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バイパスに入り、しばらく走ると、海が見えてきた。島の近くは観光客がたくさんいるから、彼女も降りたがらないだろう。僕たちは観光地から離れた小さな砂浜の近くに車を止めた。後部座席のドアを開け、身体を大きくかがませて彼女が降りる。2m18cmのめぐみ。50センチの身長差は恐怖感に近いものがある。でもそれをはるかに超える興奮が、僕の心の中でぐるぐるめぐっていた。
波打ち際に立つ彼女を、飽くことなく眺め続けてしまう。なんてスタイルのいい女性だろう。十何頭身あるのかとてもわからない。ワンピースのベルトは身体の3分に1のところにある。どうみても、脚は身体の半分よりもはるかに長いのだ。大きな大きなストライド。ゆっくり歩く彼女に追いつくために僕は小走りになってしまう。砂浜に残る足跡。ヒールのない彼女の靴、自分の足を重ねれば10センチも余ってしまう。
「もしよかったら、私の家に来ませんか。小さい家だけど」
気がつくと彼女は僕の方を向いて、まっすぐ僕の顔を見おろしていた。今まで見たことのない、真剣な眼差しで、顔を真っ赤にしながら、勇気を奮って、という感じだった。
「でも、家族の人がいるでしょ」
「うん、おかあさんが。でも、会って欲しいな。私なんかでよかったら、もし私とお付き合いいただけるなら、家族にも会っておいて欲しいの」
彼女の家は海岸からさほど遠くない私鉄沿線の住宅街だった。普通の建て売り住宅で、案の定彼女は玄関から大きく背を丸め身体を曲げて入らなければならない。玄関口で既に天井に頭が付きそうになってしまっていた。
「ただいまぁ、彼、お連れしたのぉ。おかあさんいるー」
奥から出てきたおかあさんは小さくて、でも、めぐみに似たきれいなひとだった。めぐみをそのまま小さくしたようなかわいい女性だった。玄関の上に立つおかあさんの身長でさえもめぐみの背に頭二つ分届かない。
「あらあら、いきなりつれて来ちゃったの。めぐみもほんとうに男慣れしてないんだから。手順てもんがあるでしょ。まあまあ、いらっしゃい。めぐみをよろしくおねがいしますね。おくてだから手間がかかるかもしれないけど。気長にやってちょうだいね」
「もう、おかあさん!いきなり何言ってるのよ。ごめんなさい。こんなひとなんです、おかあさんは」
「いやー。まいったな」
「ま、あがってちょうだい。めぐみ、ケーキでも作りなさいよ。料理得意なんだから」
「やだ、お茶出してよ。お客様なんだから」
「はいはい」
めぐみが玄関から上に上がるととたんに頭が天井に付いてしまう。
「古い家だから天井が2m15しかないのよ。めぐみのために天井の高い家に引っ越そうかって考えてるんだけど、なかなかねぇ」
ダイニングに案内された僕は、まずテーブルの高さに圧倒された。めぐみが席に着くためには大きな椅子と、バーのカウンターにあるような高い椅子が必要なのだ。右端にある椅子だけ幅も大きくがっしりとしていて一目でめぐみのものとわかる。僕が椅子に腰かけると、当然のように足が床に付かず、なんだか居心地が悪かった。
「ごめんなさい。私に合わせてテーブルも、椅子も普通より40センチも高いの」
「あっ、あの柱にある筋は...」
「あれは...そう、私の成長記録。小さい頃から人並みはずれて大きかったからって、おとうさんがはかりはじめたの。誕生日ごとにはかって。見てみる?」
柱にはめぐみの年と身長が刻まれていた。3才からはじまった記録は、小学校入学の時には150センチを超え、それからも1年ごとにぐんぐん上に伸び、170、180、ここで鴨居を超えてしまって、更に190、中学生以降、2Mを超えてからは僕にはかすんでみることが出来なかった。
「小学4年生くらいから、おとうさん、私の背をはかるために椅子に乗るようになっちゃった。今では椅子に乗っても私より小さいの。私を見上げることが出来なくなっちゃって、しょうがないから自分ではかってる。子供の頃はずーっとはかるのが嫌で泣きながらはかってもらってたのにね。でもとうとう今年でおしまい。天井を超えちゃった。まさかおとうさんも自分の娘が天井を超えるほど大きくなっちゃうなんておもいもよらなかったでしょうね」
「僕なんか小学3年生のめぐみより小さいよ」
「やだぁ、比べないで」
「さぁ、お茶が出来たわよ」
おかあさんは気さくな人だった。あけっぴろげといっていいくらいのひとだ。きっとめぐみも心を許した人にはとても明るい女の子なのだろう。ただあまりにも大きすぎるコンプレックスから内気になってしまうんだと思う。
「わたしもねぇ、この子が小さい頃から言ってたのよ。よく、男の子達にいじめられて、巨人だとか大女だなんだとか言われてね、めぐみが泣いて帰ってくるのよ。そういうときにはいつも、『背が高くたってちっとも恥ずかしいことはないんだよ、モデルさんだってバレーの選手だってみんな大きいのにみんなのあこがれの対象じゃない。男の人だって、のっぽの女の子が大好きな人がきっといるんだから。背が高くてかっこいい男性が現れてめぐみのことをきっと好きになるのよ。大きいことにプライドをもたなきゃ。その人に悪いでしょ』って」
「ほらね、めぐみ、おかあさんが言ったとおり、かっこいい男性が現れたじゃない。ちょっと背が低かったけどね。でも、まあ、めぐみにかかっちゃ180だろうと190だろうと同じだけどね」
「もう」
「でもまぁ、こんなに大きな女の子をなんで好きになったのかね。2メートル18の女の子よ」
「やだおかあさん、さっきといってることが違うじゃないの」
「でも、めぐみだって大きい女の子のどういうところが好きか知りたいでしょ」
「そりゃあ、まあ」
「うーん。どこって言われると困っちゃうけど、たとえば足が長いところとか、首が長いところとか、数え上げればきりがないけど、とにかく、大きさそのものに惹かれるんです」
ひとしきり3人で話したあと、いよいよめぐみの部屋に案内された。めぐみは最初いやがっていたが、おかあさんに押し切られダイニングを追い出されてしまった。
天井の低い階段を上って2階にいく。めぐみはほとんど四つん這いになってそこをくぐりぬける。後ろをついていく僕。ロングスカートからパンツがまる見えだ。男性経験のないめぐみは、どうやら相当無防備の女の子のようだった。真っ白で大きな大きなパンティーだった。
そこはまさに2メートル18センチの女の子の部屋だった。天井の高さはそのままだったが、椅子や机はめぐみ用に余りに巨大な造りで6畳の部屋はそれだけで三分の一が占領されていた。机は高さ150センチ、椅子も1メートルはありそうだ。幅も背もたれも普通の椅子の倍。右端にあるデスクトップのパソコンがノートパソコンのように小さく見える。
「ベッドはないんだね」
「もう!わかってるくせに。私用のベッドなんてとてもじゃないけど置ききれないもん。机だってこんなに場所をとっちゃうのに。ベッドは小学6年まで無理して使ってたけど場所もないし、特注するお金なんてなかったから諦めちゃった。布団とか毛布の特注だけでもバカにならないんだもん」
そして、めぐみの洋服達。特注ののクローゼットは天井近くにバーがかかり、そこから巨大な洋服をつるしていた。
「ここに掛かってる洋服はすべて特注品かおかあさんの手作り。私の給料はすべて洋服代で消えちゃうの。それでも足りなくておとうさんに借りたり。だって靴のオーダーメイドだけで一月分の給料が消えちゃうのよ」
大きな大きな机と小さな本棚、クローゼットで部屋の右半分を占領して、左半分はぽっかりと何もない空間があるだけだった。きっと夜には巨大な布団で残りのすべての空間は占領されてしまうのだろう。
「小さな時から私があんまりにも大きすぎたせいで、衣料費が普通の家庭の何10倍もかかっちゃったの。私が就職するまで、皮靴、スニーカー、体育館履き、下着、学校の制服、Yシャツ、体操着、水着、ワンピース、コート、セーター、Tシャツ、何から何まで特注品。それを全部をおとうさんの給料でまかなってたの。既製品は3Lでも4Lでも高さが足りないのに、横はぶかぶかで....。そしていくら特注しても、1年も持たないで小さくなっちゃってすべてあつらえなおし。そのせいできょうだいの服代も削られて、何年も前の私のお古を着せられて...。三才も年上の男の子が妹のお古を着るなんてきっと悔しかったでしょうね」
「本当に子供の頃から大きかったんだね」
「幼稚園のころからもう、頭一つ分飛び出してた。修学旅行の写真でも私が入ると遠くから撮らないと収まりきれないの。みんな小さくしか写んないからって敬遠されちゃって....。寂しかったな。あんまり写真写るの嫌だったからいいけどね」
「めぐみのアルバムある? 見たいなぁ。めぐみが成長いくのが、見てみたい」
「私はあんまり見たくないけど、潤くんが見たいならいいよ。おとうさんが写真とかビデオとか好きで子供時代のはいっぱいあるの」
本棚に、アルバムが並んでいた。生まれた頃からそれを順番に見せてもらった。
彼女の少女時代のアルバムは、まさに彼女の「成長記録」だった。ページをめくるごとにぐんぐんと音を立てて彼女は大きくなっていった。
生まれたばかりの時。1才。2才。もうお姉さんに追いつきそうな背丈。
「これが七五三。私3才。おにいさん6才。おねえさん4才。幼稚園入学の年ね。何も知らない人が見たらきっと私の7才の七五三だと思うわね。だっておねえさんより頭一つ大きいし、おにいさんにもう追いつきそうな背丈だもん」
「幼稚園の集合写真。私だけ台に乗れないで端っこに立ってる。でも、台の一番上の子とそんなに変わらない高さ」
「遠足の時。小学3年生っていってもきっとわかんない」
「卒園の時。先生と肩を並べそう。制服が小さすぎて、腕がこんなに飛び出しちゃってる」
「小学校入学。おかあさんともう変わらない背丈。6年生並ね」
「そして7才の七五三。おねえさんは肩より下。おにいさんも肩先。おかあさんも抜いちゃった。私、まるで振り袖を着た高校生みたい。でも顔は小学生ね」
「でもここからが私の本当の成長期の始まり。自分でも信じられないほど伸び続けたわ」
彼女の同級生達は、めぐみのあまりにも激しい成長にみるみる小さく小さくなっていく。仲良しの女の子達は彼女が年を重ねるにつれ、彼女の肩位の大きさから、胸、おなか、ウエスト、最後にはおしりのあたりまでしか頭が届かなくなってしまった。
集合写真の中の彼女は、小学校低学年では、先生と同じ身長だったのに、年を経るにつれて先生を頭一つ分追い越し、それからはまるで彼女だけが縮尺を間違えたように飛び抜けた大きさでどこにいても決してまぎれることさえ出来ない。巨大さが、年を経るごとに圧倒的に大きくなっていった。
中学生の頃の体操着姿。紺のブルマーから突き出した脚は超モデル級の長さ。横に立つ小柄な女の子の身長ほどもある長い脚は更に15センチ以上も伸びて、今僕のとなりで大きく長く横たわっているのだ。興奮で目が回りそうになってしまった。それを必死で抑え、自然を装うのに苦労をした。
高校卒業の写真では、彼女が写真からはみ出してしまうために、彼女のいるクラスの写真は他のクラスの写真に比べて明らかに、遠くから撮っているようだった。校庭に全クラスが集まって3,4階から撮られて写真では彼女だけがまるですぐそこにいるように大きく大きく写っていた。どんなに大柄な男性の横に立ってもめぐみの肩先にも届かない。圧倒的な大きさ。
興奮で、きっと、今日は眠れないな、と思いながらめぐみの家をあとにした。
つづく