注意:2018年度前期 立命館大学哲学・倫理学文献講読の内容は、受講生の要望に合わせてこれより平易にする予定です。
授業の概要と方法
平等とは何でしょうか。柔道には体重別があります。体重別にしたほうが平等であると考えられているからです。しかし、バスケットには身長別はありません。低い身長でも活躍するバスケット選手がいるからです。つまり、バスケットでは身長別にしても平等にならないと考えられています。しかし、体重が軽くても活躍する柔道選手はいないのでしょうか。別の例を挙げましょう。人は生まれながらに平等であるという考えがあります。しかし、実際には貧富の差、容姿の違い、運動能力の違い、先天性疾患の有無など不平等な仕方で生まれてきます。この考えはむしろ、人は生まれながらに平等であるべきだという理念を表していると言えるでしょう。不平等は平等へと是正されるべきだと。では、富裕層からお金を徴収して貧困層にお金をあげれば平等へと是正されるのでしょうか。容姿の醜さ、運動能力の低さはどうやって埋め合わせればよいのでしょうか。そもそも先天性疾患をもって生まれた場合に埋め合わせなんてできるのでしょうか。
この授業では平等を巡るこうした問題について哲学(分析哲学)の観点から学んでゆきます。そこで、広瀬巌さんの『平等主義の哲学ーロールズから健康の分配まで』(勁草書房、2016年)を読んでゆこうと思います。この本は現代政治哲学の代表的な立場である平等主義(Egalitarianism)について学ぶのに最適な教科書です。ただし、ひとりで読み進めるには内容がやや難しいので、各回担当者を決めて要約してもらい、みんなで読んでゆこうと思います。授業では、要約だけでなく、その内容についてディスカッションを行う予定です。
受講生の到達目標
哲学書を正確に読むことができる力を身につける。
授業でのディスカッションを通じて、哲学・倫理学のテキストを読むことの意義を理解する。
現代の道徳哲学(倫理学)や政治哲学の流れを把握する。
テキスト
広瀬巌『平等主義の哲学ーロールズから健康の分配まで』(齊藤拓訳)、勁草書房、2016年。(原書:Iwao Hirose, Egalitarianism, Routledge, 2014.)
第1回 イントロダクション:哲学・分析哲学とは何か
まえがき
参考文献:飯田隆「分析哲学としての哲学/哲学としての分析哲学」、『現代思想』7月号、2004年、48-57頁。(pdf)
参考動画:戸田山和久先生の講演(関西言語学会シンポジウム)(冒頭の「哲学が科学のためにできること」、YouTube)
第2回 序論:何の平等か?
確認問題:「何の平等か?」という問いは何を問うているかを説明しなさい。
宿題:本書で挙げられている以外に、どんな「・・・の平等」があるか探しなさい。それは平等主義が扱う平等かも合わせて確認しなさい。
参考文献:安藤馨/大屋雄裕『法哲学と法哲学の対話』、有斐閣、2017年、第3テーマ「平等の平等か、不平等の平等か」。
第3回 ロールズ的平等主義(1)
確認問題1:功利主義が平等主義でない理由を挙げなさい。
確認問題2:マキシミンとレキシミンの違いを説明しなさい。
宿題:ロールズの『正義論』の第3節を読んで、「公正として正義」とは何かを説明しなさい。
参考文献:ジョン・ロールズ(川本隆史・福間聡・神島裕子訳)『正義論』、紀伊國屋書店、2010年、第1節ー第3節。
第4回 ロールズ的平等主義(2)
確認問題:ネーゲルの全員一致原理とスキャンロンの契約主義の違いを説明しなさい。
宿題:格差原理に対する第一の批判(原初状態の恣意性)にロールズは反照的均衡に言及して応答するだろう。『正義論』の第4節を読んで、それがどういう応答かを説明しなさい。
参考文献:トマス・ネーゲル(永井均訳)「平等」、『コウモリであるとはどのようなことか」、勁草書房、1989年、第8章。
第5回 運平等主義(1)
確認問題:ロールズはなぜ運平等主義者ではないのかを説明しなさい。
宿題:肺がんは所与運か選択運か。肺がんから生じる不平等に対して、健康保険の果たす役割を説明しなさい。
参考文献:ロナルド・ドウォーキン(小林公・大江洋・高橋秀治・高橋文彦訳)『平等とは何か』、木鐸社、2002年、第2章。
第6回 運平等主義(2)
確認問題1:全運説が運平等主義を冗長なものにしてしまう、とはどういうことかを説明しなさい。
確認問題2:多元主義とは何かを説明しなさい。
宿題:喫煙者よりも非喫煙者が肺がんを患った場合により多くの保険料を支給すべきだという考えがある一方、喫煙者はその分たばこ税を納めているのだから保険料は同額支給されるべきだという考えもある。あなたはどちらの考えを支持するか、その根拠とともに答えなさい。
参考文献:ロナルド・ドウォーキン(小林公・大江洋・高橋秀治・高橋文彦訳)『平等とは何か』、木鐸社、2002年、第7章。
参考動画:ダニエル・ハウスマン先生による運平等主義の解説(ただし運平等主義に批判的です、YouTube)
第7回 目的論的平等主義(1)
配付資料
参考文献:Derek Parfit, "Equality and Priority", Ratio,Vol.10, Issue 3, 1997, pp.202–221.(拙訳)第1節から第6節まで
第8回 目的論的平等主義(2)
配付資料
第9回 レポート課題
第10回 優先主義(1)
配付資料
参考文献:Derek Parfit, "Equality and Priority", Ratio,Vol.10, Issue 3, 1997, pp.202–221.(拙訳)第7節から最後まで
参考動画:マイケル・オーツカ先生による優先主義の解説(YouTube)
第11回 優先主義(2)
配付資料
参考文献:ロジャー・スティーヴン・クリスプ(鈴木真訳)「平等とその含意」、『実践哲学研究』、第23巻、2000年、51-75頁。(pdf)〔クリスプ先生がまだ優先主義者だった頃の論文です。〕
第12回 十分主義(1)
配付資料
参考文献:ハリー・G. フランクファート(山形浩生訳)『不平等論:格差は悪なのか? 』、筑摩書房、2016年、第1章「道徳的理想としての経済的平等」。
第13回 十分主義(2)
配付資料
参考文献:Roger Crisp, Reasons and the Good, Oxford University Press, Ch.6.(拙訳)
第14回 健康およびヘルスケアにおける平等(1)
配付資料
参考文献:N.ダニエルズ、B.ケネディ、I.カワチ(児玉聡監訳)『健康格差と正義―公衆衛生に挑むロールズ哲学』、勁草書房、2008年、第1部。
第15回 健康およびヘルスケアにおける平等(2)
配付資料
参考文献:グレッグ・ポグナー、イワオ・ヒロセ(児玉聡監訳)『誰の健康が優先されるのかー医療資源の倫理学』、岩波書店、2017年、第5章と第6章。