最近、フランス料理やイタリア料理のお店で見かける機会が増えてきた「アスパラソバージュ」をご存じですか?緑色で長さ15㎝くらい。一見するとアスパラガスによく似ています。でも、よくみるとちょっと違う。なんだか「つくし」の大きいヤツにも見えるし、ニンニクの芽にも似ているし・・・いったいこの植物は何なのでしょう?
1. アスパラソバージュって? 日本で最近出回っている「アスパラソバージュ」(仏語でAsperge Sauvage、Asperge des Bois)は、学名がOrnithogalum Pyrenaicum L.で、アスパラガス(学名Asparagus officinalis L.)とは同じユリ科ですが、属がちがう植物です。ここでわかりにくいのが、フランスでAsperge Sauvageというと、これの他に、アスパラガス属のAsparagus actifoliusのことを指す場合もあることです(こちらの方は、若い芽は食べられるようですが、あまり一般には食べないようです)。いずれにしろ、日本のレストランで食べられているのはOrnithogalumの方ですから、こちらについてすこし調べてみましょう。
2. Ornithogalum pyrenaicum L.(オルニソガラム・ピレネーカム)について Ornithogalum Pyrenaicumは、ユリ科オオアマナ属の植物です。オルニソガラムの仲間は、切り花用として球根が日本でも出回っていますが、ピレネーカムは写真の通りあまり美しくないですね。英語のコモンネームはBath Asparagusといって、イングランド南西部のBath地方の特産物だったことから名付けられたようです。また他にもPrussian Asparagus、Pyrenees Star of Bethlehem、Spiked Ornithogalumなどといった名前で呼ばれています。Pyreneeというのは「ピレネーの」という意味で、ヨーロッパ西部のピレネー山脈近辺でもよく見られるようですね。
3. 分 布 オルニソガラム・ピレネーカムはヨーロッパの広い範囲に分布しています。湿った半日陰を好む植物で、おもに山林や森の中に群生しています。
4. 特 徴 種子繁殖しますが、バルブ(りん茎)を形成する多年草です。成熟個体は、りん茎の大きさが高さ約20mm、体積13立方cmで、1~2mmほどの太さの根を持ちます。りん茎は30枚くらいのりん葉で形成されています。イングランドの例だと、1月くらい(寒い年にはもっと遅く2月や3月)からりん茎から葉が生長を始め、その後花茎が伸びてきます。この花茎の若いものが「アスパラソバージュ」として食用になる部分です。ですから、イメージ的には「ニンニクの芽」や「花ニラ」に近いですね。食べずに花茎を伸ばすと、5月末には葉の長さは80cm~1mほどになり、花茎の長さは60cm程度で、写真のような花序に白い花を着けます。8月には種子が成熟し、葉は枯れてきます。
5. 日本で育てられる?収穫できる?
種子は比較的容易に発芽しますが、発芽から株が成熟して食用に適する花茎が採れるまでは4年くらいかかります。フランスの種子会社などでインターネット通販で種子やりん茎が買えるサイトもありますが、実際の食用のアスパラソバージュはほとんどすべてが(山菜のように)山どりされているようです。
その食用のアスパラソバージュですが、日本には主にフランスで山どりされたものが冷凍や冷蔵で輸入されています。冷蔵物は春先のほんの1時期しか手に入らない貴重品で、かなりの高値で売られているようです。ある情報では、1kgで10,000円くらいしたとか・・・
世界的に見ても、栽培化の研究や内生成分(機能性成分)に関する研究はほとんど行われていないのが現状です。見た目はおしゃれで、味も淡泊でクセが無く(汁液はちょっと粘り気がある)おいしいので、栽培化や機能性成分に関する研究が待たれるところですね。
<参考文献>
D. J. Hill and B. Price, Biological Flora of The British Isles; List Br. Vasc. Pl (1968) 598, 3, Ornithogalum Pyrenaicum L., Journal of Ecology (2000), 88, 354-365 図はこの文献から引用しています
(社)植物情報物質研究センター 前田智雄