「平等」に分ける?「公平」に分ける?

投稿日: Dec 08, 2016 7:43:13 AM

「頑張った人が頑張った分だけご褒美をもらう」という感覚に慣れているわたしたちは,ときに「頑張ってもいない人がいっぱいご褒美を持っていってしまう」場面に遭遇すると,「な,なんて不公平な…!」と思ってしまうものです。この感覚は至極当然のことのように思えますが,実はこれには大きな文化差があります。ここでは,「ご褒美はどうやって分けるべきか?」の感覚は何で決まるのか,を検討した研究をご紹介します。

まず,最も多くの研究があるのが,「個人主義か,集団主義か」によって感覚が異なる,というものだそうです。例えばCarson & Banuazizi(2008)の研究では,アメリカの子とフィリピンの子を対象に分配実験を行い,アメリカの子が「貢献に応じた合理的な報酬分配」を行うのに対し,フィリピンの子は集団メンバーの感情を優先させて,貢献度よりも「必要な人のところに必要な分だけ」分配されることを好んだ,という結果を報告しています。そしてこの差を,「個人主義か,集団主義か」という社会的傾向の影響であると論じています。

しかし,「個人主義か,集団主義か」では必ずしも説明できない,という研究もあります。Fischer & Smith(2003).は,12の文化圏で分配行動を扱った論文25本をメタ分析し,「個人主義か,集団主義か」ということよりも,「階層性(ヒエラルキー)がどの程度強い社会か」ということが,報酬分配の感覚に影響していることを報告しています。ヒエラルキーが確立されている社会であるほうが,「頑張った人が頑張った分だけご褒美をもらう」ではなく,「偉い人がたくさんご褒美をとっていく」という感覚が育つわけです。

個人主義・長老制・集団主義の3つの文化圏の子どもを対象に実験を行った,面白い研究があります。Schäfer,Haun, & Tomasello (2015).は,ドイツ(個人主義代表)・ナミビア(狩猟採集民族で,集団で採ったものを平等に分けるという文化)・ケニア(完全なる長老制で,年齢が高い順のヒエラルキーあり)の4~11歳の子どもたちを対象に,2人1組の「釣りゲーム」を行いました。実験群では,わざと1人の方が「あまり釣れない竿」を持たされています。ゲームの後,2人で釣った数だけのお菓子が渡され,子どもたちは「好きに分け合っていいよ」といわれます。さて,どんな風に分け合ったのかというと,結果は以下のようになりました。

実験群では,全部で12個のキューブのうち,一方の子が必ず9個釣れるようになっています。Figure3は,9個釣った子が,お菓子を最終的にどのぐらい受け取ったかを示しています。ドイツの子たちの場合,対象者の52%が,「9個釣った子が9個お菓子を受け取る」というわけ方をしています。ナミビア(Hai||om)の子たちは,9個釣った子は7個前後受け取っている場合が多いようです。6個ずつ受け取ると,「釣った数に関係なく平等にお菓子を分けた」ことになりますので,きわめて平等なわけ方に近い行動をとっていることが分かります。一方,ケニア(Sambru)を見てみると…お菓子の分け方はばらばらです。一番多かったケースは「9個釣った子が5つ受け取る」(31%)で,いっぱい釣った子がむしろ少なく受け取っている,というデータになっています。個人主義のドイツでは「頑張った人が頑張った分だけご褒美をもらう」感覚,集団で採ったものを平等に分ける社会で育ったナミビアの子どもでは平等に分ける感覚,そして長老制のケニアではそもそも社会の中で子どもには分配権がないので,「どう分けるか」についての感覚が全くない,とSchäferらは解釈しています。

ちなみに,こうした研究は発達の文脈で子どもを対象としたものが多いですが,対象者の年齢が結果に与える影響はもちろん考慮する必要があります。例えば先ほどご紹介したFischerらは,対象者が学生の場合は平等な分配が好まれるが,社会人になると「頑張った人が頑張った分だけもらう」方が好まれる,ということを報告しています。「ご褒美の正しい分け方」に何が影響しているのか,まだまだ議論は続きそうです。

(引用文献)

・Carson A. S., & Banuazizi A.(2008). “That’s not fair”: Similarities and differences indistributive justice reasoning between American and Filipino children. Journal of Cross-Cultural Psychology, 39, 493–514.

・Fischer R., & Smith P. B.(2003). Reward allocation and culture:A meta-analysis. Journal of Cross-Cultural Psychology, 34, 251–268.

・Schäfer, M., Haun, D. B. M., &Tomasello, M. (2015). Fair Is Not Fair Everywhere. Psychological Science, in press. DOI: 10.1177/0956797615586188