2012年既読論文

●Orth, U., & Robins, R. W., & Widaman, K. F. (2012). Life-Span Development of Self-Esteem and Its Effects on Important Life Outcomes. Journal of Personality and Social Psychology, 102(6), 1271-1288. DOI:10.1037/a0025558

ヘッドライン:「自尊心は青年期から中年期にかけて向上し,50歳でピークに達し,高齢期に低下することが示された.また,自尊心の高低は成功・失敗経験の結果ではなく原因であることが示された」

(Abstract)

本研究では,自尊心の生涯発達と,生涯における重要なアウトカム(関係満足度,仕事満足度,仕事上の地位,給与,ポジティブ・ネガティブ感情,抑うつ,身体的健康)の発達に対する,自尊心の影響を調べた.4世代の縦断調査を行い,16~97歳までの1824名における,12年間の5つの調査のデータを分析した.まず,自尊心の成長曲線モデルにより,自尊心は青年期から中年期にかけて向上し,50歳 でピークに達し,高齢期に低下することが示された.次に,交差遅延回帰分析を行い,自尊心は,生涯におけるアウトカムの「結果」ではなく「原因」になって いることを示した.また自尊心は,生涯発達の中の感情と抑うつの変化に中程度影響しており,関係満足度・職業満足度に小~中程度影響しており,健康変化に は少し影響しており,職業上の地位とは関係していなかった.これらの結果より,自尊心の高低は,重要な人生領域の成功・失敗の付帯現象ではないことが示さ れた.

Turiano, N.A., Pitzer, L., Armour, C., Karlamangla, A., Ryff, C.D., & Mroczek, D.K. (2012). Personality trait level and change as predictors of health outcomes: findings from a national study of americans (midus). The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 67(1), 4–12, doi:10.1093/geronb/gbr072.

ヘッドライン:「性格特性の変化と健康の関連を,10年スパンの2時点縦断データを用いて検討したところ,誠実性の変化が身体的健康感を予測する等,関連が認められた.」

(Abstract)

性格特性は多くの健康指標を予測するとされているが,これまでの研究では性格特性の変化を考慮していなかった.本研究では,対象者3990名という大規模調査MIDUSの10年間の縦断データを用いて,性格特性とその変化が3つの健康指標(主観的身体健康感,主観的血圧,身体的理由による仕事・家事の制限日数)を予測するかどうかを調べた.その結果,解放性以外のBig Fiveにおける4側面が,主観的身体健康感を予測しており,協調性・誠実性・外向性の変化も同様に主観的身体健康感を予測していた.誠実性と神経症傾向は,主観的血圧を予測していた.協調性以外の特性は,仕事の制限日数を予測していた.誠実性の変化のみが仕事の制限日数を予測していた.これらの結果から,性格特性と健康の関係を考える際には,特性のレベルのみではなくその変化も考慮すべきであるといえる.

2012年に読んだ論文をまとめています.高齢者を対象とした研究が多いです.

(Topics)

●Generativity(世代性)

●利他的行動

●コミュニケーション・世代間相互作用

●機能維持・長寿

●社会活動

●親・子・孫

●高齢者のアイデンティティ

●性格特性

Generativity(世代性)

●Gruenewald, T.L., Liao, D.H., & Seeman, T.E. (2012). Contributing to others, contributing to oneself: perceptions of generativity and health in later life. The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, doi: 10.1093/geronb/gbs034

ヘッドライン:「高齢者における世代性の高さが,身体機能の維持と死亡率を予測できるかについて,10年間の追跡調査データから検討.ベースライン時の世代性が高い高齢者は,10年後の身体機能の低下が起こりにくく,死亡率も低いという結果となった.」

(Abstract)

MIDUS(中高年者を対象とした米国の大規模縦断調査)による60歳から75歳を対象とした10年間の追跡調査データから,世代性(Generativity)が日常生活動作(ADL)の低下と死亡率を予測しうるかについて検討した.健康状態・健康行動・その他心理社会的要因を統制した上で,日常生活動作の低下と死亡率を予測する要因として,世代性および世代性的貢献行動(世代性の発達に伴い増加するとされる利他的な行動)を検討した.その結果,ベースラインでの世代性の得点がより高ければ,日常生活動作の低下が将来的に起こる確率,および死亡する確率がより低いという結果となった.この結果より,世代性は,高齢者における身体機能の維持と死亡率を予測する要因として考えることができる.

●Schoklitsch, A., & Baumann, U. (2011). Measuring Generativityin Older Adults The Development of New Scales. The Journal of Gerontopsychology and Geriatric Psychiatry. 24 (1), 31–43 DOI 10.1024/1662-9647/a000030

ヘッドライン:「世代性尺度はこれまで中年期世代を対象に作成されてきたため,高齢者を対象とした尺度開発を行った.その結果,LGS(世代性研究で最も使用されている尺度)との相関が比較的高い,妥当性のある尺度ができた.」

(Abstract)

Eriksonは,世代性が中年期のみならず高齢期にも重要な意味を持つことを強調している.しかし現在使用されている世代性尺度は,中年期を対象として作成されたものである.そこで本研究では,195名の高齢者を対象に,世代性の異なる側面を測る3つの新しい尺度を作成した.各尺度について,因子構造,内的整合性,妥当性(既存の世代性尺度や属性との相関)が確認された.本研究により,理論的に裏付けられた尺度ができたことで,高齢者におけるより多面的な世代性研究を行うことができる.

●Busch, H. & Hofer, J. (2012). Self-Regulation and Milestones of Adult Development: Intimacy and Generativity. Developmental Psychology, 48(1), 282–293. doi : 0012-1649/11/$12.00 DOI: 10.1037/a0025521

ヘッドライン:「成人期以降の発達課題(親密性・世代性)の達成が,自己調整能力(注意制御・行動制御)と心理的well-beingとの間を媒介する要因であることが示された。

(Abstract)

2つの研究において,自己調整能力とwell-beingとのポジティブな関係性を,エリクソン研究の中で用いられる発達危機の解決によって説明できるか否かを調べた.研究1では,177名の成人を対象に,注意制御機能,親密性,well-beingを調べた.その結果,注意制御機能は親密性を発達させ,well-beingを向上させることが示された.研究2では,163名の成人を対象とした18か月スパン2時点縦断調査により,行動制御機能,世代性,生きがい,マキャベリズムについて調べた.その結果,行動制御機能は世代性の発達を促進し,生きがいを高めていることが示された.しかし,世代性と生きがいとの関係性は,マキャベリズムによって制限されていた.これらの結果から,発達における自己制御機能の役割と,エリクソンが世代性の発達において想定した「種としての信念」について議論した.

利他的行動

●Hepach, R., Vaish, A., & Tomasello, M. (2012). Young Children Are Intrinsically Motivated to See Others Helped. Psychological Science, 23(9), 967–972. DOI: 10.1177/0956797612440571

ヘッドライン:「困っている人を見たら助ける,という行為への動機はもともと備わっているものだ」

(Abstract).

子どもたちがなぜ他人を助けるのかについては,未だ議論の余地がある.本研究では,2歳児の同情の喚起(本研究では瞳孔拡張変化を同情喚起の指標として使用)が,彼ら自身が人助けをしたときと,第3者に誰かが助けられているのを見たときで類似している(そして両ケースは,まったく助けられていない人を見たときの反応と異なっていた)ことが明らかとなった.これらの結果から,子どもが他者を助ける行動の内的動機づけは,他者を助けることによって「褒められる」ということではなく,ただ助けるべき人がいるということだということが明らかとなった.人は早期の段階から,他者の幸福のために心から心配する,同情するという傾向がみられるようだ.

●Kogut, T. (2011). Someone to blame: When identifying a victim decreases helping. Journal of Experimental Social Psychology, 47, 748–755 doi:10.1016/j.jesp.2011.02.011

ヘッドライン:「被害者が特定できる状況で,被害者自身に責任があると感じる場合は,助けたいという意欲が低下する.公正世界信念が強い人はその傾向が強い」

(Abstract)

人は匿名の被害者よりも特定できる被害者を助けようとする貢献意欲が強い.これは,「特定被害者効果」として知られている.先行研究によると,ある一人の特定できる被害者への感情喚起(同情や悲嘆)がその効果の主な原因となっている.しかしながら,一人のターゲットを特定することは,そういう状況に追い込まれているのはその人自身に責任がある,というような場合でのネガティブな認識(非難など)も強める可能性がある.仮想的な貢献意欲と実際の貢献行動を設定した5つの研究により,被害者の特定が貢献意欲を増加させるか減少させるかは,被害者がどの程度その状況に責任があると感じるかによって決まることを示した.この研究により,被害者を非難できる立場の人が強い公正世界信念を持っている場合において,その被害者を特定することが,被害者のネガティブな認識を強め,「助けたい」という意欲や行動を低減させるということが示された.

●Mogilner, C., Chance, Z., & Norton, M. (2012). Giving Time Gives You Time. Psychological Science, 23(10), 1233–1238. DOI: 10.1177/0956797612442551

ヘッドライン:「時間を自分ではなく誰かのために使う方が,セルフエフィカシーが高まるため,時間に余裕ができる」

(Abstract)

4つの実験により,「時間がない!」という問題への予想外な解決方法を発見した!それは「時間を譲る」というものだ.1日24時間しかない時間を物理的に増やすことは不可能だが,人の主観的な時間を増やすことはできる.本研究では,誰かのために時間を使った場合と,自分自身のために時間を使った場合と,思いがけず自由時間が手に入った場合を比較した.その結果,誰かのために時間を使うことが,人の主観的な時間を増加させることが分かった.そして両者の関係は,セルフエフィカシーの向上によって媒介されていることが分かった.つまり,誰かのために時間を使うことが,忙しいスケジュールでもこなしていこうという気持ちにつながるのだ.

●Wade-Benzoni, K. A., Tost, L. P., Hernandez, M., & Larrick, R. P. (2012). It’s Only a Matter of Time: Death, Legacies, and Intergenerational Decisions. Psychological Science, 23(7) 704–709. DOI: 10.1177/0956797612443967

ヘッドライン「死を考えることで、将来の他者への遺産配分が増える」

(Abstract)

世代間決定は、未来の他者に影響を与える。現在の意思決定者と将来の他者という、時間の異なる他人間での距離のあるやりとり、ということで、人は世代間の寛大な判断ができなくなる。しかし本研究では、死について考えると、距離と時間が離れていることのネガティブな影響が逆転することを示した。これは、死のプライミングによって、個人が将来における他者への継続的な影響を考慮するようになるために起こると考えられる。この実験により、個人が死を考えると、現在の他者と比べて将来の他者へより少なく資産配分するという傾向が、逆転することが分かった。この研究により、死のプライミングによって引き起こされる遺産動機は、世代間における資産配分を少なく見積もる傾向を抑え、世代間の遺産を促進することが示された。

コミュニケーション・世代間相互作用

●Vouloumanosa, A., Onishib, K., & Poguea, A. (2012). Twelve-month-old infants recognize that speech can

communicate unobservable intentions. PNAS, 109(32), 12933–12937 doi/10.1073/pnas.1121057109

ヘッドライン「赤ちゃんは『発話』がその人の目に見えない『意図』を表していることを理解している!」

(Abstract)

われわれの知識は,直接 的な経験よりも誰かの発話を通して知ることが多い。発話を用いると,速く効率的な情報交換が可能である。加えて,発話によって直接目に見えない情報(人の 内面の意図や感情)を早く迅速に伝えることができる。では,発話というものが直接目に見えない,本人の意図を反映した情報を交換しているということを,赤 ちゃんは理解しているのだろうか。本研究では,まず12か月の赤ちゃんに,他者が何かをしようとしている意図を理解させ(筒にリングをはめようとする行動),その後,その光景を見ていなかった他の人に,発話を使ってor使わずに意図を説明した。そして,その発話をきいた人が,意図通りリングをはめる・はめようとするけどできない・違う行動をとる,という3条件を設定した。その結果,赤ちゃんは,発話者が発話を用いた時は,意図された結果よりもうまくいかなかった2つの場合の方をより長く見つめていたが,発話を使わなかった場合は,赤ちゃんは3つの場合を同じだけ注視していた。つまり,発話が目に見えない意図についてコミュニケーションしていることを理解していた。しかし,発話を使わなかった場合は,赤ちゃんは3つの場合を同じだけ注視していた。12カ月の赤ちゃんは,発話が人の内面という,見えない情報の交換ができるということを理解している。

●Lischetzke, T., & Eid, M., & Diener, E. (2012). Perceiving One’s Own and Others’ Feelings Around the World: The Relations of Attention to and Clarity of Feelings With Subjective Well-Being Across Nations. Journal of Cross-Cultural Psychology 43(8) 1249–1267. DOI: 10.1177/0022022111429717

ヘッドライン「自己・他者の気持ちにどのぐらい注目するか,はっきり分かっているかということは,おおむね主観的幸福感に関係しているが,多少文化差はある。」

(Abstract)

本研究では,自己と他者の気持ちに関する認知というメタ気分認知の指標を,国家間で比較した。42か国の9102名の大学生に対して,自己と他者の気持ちへの注目と明確化と,主観的幸福感を構成する2要 素である認知(人生満足度)と感情(感情バランス)について調査した。メタ気分認知の変数と主観的幸福感の関係性,および個人主義・集団主義という文化的 な要素がこれらの関係性を緩和しているのかを,マルチレベル分析によって国家間で調べた。その結果,自己の気持ちへの注目と主観的幸福感との関係は,国家 間で異なっていた。自己の気持ちの明確化は,ほぼすべての国で類似したパターンを示したが,集団主義の国よりも個人主義の国の方がより主観的幸福感との関 係性が強かった。他者への気持ちの注目は,ほとんどの国において主観的幸福感と弱い正の関係性が認められた。仮説と異なり,他者の気持ちの明確化は,個人 主義の国よりも集団主義の国の方が,感情バランスに関係しないという結果となった。結果より,自己および他者の気持ちの明確化についてはある程度国家間で 共通しているが,その認知が主観的幸福感にどの程度関係しているかについては文化差があると考えられる。

●Chase, C.A. (2011). An Intergenerational E-mail Pal Project on Attitudes of College Students Toward Older Adults. Educational Gerontology, 37(1), 27-37. doi.org/10.1080/03601270903534804

ヘッドライン;「eメールを用いた世代間交流を行うと、若者の高齢者イメージがポジティブになった。」

(Abstract)

世代間の相互作用によって、大学生の高齢者に対する態度の改善が認められるという報告がある。本研究では、大学生と高齢者をペアにさせて6週間メールのやりとりをさせた。ここでは、大学生の高齢者に対する態度を、Polizzi改訂版高齢者SD法を用いて、前後で測定した。生徒は実験群23名と統制群20名に分けられた。その結果、実験群の方が統制群よりも有意に高齢者に対する態度が改善されていた。この教育的プログラムにより、簡単に使用できる技術を導入することで世代をつなぐことができるということが示された。

●Ota, H., McCann, R. M., & Honeycutt, J. M. (2012). Inter-Asian Variability in Intergenerational Communication. Human Communication Research, 38, 172–198 DOI:10.1111/j.1468-2958.2011.01422.

ヘッドライン「中年期の人と礼儀正しいコミュニケーションができれば,日本人の若者では会話の満足につながり,タイ人の若者では会話の楽しさにつながる」

(Abstract)

本研 究では,日本人とタイ人の世代内・世代間コミュニケーションを比較した。どちらのグループでも,相手が高齢になるに従って,会話における敬意や回避,礼儀 正しさが増加していた。文化間比較では,タイ人は日本人よりも若者に対してより礼儀正しさを示しており,一方日本人は中年者に対してより回避的なコミュニ ケーションを行っていた。礼儀正しさや敬意は,日本人よりもタイ人によく認められた。回帰分析により,日本人では中年者への礼儀正しいコミュニケーション が会話満足にポジティブに関係していた。どちらの国においても,回避的なコミュニケーションは会話の楽しさや満足度に関係していた。

機能維持・長寿

●Odden, M. C.,Covinsky, K. E.., Neuhaus, J. M., Mayeda, E. R., Peralta, C. A., Haan, M. N. (2012). The Association of Blood Pressure and Mortality Differs by Self-reported Walking Speed in Older Latinos. Journal of Gerontology: MEDICAL SCIENCES, 67(9):977–983 doi:10.1093/gerona/glr245

ヘッドライン: 「血圧の上昇と死亡率との関連に歩行速度が関係しており,歩行速度が速い高齢者では高血圧は死亡危険率の上昇につながった.」

(Abstract)

高齢者において,血圧の高さが死亡率と関係しているとされてきた.ここでは血圧の高さが,高機能保持の高齢者の死亡危険率の高さと,機能低下が進んでいる高齢者の死亡危険率の低さに関係していると仮定した.対象者は,「the Sacramento Area Latino Study on Aging (http://sitemaker.umich.edu/salsa.study/home)に参加した1562名のラテンアメリカ系高齢者(60歳-101歳)であった.機能保持の指標としては,主観的な歩行速度を用い,血圧は自動血圧計を用いて測定した.1998年から2010年において,442名が死亡(うち,53%が心臓血管病).血圧の平均値は歩行速度によって有意に異なり,速;136-75,中;139-76,遅;140-77であった.収縮時の血圧と死亡率の関係は,歩行速度によって異なり,歩行速度が遅い人の死亡危険率は,収縮時の血圧が10上がるごとに0.96上昇するが,歩行速度が速い人の死亡危険率は,収縮時の血圧が10上がるごとに1.29上昇し,統計的に有意であることが分かった.統計的に有意差は認められなかったものの,血管拡大時の血圧に関しても,同様の傾向が認められ,歩行速度が遅い人の死亡危険率は0.89上昇するが,歩行速度が速い人の死亡危険率は1.20上昇した.高機能保持の高齢者においては,高血圧が死亡率の上昇につながることが示された.身体的な機能を保っていることが,高血圧の危険性を示す指標となると考えられる.

●Stephan, Y., Chalabaev, A., Kotter-Grühn, D., & Jaconelli, A. (2012). “Feeling younger, being stronger”: an experimental study of subjective age and physical functioning among older adults. The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, inPress, 10.1093/geronb/gbs037

ヘッドライン:「『同年齢の人と比べて若い!』と思わせるフィードバックは精神的にも身体的にも効果がある」

(Abstract)

本研究では,高齢者において実験的に主観的年齢を若くさせ,より若いと感じた時に身体的機能も向上するのかということを調べた.49名の高齢者(52-91歳)を対象者とした.握力を身体的機能の指標とし,実験群は同年齢の人たちよりもより良い数値ですよ,というポジティブなフィードバックを受け,統制群は何のフィードバックも受けなかった.その後,両群は2回目の握力数値を測定した.1回目の握力測定前と,実験操作後の2回,主観的年齢を測定した.その結果,実験群の対象者は実年齢よりも主観的年齢がより若く,2回 目の測定では有意に握力が向上していたが,統制群では主観的年齢も握力数値も変化が認められなかった.本研究により,高齢者は同年齢の人たちと社会比較を 行い,自分たちよりも劣っている人と比べることで自分をより若いと感じる戦略を用いていることが分かる.また,本研究により,主観的により若いと感じるこ とが,身体的にもよりよいパフォーマンスにつながることを示すことができた.

●Salthouse, T. A. (2013). Within-Cohort Age-Related Differences in Cognitive Functioning. Psychological Science, in press. DOI: 10.1177/0956797612450893

ヘッドライン「認知機能にはコホートの影響だけじゃなく,加齢の影響も同じぐらいある」

(Abstract)

認知 機能のレベルが時と共に変化する環境の影響を受けることは,多くの先行研究で言われている。多くの発達心理学者が,こうした影響はコホートの影響だとし, 生まれ年を対象者の基礎情報として用いてきた。さらに,加齢に関係する認知機能の差異はコホートによる影響が大きいとし,その差異はコホート内よりもコ ホート間の方が大きいはずであるという議論が進められてきた。年齢とテスト時がまったく異なる対象者の5つの認知機能スコアより,加齢に伴うコホート内の変化はコホート間の差異と同程度であることが分かった。これらの結果は,環境変化に関連する認知機能への影響を,生まれ世代の影響としてきた研究に待ったをかけることになるだろう。

社会活動

●Pavlova, M.K., & Silbereisen, R.K. (2012). Participation in voluntary organizations and volunteer work as a compensation for the absence of work or partnership? evidence from two German samples of younger and older adults. The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences, 67(4), 514–524, doi:10.1093/geronb/gbs051.

ヘッドライン:「ボランティア活動の組織に属すること,というより,無償で誰かのために何かをすること自体が,高齢者にとってはよいことである」

(Abstract)

この研究では,高齢者において,ボランティアに従事することが,仕事の退職や家族内役割の喪失に伴う精神的健康の悪化を補うものとして働くかを調べた.ドイツ人若者2346名(18-42歳)と高齢者1422名(56-75歳)の2世代横断データを用いた.分析としては,精神的健康を従属変数とし,ボランティア従事に関する2つの変数(ボランティア組織への参加・ボランティア行動)と, 職業や配偶者との関係の影響を調べた.若年者では,ボランティア組織への参加が,ポジティブ感情,人生満足度に正の影響,うつ症状に負の影響を与えてい た.ボランティア行動は,両世代においてポジティブ感情には正の影響を与えていたが,若い世代のみにおいて,人生満足度とうつ症状とは関係が認められな かった.高齢者では,ボランティア行動は,働いていない人において生活満足度と関係性が認められ,配偶者がいない人においてうつ症状と関係性が認められ た.組織に属しないボランティア行動は,高齢者における精神的健康に対して,補償効果をもたらすと考えられる.

親・子・孫

●Belsky, J., Hancox, R. J., Sligo, J., & Poulton, R. (2012). Does Being an Older Parent Attenuate the Intergenerational Transmission of Parenting? Developmental Psychology, (in press). doi: 10.1037/a0027599

ヘッドライン:「親になる年齢が,養育の世代間伝達の影響を弱める要因となることを仮定したが,世代間伝達の影響を完全に消すことはできなかった」

(Abstract)

欧 米諸国では,親の高齢化が進んでおり,高齢の親は若い親よりも,子どもの成長に沿った子育てを行っている,と言われている.これまでの養育の世代間伝達に 関する研究では,若い親たちに焦点が当てられてきた.本研究では両親の年齢が,養育の世代間伝達の影響を弱めるかについて検討した.個人は歳をとるとより 心理的に成熟し,じっくりと考える機会が増え,子ども時代の経験に縛られなくなる,という常識的な考え方を前提とし,本研究では,親になる年齢を遅らせる ことは,かつて家族に養育された経験と今現在家族を養育していることとのつながりを弱めるのではないか,と仮定した.本研究では,Belsky, Jaffee, Sligo, Woodward, and Silva (2005)が行った,277名の親(平均23歳)に3歳から15歳までの養育経験を尋ねたデータに,このサンプルよりも高齢で親になった273名(平均30歳)のデータを加えて,分析を行った.以前のデータでは,養育経験の影響が母親には認められ父親には認められなかったにもかかわらず,親の年齢は養育の世代間伝達を弱める要因として機能しなかった.年齢とともに世代間伝達の影響が弱まるという仮説に対するこの否定的な結果が,より年齢の高い子どもを持つ親でも当てはまるのか,また他の方法論を用いたときにも当てはまるのかにつて,世代間伝達の研究分野において研究を進めるべきである.

●Fingerman, K.L., Cheng, Y-P., Birditt, K., & Zarit, S. (2012). Only as happy as the least happy child: multiple grown children’s problems and successes and middle-aged parents’ well-being. The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 67(2), 184–193, doi:10.1093/geronb/gbr086.

ヘッドライン:「中年期の両親のWell-beingは,成人したわが子の失敗・成功に影響を受けており,成功の場合は,複数人の子どもの成功がWell-beingと関係していたが,失敗の場合は一人でも失敗した子どもがいるとWell-beingが低下していた」

(Abstract)

中年期の両親のWell-beingは,成人したわが子の成功・失敗と関連していると考えられる.両親はひとり以上の子どもを持っているはずだが,これまでの研究では複数人の子どもたちの成功・失敗の違いについて考慮されてこなかった.本研究では,中年期の対象者(40-60歳:N=633)が,成人した子ども1384名についてと,自分のWell-beingについて回答した.対象者は過去2年間でそれぞれの子どもが経験した問題と,子どもの成功について評価し,また自分とのポジティブな,あるいはネガティブな関係の質について回答した.分析は,問題のあるor成功した子ども一人について考慮したモデルと,複数人の子ども全体の問題or成功を考慮したモデルを比較した.その結果,問題のある子どもが一人いる場合と子ども全体で問題のある場合では,両親のWell-beingは低かった.子ども一人が成功していることは両親のWell-beingに関係していなかったが,全体で複数人の子どもが成功を収めている場合は,両親のWell-beingはより良好だった.関係の質は,子どもの成功と両親のWell-beingとの関係を部分的に説明していた.考察では,成人後の子どもたちがどうなったか,ということから受ける両親の利益・不利益について議論した.

高齢者のアイデンティティ

Weiss, D., & Lang, F. R. (2012) “They” Are Old But “I” Feel Younger: Age-Group Dissociation as a Self-Protective Strategy in Old Age. Psychology and Aging. 27(1), 153-163. Doi: 10.1037/a0024887

ヘッドライン:「高齢者は若年者や中年期世代よりも,自分の実年齢集団との同一化が自己感覚と関係しており,同一化レベルが低い高齢者は『まだ若い!元気だ!』と思っている.しかも,ネガティブな高齢者像を持っている高齢者は同一化が低い」

(Abstract)

「年齢」は個人を規定する要因であり,特に高齢期には「年齢」は重要になってくる.加齢に伴い,年齢や加齢へのネガティブな態度が顕著になる.加齢に伴う低下や喪失や,人生の終わりが近づいてくることは,高齢者の自己感覚を脅かす.本研究では,高齢者が自分の年齢集団から距離を取ることで,その集団の持つネガティブな要因を避けようとするのではないかと仮定した.研究1では,自己像・自己イメージにおける年齢集団への同一化の役割を調べた.その結果,年齢集団への同一化レベルが低い高齢者は,実際の年齢よりも自分は若いと感じていることが分かった.研究2では,年齢集団との同一化レベルによる,年齢のステレオタイプを調べた.その結果,高齢者はネガティブな年齢のステレオタイプを持っている場合,自分の年齢集団から心理的な距離を置くことが分かった.この結果から,高齢者の適応方略に関する議論ができる.

Weiss, D. & Lang, F. R. (2012). The Two Faces of Age Identity. The Journal of Gerontopsychology and Geriatric Psychiatry. 25 (1), 2012, 5–14 DOI 10.1024/1662-9647/a000050

ヘッドライン:「高齢者は,自分と同じ年齢群に対しては,喪失や減退と結び付けてネガティブに表現するが,自分と同じ世代に対しては,「同じ時代を生きてきた仲間」というポジティブな表現をする」

(Abstract)

人は成長するに伴って,自分の年齢群と世代によって年齢アイデンティティを形成する.ここでは,2タイプの年齢群(年齢群vs世代)に対する,高齢者の表現を比較した.その結果,年齢群のアイデンティティは喪失や減退と関連しており,世代のアイデンティティはポジティブな特徴と関連していた.また,世代のアイデンティティは,より高齢の対象者にとって,喪失の補償機能を果たしていることが示された.本研究より,実際の年齢アイデンティティの自己防衛機能とアイデンティティの適応性について議論できる.

性格特性