2021年度倫理学II(パンデミックの倫理学)
私たちは新型コロナウイルス感染症のパンデミックの危機に晒され ています。そうした中、医療だけでなく社会のあらゆるところで様 々な倫理的問題が生じています。私たちは他の人にコロナをうつしてしまうことに責任を負うべきか、ロックダウンやワクチン接種の 義務化のような自由の制限は認められるか、誰に人工呼吸器を優先 すべきか(あるいはそうした思考自体が倫理に反するのか)、医療従 事者は防護服が不足した状況においても治療にあたるべきか。以上 の問いはこれまでも「パンデミックの倫理学」としてさかんに議論 されてきたトピックです。ところが、今回のパンデミックでは従来の議論が十分に活かされていないのが現状です。また、新しい問題 も浮上してきています。接触追跡アプリはプライバシーを脅かさな いか、被験者に同意をとって新型コロナウイルスに感染させる実験(人チャレンジ試験)は認められるか、海外渡航等の再開に向けて免疫パスポートを導入すべきか。さらに、ほとんど議論されていない 問題もあると私は思います。医療と経済をどのようにすり合わせる か、次のパンデミックに備えて何をしたらよいか、倫理学にはどの ような役割があるか。
これらの問題について、みなさんと考えていければと思います。
到達目標として次の三点を挙げます。
倫理・道徳を通して、価値観の異なる他者と支え合うことができる能力を身につける。
人類が直面するパンデミックの課題を探求し、この危機を生き抜く力を身につける。
パンデミックに関する議論の歴史を通して、これからの社会を創る市民としての良識を学ぶ。
1 イントロダクション:新型コロナウイルス感染症の脅威
到達目標
授業の概要、到達目標、評価方法、注意事項について説明することができる。
このパンデミックを振り返り、自身の置かれた現状を冷静に眺めることができる。
新型コロナウイルス感染症に関する基本的なことがらを確認することができる。
宿題
インフォデミック(Infodemic)とは何かを調べなさい。また、この問題に対してどのような対策が行われているかを挙げなさい。
2 パンデミックの歴史と公衆衛生倫理学
到達目標
感染症とパンデミックの歴史を概説することができる。
公衆衛生倫理を医療倫理と比較することができる。
感染症パンデミック対策の倫理原則を挙げることができる。
宿題
広瀬巌『パンデミックの倫理学』(勁草書房、2021)を読み返しなさい。
3 哲学者・倫理学者の役割
到達目標
社会のなかで哲学や倫理学の役割を説明することができる。
コロナ禍のなかで哲学者や倫理学者がしてきたことを挙げることができる。
哲学と倫理学の関係を説明することができる。
宿題
インターネット上で哲学者や倫理学者を探し、コロナ禍やパンデミックについてどんな研究や発言をしているか調べなさい。
4 ロックダウンと外出自粛要請
到達目標
各国の封じ込め対策を説明することができる。
公衆衛生上の介入を許容する条件を挙げることができる。
リバタリアン・パターナリズムについて説明することができる。
宿題
コロナ対策として活用されるナッジの例を探してみなさい。
5 医療資源の分配
到達目標
医療資源の選択的分配について偏在性と不可避性を説明することができる。
QALYやDALYを説明することができる。
費用対効果を計算することができる。
宿題
新型コロナウイルス感染症パンデミックの中で費用効果分析がどのように用いられているかを調べなさい。
6 人工呼吸器と病床の分配
到達目標
人工呼吸器やECMOの分配について論点を挙げることができる。
再分配をめぐる議論を説明することができる。
病床の分配について課題を指摘することができる。
宿題
人工呼吸器の分配が問題になる手前で、ほかにどんな医療資源の分配が問題になっているかを調べなさい。医療資源には人的資源や時間も含まれます。
7 命の選別か
到達目標
命の選別だという批判を説明することができる。
障害者差別批判を費用効果分析の観点から検討することができる。
救命数最大化原則の問題点を指摘することができる。
宿題
あなたは生命の選別についてどう考えますか。
8 フィードバックとレポート課題
到達目標
これまで学んだ内容を確認し、関連したテーマについて具体例や重要なポイントを挙げながら説明できる。
それについてレポートを作成することができる。
なぜ剽窃がいけないのかを説明でき、剽窃のないレポートを作成することができる。
参考:「剽窃について」 アカデミック・スキルズ ©慶應義塾大学教養研究センター (リンク)
レポート課題
生政治とは何か。
QOLとは何か。
ナッジとは何か。
上記の三つの問いの中から一つだけ取り上げて、以下の点すべてを説明したうえで答えなさい。
具体的事例を挙げながら説明しなさい。
重要なポイントを2点挙げて説明しなさい。そのさい、なぜその2つが重要であるかについて説明しなさい。
どのような文献を調べたのかなど、レポート執筆のプロセスも説明しなさい。
仮提出したものを相互に読んでコメントし合い(ピアレビュー)、それを受けてブラッシュアップしたものを本提出してもらいます。
9 ワクチン接種の優先順位と義務化の是非
到達目標
ワクチンの配分をめぐる議論の論点を挙げることができる。
ワクチン接種の義務化の是非を説明することができる。
ワクチンパスポートの問題点を指摘することができる。
参考:VOX: How rich countries are making the pandemic last longer(リンク)
参考:SWI「ワクチンパス、いる?いらない? 動画で説明するスイスの国民投票」(リンク)
宿題
コロナワクチンをめぐってどんな問題が生じたか(あるいは、これから生じうるか)を調べなさい。
10 医療従事者の診療義務や応招義務
到達目標
パンデミックの中で医療従事者が直面する困難を例示することができる。
自らの健康や生命を冒してまで診療にあたる医療従事者の義務を根拠づけることができる。
医療従事者を英雄視することの問題を指摘することができる。
参考:[NHKスペシャル5min.] 現場を離れる看護師相次ぐ | 看護師たちの限界線〜密着 新型コロナ集中治療室~ | NHK(リンク)
参考:世界中の無名の英雄たちにエールを /日本ユニセフ協会(リンク)
宿題
コロナ禍で医療従事者に対して行われている支援を調べなさい。
11 COVID-19パンデミックの哲学的分析と接触追跡アプリ
到達目標
反事実条件法で考えることができる。
数理モデルを適切に批判することができる。
接触追跡アプリを倫理的観点から評価することができる。
宿題
今日出てきたキーワードについて調べなさい。
PCR検査
反事実条件法
超過死亡
SIRモデル(SEIRモデル)
コンタクトトレーシング
12 東京2020オリンピック・パラリンピック開催
到達目標
オリンピックの歴史を説明できる。
オリンピックの倫理的諸問題を挙げることができる。
パンデミック下での東京オリパラ大会開催を多角的に評価することができる。
参考:Olympic Games Tokyo 2020 Opening Ceremony(リンク)
参考:毎日新聞「医療は限界 五輪やめて 病院副院長が語った「憤怒」」(2021/08/04)(リンク)
宿題
スポーツに伴う倫理的問題を一つ挙げ、それについて調べなさい。
13 フィードバックと授業内試験
到達目標
これまで掲げた到達目標を振り返り、達成できていない目標を達成することができる。
各回で学んできたことを関連づけ、講義内容を包括的に理解することができる。
各回の到達目標
その他 まとめ