佳代子の話があった次の日、麻衣から電話がきた。
『明日、一緒にお買いものに行ってくれますか。おねえちゃんには了解を貰ってます。土曜に着ていく洋服を取りに行くついでなんだ』
事前に佳代子のおかあさんには聞いていた。土曜にいきなりじゃお互い緊張するだろうから、
佳代子が天文部の合宿の下見に行く日曜日に一度会っておきなさい、と言われたのだ。
日曜日。佳代子は朝早く出掛けてもういない。ひどい罪悪感を覚えながらも、永く永く抱き続けていた、大きな欲望が叶いはじめている、
えもいわれぬ期待感に充たされていた。
9時に麻衣の家の前へ迎えに行く約束になっている。
玄関扉をくぐって麻衣が現れる。小学校高学年から扉は屈まなければ通れなくなってしまった麻衣。今は胸元よりも下になってしまった扉を
最敬礼するように背を曲げ、さらに膝も大きく曲げて、辛そうにくぐりぬける。佳代子よりも20センチも大きい女性の仕種。そして、
遮るもののない外に出て、ありのままの背丈を見せる麻衣。これ以上ないほどに豊かに成長したその姿態に、ぼくは息を飲むほどに見とれてしまった。
ロングスカートに白のノースリーブのブラウス、スカートの色に合わせた茶系統の薄手のカーディガン。
地味な普通の服装、しかし余りに規格外の麻衣の姿態は、普通の服装であればあるほど、特別な姿態を際立たせてしまうのだった。
まるでカーテンのような長い長いロングスカート。実際普通のカーテンより彼女のスカートは長くなってしまうのだ。その長い長い裾は
例えようもないほど重々しく揺らぎ、隠された長い長い脚を想像させる。ナマ足ではあれほどまでに肉感的な麻衣の太股も、隠された途端に、
本来の際立った長さを嫌というほど見せつけてしまうのだった。
そして、長い長い脚に負けないくらい大きなヒップはカーテンのようにスラリと降りたスカートをそこだけ大きく突き出させてしまうのだった。
そして、どう引っ張ってもカーディガンのボタンの一つも掛けられそうにないほど、大きく大きく突き出した白いブラウス。ボタンとボタンの
間からは清楚な淡いグリーンのブラが覗いてしまっている。
頬を赤らめ、上気しているように見える麻衣。初々しく幼げに見える童顔の彼女の仕種。それなのに、上気して弾んだ息は、幼い顔のすぐ下にある、
肉感的な、余りにも豊かすぎる胸を更に大きく膨らませ、白のブラウスのボタンを弾き跳ばしそうに大きく突き出し、膨らみはゆさゆさとさざ波の
ように嫌らしく揺れてしまうのだった。幼くかわいい18歳の少女はあり得ないほどに豊満で、あり得ないほどに長身の姿態を抱え、麻衣は極限まで
アンバランスな女の子になってしまっていたのだった。
『わ、わたし、格好ヘン?何かおかしい?』
心ない言葉を浴び続けた、繊細な麻衣は、すぐに自分に非があるように思ってしまう。
『ブラウスがもうきつくて、でもある洋服はみんな今のわたしにはきつくなっちゃってて…』顔を赤らめる麻衣に、
『違うよ、麻衣があんまりかわいいから見とれちゃったんだよ』
素直な気持ちをストレートに伝えた。
落ち込んだ暗い表情から、輝くような笑顔に瞬間的に変わる。少女特有の目まぐるしい感情の変化。その時、ぼくは例えようもないほどの心の動揺を、
突然感じてしまった。
そう、肉感的な姿態や、圧倒的な背の高さより何より、今まで見たことのない、美しい麻衣の表情にぼくの心は動いてしまっていた。今まで素顔かごく
薄いナチュラルメイクでしか麻衣のことを知らなかったぼくは完全に言葉を失ってしまったのだった。
百人いたらきっとそのうちの数人に数えられるほど、整った姉の佳代子の顔立ち。素顔でも十分すぎるほどに美しい彼女の寝顔にいつも感心していた
ものだった。でも、18歳を迎えた麻衣は、余りにも大き過ぎる姿態と共に、佳代子を上回るほどの美しさも与えられてしまったのだった。
喜びと羞恥を胸に、はにかむ麻衣の仕種。想いを寄せた男性のほんの一言で、少女の喜びが身体中から溢れだしているのだ。
佳代子があんなにも心配していたことが、初日のそれも最初の瞬間に起こりはじめてしまった。他ならぬぼくがこれからの『三人』の将来を想い、
深い危惧を感じ始めていた。
麻衣と歩く街並み。大股で歩く大きな大きな女性と並ぶのになれているぼくは、ゆっくりゆっくりと歩く麻衣の歩幅は新鮮な感じがした。佳代子に
比べてさえはるか上空にある、麻衣の大きくはない声を聞き取るのはなかなか大変な作業で、足元を気にしながらはるか上も見なければならない
ぼくにとって、ゆっくりした歩みは何よりありがたかった。これ以上ないほどに大きくユサユサと揺れる麻衣の雄大なバストも
見なければならないのだから余計に忙しい。
そう、あれほど外出を嫌がり、予備校に行くにも毎日、吐き気やめまいを訴えとうとう行くことができなくなってしまった麻衣が、
今日はこんなに元気で、明るく振る舞っているのだ。
行き交う人たちの口さがない言葉。そんな言葉がひっきりなく耳に入ってくるのは相変わらずなのに、今日の麻衣は明るく気丈に振る舞うのだった。
時には男の子が口にした『うわーでっけー女』なんていう言葉に
『大きいでしょう?男の子なんだから、せめて私の半分くらいにはならないとね』
なんて軽い受け答えまでできるようになっていたのだ。
『おにいちゃんと一緒にいるとなんだかどんどん力が湧いてくるみたい。一人だったら絶対に外出なんてできないのに、来週の計画を考えるだけで、
どんなところでも、どんな人にでも平気で出掛けていってお話ができる気がするの』
『おにいちゃん!私がどれだけ今度の日曜日を楽しみにしているか分かる?』
急な問いかけに戸惑っていると
『この半年、おうちの全員に私、本当に迷惑ばっかりかけて、とうとうおねえちゃんの一番大切な人を貰っちゃった。月に一回でもいいの。でも、
逢っている間だけは、本当に私のことを想っていてね』
麻衣は、感極まったのか、せっかくのお化粧も台無しにして、泣きじゃくってしまった。
どんな遠くからでもよく見えてしまうぼくたちは、街中のひとの刺すような視線をこれ以上ないくらい浴び、デパートのトイレに駆け込んだ。
アイスクリームを買って待っていると、麻衣はこちらの思惑通り、天井に頭を擦るくらいに飛び上がって喜んでくれる。
『ありがとう!おにいちゃんは気が利くからきっと何か買ってきてくれてるって。』
デパートの婦人服売り場の一角。さほど広くないスペースに大きなサイズの下着や服、靴までがところ狭しと並んでいる。規格外の婦人服を揃えて
人気を集めたデパートでも更にフル・オーダーメイドの商品を扱う専門店。お客もスタッフも体型が特別な人たちでごった返していた。
巨漢の女性や長身のスタッフが洋服を手に熱心にやりとりしている。
『おねえちゃんは中学生から、私は小学生の頃からここにお世話になってるの』
『値段がすごそうだね』
『多分私たちが普通の体型だったら自宅を建て直せるくらいかかってると思う。お父さんの稼ぎはみんな私たちの洋服代になっちゃった』
『来週は私が中心に楽しむから、今日はおにいちゃんが喜んじゃう企画です。洋服は来週のお楽しみだけど、おにいちゃんの一番興味があるのは…
私のおっぱいでしょ?だから、私のブラフィッティングをみせてあげる。やじゃないでしょ?こんな風なの。
おねえちゃんとも昔から言ってたのよ。おにいちゃんの視線は分かりやすすぎるって』
もうなにも言えなかった。ただ、麻衣はぼくのことをこれほどまで意識し、喜ばせたがっていることを知って驚きを隠せなかった。
つづく