「心の理論」はどう加齢変化するのか?(3)

投稿日: Dec 08, 2016 7:45:24 AM

「心の理論はどう加齢変化するのか?」シリーズ,今回は,「高齢者では冗談や皮肉といった,文脈を少し外した会話の意図に気づきにくくなる」ことを報告している研究を紹介します。

採点:「彼女は冗談で,バナナで電話をしたふりをした」というように,彼女の心情に触れているものは1点。「バナナが電話の形をしているため」など,彼女の心情に触れずに物にだけ触れているものは0点。

Cavallini, Lecce, Bottiroli, Palladino, & Pagnin (2013)は,加齢に伴い「心の理論」は変化する,しかもそれは認知機能の低下とはまた別の現象として起こってくるものなのではないかと仮定して調査を行いました。彼らは30名の若年者(20-30歳),27名の前期高齢者(59-70歳),29名の後期高齢者(71-82歳)を対象に,ワーキングメモリ・抑制機能・語彙能力,そして「心の理論」を測定し,年齢間比較を行いました。ここで用いた「心の理論」テストは,皮肉や比喩,ふり(ごっこ遊び的な),嘘や冗談を織り込んだストーリー18個を読ませて,その意図がちゃんと汲み取れているかを確認するテストを行いました。例えば…

★ジョージとアレッサンドラは家の中で遊んでいました。アレッサンドラはフルーツボールからバナナを取り上げて,耳に当てて「みて~!このバナナはおでんわだよ~ぷるるる~」と言いました。さて。

質問:「彼女が言ったことは本当ですか?」「なぜ彼女はそんなことを言ったのでしょうか?」

そして,control storiesとして6個の普通のストーリーについても解答させました。普通のストーリーは例えば,「A君が野菜の種をまいて収穫を楽しみにしていましたが,冬の間に鳥たちが種を食べてしまったので芽が出ませんでした。さて,なぜ芽が出なかったのですか?」というようなものです。

結果はというと,まず心の理論テストの成績は若者の方が高齢者2群よりも有意に良く,語彙の量や流暢性,記憶,抑制機能の高さと関連していました(Table3)。

さらに,それらの認知機能の成績を統制しても,若年者の方が心の理論テストの成績がいいという結果となりました(Figure1)。

認知機能が落ちるに従って「心の理論」(特に「事実を把握する」という認知的側面)も落ちる,というのはこれまでの研究で報告されてきたところですが,そこを統制してもなぜか若者の方が「心の理論」テストの成績がいい,というのは新しい点です。特にこの研究では,「心の理論」として,会話の中で話し手が意図して「外している」ことが読み取れるか否かをみているのが面白いところです。もしこの研究結果が支持されるならば,高齢になるに従ってユーモアが通じる人が少なくなってくるのでしょうか。中高年者独特の「おやじギャグ」,あれは「分かりやすい」からこそあのぐらいの年齢にいいのでしょうか。いろいろ考えると面白いです。

(文献)

・Cavallini, E., Lecce, S., Bottiroli, S., Palladino, P., & Pagnin, A. (2013) Beyond false belief: theory of mind in young, young-old, and old-old adults. International journal of aging and human development, 76(3), 181-98.