間。
~某所のホテル~
由愛:「ん……んぁ……?」
恵:「ん、ユア起きた?」
由愛:「メグミ……ちゃん……?
ウチ……寝ちゃってたの……?」
恵:「うん。いっぱい泣いてたからね。」
由愛:「そ、そっか……は、恥ずかしいな……///」
恵:「気にしなくていいよ。
泣いてるユア、可愛かったよ。」
由愛:「も、もう……///
……じゃあ、あれは、夢じゃないんだね。」
恵:「……うん。」
由愛:「メグミちゃんは……何処に行くの?」
恵:「……さあ。分からない。」
由愛:「どうして?どうして分からないの?」
恵:「……それは……アタシにも分からないから……。」
由愛:「……そっか。」
(由愛、恵に身体を寄せる)
由愛:「……ウチ寂しいよ……。」
恵:「うん、アタシも寂しい。」
間。
由愛:「でも、行くんでしょ……?」
恵:「うん、行かないといけないみたいだから。」
由愛:「……そっか。
止めても、無駄なんだね……。」
恵:「うん……アタシじゃどーにもならない事みたいだからさ。」
由愛:「……そっかぁ…………。」
間。
恵:「だけど、今日は一緒に過ごそう。」
由愛:「……うん!」
恵:「あ、せっかくだしアイツも呼ぶか。」
由愛:「アイツ……?」
恵:「シンイチ。アイツのバイクでここに来たんだよ。」
由愛:「あーシンイチくんね。」
恵:「……あれ?やっぱりアタシの携帯使えないや。」
由愛:「じゃあ、ウチの貸すよ。」
恵:「ありがとうユア。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
死神:二日目。残り36時間。
~某所にて~
進一:「…………。」
(恵、由愛が見つめ合っている。)
恵:「……。」
由愛:「……。」
進一:「…………。」
進一:「なあ、俺着いたけど帰っていいか?」
恵:「どうしてよ。せっかく呼んだのにぃ。」
由愛:「そうだよーシンイチくんも一緒に、ね?」
進一:「いや、お前らのイチャイチャに水差すほど俺も空気読めねえヤツじゃねぇよ。」
由愛:「ウチらのイチャイチャだなんて……もう///」
恵:「良いじゃないの。見せつけてあげようよユア。」
由愛:「メグミちゃん……。」
進一:「勝手にやってろ。カップル成立おめでとーございますーぱちぱちぱちぱちー。」
由愛:「カップルだなんて……もう///」
恵:「良いじゃないの。見せつけてあ──」
進一:「やかましいわ!!さっきやったわその下り!!
で、何やんだよメグミ。わざわざ俺まで呼んでさ。」
恵:「とりあえず、一緒に遊ぼう。
3人でさ。
お金の問題は安心して欲しい。アタシが全て持つ。持たせて欲しい。
だから、目一杯!遊ぼう……!」
由愛:「……うん!沢山!後悔の無いように、ね!」
進一:「わーったよ。
じゃあ、どこ行くよ?シタバーでティータイム?ビックエコーンで歌う?
ラウンドナインでボーリング?ビリヤード?
なんだって良いぜ。」
恵:「ん~~じゃあまずは──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
死神:三日目。残り24時間。
進一:「ふぅ~~~~~すっかり真夜中だな。」
由愛:「そうだねー
久しぶりにカラオケ行ったから、全然声出なかったー」
恵:「でも、可愛かったよユア。」
由愛:「メグミちゃん……。」
進一:「もう勝手にやってろ……
でもまぁ、楽しかったぜ。」
恵:「そりゃ、良かったよ。
どうする?今日はもう二人共帰る?」
進一:「……。」
由愛:「……。」
恵:「どうしたの?二人とも?」
進一:「いや、どーしよーかなーと考えてるだけだ。」
由愛:「ウチも。ウチはメグミちゃんと一緒に居たいかな。」
恵:「そっか。じゃあ~~~~~~~~~
飲みにッ…………あれ……?」
進一:「おっとぉ!大丈夫かよ。フラフラじゃねぇか。」
由愛:「メグミちゃん?大丈夫??」
恵:「あ、あれ……?なんか……え……どうして……?まだ時間は……──」
死神:『しかし、寝ずに無理をして体調を崩してしまい、
残りの時間を無駄に過ごしてしまう、という場合もあります。
お気を付けて。』
恵:「あぁー……そういう、こと、か……
……なぁ……?」
(恵、気絶する。)
由愛:「メグミちゃん!?」
進一:「メグミッ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
死神:「大丈夫ですか?」
恵:「……あれ?死神……さん……?」
死神:「はい、死神さんです。」
恵:「……ハッ!もしかしてアタシ死ん──」
死神:「まだ死んでませんよ。」
恵:「…………ほっ……良かった……。」
死神:「ですが、24時間を切りました。
改めて言わせていただきます。
タタラ メグミさん。貴女はもうすぐ死にます。」
恵:「……ッ」
死神:「何があっても、貴女は死にます。良いですね?」
恵:「はい……あ、いえ、何も良くはないんですけど……。」
死神:「……一応言っておきますが、『ブラックハッピーグリムリーパーカード』
をあまり使ってないようですが、それを利用しても
タタラ メグミさん。貴女の死は回避出来ませんからね。」
恵:「ぐっ……。」
死神:「…………最後の希望を潰すような事を言って申し訳ございません。」
恵:「あ、ああ。大丈夫だよ。
少し期待はしてたけど、まぁ、やっぱり駄目な気がしてたし。」
死神:「そうですか。
では、残りの時間、悔いのない様に。
さあ、起きてください。」
恵:「……はい。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
死神:「残り■■■時間。」(■■■は無音でも雑音でも良い)
~某所、ホテルにて~
恵:「……あ、あれ……?」
由愛:「メグミちゃん!」
進一:「メグミ!起きたか!」
恵:「あれ?あれれれ?ここは……?
てかアタシどうして寝てたの……?」
進一:「急に倒れて寝たんだよ。
お前、全然寝てなかったみたいだな。
気を付けろよ?」
恵:「そっか……
…………。……ッ!
ねぇ!今何時!?どれくらい寝てたの!?」
由愛:「えっと、10時間くらい寝てたよ?」
恵:「じゅ…………10……。」
由愛:「……大丈夫?顔色悪いよ……?
もうちょっと寝てた方が良いよ。」
恵:「駄目ッ!!」
由愛:「め、メグミちゃん……?」
恵:「あ、ごめん……。
あ!ねぇ、せっかくだしさ……えーっと……
そうだ!映画!映画見に行こうよ!
アタシ観たいのがあってさ~~~~」
進一:「……本当に大丈夫かよ。恵。」
恵:「え……?
うん……?
大丈夫、だよ……?
ね?だから、さ?行こ?」
進一:「…………。」
由愛:「……うん。分かったよ。
観に行こ。だけどその前に。」
恵:「ゆ……あ……?」
(由愛、恵を抱きしめる)
由愛:「無理、しないで。メグミちゃん。
どうして居なくなるのか。どうして会えなくなるのか。
それはもうウチは聞かない事にした。
メグミちゃんも、辛いんだもんね。」
恵:「ユア……」
由愛:「……泣いて、良いんだよ。
昨日はウチが泣いたから、次はメグミちゃんの番。
会えなくなる前に、本音、聞かせて、欲しいな……。
ウチは……ううん、ウチもシンイチくんも、何があってもメグミちゃんの味方だから。
だから、ね?」
恵:「ユア……シンイチ……。」
進一:「ここにお前が泣いて笑うやつはいねぇよ。
オオツキの言う通り、俺もオオツキもお前の味方だ。恵。」
恵:「…………ありがとう、二人共……。
だけど、アタシはここで泣くような性分してないから、さ。
……でも、一つだけ言わせて。」
由愛:「うん……。」
進一:「良いぜ。」
恵:「……二人共、アタシの事好きで居てくれて本当に、
本当に本当にありがとう……!!
アタシ二人の事が大好きだ……!!」
進一:「そうか。」
由愛:「うん……!」
恵:「ユア……!ユアに関しては大大大大好きだ……ッ!!」
由愛:「メグミちゃん……ッ!」
進一:「あの空気からでもそう行くのかよ……
まぁ、良いけどさ。」
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死神:「残り■■■時間。」(■■■は無音でも雑音でも良い)
~映画館~
進一:「で、観たい映画ってなんだよ。」
恵:「えーっとねーコレ!」
由愛:「特撮モノ……?」
恵:「うん!
主人公はフツーの青年だったんだけど、
ある日ひょんなことから身体を改造されて死闘に巻き込まれるの。
そして、闘いの中で敵味方が入れ替わり立ち替わり、
黒幕に次ぐ真の黒幕に次ぐ真の黒幕と、ラスボスも二転三転して……」
進一:「ややっこしいなぁ……それ……
でもまぁ、面白そうではあるな。」
恵:「でしょー!!?」
死神:「死への秒読みは、加速する。」
由愛:「あっ、ウチちょっと御手洗行ってくるね……!」
恵:「えっ!もうすぐ始まっちゃうよ??」
由愛:「すぐ戻るから!」
恵:「分かった……。」
死神:「幾つもあった死の可能性は今、一つに確定した。
もう、引き返しは効かない。」
恵:「あっ……照明が……始まっちゃう……ユア……。」
進一:「ちょっと離れただけでそんなに物悲しい声出すなよ。
っ?…………おい、メグミ。」
恵:「ん?何?」
進一:「何か……聞こえないか?
こう……なんかジジジジジ……みたいな……」
恵:「えー………………聞えないけど……。」
進一:「……。
ッ!!メグミッ!!伏せろッ!!!」
恵:「何ッ!!?」
(爆発音)
死神:スクリーンの奥にあった爆弾が炸裂する。
それを察知し、ワタリ シンイチが、タタラ メグミに覆い被さる。
しかし、庇ったとしても彼女の死は回避されない。
恵:「うぅ……あ……あ……な、何が……」
進一:「……だ、いじょ、ぶ、だった、か……
はぁ……よ、よかっ、た……」
恵:「シンイチ……?
…………ッ!!」
死神:彼女を庇った彼の身体は殆どバラバラに吹き飛んでいた。
右腕も無ければ下半身も無い。頭部も右下部分は存在しない。
恵:「ああ!あああああ!!!ああああああああああああ!!!!!!!
しッ、シンイチッ!!シンイチ―――ッ!!!
ええ……ええ??なっ、なにが……何が……あっ、たの……!?」
死神:「爆発が起きました。」
恵:「し、死神、さん……?」
死神:「察するに、この間の空港の件と同じ犯人でしょうね。
それはともかく、これがタタラ メグミさん。貴女の死因です。」
恵:「し、しい、ん……?
で、でも、アタ、シ死ん、で、ない……むしろ、シンイチ、が……!」
死神:「ワタリ シンイチ一さんが死ぬかどうかは分かりませんが、
それでも、貴女は死にますよ。
彼だけでなく自分の事もちゃんと見たらどうですか?」
恵:「な、なにを、言っt──
…………あ、れ……?
え……えぇ…………えぇ……?」
恵:アタシは立とうとした。けれど、立てなかった。
何故か、アタシにも足が無かったのだ。
それだけじゃない。
左腕が無い。右腹部も消し飛んでる。多分だけど頭部の左上部分が無い気がする。
恵:「なに?なに?なに?なに?なに?
アタシが、アタシたちが何をしたっていうの……?
こんな惨い死に方する様な酷い事をアタシたちはしたって言うの……?
理不尽じゃん……やだ……やだやだやだやだやだ……ッ!」
死神:「死に方にいままでの行いなんて大して関係無いですよ。
ただ、貴女はこういう死に方をする、それだけですよ。」
恵:「たすけて……助けてよ……
はっ……!ぶ、ぶ……『ブラックハッピーグリムリーパーカード』……
これ……これで……これは、アタシの“徳”なんでしょ……?」
死神:「……言ったでしょう。
『ブラックハッピーグリムリーパーカード』を使っても貴女を──」
恵:「アタシじゃないッ!!」
死神:「ッ!!」
恵:「アタシじゃなくて、シンイチを……!
ここでアタシが死ぬのはもう良い!!けど、シンイチはまだ死んじゃだめだ!!
“アタシ”の死の回避に使えないとは言ったけど、
“他者”の死の回避に使えないとは言ってなかった……ッ!!」
死神:「……ッ!」
死神:死に行く彼女の身体。
しかしその眼差しは、その魂は強い“力”が篭っていた。
生きようという意志では無い。
彼を救うという決意が、本来喋る事さえまともに出来ない筈の
身体を動かしているのか。
……分からない。
死神:「それは……屁理屈でしか無いです。
貴女の死を回避出来ないのであれば他者の死も回避出来ない。
残念ですが、諦めてください。」
恵:「そっ……そんなぁ……!
だッ、だ、れ、かッ……誰かッ!誰かあぁあああぁああーッ!!
シンイチを、この人をぉおおお!!!」
死神:彼女は吼える。
もはや声ではない雑音を、
しかしそれは黒煙に隠され意味を成さない。
無情。彼女らを助けるモノはいない。
……その、筈だった。
恵:アタシは諦めずに叫び助けを求め続けた。
たとえ絶望に塗れた状況だとしても、アタシは折れる訳にはいかない。
シンイチは間違いなくアタシの恩人だ。
アタシの死に巻き込まれて死ぬだなんて、そんなの駄目だ。
だからッ!アタシはッ!!
恵:「助けて!!!助けてください!!!!!!!!!!!!!!」
恵:どれほど叫んだのか分からない。或いは全く時間が経ってないのか、
それも分からない。
とにかく叫び続けた。
正直、もう目の前が見えなくて、諦めそうだった。
そんな時だった。
誰かに声をかけられた。
死神:燃え盛る映画館の中で平然としている人物が、女が、彼女に言った。
“彼、もう死んでますよ?”
と、無慈悲な言葉を。
恵:「そ、そんな……
ど、どうにか出来ません、か……!?」
死神:女は言う。
“まぁ、どうにか出来なくはありませんよ。
なんたって、私は神をも凌ぐ天才ですからね。”
と自信満々に。
恵:「じゃ、じゃあ……助けてください……!
お、お金は、これから好きなだけ使っていいですから……!!
アタシの事は良いから!この人を……!!」
死神:女は微笑む。
“良いでしょう。貴女のその『正義の心』に約束します。
彼は私が絶対に生かします。その後はまぁ、ちょっと色々あると思いますが、
絶対に約束は守ります。”
恵:「ああ……あ、ありがと、うご、ざいます……」
死神:タタラ メグミは絶命した。
死神:「可哀想な人だ……。
タタラ メグミさん……悔いのない一生を過ごせましたか……?
…………まぁ、悔いのない、なんてやはり無理でしょうけど……
…………ッ!?」
死神:目があった。そんな気がした。
ワタリ シンイチを助けると言ったあの女と、
一瞬こちらを見て笑った気がした……気のせい……の筈だ。
…………ともかく、これで……
死神:「やっと物語が前へ進む。」
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~映画館外~
由愛:「……何……?
何が、起きてるの……?」
由愛:ウチは職員に連れられ、映画館外に避難誘導された。
燃え盛る映画館。甲高いサイレン。空を覆う黒煙と火の粉。
由愛:「メグミちゃん……?シンイチ一くん……?」
由愛:ウチはその場に崩れ落ちた。
予感がした。二人は死んだ、と。
由愛:「そ、そんな…………。」
由愛:…………いや……死んでない、死んでない死んでない死んでない死んでない
死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない
死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない
死んでない死んでない死んでないッ!!
……そう、死んでない、そう……だって、ウチ、勘が、良いから……
由愛:「ウチの勘って外れた事、ないもん……うん!
死んでない!二人は死んでない!うん……うん!そうだよ!死んでないよ!
ね!メグミちゃん!シンイチくん!!」
由愛:虚しいまでに返事が返ってこない。
当然……いや違う!だって死んでないから!
由愛:「だよね?」
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恵:「……。」
由愛:「……?」
進一:「…………。」
進一:「なあ、俺着いたけど帰っていいか?」
恵:「どうしてよ。せっかく呼んだのにぃ。」
由愛:「ほら~やっぱり!二人共死んでない!」
進一:「いや、お前らのイチャイチャに水差すほど俺も空気読めねえヤツじゃねぇよ。」
由愛:「もーびっくりしたんだからねー!二人共ー!」
恵:「良いじゃないの。見せつけてあげようよユア。」
由愛:「恵ちゃんも元気!進一くんも元気!ウチも元気!」
進一:「勝手にやってろ。カップル成立おめでとーございますーぱちぱちぱちぱちー。」
由愛:「良かった!良かった!良かったー!!」
由愛:世界は滅茶苦茶に繋ぎ合わされた。
ウチの世界は環状する。あべこべに、凸凹に、チグハグに。
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END