超不幸体質と不死身体質
[台本]超不幸体質と不死身体質
世界設定、場面情景
世界の理不尽に対し、豪運によって未だ(少なくとも身体は)無傷のヒトと不条理なる生命により生きながらえている誰かの残滓が香るヒトの物語。
これは九つの砕かれた物語の断片の一つ。 否。断片は二つ。悲劇ではない。ズレた二重身的物語。
・登場人物
〇次小井 大治(じこい だいじ)
男性、21歳
行く先々で大きな事故を起こしてしまったり事件に会ってしまったりする超不幸体質な大学生。
いや、そんな超不幸な目に会って無傷なのだからかなり幸運なのでは?
超大学級の幸運。可哀想な人
〇隈河 幸菜(くまがわ ゆきな)
女性、19歳
とてもとても過保護な親達によって不死となってしまった自称不幸美少女。
不死になった影響なのか冷めた態度をとっているが、悪漢どもが許せない正義感溢れる女性。
〇フエゴ・ラドロン
男性、26歳
犯罪者。復讐心に燃える男。
次小井 大治♂:
隈河 幸菜♀:
フエゴ・ラドロン♂:
↓これより下が台本本編です。
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大治:それは突然の出来事であった。
誰かの悲鳴が聞こえた。
そして暴走車が歩道を一直線に進むのが目に見えた。
唐突だった。故に身体が反応できなかった。車は目前。
これは流石に助からない。これで一巻の終わり。
俺はその時、死を覚悟した。
幸菜:「危ない!!!!」
大治:「うわっ!」
大治:誰かに押されて俺の身体が横に飛ぶ。
その瞬間、俺は何も考えられなかった。
何があった?何が起きた?理解が追いつかない…
大治:「・・・っは!!」
大治:暴走車は70m先で木にぶつかり、動きは止まっていた。
その惨劇の軌跡には一体の死体が転がっていた。
それがなんなのか、俺は理解したくなかった。
だが、現実は非情だった。
嗚呼…これは間違いなく俺を助けてくれた人だ…。
皮は剥がれ、肉や骨が露出し、辺りには鮮血が引きずられるように跡を残していた。
大治:「嗚呼……嗚呼……!!俺のせいで人が……!
なんてことだ……!」
大治:俺は目を瞑る。黙祷の意だ。
俺を助けてくれた見知らぬ人への感謝と謝罪の黙祷。
この惨状では生還は期待出来ない……。
大治:「俺のせいで……この人が……死んでしまった……!ごめんなさい!!」
幸菜:「決してそんな事は無いが?
ついでに許す。」
大治:「え?」
幸菜:「なんだ?」
大治:「……あ、貴女は今……あの車に轢かれて……死んでしまったのでは……?」
幸菜:「……確かにあの誰も乗っていないイカれ車に轢かれた、轢き摺り回されたが、
決して死んでしまったわけではないが?」
大治:「……………………は?」
大治:彼女の身体を改めて見る。
服はズタボロだし血飛沫で濡れているが、摩擦で爛れ、剥がれた筈の肌の皮も、
露出していた筈の肉や骨も何事もなく通常通りだ。
幸菜:「な、何をジロジロと見ている。
どうしたんだ。」
大治:俺は夢でも見ていたのかと思ったが、
止まった暴走車の後ろには紅色の液体が絵の具のように悲劇の跡をしっかりと
残している。
……この女性は一体……。
幸菜:「んん……聞いているのか!おい!
恥ずかしいからあまり私をジロジロと見るな!!」
大治:「え、あ、すいません……」
幸菜:「いや、良い……怒鳴って悪かった。
それよりも君、大丈夫?何処か怪我したりはしていないか?」
大治:「え?ああ、大丈夫です!
この通りピンピンと……って、貴女の方が大丈夫なんですか!!?」
幸菜:「はぁ???
私は見ての通り何ともなく大丈夫だろ。
心配する必要は一切無いよ。」
大治:「でも貴女さっき轢かれて!その、血塗れどころじゃない程、
それこそどうあがいても死んでしまう様な怪我をしてたじゃないですか!!」
幸菜:「ん~?あ、あぁ~~~~それは確かに言えてるな~~~~
だが、まぁ、何、気にすることはない。
私は死ぬことは無いんだ。」
大治:「え?死ぬことは無い……?」
幸菜:「そう、死ぬことは無い。
若さゆえの妄言、と思うかもしれないが……
……ただ、その、ちょっと……そ、その前に……」
大治:「……?その前に?」
幸菜:「い、今のうちにこの混乱してる状況から何処か遠くへ離れよう。」
大治:恥ずかしそう、そして踵を返し路地裏に足早に歩を進める。
大治:「え?な、なぜ?」
幸菜:「お前が言ったとおり死んでしまった筈の私がこういう風に現場で
明朗快活元気一杯といった感じで動き回っていては騒ぎになるだろう。
まぁ、もしかしたら遺体消失と騒ぎになってるかもしれないけども。
ん?世間的には消失した事になってる私は身元不明な訳だから死体か?
私の言うことは為になるなぁ~
って、そういった理由もあるが……」
大治:「?」
幸菜:「何よりもさっきの事故で私の服がビリビリのボロボロに
なってしまったから恥ずかしいんだ……!」
大治:「え……?そんなことで?」
幸菜:「そ、そんなことって!君失礼だな!仮にも私はこれでも乙女なんだぞ!
私にも羞恥の感情くらいあるんだよ!!フンだ!!!」
大治:「あ!そ、そうですよね!すいません……。」
幸菜:「あ、取り乱してしまってごめんなさい……。
えっと、その……。」
大治:「……。」
大治:(なんか気まずい……!)
幸菜:「あ、えーっと、ねぇ、この辺って何処か分かる?
よくよく考えたら私この辺りあんまり来ないから分かんないだった。
しかも携帯も……このざまだから、さ……
自分の家がどっちかとか分かんない……。
私、九門町(くもんちょう)ってとこに住んでるんだけど。」
大治:「えーっとクモン町からだとここはちょっと遠いですね。」
幸菜:「そっかー……服、どうしよう……」
大治:「…………えーっとー俺の家すぐそこなんですけど、
一旦そこで落ち着く……というのは……まぁ、無しですよね。」
幸菜:「あ、それ採用。さ、連れてって。」
大治:「あれ、さっきの乙女発言は何処へ?」
幸菜:「あくまでも“仮にも”だから、気にすることはないさ。」
大治:「えぇー……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大治:「……どうぞ、狭い部屋ですけど……。」
幸菜:「お邪魔します。
急で申し訳ないが、君のふk……
そういえば君の名前を聞いてなかった。
私は隈河 幸菜(くまがわ ゆきな)だ。
目の下に出来る隈の“隈”にさんずいに可能の可の“河”に“幸”せに
葉・茎などを食用とする草本類(そうほんるい)の総称の“菜”で
“隈河 幸菜(くまがわ ゆきな)”だ。」
大治:「え、ああ。
俺は次小井 大治(じこい だいじ)です。」
幸菜:「そうか、よろしく。
ジコイくん。
急で申し訳ないが、君の、ジコイくんの服を借りても良いかい?」
大治:「はい、大丈夫です。
ちょうど洗濯したてのがあるんでそれを使ってください。」
幸菜:「ありがとう。
感謝する。」
大治:「………………えーっと……。
聞いていいのかどうか、分からないのですが……。」
幸菜:「私の不死性の事かい?」
大治:「あ、えっ、と……はい。」
幸菜:「良いよ。
私がジコイくんを助けた結果、私のこの体質を見られたんだ。
言ってしまえば自業自得だしね。話すよ。」
大治:「自業自得だなんて……俺はユキナさんに命を助けられた身なのに……。」
幸菜:「…………。
まぁ、その話はとりあえず置いておこう。
さて、私の話をしよう。
正確には、私の不死の身体について、話をしよう。」
大治:「はい……。」
幸菜:「私のこの身体は両親によって、こうなったんだ。
一応前置きしておくけど、私の両親は別に高位の医者だったり、
なんかよく分からない魔法とかを使う人間ではないよ。
両親がやったことは、“ただ願った”だけ。」
大治:「願った……だけ?」
幸菜:「そう、私の両親は嫌に過保護でね。
理由は分からないが、私が死ぬ事を酷く恐れていてね。
幼少の頃は言葉通り何をするにも母か父が必ず付きっきりだった。
そして小学生に上がり、両親が付きっきり、
というのが難しくなった年頃になった辺りから
両親はずっと私の安全というか死なない事を祈り続けていたんだ。」
大治:「……祈るって何に祈ったんですか?
祈る以上、何か、誰か、祈る対象があったって事ですよね?」
幸菜:「何もかもにだよ。
神、仏、動物、自然、人間、無、せとせとらせとせとら……」
大治:「……エトセトラ?」
幸菜:「…………え、エトセトラエトセトラ……。
とにかく何もかもに祈ったみたいだ。
結果、私の身体は不死性を獲得した。」
大治:「そ、そんな大雑把な方法で死を克服したんですか……。」
幸菜:「ああ、不本意ながらね。」
大治:「祈って……それを、叶えたんですか……。
……羨ましいな…………。」
幸菜:「ん?
ジコイくんには何か叶えたい夢か何かがあるのかい?」
大治:「……ええ、まぁ…………。
俺、なんというか、滅茶苦茶不幸体質なんですよ。」
幸菜:「不幸体質?」
大治:「はい。
その、実はさっきみたいな事って、ほぼ毎日あるんですよ。」
幸菜:「さっきみたいな事、というのはジコイくんが轢かれかけたやつ?」
大治:「そうです。
さっきのはさすがに一巻の終わりだと思いましたけど、
あんな感じで事故に逢ったり事件に巻き込まれたり、しちゃうんです……。
それを、失くせたらなぁ……、と思ったんです。」
幸菜:「事件?」
大治:「ええ。
この間バスジャック事件ありましたよね。」
幸菜:「あったね。」
大治:「俺、あれの被害者です。」
幸菜:「え。」
大治:「道に迷ってたおばあちゃんに尋ねられて行き先のバス停に行ったら
バスジャック犯にバスの中に押し込まれて……
おばあちゃんは幸い、そのバスには乗ってなかったですけど……。」
幸菜:「そ、それは大変な目にあったね……。
そういえば、あの事件は偶々乗ってた人が救ったって話だったね。」
大治:「はい。
俺くらいの年齢背丈の男の人でバスジャック犯が持ってた武器にも臆せず、
乗客を守りながら5人のバスジャック犯を倒して拘束したそうです。
まぁ、俺は怖くてずっと下向いてましたけど……。」
幸菜:「しかも警察を呼んで、警察が来たらもうその男性は姿を消していたとか……
今時珍しい影のヒーローみたいな人だね。」
大治:「ええ。そうですねー。
とりあえず、こういう事がよくあるので、それをどうにかしたいですね……。」
幸菜:「そうだね。
それは胃が痛くて仕方が無い体質だ。
…………凄く、羨ましい体質だ……。」
大治:「え?今なんt──」
(ピンポーン)
大治:「おや?」
幸菜:「ん?インターホンが鳴ったね。」
大治:「そうですね。
こんな時間に誰か来たみたい。」
幸菜:「なんだその旗を立てる感じの台詞は。」
(大治、扉を開ける。)
大治:「はーい?」
フエゴ:「やあ、青年。」
大治:「え?どなた?」
フエゴ:「お前らぁ!!コイツを連れていけぇ!!!」
大治:「……え?
うわぁああああああああ!!!」
間。
幸菜:「あれ、静かね……えぇ?
ジコイくん……?
……スゥーーーーーーーーーーーーーー…………誘拐、ってやつ……?」
~~~~~~~~~~~~~~~
大治:「…………こ、ここはどこですか……。」
フエゴ:「見て分からないかァ。」
大治:「目隠しされてて分かりません……。」
フエゴ:「ふむ、それもそうか。」
(大治、目隠しを取られる。)
大治:「…………どこか分かりません……。」
フエゴ:「だろうな。
ここはワタシたちのアジトだ。」
大治:「……えーっと……
何故、俺はここに連れてこられたのでしょうか……?」
フエゴ:「ん~~?
分からないのか?」
大治:「全く分かりません……。」
フエゴ:「この間のバスジャック事件、知ってるよな?」
大治:「え、えーっと……」
フエゴ:「知ってるよなぁ?
お前はあの事件の当事者だったんだからなぁ。
だよなァ?青年。」
大治:「は、はい……あの場に、い、居ました……。」
フエゴ:「やはりな。
やはり、あの時ワタシの部下をボコしたのは、お前なんだな。青年。」
大治:「え゛え゛!゛!゛?゛」
フエゴ:「ワタシは借りをキッチリと返すタイプでねぇ。
こうやってお前をここに連れてきたのさ。
仲間たち全員でボッコボコにする為にね……!」
大治:「な、仲間たちって…………
……パッと見50人以上居る気がするんですけど……」
フエゴ:「ワタシ含め72人だ。」
大治:「ひょ、ひょえぇ~~……」
フエゴ:「準備は良いかァ!!お前らァ!!!」
大治:「まっ!ままままままま待って下さい!!!」
フエゴ:「なんだァ。」
大治:「あっ、あのっ、人違いです!
間違いなく人違いです!!
お、俺、あの事件はただ巻き込まれただけで、
貴方の部下の方をボコボコになんかしてません!!!」
フエゴ:「ああ?人違いだァ??
(部下に向かって)おい、お前が言ってた青年はコイツで間違いないんだよなァ?
……。
そうかァ!間違ってないかァ!!
(大治に向かって)ワタシの信頼を置く部下たちはお前がボコしたヤツだと
言っているぞ??
ワタシを騙そうとしたのかァ?青年!!」
大治:「本当なんですよォ!!!!信じてください!!!!!
俺、あの時、ただ怖くて震えてただけでずっと下向いてたんで、
全然何があったか分かんなかったです!!!!!!
本当です!!本当なんです!!!!」
フエゴ:「まだシラを切るかァ!!
……しかし、青年の声の震え、表情から嘘を感じ取れない……。
どぉいう事だァ……?」
大治:「……ぶ、部下の方が見間違えた……とか……?」
フエゴ:「ワタシの可愛い部下を侮辱するのか貴様ァ!!!」
大治:「ひぇえええええええええええええ!!!!」
フエゴ:「貴様がワタシの部下をボコったやつかどうかなどもう関係無いッ!!
ワタシの部下を虚仮(こけ)にしやがってェ!!!!!
ぶっ殺してやる!!!!」
大治:「理不尽なんだがァ!!!!!」
フエゴ:「自分の不幸を呪うが良い!!!
死ねェ!!青年!!!」
(ピンポーン)
フエゴ:「…………。」
大治:「クッ…………ウゥ…………!」(恐怖で何も聞こえていない)
フエゴ:「……は?
誰だァ!
そもそもここにインターホンは付いてない筈だぞォ!!」
間。
フエゴ:「………………。
……ワタシが見てくる。
この青年を見張っておけェ。」
◇
フエゴ:「……は~~~~い。
どなたァ~~~~?
(部下に向かって小声で)開けろ……。」
(フエゴの部下、扉を開く。)
幸菜:「こんにちは。」
フエゴ:「やあ、可愛いレディ。
こんな所になんの様だい?」
幸菜:「えーっと、友達を探しいて、
なんというかずっとオドオドしてる男の人。」
フエゴ:「……ここにそんな人はいないよォ?」
幸菜:「嘘。」
フエゴ:「なんでそう思うだい……?」
幸菜:「さっき私の友達が連れ込まれるのを見たから。」
フエゴ:「人違いだと思うよ?」
幸菜:「(フエゴの部下に向かって)人違いなの?」
フエゴ:「なんでワタシの部下に聞くんだ?」
幸菜:「……。
(フエゴの部下に向かって)そう、ありがとう。
(フエゴに向かって)人違いじゃないそうよ。」
フエゴ:「(部下に向かって)なんで答えるの?」
幸菜:「さあ、私の友達に遭わせて、或いは開放して。」
フエゴ:「…………分かった……。
さ……お前らァ!!このガキを捕えろォ!!!」
幸菜:「被った猫を脱いだか……!
捕まるかッ……!」
大治:男の部下3人が彼女を捕まえようと近づく。
が、彼女の繰り出した蹴りにより
一人は気絶、一人は骨折、一人は戦意消失。
見事に打ちのめした。
幸菜:「さあ、早く。」
フエゴ:「ぐっ!!よくも!!!
お前らァ!!武器を持てェ!!!
このガキィ!!!殺すぞォ!!!!」
幸菜:「え?武器?殺す?
女の子一人相手に?大人気なくない?」
フエゴ:「だとしてもだァ!!
どの道貴様をここから逃がす気はもうねぇよォ。
悪いがァ、あの青年と共にあの世に逝ってもらうぜェ!!!」
幸菜:「そう。」
フエゴ:「お前ら、武器を、銃を持ったなァ?
さぁー発砲準備ィ!…………ファイアッ!!!」
幸菜:無数の銃弾が私に向かって飛んでくる。
私の手を、足を、胴を、胸を、腹を、顔を、頭を、
私の身体を貫いていく。
銃声の歌声は5分ほど続いた。
フエゴ:「発砲やめッ!!」
間。
フエゴ:「ん~~~~~~~~~~……。
明らかにやりすぎたなァ……まァ、良いィ……
お前らァ!!この死骸を掃除しておけェ!!」
幸菜:「その必要は無いわ。」
フエゴ:「ッ!!?」
幸菜:「私はまだ死ねてない。」
フエゴ:「なにィ!!?」
幸菜:「足らないぞ……。
その程度では私は死ねない!!」
フエゴ:「ふ、ふふふ…………
ふあっはっはっはっはっはァーーーーーーーー!!!」
幸菜:「?」
フエゴ:「くっくっく……
これはこれはァ……君は……あの九つの……面白い冗談だァ……いや、事実の様だが……
可愛いレディ……君の名前は何だい?」
幸菜:「悪漢に教える名前なんて無い。」
フエゴ:「ああァ、そうかァ、それは残念だァ。
ワタシはフエゴ、フエゴ・ラドロン。
この組織のリーダーだ。」
幸菜:「そう、興味無い。」
フエゴ:「これは手痛いなァ……。
さっき銃をぶっぱなしまくったのは謝るよ。
なァ、穏便に話をしないかァ?」
幸菜:「その前に私の友達を開放して。」
フエゴ:「ああ。良いとも。それくらい。
おい、あの青年を開放しろ。今すぐだ。」
大治:「その必要はない。」
フエゴ:「あ?」
幸菜:「え?」
フエゴ:「青年……。
貴様ァ……ワタシの部下をどうしたァ……?」
大治:「ああ、アイツらなら寝てもらっているよ。」
幸菜:(……明らかに雰囲気が違う。)
幸菜:「君、本当にジコイくんなの?」
大治:「そうだ。間違いなく俺はジコイだ。
ただ、君の知ってるジコイ ダイジとはちょっとズレてるけどな。」
フエゴ:「どういう事だァ?
貴様、さっきとまるで雰囲気が違うじゃないかァ……
それこそ、正に……ワタシが探していた男の様じゃないか……」
大治:「その正に、さ。
俺が、アンタが探していた人間さ。」
幸菜:「探してた男?」
大治:「バスジャック事件の時のバスジャック犯をぶちのめした男の事だよ。
それが、俺なんだよ。」
フエゴ:「やはりかァ!!
人違いじゃア無かったかァ!!!」
大治:「まぁ、人違いと言われれば人違いなんだけどな。」
幸菜:「??????」
フエゴ:「??????」
幸菜:「何を言ってるかさっぱりだよ。」
フエゴ:「ワタシを馬鹿にしているのかァ???」
大治:「信じてもらえるかどうか分からないけれども、俺は多重人格なんだ。」
フエゴ:「多重人格ゥ?」
大治:「そう、普段は普通の青年、ジコイ ダイジ。
しかし、ジコイ ダイジは超弩級の不幸体質。
ジコイ ダイジは毎回毎回死に陥る危険があったんだ。
そして、そんな自分を守る為に生まれたのが、この俺。
ジコイ ダイジに降りかかる災厄を振り払う。それが俺の役目、俺の存在理由、俺の生まれたワケさ。」
フエゴ:「ワケさって、なんだその好都合な話ィ。」
大治:「その好都合の生き証明が俺さ。」
フエゴ:「してェ……その生き証明のジコイダイジ君はわざわざワタシたちの前に出てきて何がしたいんだい?」
大治:「決まってるだろ。
悪人は御用だ。」
フエゴ:「そうかァ!!だが銃と拳では多勢に無勢というヤツだァ!!
それとも貴様も不死身なのかなァ?せっかくだから確かめるのもかねてェ……!
お前らァ!発砲準備ィ!!死ぬが良い!!青年!!ファイアァアアアッ!!!」
間。
フエゴ:「………………あれェ?」
大治:「なんともないが?」
フエゴ:「な……何故ッ」
大治:「周りを見な。アンタの部下全員、のびてるぜ。」
フエゴ:「えェ?」
幸菜:「私の事、忘れてたでしょ?」
フエゴ:「クッッッッゥウウウウウウ!!!貴様らァアアアアアアアアアアアアア!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~
大治:「さて、片付いたな。」
幸菜:「そうだね。こんな大勢の人が搬送される光景は中々のものだね……。」
大治:「72人だそうだ。」
フエゴ:「貴様らァ……!覚えとけよォ……!!!」
大治:「ああ、覚えておくよ。
アンタはジコイ ダイジにとって危険だからな。」
幸菜:「私は忘れる。」
フエゴ:「フンッ……!」
幸菜:「……君は本当にジコイくんなの?」
大治:「そうだ。何度も言うが、俺はジコイ ダイジだ。
同時に、違うがな。クマガワ。」
幸菜:「…………。」
大治:「なあ。」
幸菜:「なに。」
大治:「さっき、ジコイ ダイジの不幸体質の事“凄く羨ましい体質”と
言っていたな。」
幸菜:「…………言ったね。」
大治:「それは不死性故にか。」
幸菜:「そうだよ。
その不幸体質があれば、死ねるかもしれないじゃないか。」
大治:「そうか。まぁ、気持ちは分からなくも無いが、やめといたほうが良い。
俺みたいな存在がいないクマガワは、死ねずに不幸が続くだけだろうさ。」
幸菜:「そう……だね……。」
大治:「…………。
そんな顔すんなよ。
互いに、諦めるしか無いさ。」
幸菜:「…………だが、私はこのまま100歳、200歳、1000歳を
過ぎても死ねずに生き続きるしか無いのかもしれないんだ……。
それを想像すると……凄く、怖い……怖いんだ……。」
大治:「そうかもしれないな。
けど、そうじゃないかもしれない。
言ったばかりだが、それも諦めるしか無い。なるようにしかならないさ。
俺もクマガワも、自分の体質とよろしくやっていくしかないんだ。」
幸菜:「うん……。」
大治:「ただ、まぁ、クマガワは自分の事を大事にした方が良いんじゃないか。」
幸菜:「え?」
大治:「何でもないが?」
幸菜:「え??」
大治:「さて、そろそろ本来のジコイ ダイジがそろそろ起きるな。
あとはよろしく。あ、俺の事は秘密で。」
幸菜:「ええ??
あ、倒れた。
…………えぇ……。」
◇
大治:「…………んぁ」
幸菜:「あ、起きた。
やほー大丈夫?」
大治:「え?ユキナ……さん?えーっと、ここは……
えっと、さっきの怖い人は……。」
幸菜:「あー……えっと、撃退したよ。」
大治:「ひょぇええ!?!?
ま、また、助けられっちゃいましたね……。
そ、その、お手数掛けました……ありがとうございます……。」
幸菜:「決してそんな事は無いが?」
大治:「んん?」
幸菜:「大して手間ではなかったからね。」
大治:「……こわっ」
幸菜:「そんな事言わないでよ。
普通に傷つくよ。」
大治:「ご、ごめんなさい……」
幸菜:「いいよ。別に。
あ、ジコイくん。
お願いとお詫びがあるんだけど。」
大治:「え?なんですか?」
幸菜:「あの、また服ボロボロになっちゃったから、服を借りても……
良い……かな……。
あと君の服、ボロボロにしてごめんなさい……。」
大治:「ああぁ…………はい。」
───────────────────────────────────────
END