傲慢稚気の否定話

[台本]傲慢稚気の否定話

世界設定、場面情景

特に変わった事はない何の変哲も無い世界、つまり普通の世界、普通の日常……のはずだった。

突如降りかかった不条理により引き離された仲間たち。覆す事の許されない結末。

だが、そんな事は彼には関係のない話。彼にとってはあってはならない、許されない、覆さずにはいられない結末。

これは九つの砕かれた物語の断片の一つ。一つに戻るその時まで、悲劇は繰り返される。

どんなに足掻いてもハッピーエンドにはならない。

しかし、だからなんだ、だからどうした。僕は認めない。故に僕は──

登場人物

○蜘旗 浩満(くもはた ひろみつ)

高校二年生、17歳、男性

好青年感出してるけども発言の節々が妙に傲慢。そして時に冷酷。

だけど悪い奴ではないし悪気もない。むしろ割と優しくて良い子。

仲良し三人組の一人。主人公。

○最羽 美兎(さいはね みう)

高校一年生、16歳、女性

少し大人びている女性。

儚げで不思議な雰囲気を醸し出しているが、少々残念。

仲良し三人組の一人。

○十原 秀弥(つなしばる しゅうや)

高校三年生、18歳、男性

気さくな皆のお兄さん的人物。

よくふざけるが、三人の中では一番常識人で、なんだかんだで大人。

仲良し三人組の一人。

○フィツァレスト

??歳、女性

突如現れた謎の人物。

機械的に冷静で真面目。

彼女の出現により彼らの人生は歪み始める。

〇フエゴ・ラドロン

26歳、男性

犯罪グループのリーダー。

とある人物を探して過去に。

普段はにこやかというかうざやかだが、部下を馬鹿にされると滅茶苦茶キレる。

蜘旗 浩満♂:

最羽 美兎♀:

十原 秀弥♂:

フィツァレスト♀:

フエゴ・ラドロン♂:

これより下から台本本編です。

___________________________

フィツァレスト:真っ暗な部屋で一人ソファーにもたれ掛かっている青年が一人。

誰に、というわけでもなく唐突に虚空に向かって語りだす。

秀弥:「……何処から間違っていたのだろうか、どうすれば良かったのか、

俺には分からなかった。

本当にこれで、この結果に落ち着いて良いのか。

俺には分からない。だけど、俺はこれで良いんだ。

これで良い。そう、これで良かったんだ……。」

(壁に掛かっている長らくめくられていないカレンダーを見やる。)

秀弥:「だよな……浩満(ひろみつ)……美兎(みう)……

……嗚呼、あの時に戻りてぇなぁ……。」

(応えは返ってこない。)

フエゴ:男は幸せだったあの頃の思い出を反芻する。

時は遡る。

(夏休み前の昼間の学校の一室、謎のボードゲームをやる秀弥、浩満)

秀弥:「なあ、ヒロミツぅー

最近のニュース見てるかー?」

浩満:「見てますよー。

あれですよね。謎の病が流行ったり、人々の奇行が横行したり、

異常気象だったりが頻繁にあるってやつですよね。」

秀弥:「そうそうー。怖いよな~これからこの世界どーなるんだろうなー

……この手でどうだ?」

浩満:「無駄ですよ。

これで、チェックメイトです。」

秀弥:「ぐ……ぐぬぬぬぬ…………ん“に”ゃ“ーー!!また負けたぁ!!

チクショー全っ然勝てねぇ!!

なあ、やっぱこれって必勝法的なのがあんじゃねぇのーヒロミツ~?」

浩満:「ん~~~どうなんですかねー。

別にこのゲーム詳しいワケじゃないので何とも言えませんが、

シュウヤくんが勝てないのは……」

(浩満、立ち上がる。)

秀弥:「?」

浩満:「僕が強いからですよ?」

秀弥:「おうおう!言うじゃねぇかよーこんにゃろ!

生意気なガキは~……こうだっ!」

(秀弥、両手をわきわきしてから浩満に飛びかかる。)

浩満:「ちょっ、やめて!やめてください!アハハハ!アハハハ!くすぐったい!!

ヒィー!フィヒヒヒ!くすぐり殺されちゃう!アハハハハハ!!」

秀弥:「おりゃおりゃおりゃ!」

浩満:「アッハハハハハハハ!!」

(ガラガラガラ。美兎が部屋に入る。)

美兎:「こんにちわー……二人共何やってるんですか……」

秀弥:「おーミウミウー!ちっすー」

美兎:「こんにちわです。十原(つなしばる)君。

……それで、何をやってるんですか。」

浩満:「後輩いじめ!後輩いじめが起きてます!!

ミウさん!先生を!職員を!呼んでください!!イィーヒッヒッヒッヒ!!ああ!

シュウヤくん!本当に死んじゃう!!死んじゃいます!!アハハハハハ!!」

秀弥:「いじめじゃねぇーし!

ヒロミツが生意気なことを言うから誅伐をだな!」

美兎:「あー……いつも通りですね。

クモハタ先輩頑張って下さいね。」

浩満:「あ“―!あ”―!!最羽(さいはね)ェー!!お前ェー!!!」

秀弥:「よそ見してる場合かぁ~~~?こぉ~~~ちょこちょこちょこちょ~~~~~」

浩満:「ウィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!

アハハハハハ!!アハハハハハハハハハハハ!!」

秀弥:こういう何気ない日常が俺は大好きだ。

崩されたくない世界だ。

間。

浩満:「……穢された。」

秀弥:「変な言い方すんな!」

美兎:「っぷ……うふぃひっひっひっひっひっひ!」

秀弥:「っだぁー!笑うな笑うな!」

浩満:「ゲームに負けた憂さ晴らしに……鬱憤の捌け口にされた……」

美兎:「あぁっはっはっはっはっはっはっは!!!!」

秀弥:「さらに爆弾投下してんじゃねぇよ!!」

浩満:「いやーごめんなさい、つい。

ほら、ミウさんもゲラゲラしないで。」

美兎:「ほ、発端は貴方なのに、ヒヒッ、ひぃ~~~~~~

はぁー……ふぅー……」

浩満:「改めて、こんにちわミウさん。」

美兎:「こんにちはクモハタ先輩………………っぷ!ふぅひひwww」

秀弥:「あー……こりゃーダメだなー。」

浩満:「そうですねー。

さて、本題、という訳ではないですが、

来週から夏休みです。」

美兎:「ふふふw……そ、そうですね……。」

浩満:「流石に笑うのもう止めてください。」

美兎:「はーい。善処しまーす。」

秀弥:「来週から夏休み、それがどうしたんだよ?ヒロミツ?」

浩満:「来週から夏休みだと言うのに、僕ら三人での予定が一切立てられていないのです。

とても、由々しき事態です。」

秀弥:「……。」

美兎:「……。」

浩満:「……。」

美兎:「……先輩。夏休みの予定きまってないのが由々しき事態って……

それ本気で言ってます?」

浩満:「勿論。」

秀弥:「マジで?」

浩満:「本気と書いてマジです。」

美兎:「えぇ……。」

浩満:「ん~~~分かってないですねー。

ハッキリと言ってしまいますが、僕らがこうやって

一緒に居られる夏休みは今年が最後かもしれませんよ?

来年、シュウヤくんはもうこの学校には居ない。

進学か、就職か分からないですけど。」

美兎:「……それも、そうですね。」

秀弥:「…………。」

浩満:「でしょ?

だからこそ、今年の夏休みは大事なんです。

だからこそ、由々しき事態なんです。」

秀弥:「なぁ。」

美兎:「?」

浩満:「?」

秀弥:「俺が留年すればまた来年も一緒になれるし、また来年も変わらずじゃね?」

浩満:「えぇ!?!?」

美兎:「それ本気で言ってます!!??」

秀弥:「ん?ああ。本気と書いてマジだが?」

浩満:「やめてくださいよ……。

僕らの為にシュウヤくんが留年とか重すぎますよ……。」

美兎:「そうですよ……。

普通に怖い……。」

秀弥:「?

?????

そうかぁ????」

浩満:「……駄目だこの人。

さ、話を戻しましょう。

まずは──」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

浩満:「──よし、出来ましたね。

最初の一週間で日誌以外の夏季課題全部を終わらせる!」

秀弥:「中頃にウェミダァー!!」

美兎:「海の次は山!」

秀弥:「そしてまたウェミダァー!!!」

美兎:「え?」

浩満:「そして月末の花火大会で夏休みを締める!

完璧ですね!

…………ん?……なんか二回海行ってません???」

美兎:「確実におかしいですよね??」

秀弥:「???」

美兎:「いや、何がおかしいか分からないみたいな顔しないでくださいよ。」

浩満:「山の後は昼にヒマワリ畑と夜に蛍を見に行く、でしょ?」

秀弥:「えぇー海一回じゃ足りないぜぇ!

ヒマワリ畑と蛍鑑賞の次また海行こうぜぇー!!」

浩満:「ま、まぁ、別に良いですけど。」

秀弥:「やったぁ!!ウェミダァー!!!」

美兎:「全く、ツナシバル君は子供ですねー。」

秀弥:「なんだとぉー。海良いだろぉー海―。」

浩満:「そこがシュウヤくんの良さでもありますけどね。

ま、無理して僕みたいに大人な人間になる必要も無いですよ。」

秀弥:「何言ってんだお前。」

美兎:「ここは先輩の夢の中なんですかね?」

浩満:「え、何その表現。

寝言は寝て言えって事???」

美兎:「丁寧に説明しますね。」

秀弥:「とりあえず課題やる!海!山!向日葵と蛍!海!花火大会!だな!!

なあ、ミウミウ!予定表に書き込むからペン貸してくれ!」

美兎:「良いですよ。」

秀弥:「サンキュ!」

浩満:「あ、シュウヤくん?ちゃんと課題やってくださいね?」

秀弥:「わーってるよぉ。」

美兎:「あ、もうこんな時間じゃないですか。

帰りましょうよ。」

浩満:「それもそうですね。」

秀弥:「おう!

しゃあー!!来週からエンドレスパーティーだぜ!」

~~~~~~~~~~~~~~~

美兎:「じゃあ、私こっちなので、クモハタ先輩、ツナシバル君、また明日。」

秀弥:「ミウミウじゃあなぁー!!」

浩満:「ミウさんまた明日―。」

美兎:「…………楽しいな。毎日が……。

ずっとこうやって続いたら良いなぁ……。

クモハタ先輩とツナシバル君と私……ずっと……ずっとずっと一緒に……。」

フィツァレスト:「最羽 美兎(さいはね みう)。」

美兎:「え。」

(美兎、声の方を向く。)

フィツァレスト:「やっと見つけました。」

美兎:「フィツァレスト……!」

フィツァレスト:「帰りましょう。サイハネ ミウ。」

美兎:「……。」

フィツァレスト:「どうしたのですか?アナタの家族も待ってますよ。」

美兎:「嘘、つかないでください。

私の家族って、誰が居るっていうですか。」

フィツァレスト:「アナタの姉は、アナタの帰還を望んでいます。」

美兎:「ッ!」

フィツァレスト:「何故、そんなにも拒むのですか?」

美兎:「そんなの決まってッ!!──」

秀弥:「おぉーい!!ミウミウー!!!

ペン返すの忘れてたァー!!」

(美兎の後方から秀弥が走ってくる。)

フィツァレスト:「?」

美兎:「ツナシバル君!」

フィツァレスト:「ミウミウ……?ツナシバルクン……?」

秀弥:「……っと……あー……えーっと……こんちゃぁっす。」

フィツァレスト:「……こんばんは。」

美兎:「……。」

秀弥:「(小声)なあ、この人、ミウミウの知り合い?」

美兎:「えっと、まぁ、はい。そうかな。」

フィツァレスト:「そこのアナタ。」

秀弥:「えっ、お、俺っすか?」

フィツァレスト:「はい、アナタです。

アナタはサイハネ ミウとはどういう関係なのですか?」

秀弥:「え、どういう関係、って言われたら……」

美兎:「……。」

秀弥:「親友っすね!

俺とミウミウと、あともう一人、その三人で

いつも一緒に居るこの町、いや、この世界で一番仲良しな三人組で親友っす!」

美兎:「ツナシバル君……。」

フィツァレスト:「親友……。

…………サイハネ ミウ、質問なのですが、

アナタこの時代に来てからどれくらい経ちましたか?」

秀弥:「時代……?」

美兎:「え……?

えっと、5年くらいです。」

フィツァレスト:「5年……ふむ、タイムジャンプの際、大きくズレてしまった様ですね。」

美兎:「ズレ……?」

フィツァレスト:「私はサイハネ ミウがタイムジャンプしてから三日後から来たのです。」

美兎:「……。」

フィツァレスト:「5年ですか……その5年間に様々な人間関係を構築したのですね。

分かりました。1週間です。

1週間で皆に別れを告げてください。」

美兎:「え……一週間……だけ……」

フィツァレスト:「これでも譲歩した方です。

分かっているでしょう?サイハネ ミウはこの時代に居てはならない、と。

“アナタの大切な親友の為”にも」

美兎:「……。」

フィツァレスト:「では、一週間後に、さようなら。サイハネ ミウ、ツナシバルクン。」

美兎:「…………。」

秀弥:「……な、なあ、さっきのどういうことだよ。」

美兎:「えっと……その…………

私、この時代から遠い未来から来たの。」

秀弥:「は?未来??

それ、マジで言ってんの???……冗談だよな?」

美兎:「……本気と書いてマジだよ。」

秀弥:「…………マジかよ。」

美兎:「……詳しいことは明日、クモハタ先輩も交えて話そう……。

じゃあ、また明日……。」

秀弥:「おい……!待て!美兎!!」

(秀弥、美兎の腕を掴む。)

美兎:「……!」

秀弥:「今話せ。」

美兎:「…………。」

秀弥:「……。」

秀弥:「……わーったよ……。

…………また明日な。」

(秀弥、手を離す。)

美兎:「うん……ありがと」

(美兎、去る。)

秀弥:「…………クソッ」

(フエゴ、影から二人のことを見ながら)

フエゴ:「……なるほどォ……面白い事が聞けたなァ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~翌日、朝、学校~

浩満:「……。」

秀弥:「……」

美兎:「……。」

浩満:「……本当、なんですか?」

美兎:「……はい。

私、未来人なんです……。

家族が…………その、嫌で家出した際にきまぐれでタイムマシンを使ってこの時代に来ました……。」

浩満:「それはどうでもいいです。」

美兎:「え。」

秀弥:「え。」

浩満:「あと一週間って……夏休みどうするんですか?」

秀弥:「そこなのか?」

美兎:「先輩色々ズレてませんか???」

浩満:「え、ズレてないよ。

重要です。とても重要ですよ。

ミウさんが未来人だからなんなんですか。

たとえ過去人……?うわっ。語呂悪。古代人だとしても未来人だとしても

ミウさんはミウさんでしょう。

未来か過去か現代なんてクッソどうだっていいです。」

美兎:「先輩……。」

浩満:「それよりも、せっかく昨日建てた予定が駄目になるのは嫌です。

シュウヤくんとミウさんと過ごす夏を邪魔されるのは度し難い事です。

許せません。許しませんよ。」

秀弥:「“度し難い”とか今日日聴かないな……。

……だけどよ……どうするんだよ。

許せねぇって言ってもどうしようもねぇだろ。

ミウは、帰らねぇといけねぇんだろ?」

美兎:「……そう、ですね。

多分、そうなんです。

私の時代からわざわざ人が来て帰ってこいって言ったんです。

私の帰還を待っている、と……」

フィツァレスト:『これでも譲歩した方です。

分かっているでしょう?サイハネ ミウはこの時代に居てはならない、と。

“アナタの大切な親友の為”にも』

(美兎、フィツァレストの言葉を思い出し、無理に笑う)

美兎:「なので……なので!帰るべき、なんですよ。」

浩満:「帰るべき、ってなんなんですか。

大事なのは──」

(学校の予鈴が鳴る。)

美兎:「……予鈴が鳴りましたね。

また後で、この話はしましょう。」

(美兎、去ろうとする。)

浩満:「また後でって……!

なんですか……!!」

美兎:「……!」

(浩満、美兎の手を掴む。)

秀弥:「ヒロミツ……?」

浩満:「逃げましょう。」

美兎:「え?」

浩満:「逃げましょう。貴女を連れ去ろうとする輩から。」

美兎:「はァ!?ななななにッ何言ってるんですか!?」

浩満:「拒否権は無いです。行きましょう。」

美兎:「逃げるって言ったって!学校とかどうするんですか!!」

浩満:「え?……ああ。

ちょっと待ってくださいね。」

(浩満、美兎の手を掴んだまま携帯を出し、どこかに電話する。)

浩満:「もしもし、先生?僕です。

少しお願いが……」

秀弥:「え??ヒロミツ??誰に電話かけてんの???」

浩満:「しっ。

……。

……ありがとうございます。

では、そういうことで。」

(浩満、電話を切る。)

浩満:「学校の問題はもう無いです。」

秀弥:「え……お前何やったの……。」

浩満:「秘密です。さ、シュウヤくんも。」

(浩満、秀弥の手も掴む。)

秀弥:「俺もなのか!?」

浩満:「当然ですよ。話の流れから考えて。

空気読めないですね~。」

美兎:「クモハタ先輩!本当に何やったんですか!」

浩満:「秘密です。

……強いて言えば、この世界は僕の思い通りになる様に出来てるってだけですよ。」

美兎:「……そんな横暴で傲慢な道理があって良いんですか……ね。」

秀弥:「さあ、でも……あるんだな……。」

浩満:「ほおら!二人とも!着いて来てください!」

~~~~~~~~~~~~~~~~

~町内某所~

美兎:「……ねぇ、先輩……逃げないので手を離してくれませんか?」

浩満:「イヤです。さ、着きましたよ。」

美兎:「……ここは……廃工場?」

浩満:「ここは僕の秘密基地──」

美兎:「秘密基地……。」

浩満:「──No.22です。」

秀弥:「22!?

お前秘密基地いくつあんだよ!?」

浩満:「72箇所ですね。」

秀弥:「72って……この街そんなに隙あんのかよ……。」

浩満:「まぁ、詳しいことは秘密です。

さて、ここに来た理由ですが、ここにはもしもの時の為に

様々なものが置いてます。」

美兎:「様々な、て……もう流れ的に察するにやっぱり何でもあるんですね……。」

浩満:「どうでしょう?

まぁ、何でもは無いですよ。

あるのは震災時の常備食や備品がここにはあります。」

秀弥:「意識たけえな。」

美兎:「つまり、一週間の食料の調達ですか?」

浩満:「いえ、お金を取りに来ました。

僕の意識の高さを見せつけただけです。」

美兎:「なんだコイツ???」

秀弥:「なんだコイツ???」

浩満:「蜘旗 浩満(くもはた ひろみつ)です。」

(秀弥、美兎、同時に。)

秀弥:「そんなことは聞いてねぇ!!」

美兎:「そんなことは聞いてないです!!」

浩満:「まぁまぁ。とりあえず。

これで10万円あります。

3人で1週間、10万円、まぁ、余裕です。

寝床は僕の秘密基地を使えば解決ですし、食事もまぁ、大丈夫でしょう。

服は各自でどうにかすればいいですし。」

秀弥:「急に雑だな。」

浩満:「まぁ、重要なのは美兎さんを連れ去ろうとする輩から逃げるのがメインであって、

衣食住についてはどうでもいいですし。」

美兎:「……逃げるって言ったって……どうするんですか?」

浩満:「まだ、考え中です。

とりあえず、服とかを家から持ってきましょうか。

僕はミウさんの家まで着いていこうと思います。」

美兎:「え?」

浩満:「シュウヤくんはどうします?」

秀弥:「んぁ?俺か?

俺は……俺は一旦家に帰るわ。」

浩満:「分かりました。

じゃあ、また後でここに集合しましょう。」

美兎:「ちょっ、私の意見は?」

浩満:「なんですか?」

美兎:「家まで着いてくるって……私にも乙女心というものが──」

浩満:「知りませーん。」(美兎の台詞に被せる様に)

美兎:「くぅッ!!コイツゥ!!!てか好い加減手を離せェ!!!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~道中~

美兎:「どういうつもりですか……。」

浩満:「どういうつもりとは、どういうことですか?」

美兎:「私は帰るべきなんです。

だから、彼女が、フィツァレストがこの時代に来たんです。」

浩満:「……さっきもそれ言ってましたが、“帰るべき”ってなんですか?

大事なのは君の、美兎さんの気持ちの方でしょう?

ミウさんは帰りたいんですか?」

美兎:「それは……」

浩満:「家族が嫌で家出したと言っていましたが、何が嫌だったかとかは聞きません。

だけど、嫌でわざわざ時代を超えてまでの家出、

早々帰りたいとは思わないと思います。」

美兎:「早々って……家出してからもう5年経ってるんですよ?」

浩満:「いえ、たった5年です。

人の負の感情はたかが5年では……

……いいえ、100年、200年、1000年、

……いいや、何度生まれ変わったって拭えないモノです。

それは未来でも現代でも過去でも変わらないハズです。」

美兎:「……。」

浩満:「自分に嘘を吐く必要はありません。

帰るのが嫌なら嫌、と言って良いんです。」

美兎:「…………でも……」

フエゴ:「少年少女の痴話喧嘩かァい???

こんな真っ昼間にお若いねェ~~~」

(フエゴ、現れる。)

美兎:「?」

浩満:「……貴方は?」

フエゴ:「ああ、失礼ィ。少年。

ワタシはフエゴ・ラドロン。

なァ~~~に、別段特に何かあるわけでもないおじさんさァ。」

浩満:「おじさんというよりお兄さんって感じには結構若そうに見えますが、

僕らに何か用ですか?

道を聞かれても答えられませんよ?」

フエゴ:「ハッハッハァー!嬉しい事を言ってくれるねェー少年。

なァに、ワタシはそこのサイハネミウ嬢と話がしたくてねェ。」

美兎:「私?」

フエゴ:「そう、キミだ。

実は、ワタシもこの時代よりうゥ~ンと先の時代から来た人間なんだよォ。」

浩満:「……ッ!」

(浩満、美兎の手を握り、自分の後ろに隠すようにフエゴの前に立つ。)

フエゴ:「おおっとぉ、そんなに構えるなよォ。少年。さながら騎士様って感じだねェ。

別にサイハネミウ嬢を連れて帰ろうとかそんなことは考えちゃあ居ないさァ。

ただ、ワタシはサイハネミウ嬢の姉、ヒマリの知り合いなのさ。

まぁ、知り合いというかァ、恋人?なんだけどねェ。」

美兎:「……!日葵(ひまり)姉さん……」

浩満:「……。」

フエゴ:「ああァ、ヒマリネエサンさァ。

ヒマリはキミの事を心配してたよォ。

だけど同時に、キミが楽しくやっているのならァ?、それもまた良し、と言っていてねェ。」

美兎:「……。」

フエゴ:「それで、ここで相談なんだけどォ、

ワタシがキミたちに協力してフィツァレストの──」

浩満:「待ってください。」(フエゴの言葉を遮る様に)

フエゴ:「……なんだァい?少年。」

浩満:「何故、僕らの事情を知ってるんですか?」

フエゴ:「……それはァヒマリから聞いt──」

浩満:「嘘ですね。」

フエゴ:「……何故、そう思うんだい……?」

浩満:「ミウさんのお姉さんから聞ける情報で、どうやって僕らの状況が分かるんですか。

協力って、なんの協力ですか。

貴方がミウさんのお姉さんの恋人、或いは知人であることは多分嘘では無いでしょう。

ですが、それ以外は嘘っぱちですね。」

フエゴ:「……キミ、賢いねェ。」

浩満:「賢くて当然です。」

フエゴ:「だけど、ワタシの話に乗った方が身のため、だよォ?

賢い少年だけど、ワタシ一人しか居ないと思っちゃうのは賢くないねェ。

分かるかい?キミたちは包囲されているんだよォ?」

(浩満、美兎、フエゴを囲む様に大勢の人間が現れる。)

美兎:「……!先輩……!」

浩満:「……。

……どんな先の未来でも数の暴力は圧倒的有効手なんですね。」

フエゴ:「ああ、その通りだよォ。

人間、いィやこの世の万物の真理の一つさァ。」

浩満:「………………。

分かりました。まず、話を聞きましょう。

協力って何をしてくれるんですか?」

フエゴ:「こんな不利な状況で臆さず冷静に凛としていられるのは素晴らしィ。

安心してくれェ……友好な関係を保証しよゥ。」

浩満:「ええ、それをお願いしたいですね。」

フエゴ:「さァて、ワタシの具体的な目的は、フィツァレストの邪魔だ。

ヤツの思い通りにならなければそれで良ィ。」

浩満:「それによる貴方のメリットはなんですか?」

フエゴ:「メリット?ふむ、損得勘定じゃアないよォ。

ただの、私怨さァ。

いや、ワタシの気分が晴れるというかァ、少しスカッとするというメリットがァある。」

浩満:「なるほど、私怨ですか。

まぁまぁ、信用できますかね。」

美兎:「私怨って、どういうことですか。」

フエゴ:「ん~~~?

フィツァレストはヒマリのお気に入りでねェ。

時折、ワタシに構ってくれないんだァよォ~。

だから、ヒマリがフィツァレストに失望してくれると嬉しいなァと思ってねェ。」

美兎:「…………下衆な考えですね……。」

フエゴ:「……良い目だねェ。ヒマリにそっくりだァ。

ヒマリそっくりなミウ嬢の安全を保障しよゥ……。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(そのころ秀弥の方では)

秀弥:「──それは本当なのか!?」

フィツァレスト:「真実です。

だからお願いします。

サイハネ ミウを説得してください。」

秀弥:「くそっ!」

フィツァレスト:「……。

アナタたちとの約束を破る形になってしまったのは、

        私の落ち度です。申し訳ございません。」

秀弥:「……。」

フィツァレスト:「……ですが、脅かされるのは、貴方の日常なのですよ。ツナシバル シュウヤ。」

秀弥:「……一つ、頼みがある。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~

(同日、夜、秘密基地No.22にて)

浩満:「僕と美兎さん戻りました。」

秀弥:「……。」

浩満:「シュウヤくん……?」

秀弥:「……おう、遅かったな。」

美兎:「すいません。」

秀弥:「いいよいいよ……。

……なあ……お腹空かね?飯食いに行こうぜ~。」

美兎:「ああ、確かに、お腹空きましたね。良い提案だと思います。」

浩満:「では、ファミレスにでも行きましょうか。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(同日、夜、町内某所にて)

フエゴ:「よォ!フィツァレストォ。」

フィツァレスト:「ん……貴方は……」

フエゴ:「ワタシの名前はフエゴ──」

フィツァレスト:「フエゴ・ラドロン。

犯罪組織“バンデラアラニャ”の若きリーダー。

……そして最羽 日葵(さいはね ひまり)の恋人。

存じております。」

フエゴ:「……ああァ!知っていたかァ!

じゃァあ~なんだァ!貴様の目的はもしかしてワタシを捕らえる事かァ??」

フィツァレスト:「いいえ。違います。」

フエゴ:「ハんッ!それは良かったよォ。

じゃあァ……そうゥ……ところでェ……ところで、だァ。

アンタァ、なんでこの時代に居やがるんだァ??

もしかして観光かなんかかァ?違うよなァ??」

フィツァレスト:「いいえ、それも違います。

そうですね。言ってしまえば、私は世界を、人類史を救う為に

この時代に来ました。」

フエゴ:「それはまァ、大層な事でェ……嘘も大概にしろォ。

少女一人を元の時代に戻すだけで世界を救う事になるのかァ?

ならないよなァ???

さァてはァ、あの少女、何かあるなァ……?」

フィツァレスト:「……貴方、やはり私がこの時代に来ている理由知っているのですね。

まぁ、それは良いでしょう。

彼女自身には別に特別な何かはありません。普通の一般人です。

そして、彼女を元の時代に返す事が世界を救う事に直結します。」

フエゴ:「はァ?w

まだ嘘を貫くのかいィ???らしくないじゃあないかァ。」

フィツァレスト:「ハァ……事態の重さを理解出来ていない様ですね。

では質問です。フエゴ・ラドロン、貴方の恋人の名前、顔、

分かりますか?」

フエゴ:「はあァ????

貴様ァ、さっき自分で名前言ってただろうがァ。

大丈夫かァ???時間遡行の影響で頭駄目になっちまったんじゃないかァ?

メディカルチェックはしっかりしないと駄目じゃアないかァ。」

フィツァレスト:「私の質問に答えてください。」

フエゴ:「ハッ!!答える必要も無いねェ!!

何だか知らんが何か理由があって話を逸らしているようd──」

フィツァレスト:「私の質問に答えなさい。」(フエゴの言葉を遮る様に)

フエゴ:「……分かったよォ。

ワタシの恋人の名はァ……──」

間。

フエゴ:「─……ッ!

お、思い出せないィ……!いやッ、出でこなィ!?彼女の名も!彼女の顔も!!

……ッ!どういうことだァ……!

どういうことだァア!フィツァレストォ!!

貴様ァ!ワタシにッ、俺に何をしたァ!!!」

フィツァレスト:「私は何もしていません。

誰が貴方に何をしたのかと聞かれたら、

詰まる所、世界が貴方の、いえ、人類史の改竄を進めているのです。」

フエゴ:「人類史の……改竄……!!」

フィツァレスト:「このままだとフエゴ・ラドロン、

貴方の元の時代に居る部下たちの記憶や関係も

改竄されますよ。

いえ……それだけでは済まないでしょう。」

フエゴ:「なっ……なんだとォ……!!」

フィツァレスト:「貴方も協力してください。」

フエゴ:「……!

きィさまァ……!…………クッ……!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~

(同日、夜、ファミレス)

浩満:「……へぇー……ここかぁ……ここが彼らの……。」

秀弥:「ん?どうしたんだよ。スマホ見て何ニヤついてんだよ。」

浩満:「いえ、なんでもないです。」

美兎:「ん~~~美味しい~~~~~♪」

浩満:「あはは、美兎さんはハンバーグが好きですねー」

美兎:「はい!大好きです!」

秀弥:「可愛い所あるよな~~~」

美兎:「あ……えへへ……

……その……私の時代にハンバーグとかって無いんですよ。

それで、初めてこの時代に来て食べて凄く感動したんです。」

浩満:「なるほど、第一印象の強さによって大きく好みに影響する、

ファーストインパクト現象ですね。」

秀弥:「へぇ~そんな現象があるんだな~」

美兎:「私も初めて知りました。」

浩満:「嘘です。そんな現象存在しませんよ。」

秀弥:「ざけんな!」

美兎:「まぁ~たクモハタ先輩がふざけたこと言ってますよー。」

浩満:「会話の潤滑剤ですよ。」

美兎:「いや、会話若干止まったんですけど、潤滑剤できてないんですけど。」

秀弥:「そうだぞ~会話下手か?ヒロミツお前コミュ障か?お?」

浩満:「はは、まぁまぁ、いいじゃないですか。

まぁ、なんというか、こんな形ですけど美兎さんが未来人だと知ったおかげで

ハンバーグに関してのエピソードを聞けて良かったです。」

秀弥:「……なあ、俺らが仲良くなったきっかけ、覚えてるか?」

美兎:「覚えてますよ。勿論です。」

浩満:「そういえば、5年前でしたね。」

美兎:「はい、迷子だった私をクモハタ先輩とツナシバル君が見つけてくれたんですよね。」

秀弥:「ああ、そうだな。

だけど、迷子になった女の子が未来人だったってのは驚いたぜ~

……ん?なあ、そういえばさぁ、ミウミウのこの時代の家族って何者なんだ??

   そういやフツーに父ちゃんも母ちゃんもいたよな??なんなら姉ちゃんも。」

美兎:「ああ、えーっと、まぁ、なんという、未来の超技術でちょっと……ね……

その、たまたま同じ姓の最羽家の皆さんを洗脳して……」

秀弥:「やべぇやつじゃん!!」

浩満:「……こぉわぁ~……もしかして僕らも……」

美兎:「してません!してません!!二人にそんなことしませんよ!!!!!!!!

大丈夫です!!してませんから!!!」

浩満:「まぁ、この僕が洗脳なんてちゃっちぃものにかかるはずないですからね。

信じましょう。」

美兎:「ご、傲慢ですねー……でもありがとうございます。」

秀弥:「でもまぁ、俺たちなんだかんだよく分からないまま仲良くなったよなー。」

浩満:「まぁ、僕が三人仲良くなりたいと思ったからですかねー」

秀弥:「なんだぁ?自分のおかげ~とでも言いたいのか~??」

浩満:「違いますよ。仲良くなりたいと思って行動して、

そして二人もそれに歩み寄ってくれた。

こればかりは僕だけではどうにもならない。なんなら奇跡だと思ってます。」

秀弥:「奇跡って、そんな大袈裟な~」

浩満:「大袈裟なんかじゃないですよ。

こんな僕に、こんな素敵な友達が二人もできるなんて……やっぱり奇跡です。」

美兎:「先輩……」

秀弥:「……お前がそんな事を考えてるなんて、らしくないじゃねぇかよー」

浩満:「いえ、僕は常にそう考えてるし、思ってます。」

秀弥:「ヒロミツ……お前……ちょけやがって~~~!!」

浩満:「ちょけてません!大真面目です!」

美兎:「……アハハ

……そういう風に言ってもらえるの、嬉しいですよ……!」

間。

美兎:「……私、帰りたくないです……この時代に……先輩たちと一緒が良いです……」

浩満:「ミウさん……」

秀弥:「……ッ!

おい……ヒロミツ……!なんか周りの客おかしくねぇか……?」

浩満:「…………そうですね……。

なんとなくここから逃げた方が良いかもしれませんね。」

美兎:「え……!まだハンバーグ食べてる途中なのに……!」

浩満:(フエゴとかいう奴……早速協力関係とやらを崩してきたみたいですね……)

秀弥:「どうする、ヒロミツ。」

浩満:「何食わぬ顔で会計を済ませて逃げましょう。良いですね。」

美兎:「くっ……!まだハンバーグ食べ終わってないのに……!

……わかりました。」

秀弥:「よし、じゃあ行くか……!」

浩満:「お会計カードでお願いします!返却はまた今度で!!!」

美兎:「そんな“お釣りは結構”みたいなノリで!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(同日、夜、???にて)

美兎:「め、滅茶苦茶追ってきてます!!」

秀弥:「おい!ヒロミツ!どこに逃げんだよ!!」

浩満:「こっちです!!」

美兎:「ここは……?」

浩満:「良いから!早く!」

秀弥:「ここ本当に大丈夫か!?」

浩満:「大丈夫です。この先を進めばこの建物から出れるはずです!」

美兎:「し、信じますからね!」

浩満:「シュウヤくん、ミウさんを頼みますよ。」

秀弥:「おう!……は?ヒロミツ?」

美兎:「クモハタ先輩……?」

浩満:「ここは僕が食い止めます。

さあ、早く。」

美兎:「そんな……!死んじゃいますよ!

アイツら本当に人殺しそうな勢いだったじゃないですか!

駄目です!駄目ですよ!!」

浩満:「大丈夫です。僕は死にません。

また後で、会いましょう。美兎さん。

そして、楽しい夏休みを過ごしましょう。」

美兎:「クモハタ先輩……!」

浩満:「……改めて、ミウさんをお願いします。シュウヤくん。」

秀弥:「……おう……分かった。絶対に死ぬなよ、ヒロミツ。

行くぞ!ミウ!」

美兎:「…………はい!」

(美兎、秀弥去る)

浩満:「さて、そろそろ……」

フエゴ:「やァ!少年!そんな高いところでどうしたんだァいィ!!」

浩満:「御機嫌よう!フエゴさん!

どうかしたんですかー?」

フエゴ:「いやァ~~~キミたちが逃げていくものだから追いかけてきたんだよォ。

どうして逃げるんだァ~い?

ミウ嬢はどうしたんだい???」

浩満:「追ってきたから逃げたんですよぉー!

ミウさんの場所は秘密ですー!!

貴方たちにミウさんは渡しませーん!!!」

フエゴ:「そうかァ!!じゃあ貴様をお仕置きして居場所聞きだす事にするかァ!!

お前らァ!ヤツを捕らえろォ!!」

浩満:「話し合いをしましょう!!」

フエゴ:「嫌だァ!!!話し合いはしなァい!!!!

お前は知らないだろうから教えてやるよォ!!

ここはなァ!ワタシたちの根城にしている場所だァ!!!」

浩満:「そうなんですねー!!!

じゃあ、貴方たちは知らないだろうから教えてあげまーす!!

ここはぁ!!僕の秘密基地No.66なんですよー!!」

フエゴ:「ああァ????

ハッ!!コケオドシは通用しねぇよォ!!!」

浩満:「虚仮威し(こけおどし)かどうか確かめてみましょうかー!

そうですねー……じゃあ、ここー!」

(どこからか何か落ちる音と悲鳴が聞こえる。)

フエゴ:「……ッ!!

どうしたァ!!!何があったァ!!

何ィ!?上からコンテナが落ちてきただとォ!!!??

貴様ァ!!何をやりやがったァ!!」

浩満:「自己防衛です!

僕お仕置きされるの嫌なんでえー!!」

フエゴ:「~~~~~~~~~ふざけやがってェ~~~~~~!!!

お前らァ!銃を持てェ!!発砲準備ィ!!」

浩満:「撃つのもやめておいた方が良いですよ。

よく見てください。よぉ~く見るとワイヤーが張り巡らされてるいるんですよ。

発砲してもここまで届かないですし、もしかしたらワイヤーが切れて、

さっきみたいに殺戮機構が発動しちゃうかもしれませんよー?」

フエゴ:「くっ!……発砲準備やめッ!!」

浩満:「殊勝な判断です。

さっきの態度から察するに……ふふふ……

貴方の大切な仲間たちを守る為にも、大人しくしててくださいねー。」

フエゴ:「このガキィ!!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(そのころ、秀弥、美兎の方では)

美兎:「ツナシバル君!私たち、どこいくの!!」

秀弥:「……良いから、着いてこい。」

美兎:「ツナシバル君……?」

(美兎、足を止める)

秀弥:「……どうしたんだよ、ミウ。」

美兎:「……それはこっちの台詞だよ。ツナシバル君。

なんか怖いよ……?」

秀弥:「……。」

フィツァレスト:「サイハネミウ。」

美兎:「え……?フィツァレスト……?」

フィツァレスト:「ツナシバル シュウヤ、ありがとうございます。」

秀弥:「……。」

美兎:「え?……つ、ツナシバル君……?なんで……?

それに、フィツァレスト、帰還するのは一週間後だって……」

フィツァレスト:「事情が変わりました。」

美兎:「え……?」

秀弥:「……。」

フィツァレスト:「まず、事情を話しましょう。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

浩満:「さて、話をしましょう。

何故、気が変わったのですか?」

フエゴ:「……それはワタシの愛する人、愛する部下を守る為だァ!!」

浩満:「愛する人?それは■■■さんの事ですか?」(■■■は無音でも雑音でも良い)

フエゴ:「くっ……!そうだァ!!

ワタシには貴様が放った人の名前が聞こえなイ!

いィやァ、認識出来なくなっているゥ!!

記憶も改竄が進み、今にも消え失せてしまいそうになっているんだァ!!」

浩満:「記憶の改竄?

それはどういうことですか?

何者かに記憶を弄られているのですか?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

フィツァレスト:「いいえ、弄られているのではありません。

修正されているのです。」

美兎:「どういう……ことですか?」

フィツァレスト:「サイハネ ミウ、アナタはご自分の姉の名前が分かりますか?」

美兎:「え……?■■■姉さん……?」

フィツァレスト:「……私にはその名を認識出来ませんし、もう朧気なのです。

そして何者かに記憶を弄られたのかと聞かれたら、

世界によって記憶、いえ、記録の改竄が行われています。」

美兎:「何故、そんなことが……」

フィツァレスト:「何故か、と言われると、アナタの存在がこの時代に馴染んでしまったからです。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

浩満:「馴染んだから、なんだというんですか。

説明が足りません。」

フエゴ:「パラレルワールド、或いは平行世界というのを聞いたことがあるか少年?」

浩満:「……はい、聞いた事があります。

詰まる所、今いる僕の世界とは違う世界線の事、でしょう。」

フエゴ:「少年は物知りで助かるなァ。

ミウ嬢がこの時代に来た事で、

この時代にミウ嬢がいない本来の世界線、正史と、

この時代にミウ嬢がいる世界線の二つの分かれる、

それで終わりのハズだ。

だがなあァ、少年。

ワタシたちの時代ではパラレルワールドというモノは存在しないと分かったんだよ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~

フィツァレスト:「正確には、存在し“続けられない”ですが、

正史じゃない方の世界線は次期に消失していくのです。

特異点として、一時的に存在するだけで何かする必要はありません。

しかし、消えなかった。

理由は──」

美兎:「……私がこの時代に存在し続けた……から……。」

フィツァレスト:「……その通りです。

私たちのタイムマシンのシステムは例えるならば自分の時代を自身の船とし、

他の時代を別の船と仮定し、タイムマシンをアンカーポイントとする事で

二つの時代を繋げ、行き来出来るようにしています。」

美兎:「そう……なんですね……。」

フィツァレスト:「アナタがこの時代に存在する限り、二つの時代は繋がりっぱなしです。

そして5年、その時間の流れがアンカーポイントを定着させてしまいました。

この特異点が未来の正史の世界線の繋がった影響で、

本来のこの時代の世界線ではなくこの特異点を正史だと、

世界は認識し始めた様です。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

フエゴ:「それにより、世界は辻褄合わせを始めた。

サイハネミウが存在することで影響したワタシたちの時代までの辻褄合わせをねェ。」

浩満:「一人の女の子が世界に影響するものがそんなに大きいとは思えませんが。」

フエゴ:「”バタフライエフェクト”、”風が吹けば桶屋が儲かる”、ってえヤツだよォ。

ちょっとした要因を軽く考えるは非常によろしくないぞォ。少年。

まァ第一ィ、 ミウ嬢という存在はかなり大きなファクターになりかねない。

ミウ嬢という存在により、人類はより早く時間遡行の技術を手にするかもしれないからなァ。

案外、そういう辻褄合わせが起こっている可能性は非常に大きィ。」

浩満:「そうですか。それは大変ですね。」

フエゴ:「おォうゥ!理解してくれたかァ!少年!事態のヤバさをォ!!

さあァ!世界の為にワタシたちは協力しあおゥ!!

大丈夫だァ!ミウ嬢と離れ離れになっても心はァ通じ合ってるハズさァ!!!」

浩満:「貴方たちは大変かもしれませんが、僕には関係ありませんよ。」

フエゴ:「……何ィ??」

浩満:「そうかぁーこの世界は正史じゃないのかー

そして、このまま行けば僕と美兎さんと秀弥くんが仲良く過ごせるこの世界線が

正史となる……僕にとってはその方が良い事尽くめじゃないですか。」

フエゴ:「貴様ァ……正気かァ……?」

浩満:「正気ですよ?

結局、しわ寄せがあるのは貴方たち未来の方であって、

僕らには何にも損は無いじゃないですか。

僕はこのままで一向に構いませんもの♪」

フエゴ:「ハッ!!考えが甘いぞォ!少年!!

この時代、この世界にもしッッッッかりとしわ寄せが来ているゥ!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

美兎:「この時代にも……異変が……?」

フィツァレスト:「はい、この事に関してはむしろ、アナタたちの方が知っていると思います。」

美兎:「え……。

………………。……!」

秀弥:「謎の流行り病……人々の奇行……異常気象……。」

美兎:「それらすべてが、私がこの時代に居続けた弊害だと言うの…………?」

フィツァレスト:「そうです。

アナタがこの時代に持ってきた様々なモノが影響した結果だと思われます。

そして、この異変が続けばこの時代のこの世界は一度終焉を迎えるかもしれません。」

美兎:「そ、そんな……。」

秀弥:「ミウ……そういうことだからよ……帰れよ……」

美兎:「つ、ツナシバル、君……。」

フィツァレスト:「もう手遅れ気味な気はしますが、

今帰れば、アンカーポイントは外れ、この時代の異変も止まると思われます。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

浩満:「でも、終焉を迎えないかもしれないじゃないですか。回避出来るかもしれません。」

フエゴ:「いいやァ、回避できないねェ。」

浩満:「何故、そう言い切れるのですか?」

フエゴ:「実例があるからだァ。」

浩満:「実例がある以上、例外も存在する筈です。」

フエゴ:「例外は存在しなィ。」

浩満:「では、僕らが例外になります。」

フエゴ:「屁理屈ばかりをォ!!」

間。

浩満:「…………はあ……話し合いは意味も無く、折衷の余地無く、交渉決裂、と。

……なら仕方が無いですね。」

フエゴ:「……?」

浩満:「これから、貴方たちを殺します。殺さないにしても無力化させていただきます。」

フエゴ:「……ッ!!

やれるもんならやってみろよォ!!」

浩満:「やりますよ。

僕は僕にとって不都合なモノは全て、否定します。

貴方たちも否定します。

さようなら。」

フエゴ:少年の掛け声により一斉に、何かが爆発した。

それと同時に先程の様にコンテナが頭上から降ってきたり、

油の詰まったドラム缶が転がり、そこに爆発により起きた火花が飛び散り引火。

聞こえるのは部下たちの悲鳴、爆発音、燃える炎の声、何かが潰れる音……

辺りは地獄と化した。

そんな地獄の中ワタシは目にした……。

ワタシたちに向けた少年の憐憫を含んだ顔を……。

フエゴ:傲慢だ。ヤツは実に傲慢だ。

この地獄を作った張本人であるハズのヤツがまるで、

悪意は無かった、仕方が無い事だ、と言わんばかりの冷たい視線を送ったのだ。

悲鳴が鳴り響く。

フエゴ:「……許さん……許さん……!たとえここで死んだとしても、

呪ってでも貴様を不幸にしてやる……ッ!!少年んんんんん!!!」

浩満:「ああ……そんな憤怒に満ちた目をしては、駄目ですよ……。

愚かですね。

僕を否定した貴方たちが悪いんですから。」

間。

フエゴ:「ア……アア……」

浩満:「生きてましたか。」

フエゴ:「キ…………キ……サマ…………」

浩満:「貴方を含め、そして僕を除いて、生存者は77人ですか。

凄いですね。敬意を表しますよ。」

フエゴ:「ユル………………ナイ…………」

浩満:「一つ質問良いですか?

貴方が乗ってきたタイムマシンってどこにありますか?

ここが貴方たちの拠点だと知ってここに誘き出したのですが……」

フエゴ:「……………ネェヨ……」

浩満:「はい?何て言いました?」

フエゴ:「……オシエ……ネェ……ヨ……ッテイッ…テンダ……ヨ……」

浩満:「そうですか、それは残念です。

じゃあ、別の人に聞きます。

……。あ、生きてますね。

一つ質問良いですか?

貴方たちが乗ってきたタイムマシンはどこにありますか?答えてください。

…………。

ありがとうございます!感謝します。

へぇー結構コンパクトですね。流石未来技術。

……。

フエゴさん、貴方の部下は良い人たちばかりですね。

お礼と言っては何ですが、とどめはさしません。

頑張って生きてくださいね。」

フエゴ:「ショ……ネン……」

浩満:「ん?なんですか?」

フエゴ:「…………ナ……ハ……」

浩満:「なは……?ああ!名前は何かってことですね。

良いですよ。教えます。タイムマシンも頂きましたし。

僕の名前は、蜘旗 浩満(くもはた ひろみつ)です。

覚えておく必要は無いですよ。それでは、改めてさようなら。」

フエゴ:「クモ……ハ…タ……⁉」

フエゴ:クモハタ……かァ……。なるほど、なるほどなるほど……。

通りで……少年の癖に残忍だと思ったよォ……。

恐ろしいヤツに……恐ろしい先輩にちょっかい出しちまったなァ……

間。

フエゴ:「…………■■■……」

フエゴ:駄目……か……■■■の名前が、顔がどんどん朧気に……

嗚呼、お前を忘れてしまうワタシを、俺を許してくれ……■■■……

■■■……■■■……!!

嫌……嫌だ……■■■の事を忘れたくない……!!

■■■との思い出……!■■■の笑顔……!■■■の声……!

嗚呼、愛しの■■■…!!!」

(ここの■■■は“ひまり”と言おうとして言えないみたいな表現です)

フエゴ:「……ひ、ま、り…………」

(フエゴ気絶する)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~明朝、某所にて~

美兎:「……5年間……長い……長い夏休みだったなぁ…………。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(明朝、某所にて)

浩満:「シュウヤくん!!」

秀弥:「ん?おう、ヒロミツか。

って、大丈夫か!?なんかめっちゃ煤ついてっけど!?」

浩満:「僕は大丈夫です。明朗快活元気一杯です。

それより、ミウさんはどこですか???」

秀弥:「……ああ……ミウは……」

浩満:「……え……シュウ、ヤくん……?」

秀弥:「…………。

……ミウは、元の時代に帰ったよ。」

浩満:「ッ!!

なんで!どうして!!」

秀弥:「……くッ!それがッ!!正しい流れだろうが!!!」

浩満:「正しいってなんですか!!

シュウヤくんもファミレスで聞いたでしょう!!

ミウさんは帰りたくないって!!僕らと居たいって!!!」

秀弥:「だとしても!!

このまま俺らの都合でズルズルと続けたってこの時代の世界も!未来も!

駄目になっちまう!!そんなのが良いワケねぇだろうがよ!!!」

浩満:「じゃあミウさんの気持ちはどうなるんですか!!

彼女は未来人である事を教えてくれたし、この時代の家族にしたヤバい洗脳の事も教えてくれたけど!

本来の家族の話だけはしたがらなかった!!

それだけ話すのも嫌なくらい辛い気持ちを無視して言い訳ないじゃないですか!!!」

秀弥:「そんな幼稚な事言ってる場合じゃなかったんだよ!!!」

浩満:「幼稚なんかじゃありません!!」

間。(浩満、秀弥、両者とも熱くなってて肩で息をしている。)

秀弥:「……なあ、もうやめようぜ?」

浩満:「………………は?」

秀弥:「ミウは……元々違う時代の人間だ……。

本来は俺たちと、ミウは関わる事がなかった。

この5年間は長い長い夢だったんだ……!

俺とお前が一緒に見てた白昼夢なんだよ。」

浩満:「……なんですかそれ!!シュウヤくんも!さっきの奴らも!!

元々は元々はって!本来は本来はって!!

僕らにとってはミウさんが居たこの世界こそが本来の世界でしょう!?

思考を放棄しないでください!!!

ミウさんは居ました!!この5年間は夢じゃありません!!現実です!!!」

秀弥:「それでもッ!!

……。

もうミウは帰ったんだよ……!

……もう、遅いんだよ……」

浩満:「……!」

秀弥:「……ミウはいなくなったけどよ。

夏休み、楽しもうぜ?ミウの分もさ……?」

浩満:「……嫌です。」

秀弥:「ヒロミツ……」

浩満:「僕はミウさんを連れ戻します。」

秀弥:「連れ戻すっつったって……どうやって……

……!それは、フィツァレストが持ってた……!」

浩満:「はい、タイムマシンです。

これを使ってミウさんのいる時代に時間遡行をします。

さあ、シュウヤくんも。」

秀弥:「えっ……俺は……ミウに帰れって言った……

…………今更、ミウに顔向け出来ない……。」

浩満:「……そうですか。

では、僕一人で行きます。

ミウさんを連れ戻したら、シュウヤくん、面と向かってごめんなさい、してくださいね。

行ってきます。」

間。

秀弥:「……ヒロミツ!待ってくれ!俺も!!

…………行っちまった……。

結局……また、一人になっちまった……。

…………また……?」

フィツァレスト::突如降りかかった不条理により引き離された仲間たち。

秀弥:覆す事の許されない結末。

美兎:だが、そんな事は彼には関係のない話。

彼にとってはあってはならない、許されない、覆さずにはいられない結末。

フエゴ:これは九つの砕かれた物語の断片の一つ。一つに戻るその時まで、悲劇は繰り返される。

どんなに足掻いてもハッピーエンドにはならない。

浩満:しかし、だからなんだ、だからどうした。

僕は認めない。故に僕は──

浩満:「──否定する!!!」

───────────────────────────────────────

To Be Continued…