とうとう、その日がやって来た。
佳代子は前日の金曜日に出発していて、いな い。麻衣と僕は早朝の新幹線で遠くに出かけようと決めていた。
佳代子に対する後ろめた さがあるからだろう。どこへ行っても事実は変わらないのだが。
二人用のコンパートメントシート。座席の前が広くとられていて麻衣でもゆっ たり座れる。余りにも大きい麻衣にはグリーン席でも窮屈で、食事用のテーブルを引き出 しても脚に当たって、使うことさえできないのだ。 早朝の道を、カート付きのスーツケースをガラガラと曳きながら歩く二人。余 りの長身に、引き出した取手が足りず、スーツケース側に体を傾けている麻衣。
なんだか駆け落ちのような気分を二人は共有していた。 最寄駅に向かう間も言葉少なく早足で進んでいく。 麻衣は、特注のロングコートを纏い、横顔はなんだかとても大人びて見える。 少し気後れした僕は麻衣の早足の後をついていくのだった。
待ち合わせ5分で、既に出発を待つ新幹線に滑り込む。
麻衣には小さすぎる新幹線のドアをこれ以上ないほど縮こまって通り抜ける。 膝を曲げ体を斜めにしてなんとか通り抜ける。室内も天 井に軽く頭がついてしまう。行楽や帰省でだろう、朝から混み合う駅で麻衣はや っぱり目立ってしまう。車内でも何人にも驚かれた末に漸くコンパートメントにたどり着 いたのだった。
いろいろな緊張の連続でこわばった麻衣の表情。彼女の頬に向けて大きく手を 伸ばす。暖かい室内に入ったためか、二人きりになった安心感か、冷たくなった頬に急に 赤みが差した。僕に不意に触れられたからかもしれない。 そっとコートを脱がせたいところだが、とても届かないので諦める。
急に彼女が目を閉じた。不意なことで、一瞬戸惑ってしまったが、二人はごく 自然な形で初めてのキスを交わした。 大きな麻衣はこれ以上ないくらい体を屈め、僕は肩から頭に右手を廻してゆっ くりと唇を合わせた。それでも僕の身長が足りなくて少し背伸びをしながら。 ゆっくり目を開ける麻衣。上気した表情で微笑む。ようやく二人きりの空間が出 来たことを確認する。
ロングコートを脱ぐ麻衣。麻衣の規格外の大きさにコンパートメントも狭く感 じられてしまう。 長い長い腕を伸ばしてコートを脱ぎ、麻衣の服装を見ると、今度はぼくが上気す る番だった。薄手のカーディガンを纏ってはいるが、その下は、際どく胸元が開いた、体 型にぴったりしたデニムのワンピースだったのだ。これ以上ないほどに大きく突き出した 胸元は斜め下から見る麻衣の顔をもう少しで隠してしまうほどの隆起を作り出している。 そしてそこから信じられないほどに急激に細くなるウエスト。
そしてまた急激に広がるヒップライン。それらの曲線をありのままに見せてし まう特注のワンピース。外出着では今まで見たこともない程大胆な、自らのスタイルを強 調する服装なのだった。
スーツケースを開けようと屈む麻衣の胸元は、Uの字に開いたワンピースの谷 間から、まるでおしりのように雪崩を打って大きく豪快に山なりにはみ出し、麻衣は
『見ないで!おにいちゃん!』
と恥ずかしそうに叫ぶ。 これだけ挑発的な服を纏う女の子のセリフとは思えない言葉。女性の心理の不 思議さを感じる瞬間だ。 飲み物や食べ物の準備も完了していよいよ旅の始まりだ。リクライニングを深 く倒して座り心地を確かめる麻衣。麻衣の体型を考えたシートの選択はどうやら、正解だ ったようだ。
車両は知らぬ間に、ゆっくりと駅を滑り出す。
静かな新幹線のわずかな揺れにも麻衣のバストは反応してしまう。ゆらゆらと波打つ、 ビーチボールを二つ入れたような膨らみ。座り心地に満足して、目を つぶっていた麻衣が、ぼくの視線に気付き、顔を赤くしてはにかむ。 麻衣は背もたれから体を持ち上げ僕の方へ向きをかえた。余りの身長差に立っ たままでは抱き合えない二人も麻衣が座れば丁度向き合うことができる。 腕を伸ばして抱き合う。長い長い麻衣の両腕に僕はすっぽりと包まれてしまう。 でも、二人の体は、30センチ以上も突き出している麻衣の豊満な胸のせいで密着するこ とが出来ないのだ。
『…ごめんね。ギュって抱き締めても全部おっぱいの感触になっちゃうの。ハグ にならないでしょ』
謝る必要は全くないのに、恐縮する麻衣。 僕は雄大な麻衣の肢体に包まれて、これ以上ないほどの充足感に浸っていたのだった。 シートがそれぞれの壁寄りにあるために手を伸ばさないとお互いに触れられない 。でも麻衣は手を伸ばすと僕の側の壁まで手が着いてしまう。驚くべきリーチの 長さだ。長い長い麻衣の腕に思わず見とれてしまう。
『びっくりしちゃった?脚だけじゃないの、私、顔とウエスト以外、何にから何 まででっかいんだもん。ほら!』
と言って麻衣は僕に向かってぐいっと顔を近づ けてきた。そしてゆっくりと目をつぶり、僕たちは二回目のキスを交わした。 喜びを滲ませている麻衣の柔らかい微笑み。 異性に受け入れられると、女性はこんなにも大胆になっていくものなのかと、驚 きを覚えたのだった。いくら年下でも女性にはかなわないと思う
。 僕はビール、麻衣はお茶を飲みながら流れる景色を見るともなく見ていた。 何度も抱き合ったりキスをしたりしているうちにあっと言う間に目的地が近づい て来た。
つづく