2022年度倫理学II(ビジネス倫理学)
授業では、まず「なぜ働くのか」や「大学生活をいかに過ごすか」 を振り返りながら、ビジネス倫理学とは何かについて学びます。次に、企業が倫理的問題にどのように取り組んでいるかを見てゆきます。そのうえで、ビジネス倫理学の理論(功利主義、正義論、ケア の倫理)を学びます。最後に、学んだ理論の応用とそれに尽きない側面を、実際の現場を通して考えてゆきます。
到達目標として次の三点を挙げます。
倫理・道徳を通して、価値観の異なる他者と協働することができる能力を身につける。
現代ビジネスが直面する倫理的課題を探求し、自らができる事業や社会貢献への可能性を考える。
ビジネス倫理学の歴史を通して、ビジネスパーソンとしての良識を学ぶ。
1 イントロダクション:ビジネス倫理学とは何か
到達目標
授業の概要、到達目標、評価方法、注意事項について説明することができる。
倫理学とは何かをある程度説明できる。
ビジネス倫理学の歴史を説明できる。
宿題:自分の気になる企業のCSR活動を調べなさい。
2 自分に問う1:働くことの意味
到達目標
自分が働く意味を考えることができる。
仕事に関する4つの見解を説明できる。
意味ある仕事の分配めぐってどんな論点があるかを挙げることができる。
皆さんの1日
参考:「「仕事って何?」ミドルも迷う」、『日本経済新聞』、2009年10月5日夕刊、9頁。
参考:働く意味に関するボウイの議論に対する反論(リンク)
宿題:何のために働くか、家族、友達、知り合いの人などにきいてみなさい。
3 自分に問う2:学生のワークライフバランス
到達目標
自分の大学生活を振り返ることができる。
ワーク・ライフ・バランスの意味と課題を説明することができる。
ワーク・ライフ・バランスが求められるなか、家族のあり方に目を向けることができる。
参考:慶應生の1日(YouTube検索結果)
参考:オーストラリアの会社に潜入!働き方が最高すぎて震えた! (リンク)
参考:スウェーデンのワークライフバランス事情/共働き先進国、北欧在住ホンネトーク (リンク)
宿題:厚生労働省は2025年度までに男性の育休取得率を何%にする目標を掲げているか。
4 自分に問う3:自分が会社の不正にかかわったら
到達目標
企業不祥事の事例を挙げることができる。
組織不正に関係する人間心理を説明することができる。
経営学の知見を企業不祥事への対策と関係づけることができる。
参考:THE PAGE「【会見全編】アメフト反則タックル問題で日大選手が記者会見(2018年5月22日)」(リンク)
参考:第三者委員会報告書格付け委員会:格付け結果 (リンク)
参考: 日本社会心理学会広報委員会NHK「大心理学実験」関連情報 (リンク)
宿題:これまで、どんな企業が不祥事を起こしきたか調べなさい。
5 企業の取り組み1:CSR(企業の社会的責任)
到達目標
CSRとは何かを具体例と日本の特徴を挙げることができる。
フリードマンのCSR批判に応答することができる。
SDGsの課題を挙げることができる。
参考:TEDマイケル・ポーター: なぜビジネスが社会問題の解決に役立ちうるのか (リンク)
宿題
SDGsの目標のうち1つを選んで、好きな3社での取り組みを比較しなさい。
6 企業の取り組み2:差別のない雇用に向けて
到達目標
差別に対抗した企業の取り組みを挙げることができる。
積極的差別是正措置の論点を整理することができる。
ルッキズムとマイクロアグレッションを説明することができる。
参考:How to tackle discrimination against the unattractive? (リンク)
宿題
今日の授業で出した「考えてみよう」を考えてみなさい。
なぜ不適切な質問が雇用差別につながるおそれがあるのか。
女性に対するポジティブ・アクションや障害者に対する法定雇用率は、男性や健常者に対する差別ではないか。
ヘルマンの見解によれば、男性差別は悪質だろうか。
外見で恋人を選ぶのはルッキズムか。そうでないなら、顔採用と何が違うのか。
車椅子を使う人に困っていなさそうだけど「大丈夫?」と声をかけるのはその人を大丈夫でない人だと決めつけていることになるか。
7 企業の取り組み3:職場における子育て・介護支援
到達目標
なぜ子育てと仕事の両立支援が必要であるかに答えることできる。
介護離職の現状を説明できる。
子育て支援と介護支援のちがいを説明できる。
参考:厚生労働省「知っておきたい 育児・介護休業法(育児編ダイジェスト版)」(リンク)
参考:「自分しか仕事を回せないと思っているのは当人だけ」男性育休取得3割達成のカギは…?仕事の“見える化”と“任せる気持ち”【news23】|TBS NEWS DIG (リンク)
参考:厚生労働省「知っておきたい 育児・介護休業法(介護編ダイジェスト版)」(リンク)
参考:RBC NEWS「増加する「介護離職」 仕事と介護の両立は」2022/03/31(リンク)
宿題:内閣府の少子化社会対策大綱によれば、2025年までに男性の育児休業取得率を何パーセントにすることを目標にしているか。
8 フィードバックとレポート課題
到達目標
これまで学んだ内容を確認し、関連したテーマについて具体例や重要なポイントを挙げながら説明できる。
それについてレポートを作成することができる。
なぜ剽窃がいけないのかを説明でき、剽窃のないレポートを作成することができる。
参考:「剽窃について」 アカデミック・スキルズ ©慶應義塾大学教養研究センター (リンク)
レポート課題
リバタリアニズムとは何か。
コンプライアンスとは何か。
家父長制とは何か。
上記の三つの問いの中から一つだけ取り上げて、以下の点すべてを説明したうえで答えなさい。
具体的事例を挙げながら説明しなさい。
重要なポイントを2点挙げて説明しなさい。そのさい、なぜその2つが重要であるかについて説明しなさい。
どのような文献を調べたのかなど、レポート執筆のプロセスも説明しなさい。
仮提出したものを相互に読んでコメントし合い(ピアレビュー)、それを受けてブラッシュアップしたものを本提出してもらいます。
9 理論1:多くの人を幸せにするビジネスとは何か(功利主義)
到達目標
功利主義とは何かを説明できる。
ビジネスの倫理的問題について功利主義的観点から考察することができる。
功利主義の課題を挙げることができる。
参考:杉本俊介「フォード・ピント事例と功利主義」、中谷常二(編)『ビジネス倫理学読本』、晃洋書房、2012年4月30日、第六章、124-142頁。
宿題:ビジネスで道徳的に不正だと思う(そう評価された)企業活動を挙げなさい。功利計算をして、功利主義的な観点から、実際にそう評価されるか確認しなさい。たとえば、談合、食品偽装、不法投棄。
10 理論2:どうしたら正義にかなったビジネスが実現できるか(正義論)
到達目標
功利主義の問題点を挙げることができる。
ロールズの正義論を説明できる。
ビジネス倫理で正義論の応用できる場面を挙げることができる。
宿題:この社会にはどんな不公平があるでしょうか。ロールズの正義論からすれば、その不公平は是正すべきかも、合わせて考えなさい。
11 理論3:職場におけるケアリング(ケアの倫理)
到達目標
ケアの倫理とは何かを説明できる。
ビジネスでケアが必要とされる場面を挙げることができる。
倫理学の理論研究がどんな研究かを説明できる。
参考:Heinz Dilemma Kohlberg's stages of Moral Development Interactive Animation (リンク)
参考:【前編】【本棚会議オンライン】第三回 ~ケアの倫理をいま考える~(リンク)
参考:谷俊子『ワーク・ライフ・バランスとケアの倫理ーいくボスの研究』、静岡新聞社、2015年、第8章。
宿題:ビジネスにおいてどんな場面でケア( 配慮、気配り、気づかい、思いやり、世話、介護)が実践されているか。その例を挙げなさい。
12 現場で考える:金融(ESG課題と責任ある投資)
到達目標
社会的責任投資の歴史を説明することができる。
ESGは何かを説明できる。
こうした「倫理的な」投資の問題点を挙げることができる。
参考:業界地図2023年版、pp.26-27。
参考:NHK高校講座 ビジネス基礎第9回 ビジネスの担い手 証券会社(リンク)
参考:プロフェッショナル仕事の流儀:ファンドマネージャー・新井和宏(2015年5月11日放送)
参考:「(社説)クラスター爆弾 作らせない金融の大切さ」、『朝日新聞』、2010年8月16日朝刊、3頁。
宿題:あなたがよく行く金融機関でどのような金融商品が販売されているか調べなさい。
13 現場で考える:情報通信(eコマースの倫理)
到達目標
eコマースを説明することができる。
eコマースの倫理的問題を挙げることができる。
オンライン上の信頼の問題を説明することができる。
参考:業界地図2023年版、pp.90-91。
参考:eコマース企業の動画
参考:TED:オノラ・オニール「信頼について理解しなければならないこと」(リンク)
宿題:eコマースに関連して最近話題になっている次の事柄を調べてみよう。またこれらの登場はeコマースに新しい倫理的問題を生じさせるだろうか、考えてみよう。
NFT(非代替性トークン)
メタバース
Web3
14 フィードバックと授業内試験
到達目標
これまで掲げた到達目標を振り返り、達成できていない目標を達成することができる。
各回で学んできたことを関連づけ、講義内容を包括的に理解することができる。
各回の到達目標
その他 まとめ