/1
彼女は小学校一のアイドルだった。 バレー部の主将をつとめ、160センチを優に超える身長、 身体の半分はあろうと思われる長い脚、小さな顔でかわいい童顔。 頭も良く、スポーツ好きの女の子特有の、さっぱりした性格で なんで俺なんかに好意を持っていたのか不思議でならなかった。 バレンタインデーには手作りのチョコを作ってくれたり、 学校の友達には内緒で遊園地にも行ったこともあった。 当時から背の高い女の子が好きだった俺は 本当にラッキーだった。 でも、6年生になって彼女が急に 東京に引っ越すことになってしまった。 160センチに届こうとしていた彼女に見降ろされながら 「またきっと会おうね」 と約束を交わした。
それからも手紙のやりとりはつづいた。 6年経って俺は大学に受かり、東京で下宿することになった。 いまだに彼女のことが忘れられない俺は手紙で 「そっちへ行ったら会ってくれないか」 と書いてみた。彼女は 「うれしい!絶対会いに来てね。でも、私にあったら きっとびっくりして気絶するわよ」 と意味深な手紙を書いてよこしたのだった。 俺は彼女に会うまで、その意味が全然分からなかった。 まさか、彼女が俺の「完全に理想の女性」に 成長しているとは知らずに。
「やっとシンジ君に会えるね。うれしい! 絶対会いに来てね。6年間はホントに長かったな。シンジ君は信じてくれないだろうけど、わたし今まで本当に男の子とお付き合いしたことなんてなかったんだよ。シンジ君のことを6年間ひたすら待ち続けてた、.......訳じゃないんだけど(笑)。私に会ったらきっとすぐにわかっちゃうけど、私、普通の女の子じゃなくなっちゃったの。超特別サイズの女子大生。私に会ったらきっとびっくりして気絶するわよ。でも太ったんじゃないからね。
追伸、引っ越しの時には呼んでね。バレーはやめちゃったけど、体力には自信があるの。逞しい私を見てください(あ、秘密がばれちゃう!)」
3月のまだ寒い日曜日。アパートを探すために東京にやってきたのだ。そして彼女に会うために。
渋谷のハチ公前。ここしか東京でわかる場所がない。電話で彼女は
「待ち合わせ場所なんてどこでも大丈夫よ。私を見間違えるなんて絶対に、絶対にあり得ないもん!」
と、なぜか自信ありげだったが、心配な俺はここにしてもらったのだ。
約束の時間前についた俺は、そういえば彼女は待ち合わせの時は、いつもぎりぎりになって走ってやってきたことを思い出した。ハアハアと息を切らして、いつも
「あぁ、今日もぎりぎりセーフね」
と、誇らしげな笑みを浮かべていた彼女の顔を思い出していた。
土曜の午前10時。若い男女がひっきりなしに出入りしている。背の高い人、低い人。当然背の高い女性を捜すともなく探してしまう。友人からは変な趣味の男で通っているが、背の高い女性は、やっぱり素晴らしい。しかし悲しいかな渋谷のハチ公前にいても、168センチの自分より大きな女性は滅多にいない。はやりの20センチを超えるブーツを履いているニセの長身女性は増えたが、それでも目を引く女性は稀だ。
JRの出口からひたすら大きな大きな人が出てきた。当然白人の男性だと思っていた。なぜかって、人混みの中で軽く胸元から上が大きく飛び出していたのだ。170を超えていそうな男性の後ろにいてさえ肩が見えている。
「おっ!」
思わず声を上げてしまった。女性、しかも日本人。野球帽の後ろから長く黒いストレートヘアがなびく。サングラス、黒いまん丸の小さなレンズ。赤い毛糸のタンクトップ。胸元は大きく大きく突き出している。そしてGパン、長い細い脚が、どこまでも続いている。どう見ても特注のスリムのGパンの裾からさらに長すぎる脚が伸び、10センチ以上も足首が露出している。そして10センチは上げ底の白いスニーカー。すべての人を圧倒するように颯爽と歩いている。
色白で小さな顔、美人に違いない。肩から続く真っ白な細い腕、長い長い指。肩から下げた大型の籐のバッグはハンドバッグのように小さく見える。普通のスリムな女性の、脚だけを信じられないほどに長くしたような細い細い体型。それなのに胸元だけは身長に比べても十分に勝るほどアンバランスに大きい。背の高い男性さえもあっという間に追い越す長い長いストライドは、大きな胸元をユッサユッサと豪快に揺らしてしまう。
当然俺は目を離すことが出来なかった。こんな素晴らしい女性を見逃すことなんてできっこない。彼女の上から下まで舐め回すように見つめてしまう。こんな女性がいるなんて夢のようだ。彼女も俺の視線に気づいたようだが、そんなことはお構いなしにひたすら眺めまくる。彼女の顔がほころんだ。そして、大きな笑顔に変わる。
「シンジくーん! 私よ 薫よー!」
サングラスを取り、顔いっぱいの笑顔を見せる。彼女は紛れもなく小6で別れた磯崎薫その人だった。しかも小さなかわいい童顔はそのままに小学生の時からは信じられないほどにきれいになっていた。まるでモデルのようだ。
「えーーっ! 聞ーてねーぞ! おまえ俺が長身好きだと知ってて.....」
「だってこんなにでっかくなっちゃったんだもん。怖くていえなかったの。こんなに大きくてもいいの?」
「俺は大きければ大きいほどいいの!」
「うそー! だって、こんなに、こーんなに、でかいんだよ」
大きな胸をゆさゆさと揺らしながら駆け寄った薫は、俺の腕に強引に右腕を絡ませ、俺の真横に立った。薫の胸元は俺の目線の上。そこから肩先、細く長い首、そのさらに上に、真下に顔を向けた薫の笑顔があった。俺は完全に真上を見上げぽかんと口を開けていた。
「ね、嫌いになったでしょ?」
俺は大ーきく首を振った。
「え、ホントに、ホーントに、こんな大きいのがいいの?」
俺は強ーく頷いた。
「うそーホントにそーなのぉ? わーやだー、だったらもっと、格好、気合い入れてきたのにー! 歩き回ると思って、超ラフなカッコしてきちゃったー!」
「い、いや、その格好で十分。悩殺された」
「あはは、悩殺だって。男から聞いたことないわ、そのせりふ。巨乳とかはよく言われるけど。や、でも確かにシンジくんのさっきの視線は今までにない、ヤらしい視線だったわ。舐め回すような....」
「はっきりいって、薫は俺の理想のスタイルに育ってる。」
「ふーん。理想ねー、私はあと30センチ低ければ理想だな。」
「それで何センチ?」
「169センチ」
「ということは、じゃあ、お前.....」
「うん、199センチよ! でもまだしつこく伸びてるから2m超えてるかもしれない」
「それプラス、このスニーカー....」
「が、10センチだから、今日は209センチね」
「ひゃー!!」
「ヤになった?」
「とんでもない! 興奮して倒れそうなくらい」
「お世辞でも嬉しい。こんなこと言われたことないもん」
「お世辞じゃないって」
壮大な薫の姿態。俺の胸元に届きそうなほどに長い長い脚。脚の伸びに追いつかずに小さくなってしまったGパン、そこから飛び出した細く引き締まった足首。それに比べてボリュームのある太股、もちろん長さも半端ではない。見たこともないほど巨大なスニーカー。身長に比べて小さなヒップを大きく見せてしまうか細いウエスト。そしてバスト。何時間でも見続けていたいほどに理想の体型だった。でも、ここでスケベ丸出しにしてはうまくいくものもいかなくなる。こらえねば。
さっそく、アパートを探しに行くことにした。井の頭線の駅まで歩く。
歩くスピードが全然違って、俺は小走りになってしまう。後ろ姿を飽かずに眺めてしまう。彼女はすらりとした体型はそのままに、見事に肉感的なスタイルに変身していた。見立てでは100-58-92。どう見てもバストの方がはるかに大きい。痩せた体型から胸だけが大きく突き出し、しかも横に並んで彼女の顔を見ようとすると、俺の目線に来てしまうのだ。ゆさゆさと大きく揺れる胸元をついつい見てしまう。
「もう、気になるのはわかるけどもうちょっと自然に見てくれない? 私まで気にしちゃう。ただでさえ大きすぎて悩んでるのに。」
「ごめんごめん」
まずいまずい、ついつい見とれてしまう。
街中を歩く薫は、常に好奇の視線にさらされてしまう。少しの間歩くだけで、刺すようにじっと見つめられたり、「うわー」とか「でけー」なんていう声に何度も出会ってしまう。
「薫、街中を歩くの、ヤじゃないか?」
「ううん、全然。別に慣れてるもん。高校時代なんてほとんど毎日渋谷に来てたよ」
「だって、こんなに目立つ体型の女の子だから、いつも誰かに見られてるわけでしょ。どうせこんな大きいカラダ、人混みで隠れられっこないんだから、地味な服で目立たないようにするんじゃなくて、見られても恥ずかしくない格好をしなきゃ。私だって女の子だもの。」
「今日も結構かっこいいけど」
「やだ、これは普段着なの」
「雑誌で気に入った洋服があったらそのショップには当然行かないで、だって私に合うサイズがあるわけないから...、行き付けの洋服屋さんに切り抜きを持っていってこれを作ってっていうの。ひと月のバイト代なんて1着で軽く吹っ飛ぶけどね。20センチのハイヒールだって特注で作っちゃうんだから。もう199cmが2m19cmになったってかわりないじゃない?」
「ちょっと変わるような気がする....、でも2m19センチの薫は見てみたいなぁ」
「わかった。今度会うときは気合い入れた格好で来るから期待してね」
「うん! でも絶対ミニにしてくれ!」
「うーん、ミニかぁ。あることはあるけど、私の場合、ちょっと体を屈ませただけで、丸見えになっちゃうんだよなぁー。うん、でも考えとくわ」
アパート探しの道行きは、もう、薫が隣にいるというだけで、ひたすら幸せな気分だった。遥か頭上で揺れる胸をやっぱりちらちら見ながら、大股で歩く薫の大きな大きな歩幅にため息をつきながら。そして、どんな風に大きくなったか、成長の過程をじっくり聞くことが出来た。
「小学5、6年の頃からズンズン大きくなってたでしょ、毎年10センチ以上。それなのに成長が止まってくれなかったの。中学にはいってからもさらにズンズン伸びに伸び続けて....。東京の小学校で卒業した時には172センチ。中学校入学時で、学年1ののっぽ。でも、まだ普通の体型だったのよね。それが中1の終わりでは185センチ、もう、身長だけ全日本バレークラス。先生を含めて軽く学校1の長身になったのに、まだまだ成長し続けたの。中2で190を超えちゃった。もう、バレーの選手にもいないくらいの長身になっちゃった。そして、あんまり大きくなりすぎて、膝を痛めちゃってバレーは中2で出来なくなっちゃった。そこで急激な伸びは止まってくれたの。けど、でも、やっぱりちょっとづつちょっとづつ伸び続けて、高校入学で196、卒業の時には199センチ。でも不吉なことに、高1で1センチしか伸びなかったのに高3では3センチも大きくなってるのよ!」
「また成長期に入ったんじゃない?」
「やー! 一番心配してることを言ったな!」
「俺としてはもっともっと大きくなって欲しいなぁ」
「また洋服を作り直さなきゃなんないじゃないの! また親への借金が増える。夏に向けて水着も買わなきゃなんないのにぃー!」
「うーん。薫の水着姿みてみたいなぁーーー!」
「だぁめ。今までのシンジ君の行動を見てると、普段着でも相当刺激が強すぎるみたい。」
「うん、もう薫がそばにいるだけで心臓がどきどきしてるもん」
「私が水着姿になんかなっちゃったら、どうなるかわかんないじゃない」
「俺もちょっと自信ない」
「でしょ? もうちょっと待ってね」
「シンジ君の誕生日まで、おあずけ。誕生日になったらもっといいことしてあげるから」
「うそーーー! やったー! 」
想像以上に好意的な態度。嘘じゃないぞこれは。興奮で眠れない日々が続きそうだった。
薫の実家にあんまり近すぎるアパートはやばいなと思いながらも、ついつい最寄り駅が同じ、近所に決めてしまった。
「近い方がいっぱいあえて嬉しいじゃない?」
なんて嬉しい言葉に乗せられて。
ポケットカメラを持ってきていた俺は
「再会記念写真だー」
なんていいながら、道行き、彼女の姿態をひたすら撮りまくった。別れ際に通りがかりの人に頼んで40センチもある身長差の二人のツーショットを撮った。長い脚がすべて写るように全身をおさめてもらった。
東京駅まで送るという彼女の言葉をみやげに一人で帰路に向かった。
「今度はいつ来るの、家についたら必ず電話してね!」
6年のブランクはまるでなかったように、楽しい一日だった。
帰り道は、彼女のいる新生活を想像して、踊りだしそうな気持ちを抑えるのに大変だった。
つづく