4月の後半、花粉の季節も終わりマスク姿の学生もほぼ居なくなった頃、クラスでは麻衣さんの 明るい声が聞こえるようになった。大きな大きな女の子は、すっかりクラスの日常として、 みんなに馴染んできたようだ。小柄な他の女性に合わせるために麻衣さんも前列に座るようになった。 ただし、当然一番端の席だ。 そうしないと後ろの23人は黒板が見られなくなってしまうのだ。 狭い語学の教室にぎっしりと並ぶ学生達の中で、頭一つ分以上飛び出してしまう麻衣さん。 ただひとり俺だけが、下半身を鷲掴みにされるような強烈なリビドーを起こしてしまう風景。 抗いきれないほどの強烈な欲望に、俺は日々苛まれているのだった。
ゴールデンウイークも過ぎ、汗ばむような日が出てくると、女性の装いも薄着になってくる。 そして、麻衣さんもご多分に漏れず男達の目を楽しませてくれる。今日は白い薄手のノースリーブのセーター。 激しい隆起にウエストのあたりはすっかり影に覆われている。 麻衣さんのまさにダイナマイトボディはすっかり他のクラスにも知れ渡り、わざわざ見学に来る人まで現れている。 大きな大きなバストは球状に突き出し、余りのボリュームに、動いていなくても、タプタプと揺れ動き、 背後からでもしっかりと覗けてしまう。 身長だけでも興奮でどうにかなってしまいそうなのに、麻衣さんは余りにも肉感的過ぎる姿態で、更に俺を苛むのだった。
打ち解けてきた語学クラスのその中でも、女子達のまとめ役で、麻衣さんと仲のいい上野千佳さん。 誰とでも気軽に話せるタイプの人で、麻衣さんも含めてあっという間に女子全員を仲間にしてしまった。 身長は152センチで二人が並ぶとまるで幼児と大人のような見た目になってしまう。 それでも気にせず歩いている千佳さん。 奥手の俺も、なぜか彼女とは気兼ねなく話せて、お昼も男女合同で学食に行くようになった。そのために、 男子からも感謝されて、俺の大学生活も順調に滑り出したのだった。 ただ残念なことに、麻衣さんだけは、最初は上野さんたちと一緒にお昼に行っていたはずなのに、 次第に他の女子たちとは別行動になってしまっていて、ようやく男女一緒に食事に行けるようになった頃には、 彼女だけ別のところに行ってしまうようになっていたのだ。 合格発表の日に親しげに話していたあの男と一緒に食事をしているのは、数日を経ないで分かってしまった。 遠目にも麻衣さんを見間違えることはあり得ない。楽しげに会話をする麻衣さんはすぐに見つかってしまうのだ。 俺は上野さんに何度も彼との関係を聞こうと思ったが、嫌な答えを聞きたくないからだろう、聞きあぐねていた。
だが、お昼の面子が少なかった梅雨のある日、ついに我慢できなくなって、麻衣さんに対する俺の思いを話してしまった。 上野さんは最初驚いたような顔をしていたが、俺の必死の説明に納得したのか、 『ふーん、そうなんだぁ。じゃあ私がアレンジしてあげようか?』 と言ってくれたのだ。
『でも彼女、彼がいるんだよね?』
『ううん、彼氏じゃないみたい』
『え、マジで!』
『そう、麻衣ちゃんといつも一緒にいる彼は、麻衣ちゃんの姉貴の彼なんだって。保護者みたいな関係みたい。 でも、麻衣ちゃんは彼のことが好きよ。だから、麻衣ちゃんの気持ちを振り向かせなきゃOKはもらえないわよ』
そんな話をしてから数週間後、前期試験おわりの週末に、語学クラスでの合コンが開かれることとなった。 語学クラスでの男女の会合はあまりないので、彼女の尽力のおかげだ。 大学近くのレストランの個室に集まった10人程のクラスメイト。女性は麻衣さんを含めて4人。 サークルでもあぶれてしまった男子どもが、目当ての女性を狙って、結構集まってきた。 アルコールなしの会合なので、大騒ぎする者もなく、いい感じに進んでいく。 二次会はカラオケ。でも、意気投合したグループは深刻な人生相談をしている。恋愛相談が中心だ。 そして、その輪の中に俺と、麻衣さんと千佳ちゃんが 加わっている。 終わらない相談は、深夜の三次会にまでなだれ込んだ。広いワンルームの男子の部屋に転がり込む。 マンションの一室に6人の男女。 夜食のパスタを山盛り茹でて深夜の会合がはじまった。お茶とジュース。お金のないのはみんな一緒で、 コンビニで買った100円菓子がおつまみだ。 大学の講堂は、それでもある程度高い天井で、麻衣さんの背丈でも、余裕がある。 しかし普通のマンションの玄関や低い天井に対比する麻衣さんは、子供用の遊具の中の大人のように、 余りにも窮屈に見える。肩までにも届かない扉。そして腰も扉の横幅と同じくらいありそうだ。 上半身を屈めさらに下半身は横にひねり、膝も曲げながらくぐり抜けなければならない。
『うーん、よいしょ』
苦しそうに狭い隙間をくぐり抜ける麻衣さん。 玄関ですでに天井にこすりそうな麻衣さんの頭。室内に入ればもう屈まなければ立っていられない。 『私が居るからお部屋が窮屈になっちゃうね』 巨大としか言いようのない麻衣さんの圧倒的な存在感。座っても頭一つ分以上はるかに飛び出してしまう麻衣さん。 崩しているとは言え正座の女性と、あぐらの男性で、激しい身長差が生まれてしまう。 もちろん俺は麻衣さんを間近に見上げて、静かに興奮しているのだった。
『でも、ホント麻衣ちゃんておっきいよねぇ』
本人を筆頭に全員が強烈に感じている思い。
『うん、自分自身が一番呆れてる。なんて私ってこんなにおっきいんだろうって』
『麻衣ちゃんのご両親もやっぱり大きいの?』
『ハーフとかだったりする?』
普段は遠慮して聞きにくいことも、リラックスした雰囲気の中で気軽に聞け、気軽に答えられる。 大きな大きな麻衣さんは、やっぱり、みんなの興味を集めていたようだ。 麻衣さんの体型の話は普段はとでもデリケートであまり聞けないことのようだ。女性陣は、 ここぞとばかりに、麻衣さんに質問をぶつける。
『集団登校でも一番前の六年生よりも大人の男性よりもはるかに大きい、女の子が列の途中に紛れ込んでいるの』
『いつも保護者の人に間違われて怒られたり、大人に見られてナンパされたり、本当に小学生の時は大変だったの。 でも、5年生で大人の男性を追い抜いて、6年生ではバスケット選手並みに大きくなっちゃって、 それ以来ナンパはされなくなっちゃったけど』
『長身好きのマニアの人もいるみたいで、以前もストーカーみたいな人が駅からつけてきたことがあったの。 私は、こんなに大きいから襲われる心配はないけど、やっぱり変な男の人って怖いから、 なるべく決まった電車には乗らないようにしてる。朝はなるべく早く、人目に付かない時間に来てる』
リラックスした閉鎖空間で、麻衣さんの体型の話をたっぷり聞けて、俺は本当に幸福な時間を過ごせた。 周りの人達はただの好奇心だろうが、俺の場合は激しいリビドーがそれに加わっているのだ。人知れず興奮の極みに達していたのだ。 しばらくして、やはり会話の内容は恋愛の話しに戻っていく。
『麻衣ちゃんのおっぱいの話以外は拒否権なしよ。聞かれたら話す。いいわね』
『もう、千佳ちゃんたら!』
4月はじめの頃の緊張した麻衣さんの顔からは想像できないくらい、今の麻衣さんはリラックスした表情をしている。 上野さんは
『麻衣ちゃんは彼氏がいますか?あの男性は彼氏ですか?』
すこし躊躇したあとで、麻衣さんは意外にあっさりとした感じで、
『ううん。あの人は、おねえちゃんの彼氏なの。』
上野さんは気を使って最大限の配慮をしてくれたのだ。 ここで引くわけには行かない。 勇気を出して、俺は
『じゃあ今はフリーですか?』
と麻衣さんに聞く。
『う、うん、一応…』
『立候補してもいいのかな』
『えー!』
一斉に騒ぎ出す、千佳ちゃん以外のみんな。 顔を真っ赤にする麻衣さん。
『わ、私なんてどこがいいの?』
『全て…いいです』
『こんなに大きいんだよ私』
『全部好きだけど、それが一番好きかも』
『本当は私2メートルどころじゃなく大きいんだよ』
あまりそればかり強調しては嫌われてしまう。
『それは麻衣さんの一部でしかないから…』
『そんなこと言って貰えたの初めて…ありがとう』
口をおさえ目が潤んでいる。
『よかったら一度食事でもつきあってくれませんか』
『はい』
千佳ちゃんがガッツポーズをしているのが見える。 全員が
『おー』
と歓声を上げて、祝ってくれている。
『よーし!じゃあこれからはお祝いパーティに変更ね』
言うだけ言って逃げ出したいところだが、まだまだ話は続いていくのだった。
つづく
『一番気にしてるのは胸のことじゃないの。身長のことなのよ。 185センチの男子と並べば13センチ差じゃないなんてことぐらいすぐわかるわ。でも、 みんなには、絶対麻衣に身長の『サイズ』の話はしちゃだめって釘を差してあるの』 やはり、周りに気持ちに気が配れる千佳ちゃんは違うなと思った。 俺なんて、親しくなった途端にあれこれ身長のことばかり聞いてしまうところだった。