諏訪南インターから降り、下みちで湖に向かう。
『簡単な着替えはいつも持ってきてるの。私の着られる服は世界のどこにも売ってないから…でも…』
ショッピングセンターかドラッグストアに寄ってお泊まりセットを揃えたいと言う加奈さん。
ナビで探したショッピングセンターに到着。一緒に行こうとする僕を制して、
『ちょっと待ってて』
その間に僕はクルマに残り、スマホでホテルの予約。少し高級なリゾートホテルを探す。
外泊のうれしさと、男として初めての夜を迎える不安が渦巻く。
女性というのは、一見臆病なふりをしていて、男性なんかよりも遥かに大胆な決断を、こんなにあっという間に出来るのかと思う。
よく考えれば、さっきの加奈さんの言葉は、事実上のプロポーズともとれるではないか。
確かに、加奈さんのプロポーションは余りにも特別すぎて、お付き合いや結婚を考えた場合、非常に大きなハンディキャップになるとは思う。
でも、まだまだ若い加奈さんが、これからのチャンスを投げ捨ててまで、俺なんかに全てを預けてしまえるのが、本当に不思議なのだ。
中肉中背、イケメンとは言えない容貌、恋愛経験なし。そして逆身長差60センチ。僕が女だったら絶対に選ばないと思うのだ。
そんなことを考えながらも、駐車場から見えるところにあるコンビニに急いで行き、しっかり夜の営みに必要な買い物をしておく。素知らぬ顔をして車に戻り、スマホで近辺の名所を探していると、加奈さんが戻ってきた。
『お待たせしました』
助手席のドアが開き、これ以上ないくらいに体を屈めて入ってくる。
『よいしょっと…んっ、』
長い長い脚を折り畳み、お尻をドアフレームに入れるのだが、長すぎる脚のせいで、つま先がドアフレームからはみ出し中に入りきらない。
『んー、…脚つっちゃう』
上半身を真横に傾け、運転席の僕の方へ被さるようにして、膝を両手で抱えて車内に引き込み、ようやく長すぎる脚の片方を室内に入れることに成功した。膝小僧は天井に当たりそうだ。
『はー!やっと入ったぁ!』
次に左脚を抱えて引き上げ、めでたく両脚を納めることが出来た。広い筈の助手席の足元は、ダッシュボードより高い、膝小僧を頂点とした二つ折りの長すぎる脚に占領され、サイドミラーが見えない。
上半身も普通のリクライニングの角度では収まりきらず45度まで倒してようやく顔を上げることが出来るのだ。
『ふー!やっと入れた。大変お待たせしました』
少し恥ずかしそうに微笑む加奈さん。
『朝最初に入る時にはうまく入れたのに、私、また大きくなっちゃったのかなぁ』
見ているだけで興奮してしまう、加奈さんの規格外れの大きさをしっかり堪能し、下半身は穏やかではいられない。加奈さんの何もかもが僕を興奮させてしまうのだ。
加奈さんの言うとおり、興奮ばかりしていてはまともなコミュニケーションは覚束ず、常にいやらしい事ばかりで僕の頭は一杯になってしまうのだ。
車を走らせ、目的地まで急ぐ。
『お父さんは185、お母さんは168センチ。二人とも大きいけど、びっくりするほどの大きさではないでしょ?
私も小さな時から大きかったけど、そこまで大柄ではなかったの。でも、小学4年生位から目を引く程大きくなりはじめて、中学、高校とひたすら伸びが止まらなかったの。毎年10センチ近く伸び続けて中学3年で2メートルを突破して、以後23歳の今まで、とどまることなく、スクスク成長中…』
大きなため息をつく加奈さん。
『まさか私がこんなギネスサイズまで大きくなるなんて夢にも思わなかった。
「なんで私だけがこんな目に遭うの」って、中学からいつも泣いてばかりだったの』
『でも、そんな気持ちと裏腹に身体測定のたびに3センチ、4センチとぐんぐん伸び続けて、もう大学も卒業したのに、全然成長が止まらないの。一体いつまで私の成長期は続くの?』
悲しそうな笑みを浮かべた表情で加奈さんは呟く。
窮屈そうに左右の脚をずらす度にスカートの裾をなおす加奈さん。膝が上向きになっているために、すぐにスカートが手前側に下がってしまう。大きな二つの足の置き場は助手席とは言え、加奈さんには狭過ぎて思うように動かせないのだ。
ようやく一番の目的地、諏訪湖に着く。
真冬には凍結するなんて思えないほど豊かな水量の湖畔に降り立つ。ギラギラと言ってよいほど陽光を照り返す湖面。しかし、さすがに水辺は涼しい風が流れて、
『やっぱり東京と違って過ごしやすいね。いい風』
加奈さんが上空からつぶやく。
並んで立つと僕の顔は加奈さんのウエスト辺り。大きく大きく見上げてようやく加奈さんの笑顔に到達する。
『首痛くしないでね』
『加奈こそ』
ドキドキしながら呼び捨てにしてみる。
『私は慣れてるから。会う人はみんな70センチは低いんだもん。ていうか私が余りにも大き過ぎるの』
『そうだね』
『もう、否定してよ』
だんだんとリラックスして気持ちが高まってくるのを感じている。
ずっと一緒に居てくれると言ってくれた加奈さん。
幸せな気持ちと、よこしまな気持ちが僕の胸の中で溢れている。
先月までは存在さえ知らなかった女性。
しかも僕の理想を具現化したような、きれいでスタイルもいい、信じられないほど超長身の女の子。
その女性から告白され、今日はじめて共に夜を過ごすのだ。
加奈さんの腰に腕をまわす。スリーサイズは一体いくつあるのだろう。間近で見るヒップのボリューム感が凄い。ウエストの急激なくびれのせいで余計に大きく感じられるのかもしれない。ヒップの上に手を回すと、ちょうど普通の女性の肩のあたりの高さなのだ。
加奈さんの壮大な大きさに酔いしれる。
その様子を上空から眺めながら、
『本当に大きな女性が好きみたいね』
と微笑みを浮かべる加奈さん。
『うん。逆に良さがわからない他の男たちの方がおかしいんだよ』
『でも、そのわりにずいぶん悲しい目に遭ってきたよ…』
『これからはたくさん楽しい目に遭うから』
急に身体を大きく屈め僕を抱きしめる加奈さん。豊満なバストに埋められる僕の顔。窒息しそうだ。GとかIとかあるとしか思えない大きな谷間に完全に埋もれてしまう。
『たくさんお出かけしようね。いろんなところに連れて行ってね』
返事をしたいが、息が詰まって声が出せない。
『あっ、ごめんなさい!大丈夫?』
『…逆にうれしい』
『もう!そういうことじゃないの!』
僕の理想をそのまま形にしたような、木村加奈さんと知り合ってまだ半月。
見るだけで激しい興奮が止まらない。
その加奈さんに『抱いて』と言われたのだ。
『私、こんなあり得ない体型になっちゃって、一生一人で生きていかなきゃならないって、毎日泣いてばかりだったの。それが、ふとしたきっかけであなたに逢えて…。
本当に私なんかでいいの?後悔していない?』
加奈さんは僕と全く同じことを考えていたのだ。えもいわれぬ幸せな気持ちが胸の中に溢れていく。
『僕には君しかいない。駆け引きするなら、言わない方が優位に立てるから、出来れば内緒にしたいけど、これが本心』
『…これ以上泣かさないで…お化粧がとれちゃうよ』
キスをしたい衝動にかられても、僕からでは出来ない。顔に遥か届かないので、腕にキスをする。
真下から見上げる加奈さんの顔。泣き虫の加奈さんはもう目が涙で溢れている。無理に作ろうとする笑顔。
涙が加奈さんの頬を伝って僕の顔に降り注ぐ。
思わず舐めてしまうと、途端に本当の笑顔になる加奈さん。
『しょっぱい』
『じゃあ、口直し』
加奈さんのやさしい笑顔が上空から遥か下に降りて来て僕の唇を奪う。
少し濃厚で激しいキス。
早く抱き合いながらキスをしたい。柔らかい胸を感じたい。いよいよ、夜を迎える気分が高まって来た。
山梨のリゾートホテルが今日の宿。諏訪から高原のルートを経由してムードを高める。
南アルプスの稜線を抜け、県境を越えるとすぐに目的地の宿だ。
『きれいな場所。踏み切りがあったけど、森のなかに線路が伸びてていい雰囲気だったな』
『小海線っていうローカル線だよ。さっき通った野辺山に続いてる』
ひんやりとした高原の空気。日が傾くと途端に気温が下がる。
加奈さんとホテルのロビーに向かって歩く。左右にレストランや小物類のショップが並ぶ欧風の街並みのような道。
『すごいおしゃれな感じ。かっこいいね』
上空から、キョロキョロ辺りを見回す加奈さん。奮発した甲斐があった。こんなおしゃれなところに泊まるのは初めてなのだが素知らぬ顔で歩く。
チェックインをして部屋へ荷物を預け、廻りを散策する。馬術競技場を横目に見ながら、ゆっくりと歩を進める。道に沿って白樺や杉の林が続く。澄んだ空気が心地いい。普通に歩いたら歩幅の違いはおそらく倍近くありそう。でも、加奈さんが、ゆっくり、細かく歩幅を刻んで、僕に合わせてくれる。
『お姉さん2人の話をしてなかったね。身長何センチだと思う?』
『2メートル?』
『って思うよね。私を見たら。でもたった170センチしかないの。一番上のお姉ちゃんはなんと162センチ!お母さんよりずっとちっちゃいの!』
『どれだけ私がこの身長を恨んだかわかるでしょう?私1人だけが突然変異みたいに、こんなにばかでっかくなっちゃったの!』
『2人とも結構美人だし。彼氏も居るし、私だけ余りにも違いすぎて、物凄く孤立感を感じてたの』
バッグから普通より大きなサイズのスマホを取り出す加奈さん。軽く普通の女性の倍の長さがある加奈さんの手では、普通のアイフォンサイズでは操作し辛いのだろう。しかしそのサイズでもまるで普通の携帯に、いや、もっと小さいサイズのものに見えてしまう。
長い長い首を曲げ、少し体を屈めてスマホを操作する加奈さん。小さな電卓でも叩いているようなその姿。
いっそ小型のアイパッドにすればぴったりな体格と手の大きさなのだが、きっと恥ずかしくて買えないのだろうと思う。
興味津々だが、スマホは目線の上にあって画面が見えない。
『…これが3姉妹のスリーショット』
ようやく下に下りてきたスマホ。大きな画面いっぱいに写し出された写真。思わず息を飲む。縮尺を間違えたような物凄い身長差。
小・中・超々特大サイズの3姉妹。
加奈さんは袴で大学の卒業の時のようだ。
矢がすりの紫の小袖に、天井まで届く窓用の特大カーテンのような長い長い袴。お姉さんの頭上を遥かに超える位置まで、袴が届いてしまっている。小袖も袴も草履も足袋もどう考えても特注としか思えない。
大きな大学の校門に届きそうな加奈さんと、半分にも足りないお姉さんたち。
家族の中でも自分だけが余りにも特別な体型になってしまった悲劇。
『これで私が近所の有名人な訳がわかるでしょう?』
家族全員の集合写真。185センチのお父さんはその他の女性陣より図抜けて背が高い。なのにそのお父さんより頭3つ分は飛び出してしまう加奈さんの笑顔。
『あなたにだから見せるの。私のことをもっと知って欲しいから。』
少し悲しげな表情を浮かべている加奈さん。
姉妹も超長身ならいいなというのが本音だったが、加奈さん程の超弩級の長身は、きっと一卵性双生児でもない限り現れないのだろう。加奈さんはそれほど類い稀な存在なのだ。
つづく