2022年度倫理学I(倫理学入門)
この授業は倫理学の基礎を学びます。まず尊厳死と安楽死、死刑制度、戦争と平和といった具体例を通して倫理・道徳とは何かについて考えるところから始めます。次に、倫理学の三つの理論、すなわち功利主義、義務論、徳倫理学を学びます。さらに、「そもそも倫理なんて必要なのか」、「価値観なんて人それぞれだから倫理に答えなんて出ない」、そういった否定的な意見を、倫理の外部から検討します。最後に、応用編として情報倫理(ビックデータ時代のプライバシー)、ビジネス倫理(長時間労働と過労死・過労自殺)、宇宙倫理(火星のテラフォーミングの課題)を学びます。
秋学期の授業(倫理学II「現代社会の倫理的問題」)を履修すると理解が深まると思います。
全体の到達目標
倫理・道徳を通して、価値観の異なる他者と寄り添うことができる能力を身につける。
現代社会が直面する倫理的課題を探求し、自らができる社会貢 献への可能性を考える。
倫理学の歴史を通して、市民としての良識を学ぶ。
1.イントロダクション:倫理・倫理学とは何か
到達目標
倫理学とは何かをある程度説明できる。
心理学や法学との違い。
主題:価値について扱う。
方法論:直観や原理・原則に訴える。
宿題:身の回りで「倫理」や「道徳」という言葉を見つけてみよう(ニュースや歌詞)。
2.事例1:尊厳死と安楽死
到達目標
安楽死の区別が説明できる。
安楽死についての議論の論点を挙げることができる。
参考:BBC News Japan「尊厳死を求める父を支え続けたが……その戦い」(リンク)
宿題:自発的安楽死を合法化している国はどこか?
3.事例2:死刑制度
到達目標
死刑廃止の世界的な流れのなかで日本の立ち位置について説明できる。
死刑についての議論の論点を挙げることができる。
参考:SankeiNews「光市母子殺害事件 元少年の死刑確定へ」(リンク)
宿題
4.事例3:戦争と平和
到達目標
現在進行中の武力紛争の例を挙げることができる。
正戦論と平和主義を説明することができる。
宿題:戦争を題材にした映画や小説、詩や絵画、曲などを1つ探し、著者(監督やバンド名)と作品名を挙げなさい。
5.理論1:できるだけみんなが幸せになる行いが正しい(功利主義)
到達目標
功利主義という理論を説明できる。
功利主義からこの社会の倫理的諸問題について考えることができる。
功利主義の課題を挙げることができる。
参考:ミル『功利主義』抜粋
宿題:功利主義から、この世界や日本をどうすべきか考えてみましょう。たとえば、動物の殺処分、テロリスト対策、人口問題。
6.理論2:幸せよりも義務のほうが大事(義務論)
到達目標
カントの倫理学の中心となる定言命法という考え方を説明できる。
義務論から何が言えるかについて考えることができる。
義務論が功利主義とはどう違うかを説明できる。
参考:カント『道徳形而上学の基礎づけ』抜粋
参考:100分de名著 カント“永遠平和のために” 第1回
参考:ちはやふる
宿題:帰結主義と義務論で道徳的評価が変わるケースを探してみなさい。
7.理論3:「行い」よりも「人間」を見て評価すべき(徳倫理学)
到達目標
徳倫理学を、それが登場した背景を含めて、説明できる。
徳倫理学から何が言えるかについて考えることができる。
徳倫理学が功利主義や義務論とはどう違うかを説明できる。
参考:アリストテレス『ニコマコス倫理学』抜粋
参考:Iris | 'The Lark in the Clear Air' (HD) - Kate Winslet, Judi Dench | MIRAMAX(リンク)
参考:規範倫理学入門
宿題:現代社会の倫理的課題を1つ挙げ、功利主義、義務論、徳倫理学の観点から検討しなさい。
8.フィードバックとレポート課題
到達目標
これまで学んだ内容を確認し、関連したテーマについて具体例や重要なポイントを挙げながら説明できる。
それについてレポートを作成することができる。
なぜ剽窃がいけないのかを説明でき、剽窃のないレポートを作成することができる。
参考:「剽窃について」アカデミック・スキルズ ©慶應義塾大学教養研究センター (リンク)
レポート課題
裁判員制度とは何か。
戦争犯罪とは何か。
功利主義とは何か。
上記の三つの問いの中から一つだけ取り上げて、以下の点すべてを説明したうえで答えなさい。
具体的事例を挙げながら説明しなさい。
重要なポイントを2点挙げて説明しなさい。その際に、なぜその2つが重要であるかについて説明しなさい。
どのような文献を調べたのかなど、レポート執筆のプロセスも説明しなさい。
仮提出したものを相互に読んでコメントし合い(ピアレビュー)、それを受けてブラッシュアップしたものを本提出してもらいます。
9. 倫理の外部1 :価値観なんて人それぞれ?(相対主義)
到達目標
単純な相対主義は擁護できないことを示すことができる。
文化相対主義の問題点を指摘することができる。
配布資料:児玉聡『功利主義入門』、ちくま新書、2012年、「倫理は相対的か」18-21頁。
宿題:配布資料を読みなさい。
10.倫理の外部2:そもそも倫理なんて必要なのか(Why be moral?)
到達目標
Why be moral?問題とは何かをギュゲスの指輪を例に説明できる。
プラトンの解答を説明できる。
ゲーム理論を使った解答を説明できる。
宿題:囚人のジレンマについて自分で説明できるようになりなさい。
11. 応用1 :職場のプライバシー問題(情報倫理)
到達目標
プライバシーとは何かを説明することができる。
職場のプライバシー問題に関する賛成意見と反対意見を挙げることができる。
これまで学んだ倫理学理論(功利主義、義務論、徳倫理学)を通して職場のプライバシー問題について考えることができる。
参考:「関西企業の4分の1が、社員のメール監視」、『日経産業新聞』、2013年12月3日、3頁。
宿題:LINEのメッセージには、プライバシーが合理的に期待されているか? LINEの仕組みとともに調べなさい。
12.応用2:長時間労働と過労死・過労自殺(ビジネス倫理)
到達目標
過労死・過労自殺問題の背景を説明できる。
長時間労働に関する統計を読み解くことができる。
これまで学んだ倫理学理論(功利主義、義務論、徳倫理学)から、長時間労働問題について考えることができる。
参考:過労自殺の報道
参考:「働き方改革法来月施行、労働環境どう変わる、残業、単月100時間未満に、上限規制、罰則も明記。」、『日本経済新聞』、2019年3月27日朝刊、15頁。
参考:「メール断ち、ノー隠れ残業、10連休、会社と「つながらない」、返信不可アプリ、電話含め連絡禁止、生産性向上の一助にも。」、『日経産業新聞』、2019年4月26日朝刊、1頁。
宿題:外国では、働き方に対してどのような取り組みが行われているか調べなさい。
13.応用3:火星のテラフォーミングの課題(宇宙倫理)
到達目標
宇宙開発や進出に伴う倫理的問題を挙げることができる。
人類の宇宙進出について論点を挙げて考えることができる。
テラフォーミングの倫理的問題を説明することができる。
宿題:宇宙ビジネスについて最近どんなニュースが報道されたかを調べなさい
14.フィードバックと授業内試験
到達目標
これまで掲げた到達目標を振り返り、達成できていない目標を達成することができる。
各回で学んできたことを関連づけ、講義内容を包括的に理解することができる。
授業内試験
その他 まとめ