翌日の朝。
ついに一線を超えてしまった2人はモーニングコールで目が覚めた。 麻衣がシャワーを浴びている間に僕は眠りに落ちてしまったようだ。すっぴんの 麻衣の寝ぼけまなこの顔。Tシャツにジャージの気取らない姿は、麻衣をまるで スポーツ選手のように見せる。顔だけが唯一幼い麻衣は中学バレーの選手のよう だ。ただし立ち上がったとたんに、背丈の尋常でない高さと、バストの類い希な 大きさに、そんなイメージは吹き飛んでしまうのだ。 全てが特注の佳代子と麻衣は、家着ではあまり贅沢はできない。以前の外出着か、 ゆったりとした服しか着られないと佳代子はぼやいていた。 素顔でも美しい麻衣。そして、僕にとっての理想の姿態を兼ね備えてしまった麻 衣。いまだに昨日のことが思い出されて興奮が収まらない。 天井の高さを気にして、頭を下げながら歩く。ホテルの低くない天井も麻衣には、 頭がこすれるほど間近なのだ。そして、麻衣が動くたびにTシャツの中で豪快 に揺れる2つの膨らみ。吸い寄せられる僕の視線を麻衣はおもしろそうに見つめ ながら、
『見たり触ったりするだけの人はいいよねー。あの重さをいつも抱えてる私がど れだけ大変か想像してみて』
『左に寝返りを打っただけで、大きくて重たいおっぱいが左に大移動した衝撃で びっくりして目が覚めちゃうのよ。当然、右に寝返りしたときも…。おねえちゃ んに話したら爆笑されちゃったけど、ここ何年かのおっぱいの急成長の間は本当 に不眠症になりかけてたんだから…』
確かに何キロもの重さのバスケットボールが2つも胸元で暴れたら目が覚めてし まうだろう。昨日の胸の感触と重さを思い出し、あれを常に抱える麻衣の苦労を 慮った。 しかし、その反面、僕は、苦労ばかりしてしまう麻衣のその姿態に、どうしよう もなく興奮してしまうのを、抑えることが出来ないのだ。
本当は、今日も朝から麻衣を押し倒したくなる気持ちを必死にこらえ続けている。 ただ、僕の力では、麻衣の意志に逆らって押し倒すことは出来ないだろう。体格 では、麻衣に片手で押し倒されてしまうのは完全に僕の方なのだ。 抑えきれない欲望というものを昨日初めて知ってしまった。紳士的に事を進めよ うとする理性は、完全に負けて、麻衣の肉体にのめり込んでしまったのだ。 だから、どんなにしたくても、月に1日だけという佳代子との約束は絶対に守ろ うと心に誓った。何より、歯止めの利かなくなった自分自身の欲望が一番怖いの だ。
2人は急いで着替えて ホテルのモーニングに滑り込む。フルフェイスヘルメットよりも大きい二つのカ ップを繋げた、純白のブラジャー。麻衣のバストでしかあり得ない両肩のクッシ ョンパッド。ベッドサイドの陰に置かれた壮大に大きく、余りに特別な形の下着。 でも、麻衣がひとたび現れると、その巨大に思えた下着は、豊満すぎる肉体を やっと包み込むことが出来る、そして、わずか数ヶ月後の麻衣には窮屈になって しまう、余りに小さな下着なのだった。 昨日とは違う二人の関係性。してはいけないものを共有してしまった二人。ただ、 麻衣は僕の思った以上に楽天的で、意外にも佳代子と似たあっさりしたところ があるようだった。 和やかに続く会話。会話の内容はやっぱり姉妹の体型の話が多くなる。
『両親が今一番頭を悩ませているのは私の成人式の晴れ着なのよ。去年のおねえ ちゃんの時も卒倒しそうなほどお金がかかったって、おかあさん嘆いていたから、 私のはいったいどれだけかかるのか、おとうさんもおかあさんも戦々恐々なの。 着物の生地が二反かかるか三反かかるか、おねえちゃんはなんとか二反で済ん だんだって…。私の場合は一体どうなっちゃうんだろう。百万円かかるかもって 言われたって…。足袋も草履も特注で、おねえちゃんより3サイズ以上大きいか ら使い回せないし…』
座っても頭一つ分大きな麻衣を見上げる。 佳代子の余りにもスラリとした晴れ着姿は、和服と長身のアンバランスなギャッ プに激しく興奮したものだった。 麻衣の、余りに長身で余りに肉感的な、和服にもっとも不似合いな体型の晴れ着 姿。想像しただけで僕は興奮でどうにかなってしまいそうだった。 トーストにバターを塗りながら、麻衣は唐突に、
『おにいちゃんと同じ大学に行く。これから勉強しても、まだきっと間に合うか ら』
と宣言した。 そうなのだ。麻衣は今、学校にも予備校にも行ってはいないが、毎日欠かさず勉 強をしており、僕の通っている大学くらいならそれこそ『勉強しないでも』入れ るだろう。 僕が勉強を見る必要なんて本当はぜんぜんないのだ。 麻衣は性格がいいだけではなくて、僕より遙かに頭もいいのだった。 特注の机と椅子からもはみ出す体を持て余しながら、小さく体を折り曲げて、麻 衣はこつこつと毎日勉強しているのだった。
『2年間しか一緒に通えないけど、おにいちゃんのいる大学ならきっと通えるよ。 おにいちゃんが浪人してくれてよかった。 でも教室の机と椅子は大きい?前に予備校の模試で行った大学は、椅子が固定式 で、隙間が狭くて、ぎゅうぎゅうな上に、机の幅も狭くて、おっぱいで手元が覆 われちゃって答案を書くのにほんとに苦労しちゃった。恥ずかしくて泣きそうだっ たんだから』
うれしそうに話す麻衣の顔を見ながら、僕は佳代子のことを考えざるをえなかっ た。 家から出られなくなってしまった妹が、大学に通いたいというのだから、喜ばし いことには違いない。しかし、妹と複雑な関係となってしまった自分の恋人と、 その妹が同じ大学に通うことになったら、彼女はどう思うのだろうか。 僕との関係が始まってから、麻衣は日に日に元気で活発な自分を取り戻していく。 しかし、その代償は確実に大きくなっていくのだ。 麻衣は無邪気に
『赤本書わなくちゃね。キャンパスが4年間一緒の学校でよかった!2年で変わ るとこだったら意味なくなるとこだったもん』
などと話して、始まってもいない学生生活を、もう夢想しはじめているのだ。 僕の通う大学の、今までの麻衣の模試の合格率は、いつも90%以上。学部も試 験方法も多いので必ずどれかには合格してしまうだろう。
僕と佳代子、僕と麻衣の関係は、これからどうなってしまうのか。変わり始めた バランスは、もう、元には戻らないのだ。
佳代子とは2人が就職したらすぐに結婚しようと約束してある。 就職活動が終わり内定を貰った3回生の佳代子と、一浪して来年本格的に就職活 動に入る僕。頭のいい高山家の長女は都内の公立大学、反面僕は、せいぜい中レ ベルと言えるくらいの私立大学だ。 麻衣は約束通り僕と同じ大学の理工学部に危なげなく入学してしまった。本来な ら佳代子と同じように国公立の大学にストレートに入れるだろうに。
『またお金で両親に迷惑かけちゃった。だから私アルバイト始める!人目に付き たくないから内勤のプログラム関係。時給が結構よかったんだ』
ますます積極的になっていく麻衣。高山家も僕もうれしい反面、僕と佳代子の関 係にひびが入らないか、不安が募っていく。 うぶな学生が多い理工学部に麻衣の存在は様々な影響を与えてしまっていた。 ただでさえ少ない女性、余りに目立ちすぎ余りに肉感的な麻衣が入学してしまっ たことで、変に緊張した学生が実験を失敗してしまうトラブルが起きてしまって いるらしい。 超長身とは言え、あの、見る人すべてを引きつけてしまうバストは、女性の魅力 を感じさせるのに十分過ぎるのだった。 数少ない女性同士では、性格的に麻衣と波長の合う、おとなし目な同級生の友人 も見つかり、うまくやっているようだ。友人と外出するようにもなった。 そして、頻繁に僕と歩いている姿が学内で目撃されているので、麻衣には彼氏が いるということになっていて、勿論彼氏とは僕のことなのだ。 だから、2人の間では大学にいる間はなんだか恋人同志のようになってしまった。 まさに麻衣の思い通りになってしまったのだ。 どこにいても目立つ麻衣。僕の友人も麻衣の姿を見ると遠慮して席を外してしま う。 昼休みは麻衣と学食で会うことが多くなっていった。 身長を除けばほぼ完璧な麻衣の容姿。意外にも超長身でも構わないという男子が いるようで
『私、初めて告白されちゃった!身長も多分185センチ位ある3年生に…。』
顔を真っ赤にさせている麻衣。初めての経験に上気しているようだ。
『よかったじゃないか!麻衣にもようやく彼氏が出来たね』
『でも…、おにいちゃんがいるし、あんまり好みの感じじゃなかったから、ごめ んなさいしちゃったんだけど…』
『ダメだよ!僕は麻衣の彼氏が出来るまでの臨時の役なんだから。何度か会って みれば気持ちも変わるよ』 『いや!もう断っちゃったから』
頑なな麻衣。複雑な心境の僕。 本来なら無理矢理にでもくっつけなければいけないのだが、そこまでしたくない のが僕の本音なのだ。まだ、麻衣のあの肉体と離れたくない、その気持ちがどう しても拭えないのだ。
つづく