ついに麻衣さんと初デートをする日が決まった。
『行き先はお任せします。ただ、どうしても体が納まらないところがあるの。満員電車とかバスとか…』
俺は毎日その段取りのことで頭が一杯になっている。 一緒に街を歩くといった何でもないシチュエーションを想像するだけでも俺はあっという間に興奮してしまうのだ。 余りにも素晴らしすぎる姿態の持ち主の麻衣さんには、過剰に異性を意識してしまう。 麻衣さんを前にすると、俺はいつもぎこちなくなってしまうのだった。 夏休みとは言え、まだ梅雨は明けきっていない。 小さくかわいい女性用の傘を差す麻衣さん。どう見ても麻衣さんには胸元までしか覆うことが出来ないサイズ。 その横に寄り添うように立つ。そんな想像をするだけで再び興奮を抑えることが出来ない。
当然、プールや海も考えたが、最初のデートでそれはあり得ない。 勿論、水着姿の麻衣さんの妄想は100回を下らないのだが。ワンピース、ビキニ、色々な水着のサイトを見ては麻衣さんに 当てはめてみる。 特注品のブラにショーツ。帽子よりも大きなカップが二つ繋がったブラ。毎夜、麻衣さんのことを考えては、 ことに励んでしまうのだった。しかも一回では済まないで二回三回といそしんで、自分でも呆れてしまうほどなのだ。 あれこれ考えた末に、初めてのデートは映画にしようと決めた。天気や諸々のアクシデントが一番少ないだろうと思ったのだ。 しかし、麻衣さんの体型ではシートに座れるのかが問題だ。
『最近のシネコンのプレミアム席なら多分納まるって』
と、千佳ちゃん。 一度下見にいって確認しないとまずいだろう。 デートコースのイスや天井、テーブルの高さをチェックする必要がある。こんなことを心配すること自体ですら、 俺にとってはたまらなく興奮する作業なのであった。 あくまで推定で、身長2メートル30センチ超の女の子。日本どころか世界中にも数人しか知られていないほどの身長の持ち主。 興奮するなというほうが無理なことなのだ。 そして、バスト160センチ、ウエスト90センチ!、ヒップ140センチという常識を超えた余りにも肉感的な姿態。 いよいよ当日。本当は車で颯爽と迎えに行きたいところだが、免許も車もない。第一、麻衣さんがゆったりと座れるシートは 一般車ではあり得ないだろう。 麻衣さんの最寄りの駅で待ち合わせ、駅前から少し離れたシネコンで映画を見る予定だ。 駅へ向かってくる、雲を突くばかりに大きな大きな女の子。ゆっくりと歩を進める姿。 しかし、歩幅は脚の類い希な長さのせいで、普通の人の倍以上に感じられる。 急いで歩く女性よりも、ゆっくりゆっくりと歩く麻衣さんの方が早く進んでしまうのだ。 そして、身長にひけを取らないほど強烈に自己主張をする胸元。 そこだけは別の生き物のように上下左右にゆらゆらと揺れ動くのだ。 周りの視線を気にして、少しはにかんだ表情。 決して見慣れることのない超弩級の体型。激しい興奮と感嘆の思いで大きく大きく見上げる。
『おはよう。武藤くん。ずいぶん早いね』
『麻衣先輩もね』
『やだ!誕生日は半年も違わないじゃない』
一浪した麻衣さんは学年は一つ上になるのだ。
『小学校ではいつも言われてたのよ。一番の早生まれが一番大きいって。でも大きさ自体が桁外れになっちゃって、 中学生からはそんなことは気にされなくなっちゃったけど…』
見上げても麻衣さんの顔は遙か彼方。大きな大きな膨らみの彼方に麻衣さんの小さな顔が覗く。 しかし近づいて麻衣さんの真横に並ぶと、麻衣さんの顔は背や胸に阻まれて、全く見ることが出来なくなってしまう。 実は俺も大きくはない。170センチに届かないのだった。
『ごめんね、遠すぎて話しにくいでしょ?』
謝る必要のないことなのに、気遣いをしてくれる麻衣さん。
『最初に会話したときも、ごめんねじゃなかったっけ?』
『そうだね。4月の半ば位。席が空いてなくて、2列目の端に座ったのに、真後ろに座る人がいるんだもん。私の後ろじゃ全く 黒板が見えないの分かってるから、凄く気を使っちゃった。』
『あ、今考えると、あの時私の後ろに座ったの、わざとでしょ?』
『正解』
『じゃあずーっと私のこと見てたんだ』
『いや、そうじゃないけど…』
『ふーん…』
痛いところを突かれて俺はしどろもどろになってしまう。勿論、麻衣さんのことをずーっと見ていたのだ。 街を少し歩くだけで麻衣さんに向かって、ものすごい数の好奇の視線が周囲から注がれる。
『武藤くん私と歩いてて恥ずかしくない?嫌なら離れてもいいんだよ』
『とんでもない!かえって自慢の気持ちだよ』
『わー!嬉しい。おにいちゃんと歩くとちょっとだけ恥ずかしそうなんだもん。後期からはおにいちゃんとは お昼も一緒に食べないんだー』
彼と麻衣さんの関係。そんなことを言う麻衣さんでも、いまだに俺の中で不安は消えないまま残っている。 事前にレイアウトを見ながらシート番号まで指定してある。 麻衣さんが周りに気を使わないで済みそうな中通路の端の席を選んでおいた。
『よいしょ』
麻衣さんのおしりは少しきつめながらシートに納まった。 ゆったりしたシートも麻衣さんが現れた途端に子供用のシートのように小さく見えてしまう。 バストを含めた上半身は豪快に飛び出したままだ。
『大丈夫、入ったよ!』
頭一つ上空からほっとした表情で微笑む麻衣さん。 改めて麻衣さんのサイズに感嘆してしまう。決して太ってはいないのに、普通サイズのイスから溢れかえってしまう。 脚も長く長く突き出し、体育座りのように膝が山なりに上を向いてしまう。普通の人のように足を 投げ出したら広い通路も大半は塞がれてしまうのだ。 童顔の麻衣さんに笑顔で見下ろされ、俺はこれ以上ないほどの幸福な気持ちに浸っていたのだった。
『千佳ちゃんに映画館のシートのことを聞かれて、武藤くんからかなって思ったの。古い映画館とかで、 シートが小さくて苦労したことがあったから、ちょっと心配だったけど、これなら大丈夫』
『だから映画久しぶりなんだー!すっごいワクワクしてる』
映画館に行くことさえ躊躇させてしまう麻衣さんの類い希な長身。改めて俺は強烈に激しい興奮を覚えていたのだった。 今話題の映画。テレビ版のストーリーとは大きく変わっているらしい。 暗くなる館内。映画が始まると吸い込まれるように画面に集中する麻衣さん。 俺はやはり麻衣さんの方が気になってしまう。 長すぎる腕は肘掛けから大きくはみ出している。
『いい映画だったね。最後のシーン、私泣きそうになっちゃった。』
『ずいぶん違うストーリーになってたね。あんまり期待してなかったけど、すごく良かった』
『うん!』
シネコンの中にあるコメダ珈琲店。自然な流れでレストランの時間まで映画の話をする事になっていった。
『家にいた間、ネットで映画もいっぱい見てたの。だからいい映画を見る度に「あー映画館で見たかったー」って思い続けてた。 だから、今日はスッゴくうれしかった』
『これから頻繁に行こう』
『うん!』
緊張でフワフワした気持ちを感じながらも、麻衣さんの丁寧な受け答えに支えられて途切れることもなく会話は続いていった。 誠実な麻衣さんのイメージがますます強くなり、愛おしさは増すばかりだ。 駅前にあるイタリアン・レストラン。雑誌にも出たことのあるのに安くてなかなか予約が取れない。 ようやくとれたセミコンパートメントの部屋。
『体の大きさは麻衣さんのごく一部だからって言ってくれて、私、本当に嬉しかったの』
『私、小さい頃から余りに大きくて、いつでも、誰にでも、そのことばかり言われ続けてきたから、 そんな風に言って貰える人がいるなんて思ってもみなかったの』
『勿論、私の大きさが大好きなのも知ってるよ。合格発表の日に一杯写真撮ってたでしょ』 『えっ、俺だって知ってたの?』
『うん。最初はクラスメートって気づいてなかったけど、私に接する感じがとっても緊張してるのがわかって、 あっ、そういえば見たことあるかも、って気づいたの』
『いまでもドキドキしてるよ』
『うん。分かるよ。大きい女性が本当に好きなんだなぁって』
ここまで知られてしまった上で好いていてくれるなら、もう、隠し立てはいらない。 体が全てと思われてはいけないと、必死になって体を見ないようにしていたけれど、そこまでは自制しなくてもよさそうだ。 肩の力が抜けてほっとリラックスした気持ちになる。
『だから、今日は武藤くんの好きにしていいよ。』
虚を突く麻衣さんの一言。
『一番感謝の気持ちを伝えるのにいいのは、相手が一番嬉しいと思うことをしてあげることでしょ。だから、 今日はちょっとだけエッチなことをしてもいいよ』
思いもよらない麻衣さんの言葉。汗が噴き出す。心臓が痛いくらいバクバクいっている。一体なんと言えばいいのだろう。 どこまで許されるのか。口を開けたまま言葉が出ない。
『男の人はエッチなことが一番好きでしょ。だからサービスしてあげるの』
『私、こんなに自分の体のことが嫌いなのに、私を好きになる人は、私の体のことが本当に好きなの。全く正反対』
つづく