[台本]東西東西・噺屋:天犬 大火の興行 ─第一幕:怪談は雑談となる─
東西東西。
今宵は、“怪異”とは何か、“怪談”とは何か、はたまたそれらを”雑談”へと挿げ替える。
そんな方法で祓い屋をする青年、”天犬 大火”のお話でございます。
ではでは、皆々様、隅から隅までずずずい~っと希い上げ奉りまする。
登場人物
○天犬 大火(あまいぬ たいが)
17歳、男性
怪異、怪談相手の専門家“祓い屋”。
皮肉屋で毒舌家……だが今回はそんな面があまり出ない。
主人公。
〇鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)
16歳、女性
鬼の半妖の少女。
元気で純粋無垢。
半妖体質で多くの人を傷付け、幽閉されている。
〇尊海 牢乎(とうとうみ ろうこ)
40歳、男性
寺生まれの“祓い屋”で大火の師匠。
軟派な発言が多いが物腰柔らかく、温和な人物。
対怪異的にも物理的にも最強の人物。
天犬 大火♂:
鬼嫁 弓燁♀:
尊海 牢乎♂:
これより下が台本本編です。
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牢乎:「とざいと~~~ざい~~~~~~!!」
大火:今宵は、“怪異”とは何か、“怪談”とは何か、
それを考えつつ、答えは出さず、
もやぁっとした話の展開をする“靄噺(もやばなし)”でございまする。
牢乎:いやいや、そんな事はないでございますよぉ~
皆々様がだぁいすきなふぁんたじぃなお話さ。
大火:全く、師匠はすぐに嘯く。
さあ、師匠。ご覧の皆様に“怪異”とは、“怪談”とは、語っていきましょう。
牢乎:それもそうだね。
こほん。
怪異とは、異常である。
言い方を代えるのであれば、人間ではない。動物ではない。通常ではない。
その在り方は到底常人には理解を得られない。
大火:怪異とは、妖怪であり、怪奇であり、化け物であり。
とにかく、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類でございまする。
牢乎:人間は通常であり、怪異は異常である。
故に、人間は異常を語る。怪異を語る。
人はそれを“怪談”と呼ぶ。
大火:怪談は異常である。怪異は異常である。
大火:「……ならば俺は……」
大火:………………半分人間で半分怪異は、通常なのでしょうか、異常なのでしょうか。
牢乎:「………………。」
牢乎:とにかく、異常は正さなければならない。
怪異を、怪談を、殺し、壊す。これは、そんなお話。
牢乎:「デハデハ、皆々様、隅から隅まで
ずずずい~っと希い上げ奉りまする(こいねがいあげたてまつりまする)~~」
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~深夜、某所~
大火:「“怪談噺(かいだんばなし)。
この町には鬼が住み着いており、なんやかんやあって……”」
牢乎:「雑だねぇ大火(たいが)くん。」
大火:「だってどうでも良いでしょう。
“今はとある神社に閉じ込められている。”」
牢乎:「それが、ここかい?タイガくん。」
大火:「はい、師匠。この地下に幽閉されている、そうです。」
牢乎:「そっかぁ……齢十六の少女が幽閉……軟禁状態、かぁ……。
ん~~~~~~……えっちだねぇ……」
大火:「……このクソ色魔(しきま)が……」
牢乎:「えぇー!大火くんドキドキしない??
齢十六の少女が軟禁状態、しかも話によれば超美少女らしいじゃないか……!
こんなバリバリに定番なシチュ、
イマドキ官能小説でもド王道過ぎて滅多に見れないよー??」
大火:「シチュとかよく分かんないですけど、俺はビーフシチューが好きです。」
牢乎:「や~、急に可愛い事言うじゃ~ん。」
大火:「そんなのどうだって良いですから、入りますよ。」
牢乎:「あいあ~い。
……ちゃんと気張って行こうね。結構強そうだよ。」
大火:「了解。」
牢乎:「ぴんぽ~ん!ピザ屋でェ~~~っす!」
弓燁:「そんなの頼んでないッ!!帰ってッ!!!!」
牢乎:「あらら……」
大火:「気張って行こうとか言ってたくせに……」
弓燁:「お願いだから入ってこないでッ!!もう誰も傷付けたくないのッ!!!」
大火:「……。」
牢乎:「ん~~そんな事言ったって~……僕たちは君を退治しに来た“祓い屋”だからね。」
弓燁:「…………はらい、や……?」
牢乎:「そう。君たち怪異を、怪談を無くす。それが僕たちの仕事なんだ。」
大火:「……。」
弓燁:「……私、退治……されるの……?」
牢乎:「ああ、君は怪異で、怪談で、異常だからね。」
弓燁:「……ッ」
牢乎:「だから、僕たちはこの扉を開ける。」
(牢乎、扉を開ける。)
弓燁:「いやッ!!見ないで!!!」
大火:「……つの…………」
牢乎:「う~ん、立派な鬼の角だねぇ。
しかも、噂通りの美少女。鬼っ娘だねぇ。ぅいいねぇ~~~。」
大火:「……マぁジでやめてくださいよぉ…………」
弓燁:「……え?二人とも、平気、なの……?」
牢乎:「ん~何が~?
あっ!そうそう!僕は尊海 牢乎(とうとうみ ろうこ)。
こっちのずっとムッとしてるのは天犬 大火(あまいぬ たいが)くん。
この子も祓い屋で僕の弟子だ。よろしくねー」
大火:「ムッとしてないが?」
弓燁:「え…………?えっと、私は鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)……です……?」
牢乎:「おおーユミカちゃ~んよろしくね~~~」
弓燁:「……よ、よろしく……?」
大火:「師匠、俺たちは馴れ合いをする為にここに来たわけじゃないんですよ。」
牢乎:「分かってるよー」
弓燁:「ちょっと!!貴方たち大丈夫なの!?」
大火:「……あ?何が?」
弓燁:「……え?」
牢乎:「あ~!なに?これ君から出てたの??」
大火:「出て……?え……?」
牢乎:「実はこの部屋から瘴気が漏れていてね。
流石にタイガくんにはキツイと思って、抑えておいたよ。」
弓燁:「え……。」
大火:「え、えぇ……!?言えよ……!!
普通にあぶねぇでしょうが!俺がッ!」
牢乎:「あっはっはっはー!ごめんねー!忘れてたぁ~!」
大火:「俺の命が危ない!!」
弓燁:「…………じゃあ、私、人と……」
牢乎:「無理だよ。」
弓燁:「……ッ」
牢乎:「言っただろう?君はまだ怪異で、怪談で、異常だ。
そして、退治するとも言った。
君が怪異である以上、例え僕の力を使ったとしても、
また人と触れ合うなんてできないよ。」
大火:「……師匠…………。」
牢乎:「どうしたんだい?タイガくん。
君も言っていただろう。僕たちはこの子と馴れ合いをしに来たワケじゃない、って。」
大火:「たっ、確かに、そう言ったが……そんな言い方はッ」
牢乎:「そんな言い方は、……なんだい?」
大火:「……いいえ……。」
弓燁:「……。」
牢乎:「……さっ!ちゃっちゃと終わらせちゃおうかユミカちゃん!」
(牢乎、弓燁の方へゆっくりと歩みだす。)
弓燁:「……ッ!」
牢乎:「怖いのかい?大丈夫、痛いのは一瞬だから。」
弓燁:「……ッ!」
牢乎:「僕が君に触れた瞬間、君は楽になれる。」
弓燁:「……ッ!!」
牢乎:「さあ、終わらせよう。」
弓燁:「ッ!!嫌ッ!!!!!!!」
牢乎:「おォっと~逃げられちゃった。」
大火:「霧化(きりか)……ッ!」
牢乎:「そのようだね。
どうやら、彼女は“鬼”という概念が複合された存在の様だ。
故に、病、霊、業(ごう)、とにかく、様々な“厄介”が具現されている、という所かな。
じゃ、タイガくーん。出番だよー。」
大火:「了解。
…………。ッ!そこだッ!!」
(大火、苦無の様なモノを投げる。)
弓燁:「ぐあッ!どうしてッ!?
……ッ、貴方ッ、その姿……!」
大火:「……。」
牢乎:「まるで天狗?
正解だよ。彼は天狗の半妖なんだ。
君と同じ半妖仲間といったところかな。」
大火:「俺の……天狗の目はたとえ霧となり、
人の目にまやかしを見せようとも本体を見逃さない。」
弓燁:「……ッ!!」
牢乎:「そして、君を捕らえたその短刀は、僕特性の優れものでね。
霊的なモノさえ捕らえる魔具さ。」
弓燁:「そッ、そんな……ッ!」
牢乎:「さ、終わりだよユミカちゃん。」
弓燁:「ッ!!?い、嫌だッ!死にたくない!死にたくないよ!!!」
大火:「ッ!!師匠!危ないッ!!」
牢乎:「おっとぉ~」
(大火、牢乎を庇う。)
大火:「ぐッ!!!」
(弓燁、更に鬼化)
弓燁:「「!!!!!」」
大火:「ぐッ……ああッ……!」
弓燁:「「私は、殺されない!!アナタたちを、殺すッ!!」」
牢乎:「ほう、これはこれは、凶暴の象徴としての鬼、かい。
再生も早い、これは大変そうだねぇ。なら仕方が無い──」
大火:「まッ、待て!師匠!」
牢乎:「おや?タイガくん。大丈夫なのかい?」
大火:「俺は、大丈、夫ですッ!
ここは俺にッ、俺に任せてくださいッ!」
牢乎:「えぇ~タイガくん大丈夫なの~?
僕が思うに君にユミカちゃんをどうにかできるとは──」
大火:「黙って見てろッ!クソ坊主ッ!!!」
牢乎:「…………ふっ、はいは~い~」
(大火、弓燁に向き直る。)
大火:「鬼嫁(おにとつぎ)!!」
弓燁:「「ッ!」」
大火:「お前はどうしたい!!」
弓燁:「「どう、したい……?」」
大火:「お前は、どう生きたいんだ!!
人か!妖か!」
弓燁:「「私は人だよ!私は鬼なんかじゃない!!
なのに、皆が!!私を化け物って!!」」
大火:「だったらッ!!」
弓燁:「「けど私の今の姿は!!」」
大火:「ッ!」
弓燁:「「今の私は、人を傷付けた化け物だ!!!!!」」
大火:「──ッ」
大火:オニトツギが慟哭(どうこく)する。
嗚呼、あの時の俺と同じだ。
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大火:数年前
大火:「近寄るな!!」
牢乎:「そんな事を言われてもな~~」
大火:「近寄るな!近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな!!!」
牢乎:「──ッ」(大火からの攻撃を受け続けても進み続ける。)
大火:「近寄るな……!近寄るな……頼む……!頼むよ……!
俺にッ、アンタを傷つけさせないでくれ……!!」
牢乎:「それが、君の思いかい。」
大火:「え……?」
牢乎:「であれば怪談というには、些か面白くないね。
面白くないということは、異常ではない、通常だ。」
大火:「……?」
牢乎:「──故に、」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~現在~
大火:「違うッ!!お前は人だッ!!!」
弓燁:「「えっ」」
大火:「怪異はッ、化け物はッ、到底常人には理解を得られない存在だッ!!」
牢乎:「……。」
大火:「だがッ!人であり、妖である俺はッ!!
人としてッ!オニトツギ!お前のその気持ちが分かるッ!!」
弓燁:「「っ!!」」
牢乎:「ふふふっ……」
大火:「──故にッ!!」
大火:あの時の、彼の様に──
大火:「東西東西(とざいとうざい)ッ!!」
(大火の足元に謎の陣が現れる。)
弓燁:「「え!?な、なに……!?」」
牢乎:「静かに。」
弓燁:「「!!」」
牢乎:「演目を見るときは携帯はマナーモードに、笑い声はともかく、話し声はお控えに、ね♪」
大火:「皆々様、ご機嫌よろしゅうございりまする。
私、天犬 大火(あまいぬ たいが)と言うものでございまする。
表では馬鹿過ぎて留年して高校一年生、後がなし。裏では祓い屋家業。
さらにその裏の姿は“噺屋(はなしや)”……噺屋:天犬 大火、此方を救う者。」
牢乎:「よっ!天犬屋(あまいぬや)!!シンプルに馬鹿!」
弓燁:「「ええ……?」」
大火:「今宵、皆々様に語るは、とある暴力女の“雑談噺(ざつだんばなし)。”
その凶暴さ故に、その天涯孤独の女は“鬼”と呼ばれていたそうな。
しかし、その暴力には理由があったのでございます。
“理由があろうと暴力は暴力?”それは、勿論、そうでございますね。
ですが、理由を聞かずに偏(ひとえ)にポイッと捨てるのは……私は良いと思いません。
その女、実は様々な事情がありまして、同級生の女学生たちに苛められていたのです。」
弓燁:「「……。」」
大火:「“苛められていたから暴力を?”
ははは、実はそうではございません。
その女、非常に忍耐強く、心根の優しい人間でございました。
苛め程度、屁でもないと愛らしい笑顔を振りまいていた程です。」
牢乎:「……へぇ~」
大火:「しかし、そんな女が暴力を振るうに至った理由。
それは、動物虐待……いえいえ、虐殺、でございました。
件の女学生たちが野良犬に餌を与える振りをして近づいてきた所を、
仲間たちが金属バットでタコ殴りにする……というもの。」
牢乎:「わあ、酷い人間がいたもんだ。」
弓燁:「「え……それって……」」
大火:「その現場を見た女は激昂しました。
頭で考えるよりも足が動き、手が出ていました。
女は相当頭に来ていたのでしょう。
彼女が我に戻って手を止めた時には、女学生たちは全治半年の重症の状態。
助けたかったお犬さまも結局死んでしまっていました。」
弓燁:「「……。」」
大火:「それで留まれば良かったのですが、
女が鬼と呼ばれるはじまりとなってしまいました。
女学生たちは数の暴力、女の涙、その他もろもろ手練手管を使って、
女を悪者にしたのでした。」
弓燁:「「……っ」」
大火:「いつしか人々は女を“鬼”と認識しました。
そして、ついに女は本当に鬼へと変性したのです。
それで生まれたのが、件のどうでもよい鬼の怪談噺(かいだんばなし)」
弓燁:「「……やっぱり、私は……」」
大火:「しかし、よく、よぉく考えてみてください、皆々様。
今の話を聞いて、どちらが鬼でしょうか?どちらが異常でしょうか?
私は思います。少なくとも、女は鬼でもなければ、異常でもない。
……お前は、通常で、人だ。」
弓燁:「…………私は……」
大火:「……さあ!ともすれば、女の凶暴さにも理由がついたでしょうよ!
えぇ?“病だの呪いだのが跋扈(ばっこ)したのはなんなのか”、ですって?
そりゃあ、勿論、病は気からといいますでしょうよ。
ちゃんと手洗いうがいをして、社会的距離を守りましょう。
呪いは気の迷いです!故に、これは怪談なんかではない。
少なくとも、“鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)は異常ではありません。”」
弓燁:「……!」
大火:「彼女の鬼化もだいぶ落ち着いてきましたところで、
サァサァ、皆々様、これにて終幕としましょう。
……先(せん)づ今日はこれ切り……!!」
大火:「…………ぐっ……」(倒れる。)
(大火の足元の陣が消える。)
牢乎:「お疲れ様、タイガくん。
締め方があまりにも雑で心配だったけど、まあ、赤点回避ってとこかな。」
弓燁:「……え……?え、え?
身体が……!」
牢乎:「君の体が元に戻っているんだよ。
君の家系に、君の血筋に、鬼の要素は見当たらなかった。
と、いう事は人々の思いが中途半端に形を成した鬼化現象、という事。
あと一歩遅かったら、その中途半端も完全完成になっていただろうけども、
彼が、君に宿った怪異を、怪談を、殺し、壊したのさ。」
弓燁:「怪異を、怪談を、殺し、壊した……」
牢乎:「良かったね。
僕は本気で殺す気だったけど、彼は君を助けた。」
弓燁:「……。
あ、あの……あなたたちは、一体……」
牢乎:「ん?祓い屋だよ?」
弓燁:「で、でも、彼は……」
牢乎:「あー、あれはタイガくんが勝手に名乗ってるだけ。
やっている事は祓い屋となんら変わりはない。
“怪談”という常人の理解を超越したお話に、
陰険にも、その理解出来ない部分にこじつけをして、
異常を通常に替えていき、怪談ではない……とりとめのない雑談に挿(す)げ替える、
ていう感じかなー……」
弓燁:「怪談を……雑談に……」
牢乎:「まあ、今回のお話は全然事件だと思うけどねー
と、いうことで後ほどタイガくんが集めた証拠を各所に提出する予定~」
弓燁:「……。」
牢乎:「さ、ここから出ようか、ゆみかちゃん。
ここに閉じ込められていた鬼は退治され、もういない。
僕たちのお仕事は終わり。
したらばそそくさと退散退散、てね。」
弓燁:「は、はい。」
牢乎:「彼が起きたら、お礼言ってあげてね。」
弓燁:「…………。」
大火:「……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
牢乎:それが、君の思いかい。
大火:「……師匠。」
牢乎:であれば怪談というには、些か面白くないね。
面白くないということは、異常ではない、通常だ。
大火:「……。」
牢乎:──故に、
大火:「東西東西……」
牢乎:僕は“咄屋(はなしや)”:尊海 牢乎(とうとうみ ろうこ)。
君を救いに来た者だ。
大火:「師匠……。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
牢乎:「なんだい。」
大火:「…………。」
牢乎:「おはよう、タイガくん。」
大火:「…………病、室……俺、あの後寝ちゃってたんですか。」
牢乎:「うん、いっぱい力を使ったからね。」
大火:「…………オニトツギは……」
牢乎:「ああ、大丈夫だよ。ユミカちゃんは生きてるよ。」
大火:「………………そうですか……良かった……
…………やっと……」
牢乎:「……そうだね。
あ、そうだ。そのユミカちゃんが、君に話があるそうだ。」
大火:「え……。」
(大火、視線を扉の方へ向ける。)
弓燁:「……。」
大火:「オニ、トツギ……」
牢乎:「じゃ、僕は少し席を外すね。
あとは二人で、ごゆるりと~」
(牢乎、去る。)
弓燁:「……。」
大火:「……。」
弓燁:「あのっ」
大火:「身体。」(遮るように)
弓燁:「……んぇ?」
大火:「身体、悪いとこはねえか。」
弓燁:「は、はい。」
大火:「そりゃ良かった。」
弓燁:「……ありがとうございます。
私を助けてくれて。」
大火:「それが俺の仕事だからな。」
弓燁:「……タイガさんは、私のこと、どれくらい知ってるんですか。」
大火:「……すまないが、何もかも。」
弓燁:「…………一つ、お話をしても良いですか。」
大火:「ああ。」
弓燁:「……タイガさんの言う通り、私には親や兄弟、親戚はいません。
……けど、天涯孤独というわけではなかったんです。
タイガさんの“ざつだんばなし”に出てきた野良犬さん、
彼女は、私の家族だったんです。」
大火:「……。」
弓燁:「私のお父さんお母さんは事故で亡くなって、親戚も皆私を見捨てて……
だけど、ハルカさんは……彼女は、私を見捨てないでいてくれました……。
私の、私の最後の、大切な大切な家族だったんです……」
弓燁:「だからじゃないけど……
ううん……だから、みんなが彼女を傷つけている姿を見て、
私が止まれる訳ないじゃないですか?
タイガさんが言うような心根の優しい、とかそういう女じゃないんです。」
弓燁:「本気で、あの人たちを殺そうと思ったんです。
彼女を、私の大切な家族を傷つけるアイツらが憎くて憎くて仕方が無かった……
アイツらに生きる価値なんてない……!
殺してやる……殺してやる……!!って……!!」
大火:「……。」
弓燁:「ふと、彼女が視界に入ったんです。
私には、彼女の言うことが分かったりしないけれど、
アイツらを傷つける私を見た彼女は、喜ぶでも、怯えるでもなく、
悲しそうな目をしていました。」
弓燁:「その目を見て、私は手を止めました。
……そしてやっと気付いたんです。
“嗚呼、こんな奴らに構っている場合じゃなかった。
ハルカさんを病院に連れて行かないと、じゃないとまた家族を失う。“」
間。
弓燁:「でも、気付いた時にはもう遅くて、
駆け寄った時には、もう彼女は……
……私は、本当に馬鹿でした。大馬鹿でした。」
弓燁:「どんなに呼びかけても、どんなに謝っても、彼女は返事をくれない。
私は凄く、凄く凄く後悔しました。
……本当に、私は忍耐強くも、優しくもない子でした。
だから、ハルカさんを……お父さんもお母さんも──」
大火:「そこまでだ。」
弓燁:「え……?」
大火:「ハルカさんが死んだのも、オニトツギの親が死んだのも、お前の所為じゃない。」
弓燁:「でも、でも、でも……!」
大火:「その気持ち、もう絶対に忘れるなよ。
次に、またアンタに大切なモノが出来た時に、今度こそ、それを守れるように、な。」
弓燁:「…………。」
大火:「オニトツギ、お前はそういうけどよ。
お前、やっぱり優しいよ。」
弓燁:「タイガ……さん……」
大火:「それに、だ……。
師匠も言っていたけど、お前、その、可愛いし、
もっと色んな人に愛されていいと思う……ぜ……。」
弓燁:「え……あ……あ、ありがとうございます……。」
大火:「…………。」
弓燁:「…………。」
間。
弓燁:「あ……あ、あのっ……!」
大火:「なっ、なんだ!」
弓燁:「そ、その!私も!タイガさんの様な“噺屋(はなしや)”になりたいです!!
大切な人を守れるようになりたいんです!!
なので!私を弟子にしてください!!」
大火:「え…………あ……?え……?」
牢乎:「いいよ~」
弓燁:「ありがとうございます!!」
大火:「おい!なんで師匠が返事すんだよ!!てかいつ帰ってきた!!」
牢乎:「いやいやだって噺屋って言ったってやってること祓い屋だし、
タイガくんまだ人に教えれるほどの力は無いし、
そうなってくると自動的に僕の弟子って事になるじゃない?」
弓燁:「あのっ!出来ればタイガさんに教わりたいですっ!」
牢乎:「……。」
大火:「……。」
牢乎:「じゃ、教えれる様に頑張ろうね、タイガくん。」
大火:「はあ!?」
牢乎:「タイガくん、ユミカちゃんを立派な“噺屋(はなしや)”にする。
これ、新しい修行ね。」
大火:「な……ッ!!?」
弓燁:「よろしくお願いしますっ!」
大火:「なあ……ッ!!?」
牢乎:「ははは、楽しくなりそうだなぁ~」
大火:「こんの……クソ坊主!!」(ベッドから飛び起きる。)
弓燁:「きゃっ!」
牢乎:「おぉっと、逃げなきゃ。」
大火:「待てぇ!!勝手に決めるなァ!!逃げるな卑怯者!!」
牢乎:「あ~はっはっはっは~卑怯者で結構~~~」
弓燁:「あ……あわわ……」
弓燁:「え、えっと、また会えるのを、楽しみにしております。
きょ、今日はこれにて終幕っ!」
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