2022年度哲学演習I
倫理学を学ぶとき、私たち自身の問いと結びつけると自分事として考えられるかもしれません。たとえば感染拡大を防ぐため(全体の幸福のため)私たちの自由をこれほど奪ってよいのかと憤るとき、あるいは飼っている猫が薬を嫌がって飲んでくれずこの猫にとっての幸せとは何かとか思い悩むとき、私は19世紀イギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルの論考を開いたりします。
この授業ではミルの論考『功利主義』(Utilitarianism)を読みながら、倫理学の問いやみなさん自身の問いを一緒に考えていきます。第1学期ではミルのテキストを精読していきます。第2学期では現在のミル解釈において論点になっている部分を取り上げてディスカッションしていきます。
全体の到達目標
哲学書を正確に読むことができる英語力を身につける。
授業でのディスカッションを通じて、哲学・倫理学のテキストを読むことの意義を理解する。
ミルのテキストを通して、規範倫理学やメタ倫理学といった現代の倫理学の概要を把握する。
第1学期
1.イントロダクション
到達目標
倫理学とは何かをある程度説明できる。
心理学や法学との違い。
主題:価値について扱う。
方法論:直観や原理・原則に訴える。
授業資料
2.倫理学とは何か
到達目標
倫理を学ぶ二つの仕方を区別することができる。
倫理や倫理学についての誤解を解くことができる。
宿題:ミルのUtilitarianismの第1章を読みなさい。日本語でもよいです。
3.功利主義とは何か
到達目標
功利主義とは何かを説明できる。
功利主義の課題を挙げることができる。
感染症パンデミック対策の倫理原則を挙げることができる。
宿題:Wikipedia日本語の功利主義を読みなさい。間違いがあれば修正しなさい。
4.なぜ本論考が書かれたのか(第1章前半)
到達目標
道徳の不一致について例を挙げることができる。
道徳と数学の共通点と相違点を挙げることができる。
直観主義の問題を説明することができる。
功利主義(学習院大学訳)第1章
宿題:第1章を英語で読んでこよう。
5.なぜ本論考が書かれたのか(第1章後半)
到達目標
イマヌエル・カントの定言命法を説明することができる。
功利主義の証明がどういう意味で「証明」かを説明することができる。
なぜ『功利主義』が書かれたのかに答えることができる。
功利主義(学習院大学訳)第1章(追加)
宿題:第2章を読んでこよう。
6.功利主義とは何か(第2章前半)
到達目標
Utilityとは何かを説明できる。
ミルの功利主義の定式を述べることができる
「豚の哲学」批判を説明できる。
功利主義(学習院大学訳)第2章
宿題:『功利主義入門』の説明とミルの功利主義の定式を比較して、違う点を探そう。
7.功利主義とは何か(第2章前半続き)
到達目標
「満足な豚より不満足なソクラテス」の文脈を説明できる。
私たちは高次の快楽を選好していないという反論に応えることができる。
最大幸福原理を説明できる。
功利主義(学習院大学訳)第2章(追加)
宿題:快楽説と選好充足説について調べなさい。そのうえで、ミルはどちらの立場かを考えなさい。
8.フィードバックとレポート課題
到達目標
これまで学んだ内容を確認し、関連したテーマについて具体例や重要なポイントを挙げながら説明できる。
それについてレポートを作成することができる。
なぜ剽窃がいけないのかを説明でき、剽窃のないレポートを作成することができる。
授業資料
参考:「剽窃について」アカデミック・スキルズ ©慶應義塾大学教養研究センター (リンク)
レポート課題
最高善とは何か。
定言命法とは何か。
エピクロス主義とは何か。
上記の三つの問いの中から一つだけ取り上げて、以下の点すべてを説明したうえで答えなさい。
具体的事例を挙げながら説明しなさい。
重要なポイントを2点挙げて説明しなさい。その際に、なぜその2つが重要であるかについて説明しなさい。
どのような文献を調べたのかなど、レポート執筆のプロセスも説明しなさい。
仮提出したものを相互に読んでコメントし合い(ピアレビュー)、それを受けてブラッシュアップしたものを本提出してもらいます。
9.功利主義とは何か(第2章後半)
到達目標
「満足な豚より不満足なソクラテス」の文脈を説明できる。
私たちは高次の快楽を選好していないという反論に応えることができる。
最大幸福原理を説明できる。
宿題:快楽説と選好充足説について調べなさい。そのうえで、ミルはどちらの立場かを考えなさい。
10.功利主義とは何か(第2章後半続き)
到達目標
「満足な豚より不満足なソクラテス」の文脈を説明できる。
私たちは高次の快楽を選好していないという反論に応えることができる。
最大幸福原理を説明できる。
宿題:第二章でミルは功利主義に対するいくつの反論を取り上げて、応答しているか。数えなさい。
11.功利主義とは何か(第2章後半続き2)
到達目標
宿題:第二章でミルは功利主義に対するいくつの反論を取り上げて、応答しているか。数えなさい。
12.功利主義とは何か(第2章後半続き3)
到達目標
功利主義と宗教の関係についてミルの理解を説明できる。
効用の計算をする時間などないという反論に対するミルの応答を説明できる。
第二章で取り上げている功利主義批判とミルの応答を整理することができる。
宿題:Utilitarianismの第二章を読み返しなさい。
13.ミルの生涯 補講(収録動画)
宿題:イギリス文化を知る映画を見たり小説を読んだりしなさい。
14.フィードバックと授業内試験
到達目標
これまで掲げた到達目標を振り返り、達成できていない目標を達成することができる。
各回で学んできたことを関連づけ、講義内容を包括的に理解することができる。
各回の到達目標
授業内試験
15.その他、まとめ
第2学期
16.イントロダクション、担当者決め
到達目標
授業の概要、到達目標、評価方法、注意事項について説明することができる。
『功利主義』の第1章と第2章の概要を説明することができる。
ミルの生涯について話すことができる。
宿題:第13回の補講動画(ミルの生涯)を見ていない人は視聴しなさい。見た人は、ハリエット・テイラーについてどんな著作を書いているかを調べなさい。
17.なぜ道徳に従うのか(第3章前半)
到達目標
サンクションとは何かを説明できる。
内的サンクションと外的サンクションを分けることができる。
効用の原理の究極的なサンクションとは何かという問いに答えることができる。
宿題:ミルが挙げていない外的サンクションと内的サンクションを考えて挙げてみなさい。
18.なぜ道徳に従うのか(第3章後半)
到達目標
道徳感覚に関する生得説と経験説の対立を説明できる。
ミルが訴える人類の社会的感情の例を挙げることができる。
第3章でミルが何を試みているかを説明することができる。
宿題
功利主義に従う用意を私たちが既に備えているとするミルの見解にあなたは賛成ですか。反対ですか。その理由も考えてみなさい。
19.なぜ道徳に従うのか(第3章後半つづき)
到達目標
ミルが訴える人類の社会的感情の例を挙げることができる。
第3章でミルが何を試みているかを説明することができる。
ミルが幸福が道徳の規準の一つであることをどのように証明しようとしているかを説明することができる。
宿題:それ自体望ましいものと、それ自体望ましいものを実現する手段として望ましいものを3つずつ挙げてみなさい。
20(補講動画).ミル解釈の論点:幸福とは何か
21(補講動画).ミル解釈の論点:行為功利主義か規則功利主義か
22(補講動画).なし
23.フィードバックとレポート課題
到達目標
これまで学んだ内容を確認し、関連したテーマについて具体例や重要なポイントを挙げながら説明できる。
それについてレポートを作成することができる。
なぜ剽窃がいけないのかを説明でき、剽窃のないレポートを作成することができる。
授業資料
参考:「剽窃について」アカデミック・スキルズ ©慶應義塾大学教養研究センター (リンク)
レポート課題
サンクションとは何か。
観念連合とは何か。
幸福とは何か。
上記の三つの問いの中から一つだけ取り上げて、以下の点すべてを説明したうえで答えなさい。
具体的事例を挙げながら説明しなさい。
重要なポイントを2点挙げて説明しなさい。その際に、なぜその2つが重要であるかについて説明しなさい。
どのような文献を調べたのかなど、レポート執筆のプロセスも説明しなさい。
仮提出したものを相互に読んでコメントし合い(ピアレビュー)、それを受けてブラッシュアップしたものを本提出してもらいます。
24.効用の原理についてどのような証明が受け入れ可能か(第4章前半)
到達目標
ミルが幸福が道徳の規準の一つであることをどのように証明しようとしているかを説明することができる。
宿題:それ自体望ましいものと、それ自体望ましいものを実現する手段として望ましいものを3つずつ挙げてみなさい。
25.効用の原理についてどのような証明が受け入れ可能か(第4章後半)
到達目標
ミルが幸福が道徳の規準の一つであることをどのように証明しようとしているかを説明することができる。
宿題:それ自体望ましいものと、それ自体望ましいものを実現する手段として望ましいものを3つずつ挙げてみなさい。
26.正義と効用の結びつきについて(第5章前半)
到達目標
ミルにとって正義の問題とは何かを説明できる。
宿題:身近なところから「正義」を探して、ミルの挙げる6つの領分のうちのどれに相当するか(あるいは、それ以外の領分か)を考えなさい。
27.正義と効用の結びつきについて(第5章前半つづき)
到達目標
ミルが挙げる正義の6つの領分を挙げることができる。
宿題:身近なところから「正義」を探して、ミルの挙げる6つの領分のうちのどれに相当するか(あるいは、それ以外の領分か)を考えなさい。
28.正義と効用の結びつきについて(第5章前半つづき)
到達目標
ミルが挙げる正義の6つの領分を挙げることができる
正義の語源からわかることを挙げることができる。
宿題:ミルの正義論には今日どのような意義があるかを考えなさい。
29.フィードバックと授業内試験
到達目標
これまで掲げた到達目標を振り返り、達成できていない目標を達成することができる。
各回で学んできたことを関連づけ、講義内容を包括的に理解することができる。
作業:J. S. Mill, Utilitarianism (Oxford Philosophical Texts), Edited by Roger Crisp, Oxford University Press, 1998のAnalysis of Utilitarianismを訳す。
各回の到達目標
30.その他、まとめ