めぐみ 2-3
彼女の勤める職場は郊外の工業団地の中にあるメーカーの事務所。『会うひとはすごく限られてて私の身長にも慣れてくれたから今はすごく楽しいです。通勤も車だから誰も私の背のことなんか気にしないし』
『勿論、はじめの頃は頻繁に、今でもたまに、驚かれたり、クスクス笑われたりすることはありますよ、でも前よりはへこみにくくなりましたから、なんとか乗り越えられてます』
『ただ、高いところの物は必ず私がとらされるんです。男の人も結構いるのに…、まぁそのたびに笑いがとれるので、社内ではこれでいいかなぁって…』
今日は彼女の会社の最寄り駅に僕が来て落ち合う。久しぶりのお出かけ、海に行くのだ。伊東の昔ながらの海水浴場。気兼ねもなくリラックス出来る感じがする、古いホテルを予約してある。
夕暮れの高速道路を走る。定時で仕事を切り上げて、ホテルの夕飯に間に合わせようという計画なのだ。
『平日のこんな早い時間に一緒にいるなんて不思議な感じです』
運転席のめぐみは前を向いたまま、つぶやく。久々のデートで、なんだかぎくしゃくしている。
最近、僕の仕事が忙しくて、週末の予定も度々キャンセルになっている。外出が癖になっているめぐみは不満が募っていたようだ。
『なんだか安心しすぎてないですか?私だって自分の気持ちはあるんですよ』
何度目かのキャンセルの電話で言われてしまった一言。そんなことが思い出されて、今のめぐみの気持ちを必要以上に勘ぐってしまう。
間が悪いことにフロントガラスに雨粒が当たりはじめた。これからの旅の先行きが思いやられ、長い沈黙が続く。
宿に着き、フロントまで向かう。めぐみの顔は文字通り遥か彼方にあって表情など全く窺うことは出来ない。
めぐみの歩幅に合わせて少し早足に歩く。
急いでチェックインを済ませ食堂に向かう。典型的な大ホテルの大宴会場。向かい合う一人用のお膳が二列、どこまでも続く。浴衣のファミリーや中年夫婦ばかりだ。子どもの頃見たことがあるような懐かしい光景だ。
めぐみは落ち着いた色合いのパンツにセーター。座布団に納めきれない、どこまでも長い脚を二つに折り、膳の前に並ぶ。
お酒もしっかり頼んでいる。
今日はお風呂に入ってすぐ寝る予定だ。
部屋に戻る。僕の好きな立ったままのキス。めぐみがこれ以上ないくらい体を屈め、ぼくは思い切り見上げて唇を合わせるのだ。ぼくは浴衣に着替え、彼女はTシャツにジーンズで浴場へ。寝るときはめぐみはジャージにはき変えるのだ。
翌日は嘘のように晴れ、朝から刺すような日射し。天井に手をぴったりと付け、大きく伸びをするめぐみ。昨日あまり機嫌のよくなかっためぐみは、嘘のように元気になって
『おはようございます、朝ごはんを食べたら、すぐに出発です。バスは8時ちょうどですから、ゆっくりは出来ませんよ』
あの子供のようなかわいい笑顔に戻っているのだった。
道沿いに並ぶ海の家。宿と提携しているのか、一軒の海の家に案内される。
ついにめぐみの水着姿が見られるのだ。順番は前後してしまったけれど水着姿は絶対に押さえておきたい。長い長い生脚を明るい太陽の下、心行くまで拝めるのだ。普段はスカートやパンツに隠されしっかり見ることができない生の脚。暗い部屋では見ることができない素晴らしい姿態をシッカリと見なければ。そして、体型に負けず劣らず大きな胸。グラビアやネットで様々な水着姿を見ては、めぐみの10頭身の姿態に当てはめて想像してしまう。写真は撮らせてくれるのだろうか。嫌がられても絶対に撮らせてもらおう。
人前で体をさらすのがめぐみは嫌いでこの海水浴旅行は僕が無理をいって実現させたものなのだ。だから次回はめぐみの行きたいところへ無条件で行く約束になっている。
海の家は二階建て。畳じきの食堂が道路に面していて、階段を降りた一階が更衣室や足洗い場で砂浜に降りられるのだ。
いよいよ水着に着替える。
自分の着替えはあっという間に終わり、ワクワクしながら彼女を待つ。
ドアノブが回り建て付けの悪い扉が、ガタンと音をたてて開いた。長い髪を左右に束ねた頭を、これ以上ないほど屈め、肩よりも低い扉をくぐって通り抜ける。
豊かな胸の谷間が覗く。そして屈めた体を起こすと、動きに合わせて二つの膨らみはタプンと左右に波立つのだ。しっかり立ち上がると、今度はブラのカップから大きな膨らみが溢れ谷間から盛り上がってしまうのだった。
明るい場所で見るめぐみの胸は想像以上に大きく、目を引くものだった。
何も言わずただポカンと自分を眺め続ける男にしびれを切らして、
『生まれて初めてのビキニなんですから。恥ずかしいのにこんなに頑張ったんですよ』
と、顔を真っ赤にしながら言うめぐみ。
『ありがとう…、僕のために無理をしてくれて。すごくきれいだよ。抱きつきたいのを抑えるので精一杯』
少し怒ったように上気していためぐみの表情がようやく柔らかくなり
『よかった』
『女の子には何でもちゃんと言葉で伝えてください。思ってるだけでは気持ちは伝わらないですよ』
そうなのだ、普段からどれほどぼくがめぐみにまいっいるか彼女に伝えていても、今もどれほど水着姿に感動していても、長い間自分の体に大きなコンプレックスを持ち続けてきためぐみは、自分の姿をどう思われているかが不安なのだった。
『写真撮っていい?』
『もう構えてますよ…今までだってことあるごとに撮っちゃってるじゃないですか!恥ずかしい格好の時も…』
相変わらずの初々しいリアクションがさらにそそるのだ。
つづく
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